ループス腎炎は全身性エリテマトーデス(SLE)に起因する糸球体腎炎である。臨床所見は血尿,ネフローゼレベルのタンパク尿,また進行した病期においては高窒素血症である。診断は腎生検に基づく。治療は基礎疾患の治療であり,通常はコルチコステロイドおよび細胞傷害性薬剤またはその他の免疫抑制薬が関与する。
ループス腎炎はSLE患者の約50%で診断され,典型的には診断の1年以内に発生する。しかしながら,総発生率はおそらく90%を超えると考えられ,その理由は,SLEが疑われるが腎疾患の臨床所見を示していない患者の腎生検では糸球体腎炎の変化が示されるためである。
病態生理
病態生理には,糸球体腎炎の発生を伴う免疫複合体沈着が関与する。免疫複合体は以下から成る:
核抗原(特にDNA)
高親和性補体結合IgG抗核抗体
DNAに対する抗体
内皮下,膜内,上皮下,またはメサンギウム領域の沈着物が特徴的である。免疫複合体の沈着部位にかかわらず,蛍光抗体染色では補体が陽性であり,IgG,IgA,およびIgMは様々な比率で陽性である。上皮細胞が増殖し,半月体を形成することがある。
ループス腎炎の分類は組織学的所見に基づく(ループス腎炎の分類の表を参照)。
抗リン脂質抗体症候群腎症
本症候群は,SLE患者の最大3分の1でループス腎炎の有無にかかわらず発生する可能性がある。この症候群は,罹患した患者の30~50%において,他の自己免疫異常が全くない状態で発生する。抗リン脂質抗体症候群においては,循環血中のループスアンチコアグラントが微小血栓,内皮損傷,皮質の虚血性萎縮をもたらす。抗リン脂質抗体症候群腎症は,ループス腎炎単独の場合と比較して,高血圧および腎機能不全または腎不全のリスクを高める。
症状と徴候
最も著明な症候はSLEによるものであり,また腎疾患を有する患者では,浮腫,泡沫尿,高血圧,またはこれらの合併がみられることがある。
診断
尿検査および血清クレアチニン値(全てのSLE患者)
診断はSLEの全例,特にタンパク尿,顕微鏡的血尿,赤血球円柱,または高血圧がみられる患者で疑われる。診断は原因不明の高血圧,血清クレアチニン値上昇,または尿検査異常がみられ,SLEを示唆する臨床的特徴を有する患者でも疑われる。
尿検査を行って血清クレアチニン値を測定する。
いずれかが異常の場合,通常は腎生検を施行して診断を確定し,疾患を組織学的に分類する。組織学的分類は予後を判定し,治療を方向付ける上で役立つ。
一部の組織型は他の糸球体疾患に類似しており,例えば,膜性ループス腎炎は組織学的に特発性膜性腎症に類似し,びまん性増殖性ループス腎炎は組織学的にI型膜性増殖性糸球体腎炎に類似する。これらの分類の間には重複する部分が大きく,患者は1つのクラスから他のクラスへ進行する場合がある。
Image provided by Agnes Fogo, MD, and the American Journal of Kidney Disease’s Atlas of Renal Pathology (see www.ajkd.org).
