肺膿瘍

執筆者:Sanjay Sethi, MD, University at Buffalo, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences
レビュー/改訂 2021年 2月
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肺膿瘍は膿で満たされた空洞性病変を特徴とする,肺の壊死性感染症である。肺膿瘍は,意識障害のある患者において,口腔内分泌物の誤嚥が原因で生じることが最も多い。症状は持続性の咳嗽,発熱,発汗,および体重減少である。診断は主に胸部X線に基づく。治療には通常βラクタム系/βラクタマーゼ阻害薬の合剤またはカルバペネム系薬剤を用いる。

肺膿瘍の病因

  • 口腔内分泌物の誤嚥(最も頻度が高い)

  • 気管支内閉塞

  • 肺への血行性播種(頻度はより低い)

肺膿瘍のほとんどは,歯肉炎のある患者または口腔衛生状態の悪い患者が口腔内分泌物を誤嚥することによって発症する。典型的には,患者にはアルコール中毒,違法薬物,麻酔,鎮静薬,またはオピオイドによる意識変容がみられる。高齢者および口腔内分泌物を正常に処理できない患者(しばしば神経疾患が原因である)もまた,肺膿瘍のリスクがある。肺膿瘍は,気管支内閉塞(例,気管支癌による)または免疫抑制状態(例,HIV/AIDSまたは移植後および免疫抑制薬の使用による)に続発して生じることもある。

肺膿瘍のより頻度の低い原因として,化膿性の血栓塞栓症(例,静注薬剤の使用またはレミエール症候群による敗血症性塞栓症)または右心系の心内膜炎による肺への血行性播種を介して起こりうる壊死性肺炎がある。誤嚥および閉塞による場合とは対照的に,こうした病態では典型的に孤立性ではなく多発性の肺膿瘍が生じる。

病原体

誤嚥による肺膿瘍の最も頻度の高い病原体は嫌気性細菌であるが,全症例の約半数では嫌気性菌および好気性菌の両方が関与する(空洞性肺病変の感染性の原因の表を参照)。

最も頻度が高い嫌気性病原体は以下のものである:

  • Peptostreptococcus

  • Fusobacterium

  • Prevotella

  • Bacteroides

最も頻度が高い好気性病原体は以下のものである:

ときに,グラム陰性細菌,特にKlebsiellaが原因の症例もある。肺膿瘍のある易感染性患者は,緑膿菌およびその他のグラム陰性桿菌に感染する頻度が最も高いが,Nocardia,抗酸菌,または真菌に感染することもある。

MRSA,肺炎球菌(Pneumococcus),およびKlebsiellaなどの病原体による,肺壊疽または敗血症を伴う劇症肺炎などのまれな症例が報告されている。一部の患者,特に発展途上国出身の患者では結核菌による肺膿瘍のリスクがあり,またまれな例ではアメーバ感染症(例,赤痢アメーバによる),肺吸虫症,または類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)による感染症により肺膿瘍が生じることがある。

これらの病原体が肺に入るとまず炎症が起こり,その炎症が1週間から2週間かけて組織壊死を引き起こし,膿瘍の形成に至る。膿瘍は気管支内に破裂し,その内容物は喀出され,空気および液体で満たされた空洞を残す。約10%の症例では,直接的または間接的に(気管支胸膜瘻を介して)胸腔内に拡大し膿胸を起こすことがある。

表&コラム

肺膿瘍の症状と徴候

嫌気性細菌による膿瘍,または嫌気性および好気性細菌の混合感染による膿瘍の症状は,通常慢性的であり(例,数週間または数カ月にわたる),湿性咳嗽,発熱,盗汗,および体重減少などがある。喀血および胸膜性胸痛を呈する場合もある。喀痰は膿性または血液が混在することがあり,典型的には嫌な臭いや味がする。患者に口臭がみられることがある。

好気性細菌による膿瘍の症状はより急性に発現し,細菌性肺炎に類似する。嫌気性菌以外の微生物(例,抗酸菌[Mycobacteria],Nocardia)による膿瘍は,腐敗性の呼吸器分泌物がなく,重力負荷のかからない肺領域に生じる可能性がより高い。

肺膿瘍の徴候は,認められたとしても非特異的であり,肺炎の徴候と類似する:徴候には硬化または胸水を示す呼吸音の減弱, 38℃の発熱,病変部上の断続性ラ音,やぎ声,および胸水存在下での打診時の濁音などがある。典型的な例では,患者には,歯周病の徴候,および嚥下困難または意識障害の原因となる病態などの誤嚥を生じやすい疾患の既往がある。

肺膿瘍の診断

  • 胸部X線

  • より良好な画像を得るため,または気管支内閉塞が疑われる場合は,しばしば胸部CT

  • 好気性細菌,真菌,および抗酸菌に対する喀痰培養

  • 癌を除外し真菌または抗酸菌などのまれな病原体を検出するため,および易感染性患者において,必要に応じ気管支鏡検査

  • あらゆる胸腔内の液体の培養

肺膿瘍の診断は,意識変容または嚥下困難により誤嚥しやすい状態にある患者において,病歴をもとに疑われ,胸部X線上の空洞性病変によって確定される。

ただ空洞性肺病変の原因が必ずしも感染症であるとは限らない。空洞性病変の非感染性の原因としては以下のものがある:

誤嚥によって起こる嫌気性菌感染では,一般的に,患者が臥位のときに重力のかかる肺の領域(例,左右肺のS2,S6,またはS9)に,胸部X線上で鏡面像を含む単一空洞を伴うコンソリデーション(浸潤影)を示す。びまん性または塞栓性の肺疾患では複数の空洞をしばしば生じ,結核は肺尖部を侵すのが典型的であるため,このような病変の分布傾向は,嫌気性菌による膿瘍と,空洞性肺疾患のその他の原因との鑑別に役に立つ。

