長期腎代替療法の医学的側面

執筆者:L. Aimee Hechanova, MD, Texas Tech University Health Sciences Center, El Paso
レビュー/改訂 2020年 12月
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    長期腎代替療法(RRT)を受ける全ての患者では,合併症として代謝性疾患やその他の疾患を発症する。これらの疾患には,しかるべき注意と補助的治療が必要である。アプローチは患者によって異なるが,典型的には栄養面の調整と複数の代謝異常に対する管理が含まれる(栄養も参照)。

    腎代替療法の概要も参照のこと。)

    食事

    食事は慎重にコントロールすべきである。一般に,血液透析患者は食欲不振になりやすく,理想体重1kg当たり1日35kcal(小児では年齢および活動性に応じて40~70kcal/kg/日)の食事摂取を奨励すべきである。ナトリウムの1日摂取量は2g(88mEq[88mmol]),カリウムは2.3g(60mEq[60mmol]),リン酸塩は800~1000mgまでに制限すべきである。水分摂取は1000~1500mL/日に制限され,透析治療の間の体重増加を測定してモニタリングする。腹膜透析を受ける患者は,腹腔で喪失するタンパク質(8.4 +/- 2.2g/日)を補充するため,タンパク質摂取量1.25~1.5g/kg/日が必要である(これに対し血液透析患者では1.0~1.2g/kg/日)。生存率は(血液透析および腹膜透析のいずれでも),血清アルブミンを3.5g/dL(35g/L)超に維持した患者で最良であり,血清アルブミンはこれらの患者の生存に関する最善の予測因子である。

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    腎不全の貧血

    腎不全で発生する貧血は,遺伝子組換えヒトエリスロポエチンおよび鉄補充で治療すべきである(貧血および凝固障害を参照)。経口での鉄吸収には限界があるため,多くの患者には血液透析中に鉄剤の静脈内投与が必要となる。(アナフィラキシーの発生率が高い鉄デキストランよりも,カルボキシマルトース第二鉄,グルコン酸第二鉄ナトリウム,およびスクロース鉄の方が望ましい)。鉄貯蔵は,血清鉄,総鉄結合能,血清フェリチンを用いて評価する。典型的には,鉄貯蔵はエリスロポエチン療法の開始前およびその後は2カ月毎に評価する。エリスロポエチン抵抗性で最も頻度の高い理由は,鉄欠乏症である。しかしながら,輸血を複数回受けた透析患者では鉄過剰症が生じている場合があり,そのような患者には鉄サプリメントを投与すべきではない。

    冠動脈疾患

    RRTを必要とする患者の多くは,高血圧,脂質異常症,または糖尿病を有し,喫煙習慣があり,最終的に心血管疾患で死亡するため,冠動脈疾患の危険因子を積極的に管理していく必要がある。持続的腹膜透析は水分の除去に血液透析より効果的である。その結果,高血圧患者は降圧薬の必要性が低下する。血液透析患者の約80%では,高血圧も濾過単独でのコントロールが可能である。残りの20%では,降圧薬が必要になる。脂質異常症の治療糖尿病管理,および禁煙が非常に重要である。

    高リン血症

    高リン血症は糸球体濾過量(GFR)低下によるリン貯留の結果として発生し,カルシウム(Ca)× リン(PO4)> 50~55の場合には,軟部組織(特に冠動脈および心臓弁)に石灰化が起きるリスクが高まる。また,続発性副甲状腺機能亢進症の発生も促進する。初期治療としてはカルシウム系制酸薬(例,炭酸カルシウム1.25g,経口,1日3回,酢酸カルシウム667~2001mg,経口,食事とともに1日3回)を使用するが,この種の薬剤はリン吸着剤として作用してリン濃度を低下させる。長期投与の合併症として便秘および腹部膨満がある。高カルシウム血症をモニタリングすべきである。

    カルシウム含有リン吸着剤を服用中に高カルシウム血症を発症した患者に対しては,炭酸セベラマー800~3200mgまたは炭酸ランタン500~1000mg,スクロオキシ水酸化鉄500~1000mg,またはクエン酸第二鉄2~3gの毎食事時の服用が選択肢である。一部の患者(例,急性腎障害で入院し,血清リン濃度が極めて高い患者)では,アルミニウムベースのリン吸着剤の追加が必要となるが,アルミニウム中毒を予防するため,その使用は短期間に制限すべきである(例,必要に応じて1~2週)。

