勃起障害

(インポテンツ;ED)

執筆者:Irvin H. Hirsch, MD, Sidney Kimmel Medical College of Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 7月
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勃起障害とは,性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できない状態である。大半の勃起障害は血管,神経,精神,または内分泌疾患に関連したものであり,さらに薬剤使用も原因となりうる。評価は典型的には基礎疾患のスクリーニングとテストステロン濃度の測定である。治療選択肢としては,ホスホジエステラーゼ阻害薬の服用,プロスタグランジンの尿道内または海綿体内投与,陰圧式勃起補助具,外科的インプラントなどがある。

男性の性機能障害の概要も参照のこと。)

勃起障害(ED;以前はインポテンツと呼ばれていた)は,米国では最大2000万人の男性が罹患している。部分的または完全EDの有病率は40~70歳の男性では50%を超えており,加齢とともに有病率は上昇する。大半の患者では治療が奏効する可能性がある。

病因

勃起障害(ED)には以下の2つの病型がある:

  • 原発性ED:過去に勃起を達成または維持できたことが一度もない場合

  • 続発性ED:以前は勃起可能であった男性が後になって発症する場合

原発性EDはまれであり,ほぼ常に心理的因子または臨床的に明らかな解剖学的異常に起因する。

続発性EDは比較的頻度が高く,全症例の90%以上で器質的な病因が存在する。続発性EDのある多くの男性では,反応性の心理的問題が発生し,問題を複雑化させる。

心理的因子は,原発性か反応性かにかかわらず,全てのED症例で考慮する必要がある。原発性EDの心理的原因には,罪悪感,親密性に対する恐怖,抑うつ,不安などがある。続発性EDでは,性的能力に関する不安,ストレス,または抑うつが原因に関連している可能性がある。心因性EDは,特定の場所,時間,またはパートナーなどが関係する状況に応じて生じることがある。

EDの主な器質的原因は生理的なものである:

  • 血管疾患

  • 神経疾患

これらの疾患はしばしば動脈硬化または糖尿病に起因する。

最も頻度の高い血管性の原因は陰茎海綿体動脈の動脈硬化であり,これは喫煙,内皮機能障害,および糖尿病が原因である場合が多い。動脈硬化と加齢によって動脈血管の拡張能と平滑筋の弛緩能が低下することで,陰茎に流入できる血液の量が制限される(男性性機能の概要:勃起を参照)。内皮機能障害は,血流を増加させる必要がある場合に血管拡張能を低下させる,小細動脈の内膜の疾患である。内皮機能障害は一酸化窒素濃度の低下が関与しているようであり,喫煙,糖尿病,および/またはテストステロン低値に起因する可能性がある。静脈の閉鎖機能障害により静脈から血液が流出する結果,勃起の維持が不能になる。

持続勃起症は通常,トラゾドンの使用,コカイン乱用,または鎌状赤血球症と関連しているが,陰茎の線維化を引き起こし,陰茎海綿体の線維化と,それによる勃起に必要な陰茎血流の阻害によってEDに至る可能性がある。

神経性の原因には,脳卒中,複雑部分発作,多発性硬化症,末梢神経障害および自律神経性ニューロパチー,脊髄損傷などがある。糖尿病性神経障害と外科的損傷が特に頻度の高い原因である。

骨盤内手術(例,前立腺全摘除術[神経温存手術の場合も含む],根治的膀胱摘除術,直腸癌手術)の合併症もまた頻度の高い原因である。ときに経尿道的前立腺切除術が原因となることがある。その他の原因としては,内分泌疾患,薬剤,骨盤放射線照射,陰茎の器質的疾患(例,ペロニー病)などがある。長時間にわたる会陰部の圧迫(サイクリング中に生じるものなど)や骨盤または会陰部外傷がEDの原因となることがある。

内分泌障害または加齢に伴うテストステロン欠乏症(性腺機能低下症)は,性欲を減少させ,EDを引き起こす場合がある。しかしながら,血清テストステロン濃度の正常化によって勃起機能が改善することはまれで,これはED患者の大半に神経血管性の原因も存在するためである。

多くの薬剤が原因となりうる(勃起障害を引き起こす可能性のある一般的な薬剤の表を参照)。アルコールは一過性のEDを引き起こすことがある。

診断

  • 臨床的評価

  • うつ病のスクリーニング

  • テストステロン濃度

評価では,薬剤使用歴(処方薬およびハーブ製品を含む),飲酒歴,骨盤内手術および外傷,喫煙,糖尿病,高血圧,ならびに動脈硬化症の病歴と,血管疾患,内分泌疾患,神経疾患,および精神障害の症状を対象に含めるべきである。性的関係の満足度も検討すべきであり,具体的にはパートナーとの相互関係やパートナー側の性機能障害(例,萎縮性腟炎,性交痛,うつ病)などを評価する。

うつ病のスクリーニングが不可欠であり,うつ病は常に顕性とは限らない。ベック抑うつスケール(Beck Depression Scale)または高齢者ではYesavageの高齢者用抑うつスケール(Geriatric Depression Scale―高齢者用抑うつスケール,短縮版の表を参照)が容易に実施でき,有用となりうる。