CTはルーチンには必要とされない(例,肺膿瘍の危険因子ある患者で胸部X線上の空洞陰影が明らかである場合)。しかしながら,胸部X線上で空洞陰影が示唆されるものの明らかではない場合,ある肺区域からのドレナージを遮断する肺腫瘤が基礎にあることが疑われる場合,膿瘍を膿胸または鏡面像を伴うブラと鑑別する必要がある場合には,CTが有用であることもある。

気管支癌は,肺炎および膿瘍形成を引き起こす閉塞の原因となりうる。抗菌薬による治療に反応しない患者,または空洞性病変はあるが発熱がみられないなどの非典型的所見を有する患者では,気管支癌が疑われるべきである。がんまたは異物の存在を除外するため,もしくは真菌または抗酸菌などのまれな病原体を検出するため,ときに気管支鏡検査が施行される。患者が易感染状態の場合も,気管支鏡検査が施行される。

培養

嫌気性細菌が培養で同定されることはまれであり,その理由は,汚染されていない検体の採取が困難なこと,および大半の検査室では嫌気性菌を十分に培養できない,または培養自体をほとんど行わないことよる。喀痰が腐敗性であれば,嫌気性菌感染が原因であるとみなされる。しかしながら,膿胸を呈している場合は,胸水は嫌気性菌培養のための良質の検体となる。

臨床所見から嫌気性菌感染の可能性が低いと考えられる場合は,好気性菌,真菌,または抗酸菌感染症を疑うべきであり,病原体の同定を試みるべきである。喀痰,気管支鏡吸引物,またはその両方の培養が役立つ。

肺膿瘍の治療

  • 抗菌薬の静注,またはより軽症の患者には,抗菌薬の経口投与

  • 抗菌薬に反応しない全ての膿瘍,または全ての膿胸に対し,経皮的,経気管支,または外科的ドレナージ

第1選択はβ-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬の合剤(例,アンピシリン/スルバクタム1~2g,6時間毎に静注)である。その他の代替手段には,カルバペネム系薬剤(例,イミペネム/シラスタチン500mg,6時間毎に静注),またはメトロニダゾール500mg,8時間毎の投与とペニシリン200万単位,6時間毎の静注との併用療法などがある。病状が軽症の患者には,アモキシシリン/クラブラン酸875/125mgを12時間毎,またはペニシリンアレルギーのある患者にはクリンダマイシン300mgを6時間毎など,抗菌薬の経口投与を行う。患者の熱が下がれば,静注のレジメンを経口投与に変更してもよい。MSRAが関与する極めて重篤な感染症には,リネゾリドまたはバンコマイシンが最善の治療である。痰または血液からかなりの濃度でグラム陰性桿菌が培養され,グラム染色で同定された場合は,嫌気性菌に加えて特定の病原体をカバーするように抗菌薬レジメンを変更すべきである。

クリンダマイシン600mg,6~8時間毎の静注は,レンサ球菌および嫌気性菌に対して優れた活性を示すため,第1選択薬であったが,クリンダマイシンによる治療が長期にわたるとClostridioides(以前はClostridiumdifficile感染症の発生率が高くなる懸念から,第2選択薬となっている。ペニシリンアレルギーの患者では,依然として有用な選択肢である。

至適治療期間は不明であるが,胸部X線上の所見が完全に消失する,または小さく安定した瘢痕を示すようになるまで治療を続けるのが通例であり,そのような状態に至るまで一般に3~6週間,またはそれ以上を要する。一般的には,膿瘍が大きいほど,胸部X線上の所見の消失には時間を要する。

胸部理学療法および体位ドレナージは,感染源を他の気管支へ流出させ感染および急性閉塞を拡大させる可能性があるため,専門家の多くはこれらの治療法を推奨していない。

膿胸を合併している場合,ドレナージを行わなければならない。病変が抗菌薬に反応しないおよそ10%の患者,および肺壊疽を伴う患者では,肺膿瘍の外科的除去またはドレナージが必要である。抗菌薬耐性は,大きな空洞および閉塞後の膿瘍を伴う場合に最も頻度が高い。7~10日が経過しても解熱しない,あるいは臨床症状が改善しない患者では,耐性菌またはまれな病原体による感染,気道閉塞,および空洞病変を来す非感染性の病因がないか評価すべきである。

手術が必要である場合は,肺葉切除術が最も一般的な方法である;小さな病変(直径 < 6cmの空洞)に対しては区域切除で十分な場合もある。薬物療法に反応しない複数の膿瘍,または肺壊疽に対しては,肺全摘除術が必要になることもある。手術に耐えられない可能性が高い患者では,経皮的ドレナージ,またはまれではあるが気管支鏡によるピッグテールカテーテルの留置を行うことで,ドレナージが容易になる。別のドレナージ法として,超音波気管支鏡でシースの留置をガイドする方法が台頭している。

肺膿瘍の要点

  • 肺膿瘍は,意識障害のある患者における口腔内分泌物の誤嚥によって生じることが最も多い;ゆえに,嫌気性細菌が病原体としてよくみられる。

  • 誤嚥しやすく,亜急性の全身症状および肺症状を伴い,胸部X線上で空洞などの合致する病変を認める患者では,肺膿瘍を疑う。

  • 最初は抗菌薬により治療し,7~10日以内に治療に反応しなければ,まれな病原体または耐性菌による感染,気道を閉塞する病変,および空洞病変の非感染性の原因がないか評価する。

  • 膿胸に対してはドレナージを行い,薬物療法に反応しない肺膿瘍および肺壊疽に対しては,外科的除去またはドレナージを考慮する。

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