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浮腫

執筆者:

Andrea D. Thompson

, MD, PhD, University of Michigan;


Michael J. Shea

, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan

レビュー/改訂 2020年 9月
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浮腫とは,間質液の増加により軟部組織の腫脹が生じた状態である。液体の主成分は水であるが,感染やリンパ管閉塞がある場合には,タンパク質および細胞を多く含む液体が蓄積する可能性がある。

浮腫は全身性の場合と局所性の場合(例,四肢のいずれかまたはその一部に限局する)がある。ときに浮腫は突然発症し,患者は四肢が極めて突然に腫れたと訴える。一方,浮腫は潜行性に発生することの方が多く,体重増加,朝の起床時に眼が腫れる,夜になると靴がきつくなるなどの変化から始まる。緩徐に発生する浮腫は,患者が医療機関を受診するまでに巨大になることもある。

浮腫自体はときに圧迫感や緊満感をもたらす以外ほとんど症状を惹起せず,他の症状は通常は基礎疾患に関連したものである。 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全 (一般的な原因である)による浮腫のある患者では,しばしば労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難がみられる。 深部静脈血栓症 深部静脈血栓症(DVT) 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む 深部静脈血栓症(DVT) (DVT)による浮腫のある患者では,しばしば下肢痛がみられる。

細胞外液量の増加による浮腫は,しばしば就下性である。そのため,浮腫は歩行可能な患者では足部および下腿に,床上安静が必要な患者では殿部,性器,および大腿後面に発生する。片側でのみ臥位となる習慣のある女性では,その際に下側に来る乳房に浮腫が生じることがある。リンパ管閉塞があると,閉塞部位より遠位部で浮腫が発生する。

浮腫の病態生理

浮腫は,血管から間質への体液移動の増加と,間質から毛細血管またはリンパ管への体液移動の減少のいずれかによって生じる。発生機序には以下の1つまたは複数が関与する:

  • 毛細血管静水圧の上昇

  • 血漿膠質浸透圧の低下

  • 毛細血管の透過性亢進

  • リンパ系の閉塞

体液が間質に移動するにつれて,血管内容量が減少していく。血管内容量が減少すると,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン-バソプレシン(ADH)系が活性化され,その結果として腎臓でナトリウム貯留が起こる。腎臓でのナトリウム貯留は,浸透圧上昇により水貯留を惹起し,それにより血漿量の維持が補助される。腎臓におけるナトリウム貯留の亢進は, 体液過剰 体液量過剰 体液量の過剰は通常,細胞外液の増加を指す。細胞外液の増加は,典型的には,心不全,腎不全,ネフローゼ症候群,肝硬変でみられる。腎臓でのナトリウム保持は,体内総ナトリウム量の増加につながる。この増加により,様々な程度の体液量過剰が生じる。体液量過剰の患者では(体内総ナトリウム量が増加しているにもかかわらず),血清中ナトリウム濃度は高値,低値,または正常範囲内になる。治療では,利尿薬により過剰な水分を排泄するか,または透析や穿刺などの機械的方... さらに読む とそれによる浮腫の第一の原因となることがある。外部からのナトリウムの過剰摂取も寄与することがある。

頻度はやや低いが,ネフローゼ症候群やタンパク漏出性胃腸症,肝不全,飢餓などで血漿膠質浸透圧が不十分となるために間質から毛細血管への体液移動が減少し,その結果として浮腫が引き起こされることもある。

リンパ系は間質からタンパク質や白血球を(いくらかの水とともに)除去する役割を担っている。リンパ管閉塞が生じると,これらの物質が間質に蓄積するようになる。

浮腫の病因

全身性浮腫の原因で最も頻度が高いのは以下のものである:

限局性浮腫の原因で最も頻度が高いのは以下のものである:

一般的な原因の一覧を主要な機序別に示す(浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 の表を参照)。

浮腫の評価

病歴

現病歴の聴取には,浮腫の部位および持続期間と疼痛または不快感の有無および程度を含めるべきである。女性患者の場合は,妊娠の有無と浮腫が月経期間と連動しているように思えるかを尋ねるべきである。慢性浮腫の患者では,体重の増減の記録を付けさせることが有用である。