    低カルシウム血症および続発性副甲状腺機能亢進症

    腎におけるビタミンD産生が損なわれた結果,これらの合併症がしばしば併発する。低カルシウム血症の治療は,カルシトリオールの経口(0.25~1.0μg,経口,1日1回)または静脈内(成人では1~3μg/kg,小児では0.01~0.05μg/kg,透析時)投与による。治療により血清リン濃度が上昇する可能性があり,軟部組織石灰化を防ぐため,濃度が正常化されるまで投与を中止すべきである。用量は,副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を通常150~300pg/mL(150ng/L)まで抑制するよう調整する(PTHは骨代謝回転を血清カルシウムより良好に反映する)。抑制過剰は骨代謝回転を低下させて無形成骨症をもたらし,これにより骨折のリスクが高まる。ビタミンD誘導体のドキセルカルシフェロール(doxercalciferol)とパリカルシトールは,腸管からのカルシウムとリンの吸収に対する作用はより少ないが,PTH抑制については同程度に有効である。初期に示唆された,これらの薬剤がカルシトリオールと比較して死亡率を低下させる可能性については確認が必要である。

    カルシウム受容体作動薬のシナカルセトは,副甲状腺のCa感知受容体のカルシウムに対する感度を高めることから,副甲状腺機能亢進症に適応となる場合があるが,ルーチンの診療における役割はまだ確立されていない。同剤はPTH濃度を最大75%低下させる能力を有することから,これらの患者で副甲状腺摘出術の必要性が減少する可能性がある。

    アルミニウム中毒

    中毒のリスクはアルミニウム含有透析液(現在ではまれ)およびアルミニウムベースのリン吸着剤に曝露した血液透析患者が有する。臨床像は,骨軟化症および小球性貧血(鉄抵抗性)と,おそらくは透析認知症(記憶障害,統合運動障害,幻覚,しかめ面,ミオクローヌス,痙攣発作,特徴的な脳波所見から成る一連の症候)である。

    RRTを受けている患者に骨軟化症,鉄抵抗性小球性貧血,または神経症状(記憶障害,統合運動障害,幻覚,しかめ面,ミオクローヌス,痙攣発作など)が現れた場合は,アルミニウム中毒を考慮すべきである。診断は,デフェロキサミン5mg/kgの静脈内投与前と2日後の血漿アルミニウム濃度の測定による。デフェロキサミンはアルミニウムをキレート化し,組織から放出するため,アルミニウム中毒患者では血中濃度が上昇する。アルミニウム濃度の50μg/L以上の上昇は毒性を示唆する。アルミニウム関連の骨軟化症は,骨の針生検でも診断可能である(アルミニウムに対する特殊染色が必要)。

    治療はアルミニウムベースの吸着剤の回避に加え,デフェロキサミンの静脈内または腹腔内投与による。

    パール&ピットフォール

    • RRTを受けている患者で骨軟化症,鉄抵抗性小球性貧血,または神経症状がみられる場合は,アルミニウム中毒を考慮する。

    骨疾患

    腎性骨異栄養症は骨石灰化の異常である。複数の原因があり,具体的にはビタミンD欠乏症血清リン値上昇,続発性副甲状腺機能亢進症,慢性代謝性アシドーシス,アルミニウム中毒などがある。治療は原因に向けられる。

    ビタミン欠乏症

    ビタミン欠乏症は,透析に関連した水溶性ビタミン(例,B,C,葉酸)の喪失に起因し,腎関連の総合ビタミン剤の連日服用で補充可能である(例,チアミン,リボフラビン,ナイアシン/ナイアシンアミド,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,およびパントテン酸を含有するもの)。

    カルシフィラキシス

    カルシフィラキシスは,全身性に動脈石灰化が生じるまれな疾患であり,体幹,殿部,および下肢局所の脂肪および皮膚に虚血および壊死が引き起こされる。原因は不明であるが,副甲状腺機能亢進症,ビタミンD補充,カルシウムおよびリン(PO4)濃度の上昇が一因であると考えられている。臨床的には疼痛を伴い紫色を帯びた紫斑性の局面および小結節が生じ,それらが潰瘍化して,痂皮を形成し,感染を起こす。しばしば致死的である。治療は通常,支持療法である。透析終了時にチオ硫酸ナトリウムを週3回静脈内投与するとともにカルシウム × PO4の血清値の積を低下させるための積極的な努力によって顕著な改善がもたらされた症例がいくつか報告されている。

    カルシフィラキシス(体幹)
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    この画像には,カルシフィラキシスにより局所的に虚血および壊死が生じた初期の皮膚変化が写っている。
    Image courtesy of Karen McKoy, MD.

    便秘

    便秘は,長期RRTにおける軽度ではあるが煩わしい側面であり,腸管の拡張がもたらされるため,腹膜透析でカテーテルドレナージが妨げられる場合がある。多くの患者は,浸透圧性下剤(例,ソルビトール)または膨張性下剤(例,サイリウム)を必要とする。マグネシウム(例,水酸化マグネシウム)またはリン(例,Fleet enema)を含有する緩下薬の使用は避けるべきである。

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