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腎機能とSLE活動性は,定期的にモニタリングすべきである。血清クレアチニン値の上昇は腎機能の悪化を反映するのに対し,血清補体値の低下または抗DNA抗体価の上昇は疾患活動性の上昇を示唆する。
予後
治療
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)によるアンジオテンシン阻害は,軽度でも高血圧(例,血圧130/80mmHg超)またはタンパク尿を有する患者で適応となる。また,脂質異常症および動脈硬化の危険因子も積極的に治療すべきである。
免疫抑制
治療には毒性があることから,以下の特徴を有する腎炎にのみ使用する:
活動性を示す
予後不良となる可能性がある
潜在的に可逆的である
活動性は活動性スコアおよび臨床基準(例,尿沈渣,尿タンパクの上昇,血清クレアチニン値の上昇)によって推定する。多くの専門家は,軽度から中等度の慢性度スコアは可逆性を示唆することから,より重度の慢性度スコアと比較してより積極的な治療を行うべきと考えている。通常,増悪と改善の可能性がある腎炎はクラスIIIまたはIVであり,クラスV腎炎に対する積極的治療が正当化されるかどうかは不明である。
活動性スコアは炎症の程度を表す。スコアは細胞増殖,フィブリノイド壊死,細胞性半月体,硝子質血栓,ループ状病変,糸球体白血球浸潤,間質単核球浸潤に基づく。活動性スコアは,疾患の進行度との相関はそれほど強くなく,むしろ活動性腎炎の同定を助けるために用いられる。
慢性度スコアは瘢痕の程度を表す。スコアは糸球体硬化,線維性半月体,尿細管萎縮,および間質線維化の有無に基づく。慢性度指標はループス腎炎から腎不全への進行を予測する。軽度から中等度の慢性度スコアは,少なくとも部分的には可逆的な疾患を示唆しているのに対し,より重度の慢性度スコアは,不可逆的な疾患を示唆している可能性がある。
増殖性ループス腎炎の治療は,通常は細胞傷害性薬剤,コルチコステロイド,ときにその他の免疫抑制薬の併用である。
導入レジメンの1つはシクロホスファミドで構成され,通常静脈内にボーラス投与し(月1回を最長6カ月まで),開始用量は生理食塩水中の0.75g/m2を30~60分かけて投与し,白血球数が3000個/μL超であると仮定して,最高1g/m2まで増量する。経口補液または輸液の投与は,急速な尿流をもたらし,これによりシクロホスファミドの膀胱毒性が最小限に抑えられ,メスナと同様の作用をする(全身性エリテマトーデスに対するシクロホスファミド静注プロトコルの表を参照)。
他の導入レジメンではミコフェノール酸モフェチルを目標用量3g/日で用いる。プレドニゾンも60~80mg,経口,1日1回で開始し,反応に応じて6~12カ月間かけて20~25mg,隔日まで漸減する。プレドニゾンの用量は腎以外の臨床像と再発回数により決める。再発は,通常プレドニゾンの増量により治療する。いずれの導入レジメンも効力は同等であるが,全身性毒性はシクロホスファミドと比較してミコフェノール酸モフェチルで低い可能性がある。
多くの専門家は,より毒性の強いシクロホスファミドによる維持レジメン(シクロホスファミド,静注,月1回,6~7カ月間での導入後)を,ミコフェノール酸モフェチル(500mg~1g,経口,1日2回)または第2選択肢としてアザチオプリン(2mg/kg,経口,1日1回,最大150~200mg/日)を使用するプロトコルに置き換えつつある。クロラムブシル,シクロスポリン,タクロリムスもこれまで使われてきたが,相対的な効力は不明である。低用量プレドニゾン(0.05~0.2mg/kg,経口,1日1回)を継続し,疾患活動性に基づき調整する。維持療法の継続期間は少なくとも1年である。
その他の治療法
抗凝固療法は,理論的には抗リン脂質抗体症候群腎症の患者に対して有益となるはずであるが,そのような治療の価値はまだ確立していない。
腎移植はループス腎炎に起因する末期腎臓病患者に対する選択肢の1つである。移植腎の疾患再発はまれであるが(5%未満),黒人,女性,若年患者ではリスクが上昇する可能性がある。
要点
腎炎はSLE患者のおそらく90%超で発生するが,臨床的に明らかな症例は50%のみである。
ループス患者の全例で尿検査および血清クレアチニン値の測定を行い,そのいずれかで原因不明の異常が検出された場合には腎生検を施行する。
たとえ軽度でも高血圧があればアンジオテンシン阻害を開始し,動脈硬化の危険因子を積極的に治療する。
活動性を示し,潜在的に可逆性の腎炎をコルチコステロイドとシクロホスファミドおよび/またはミコフェノール酸モフェチルの併用で治療する。