呼吸リハビリテーション

執筆者:Andrea R. Levine, MD, University of Maryland School of Medicine;
Jason Stankiewicz, MD, University of Maryland Medical Center
レビュー/改訂 2020年 2月
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    呼吸リハビリテーションとは,慢性呼吸器疾患を有する患者の機能を改善し,生活の質を高めるために,運動,教育,行動療法を用いることである。

    慢性呼吸器疾患の多くの患者にとって,内科的治療は,疾患の症状および合併症を部分的に軽快させるに過ぎない。呼吸リハビリテーションの包括的プログラムにより,以下のようなかなりの臨床的改善がもたらされる可能性がある:

    • 息切れが減る

    • 運動耐容能が高まる

    • それほど程度は大きくないものの入院回数が減る

    しかしながら,このプログラムで生存率が改善するわけではない。

    適応

    以前は,呼吸リハビリテーションは以下を有する患者に限って行われていた:

    • 重症COPD(慢性閉塞性肺疾患)

    しかしながら,以下を有する患者への有益な効果を示唆するエビデンスが増えている:

    肺移植および肺容量減少手術を受ける患者においても,呼吸リハビリテーションを術前および術後のいずれに行った場合でも有益な効果がみられた。

    COPD患者を対象にした研究の示唆するところによると,呼吸リハビリテーションはCOPDが重症化(すなわち,気流閉塞が悪化)する前に開始すべきであり,これは疾患重症度と運動能力にあまり相関はないと考えられるためである。さらに,より軽症の患者でも,呼吸困難の減少,運動耐容能の改善,筋力の改善,コンディショニング,心肺生理機能の改善,動的過膨張の軽減,および呼吸リハビリテーションに伴う心理的効果によって,便益が得られる可能性が高い(1)。ただし,最近のガイドラインでは,GOLD分類のB,C,またはD(2)で定義される中等度から重度の安定したCOPDに対しても,肺リハビリテーションへの紹介を考慮するよう推奨している。

    禁忌

    禁忌は相対的なもので,患者の運動レベルを高める試みを困難にする併存疾患(例,未治療の狭心症,左室機能障害)などがある。しかしながら,これらの併存疾患は,呼吸リハビリテーションプログラムの他の要素の利用を妨げるものではない。

    合併症

    呼吸リハビリテーションには,身体活動および運動から予測できるもの以上の合併症はない。

    手技

    呼吸リハビリテーションは以下の総合的プログラムの一環として実施するのが最もよい:

    • 運動トレーニング

    • 教育

    • 心理社会的評価および行動評価

    呼吸リハビリテーションは,医師,看護師,呼吸療法士,理学療法士,作業療法士,および心理士またはソーシャルワーカーから成るチームによって行われる。内容は個別化し,個々の患者の需要に合わせて調整すべきである。呼吸リハビリテーションは,疾患のどの段階から始めることも可能であり,目標は疾患による負担および症状を最小化することとする。

    運動トレーニングとして,有酸素運動ならびに呼吸筋および四肢の筋力トレーニングを行う。四肢の筋力トレーニングおよびインターバルトレーニングの両方を行うことを支持するエビデンスが増えている。

    吸気筋トレーニング(IMT)は,呼吸リハビリテーションの重要な要素の1つである。IMTは,装置を用いて患者の最大吸気圧の何十%かの負荷をかけ,呼吸筋の筋力を強化する。単独で用いた場合,IMTは呼吸困難を軽減する可能性があるが,運動耐容能および日常生活動作を改善するかどうかは不明である。とはいえ,従来の呼吸リハビリテーション運動にIMTを併用することで,日常生活動作において臨床的に意味のある呼吸困難の軽減が認められ,歩行距離が改善する。

    神経筋電気刺激療法(NMES)は,装置を使って特定の筋肉に経皮的に電気パルスを与え,収縮を誘発することで筋力を高める治療である。NMESは,循環器への需要を最小化し,呼吸困難(しばしば典型的な運動トレーニングへの参加を妨げる)を引き起こさないため,重度の肺疾患の患者に効果的な可能性がある。そのため,神経筋電気刺激療法は著しいデコンディショニングがある患者または呼吸不全の急性増悪がある患者に特に適している。

    教育には多くの要素がある。禁煙の必要性についてのカウンセリングは重要である。呼吸法の指導(口すぼめ呼吸により,呼気がすぼめられた唇に当たり,呼吸数が減少し,その結果エアトラッピングが少なくなるなど)および身体エネルギーをうまく使うための原理の説明が役に立つ。薬剤を正しく使用することおよび終末期ケアを計画することを含め,治療に関する説明を行うことが必要である。

    心理社会療法には,患者の社会活動への全面的参加を妨げる抑うつ,不安,および恐怖に関するカウンセリングならびにフィードバック【訳注:成果を評価して行動を修正できるようにアドバイスをしたり支援すること】がある。行動修正戦略および自己管理の強調は,呼吸リハビリテーションの要となる要素である。このような戦略として,目標設定および問題解決,意思決定,薬剤のアドヒアランス,ならびに決められた運動および身体活動の維持を促す手法などがある(1)。

    最適な維持戦略は不明であるが,呼吸リハビリテーションの有益な効果を維持するためには,運動プログラムへ参加し続けることが不可欠である。

    総論の参考文献

    1. 1.Rochester CL, Vogiatzis I, Holland AE, et al: An Official American Thoracic Society/European Respiratory Society Policy Statement: Enhancing Implementation, Use, and Delivery of Pulmonary Rehabilitation.Am J Respir Crit Care Med 192:1373–1386, 2015.doi: 10.1164/rccm.201510-1966ST.

    2. 2.Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease: Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease (2020 report).

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