システムレビュー(review of systems)には,労作時呼吸困難,起座呼吸,および発作性夜間呼吸困難(心不全);アルコールまたは肝毒性物質への曝露,黄疸,紫斑ができやすい(肝疾患);倦怠感および食欲不振(悪性腫瘍,肝疾患,または腎疾患);不動状態,四肢の損傷,または最近の手術(DVT)など,原因疾患の症状を含めるべきである。

既往歴の聴取には,心疾患,肝疾患,腎疾患,悪性腫瘍(関連する全ての手術および放射線療法も含む)など,浮腫を引き起こすことが知られている全ての疾患を含めるべきである。病歴聴取には,これらの原因の素因となる病態である,レンサ球菌感染症,最近のウイルス感染症(例,肝炎),慢性のアルコール乱用,凝固性亢進疾患なども含めるべきである。薬歴の聴取には,浮腫を引き起こすことが知られている薬剤に関する具体的な質問を含めるべきである(浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 の表を参照)。料理中および食事中に使用する食塩の量について患者に質問する。

身体診察

浮腫の領域を同定して,程度,熱感,紅斑,圧痛について調べる;その際には対称性の有無に注意する。圧痕(浮腫を起こした領域を指で押した際に間質液の移動により生じる視認可能かつ触知可能な陥凹)の有無と程度を記録する。

一般診察では,皮膚を視診して,黄疸,皮下出血,くも状血管腫がないか確認する(肝疾患を示唆)。

肺を診察して,打診上の濁音界,呼吸音の減弱または増強,断続性ラ音,類鼾音,および胸膜摩擦音がないか確認する。

内頸静脈の高さ,波形,および逆流を記録する。

心臓部を触診して,振戦,突出,傍胸骨部の挙上,非同期性の異常な収縮期膨隆がないか確認する。聴診では,II音肺動脈弁成分(P2)の増強,III音(S3)またはIV音(S4),心雑音,および心膜摩擦音またはノックがないか確認する;これらは全て心臓に原因があることを示唆する。

腹部を視診,触診,打診して,腹水,肝腫大,脾腫がないか確認することにより,肝疾患または心不全の有無を調べる。腎臓部の触診と膀胱の打診を行う。異常な腹部腫瘤があれば触診すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見を認める場合には,浮腫の病因としてより重篤な病態の疑いが高まる:

  • 突然の発症

  • 著明な疼痛

  • 息切れ

  • 発熱

  • 心疾患の病歴または心臓診察での異常

  • 喀血,呼吸困難,または胸膜摩擦音

  • 肝腫大,黄疸,腹水,脾腫,または吐血

  • 下肢が片側性に腫脹し,圧痛を伴う

所見の解釈

典型的には局所性浮腫の突然の発症として顕在化する,生命を脅かす急性疾患を同定しなければならない。このような臨床像は,急性 DVT 深部静脈血栓症(DVT) 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む 深部静脈血栓症(DVT) ,軟部組織感染症,または血管性浮腫を示唆する。急性DVTは 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む 肺塞栓症(PE) (PE)につながることがあり,PEは致死的となりうる。軟部組織感染症の重症度は,感染微生物と患者の健康状態に応じて,軽微なものから生命を脅かすものまで変動する。急性血管性浮腫はときに進行して気道を侵すため,重篤な帰結がもたらされる。

心不全,PEを合併したDVT,急性呼吸窮迫症候群,または気道を侵す血管性浮腫に起因する浮腫では,呼吸困難が生じることがある。

緩徐に発生した全身性浮腫は,慢性の心疾患,腎疾患,肝疾患を示唆する。これらの疾患も生命を脅かす可能性があるが,合併症の発生には,はるかに長い時間を要する傾向がある。

これらの因子とその他の臨床的特徴が原因の推定に役立つ(浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 の表を参照)。

