腎静脈血栓症

執筆者:Zhiwei Zhang, MD, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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腎静脈血栓症は主要な腎静脈の一側性または両側性の血栓性閉塞で,急性腎障害または慢性腎臓病を生じる。一般的な原因は,ネフローゼ症候群,原発性の凝固亢進性疾患,悪性腎腫瘍,外因性圧迫,外傷,まれに炎症性腸疾患である。腎不全の症状,およびときに悪心,嘔吐,側腹部痛,肉眼的血尿,尿量低下または静脈血栓塞栓症の全身症状が起こる場合がある。診断はCT,MRアンギオグラフィー,または腎静脈造影による。治療をした場合の予後は,一般に良好である。治療は抗凝固療法,腎機能の維持,基礎疾患の治療である。一部の患者では血栓除去術または腎摘出術が有益である。

病因

腎静脈血栓症は通常,膜性腎症(最も多い),微小変化群,膜性増殖性糸球体腎炎に関連するネフローゼ症候群を原因とする局所および全身性の凝固亢進によって起こる。ネフローゼ症候群に起因する血栓症のリスクは,低アルブミン血症の重症度と比例するようにみえる。過剰に積極的な利尿または長期の高用量コルチコステロイド投与は,これらの状態を有する患者で腎静脈の血栓症に寄与している可能性がある。

その他の原因としては以下のものがある:

頻度のより低い原因は腎静脈血流低下に関連するもので,これには腎静脈に達する悪性腎腫瘍(典型的には腎細胞癌),腎静脈または下大静脈の外因性の圧迫(例,血管異常,腫瘍,後腹膜疾患,下大静脈の結紮,大動脈瘤),経口避妊薬の使用,外傷,脱水,まれに遊走性血栓性静脈炎およびコカイン乱用などがある。

症状と徴候

通常,腎機能障害の発症は潜行性である。しかしながら,急性に発症することもあり,その場合は腎梗塞を引き起こして,悪心,嘔吐,側腹部痛,肉眼的血尿,および尿量低下がみられる。

原因が凝固亢進性疾患の場合は静脈血栓塞栓性疾患(例,深部静脈血栓症肺塞栓症)の徴候が起こることがある。原因が腎癌の場合は,その徴候(例,血尿,体重減少)が優勢である。

診断

  • 血管画像検査

腎梗塞または原因不明の腎機能増悪を呈する患者,特にネフローゼ症候群またはその他の危険因子を有する患者では,腎静脈血栓症を考慮すべきである。

従来からの第1選択かつ標準の診断検査は,下大静脈の静脈造影であり,この検査は診断が可能であるが,血栓を移動させる可能性がある。従来法の静脈造影にはリスクがあることから,磁気共鳴静脈造影およびドプラ超音波検査の使用がますます増加している。磁気共鳴静脈造影は,糸球体濾過量(GFR)が30mL/minを超えていれば施行できる。ドプラ超音波検査は,ときには腎静脈血栓症を検出するが,偽陰性率および偽陽性率が高い。側副静脈の拡張に起因する尿管の陥凹は,一部の慢性症例では特徴的な所見である。

CT血管造影では,感度と特異度がともに高い詳細な画像が得られ,迅速に施行できるが,腎毒性を示す可能性のある放射線造影剤の投与が必要である。血清電解質の測定と尿検査を行い,腎機能の悪化を確認する。

顕微鏡的血尿がしばしば認められる。タンパク尿はネフローゼレベルに達することがある。

原因が明白でない場合は,凝固亢進性疾患に対する検査を開始すべきである(血栓性疾患を参照)。腎生検は非特異的であるが,併存する腎疾患を検出できることがある。

予後

死亡はまれであり,通常は肺塞栓症などの合併症およびネフローゼ症候群または悪性腫瘍に起因する合併症に関連する。

治療

  • 基礎疾患の治療

  • 抗凝固療法

  • ときに経皮的カテーテルベースの血栓除去または血栓溶解療法

基礎疾患を治療すべきである。

腎静脈血栓症の治療選択肢としては,ヘパリンによる抗凝固療法,血栓溶解療法,カテーテルベースまたは外科的な血栓除去などがある。侵襲的介入の計画がない場合は,低分子ヘパリンまたは経口ワルファリンによる長期抗凝固療法を直ちに開始すべきである。抗凝固療法は,新規の血栓のリスクを最小限に抑え,血栓が既存する血管の再開通を促進し,腎機能を改善する。抗凝固療法は少なくとも6~12カ月間継続し,凝固亢進性疾患(例,持続性ネフローゼ症候群)が存在する場合には無期限に継続する。

血栓除去または血栓溶解のための経皮的カテーテルの使用が現在推奨されている。外科的血栓除去の使用はまれであるが,急性両側性腎静脈血栓症および急性腎障害を呈し,経皮的カテーテルによる血栓除去および/または血栓溶解療法による治療が不可能な患者では,考慮すべきである。

腎摘出術は,梗塞が全体に及ぶ場合か(一部の症例),または基礎疾患により正当化される場合にのみ施行される。

要点

  • 腎静脈血栓症で最も一般的な原因は,膜性腎症に関連するネフローゼ症候群である。

  • 腎梗塞または原因不明の何らかの腎機能増悪を呈する患者,特にネフローゼ症候群またはその他の危険因子を有する患者では,腎静脈血栓症を考慮する。

  • 血管画像検査,通常は磁気共鳴静脈造影(GFRが30mL/minを超える場合)またはドプラ超音波検査により診断を確定する。

  • 基礎疾患を治療し,抗凝固療法,血栓溶解療法,血栓除去を開始する。

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