検査

全身性浮腫がみられる患者の大半では,検査に血算,血清電解質,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン, 肝機能検査 肝臓および胆嚢の臨床検査 臨床検査は一般に以下の目的に効果的である: 肝機能障害の検出 肝損傷の重症度の評価 肝疾患の経過および治療効果のモニタリング 診断の絞り込み さらに読む ,血清タンパク質,および尿検査(特にタンパク質および顕微鏡的血尿の有無に注意する)を含めるべきである。その他の検査は疑われる原因に応じて施行すべきである(浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 浮腫の主な原因 の表を参照)―例えば,心不全が疑われる場合は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),肺塞栓が疑われる場合はDダイマー。

孤立性に下肢の腫脹がみられる患者では,通常は超音波検査により静脈閉塞を除外するべきである。

浮腫の治療

具体的な原因があれば治療する。

ナトリウム貯留を呈する患者には,しばしば食塩制限が有益となる。心不全患者では,調理中および食事中の食塩使用を排除させ,食塩が添加された加工調理食品も摂取を控えさせるべきである。

肝硬変またはネフローゼ症候群が進行した患者では,しばしばより厳格なナトリウム制限が必要になる(1g/日以下)。食塩制限に耐えやすくなるように,ナトリウム塩の代わりにカリウム塩がしばしば使用されるが,これには注意が必要で,特にカリウム保持性利尿薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を投与されている患者や腎疾患のある患者では,致死的な 高カリウム血症 高カリウム血症 高カリウム血症とは,血清カリウム濃度が5.5mEq/L(5.5mmol/L)を上回ることであり,通常は腎臓からのカリウム排泄の低下またはカリウムの細胞外への異常な移動によって発生する。通常,カリウム摂取の増加,腎臓からのカリウム排泄を障害する薬剤,および急性腎障害または慢性腎臓病など,いくつかの寄与因子が同時に存在する。高カリウム血症は,糖尿病性ケトアシドーシスや,代謝性アシドーシスでも生じる可能性がある。臨床症状は一般に神経筋症状であ... さらに読む を来す可能性があるため,注意すべきである。

ナトリウム貯留が関与する病態の患者では,ループ利尿薬またはサイアザイド系利尿薬も有益となりうる。しかしながら,浮腫による外見を改善するだけのために利尿薬を使用すべきではない。利尿薬を使用した場合,患者によってはカリウムの喪失が危険となる可能性がある;カリウム保持性利尿薬(例,アミロライド[amiloride],トリアムテレン,スピロノラクトン,エプレレノン)は,ネフロンの遠位部および集合管でのナトリウム再吸収を阻害する。これらの薬剤は単独で使用した場合,ナトリウム排泄量を中等度に増加させる。トリアムテレンとアミロライド(amiloride)は,どちらもカリウム喪失を予防する目的でサイアザイド系利尿薬と併用されている。ACE阻害薬とサイアザイド系薬剤の併用によってもカリウム喪失が減少する。

老年医学的重要事項

高齢患者で浮腫の原因(特に心不全)を治療するために薬剤を使用する際には,以下のような特別な注意が必要である:

  • 低用量で開始し,用量を変更する際には徹底的な評価を行う

  • 利尿薬,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,またはβ遮断薬を使用している場合は,起立性低血圧についてモニタリングする

  • ジゴキシン,心拍数抑制作用のあるカルシウム拮抗薬,またはβ遮断薬を使用している場合は,徐脈または心ブロックについて評価する

  • 低カリウム血症または高カリウム血症の検査を頻回に行う

  • 足部浮腫は良性であるため,この症状ではカルシウム拮抗薬を中止しない

毎日の体重記録が臨床的な改善または増悪のモニタリングに極めて有用である。

浮腫の要点

  • 浮腫は全身性または局所性のプロセスによって引き起こされる。

  • 全身性浮腫の主な原因は,慢性の心疾患,肝疾患,腎疾患である。

  • 突然発症した場合は迅速な評価を行うべきである。

  • 浮腫は身体のあらゆる部位で発生する可能性がある。

  • 全ての浮腫が有害というわけではなく,最終的な状態は主に原因によって異なる。

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