診察では,性器に加えて,内分泌疾患,神経疾患,および血管疾患の性器外の徴候に焦点を置く。性器を診察して,奇形,性腺機能低下症の徴候,および線維帯または線維性硬結(ペロニー病)がないか確認する。直腸の緊張不良,会陰感覚の低下,球海綿体反射の異常は,神経機能障害を示唆している可能性がある。末梢での脈拍の減少は血管機能障害を示唆する。

健康な若年男性が勃起障害(ED)を突然発症した場合,特に発症が特定の感情的事象と関連するか,特定の条件でのみ機能障害が生じる場合は,心理的原因を疑うべきである。自然な改善を伴うEDの病歴も心理的な起源(心因性ED)を示唆する。心因性EDの男性は通常,夜間および起床時の勃起は正常であるのに対し,器質的EDの男性ではこれらの勃起も異常である場合が多い。

表&コラム

検査

臨床検査に午前のテストステロン濃度の測定を含めるべきであり,その値が低値または正常低値である場合は,プロラクチンおよび黄体形成ホルモン(LH)を測定すべきである。臨床的な疑いに基づき,不顕性糖尿病,脂質異常症,高プロラクチン血症,甲状腺疾患,およびクッシング症候群の評価を行うべきである。

現在では,陰茎の血管構造を評価するため,プロスタグランジンE1,パパベリン,およびフェントラミンの混合剤(配合剤として市販されている)などの血管作動薬を海綿体に注射してからduplex法による超音波検査を行う方法が最も頻用されている。正常値は収縮期最大血流速度 > 25cm/秒,抵抗指数 > 0.8などである。抵抗指数(resistive index)とは,収縮期最大血流速度と拡張末期血流速度の差を収縮期最大血流速度で割った値である。まれに,骨盤外傷後に陰茎血行再建術が考慮されている患者の一部では,骨盤動脈造影,海綿体造影,および海綿体内圧測定が施行されることがある。健康な男性では睡眠に同調した勃起現象が数回生じる。このような勃起現象は,夜間陰茎勃起現象記録装置により測定することで,勃起障害の器質的な病因と心因性の病因を鑑別するのに役立つ可能性がある。しかしながら,現在は主に法医学的な状況で利用されている。

治療

  • 基礎的な原因の治療

  • 薬剤,通常は経口ホスホジエステラーゼ阻害薬(勃起障害に対する経口ホスホジエステラーゼ5阻害薬の表を参照)

  • 陰圧式勃起補助具またはプロスタグランジンE1の海綿体もしくは尿道内注射(第2選択の治療法)

  • 他の治療法が無効に終わった場合は,陰茎プロステーシスの外科的移植

基礎にある器質的疾患(例,糖尿病プロラクチン産生下垂体腺腫性腺機能低下症ペロニー病)に対する適切な治療が必要である。勃起障害(ED)の発症と時間的関連性が認められる薬剤は中止または切り替えるべきである。うつ病の治療が必要になる場合もある。全例において,患者を(可能であれば常に患者のパートナーも)安心させ教育することが重要である。医師はこの機会を利用して行動変容(例,食習慣の変更および体重の減量)について話し合うべきである。

さらなる治療としては,まずホスホジエステラーゼ阻害薬の服用を試みる。続いて必要に応じて,陰圧式勃起補助具やプロスタグランジンE1の海綿体または尿道内投与(坐薬)など,別の非侵襲的治療法を試みる。侵襲的治療法は非侵襲的な方法が無効に終わった場合に用いる。いずれの薬剤および器具も,無効と判断する前に少なくとも5回は試すべきである。

勃起障害に対する薬剤

EDに対する第1選択の治療は通常,ホスホジエステラーゼ阻害薬の服用である。その他に用いられる薬物療法として,プロスタグランジンE1の海綿体または尿道内注射がある。しかしながら,ほぼ全ての患者が経口での薬物療法を希望するため,経口剤の禁忌があるか経口投与に耐えられない場合を除き,経口剤が使用される。

経口ホスホジエステラーゼ阻害薬は,陰茎内で多く存在するホスホジエステラーゼの異性体である,cGMP(サイクリックグアノシン一リン酸)特異的なホスホジエステラーゼ5型(PDE5)を選択的に阻害する。この種の薬剤としては,シルデナフィル,バルデナフィル,アバナフィル(avanafil),タダラフィルなどがある(勃起障害に対する経口ホスホジエステラーゼ5阻害薬の表を参照)。これらの薬剤は,cGMPの加水分解を妨げることにより,正常の勃起に不可欠であるcGMP依存的な平滑筋弛緩を促進する。バルデナフィルとタダラフィルは,シルデナフィルと比較して陰茎の血管構造に対する選択性が高いが,臨床的な反応と有害作用はこれらの薬剤間で同様である。比較臨床試験では,これらの薬剤は同等の効力を示している(60~75%)。

表&コラム

いずれのPDE5阻害薬も冠動脈の血管拡張を直接引き起こし,冠動脈疾患の治療に使用される硝酸薬やレクリエーショナルドラッグである硝酸アミル(「ポッパー」)の降圧作用を増強する。このため,硝酸薬とPDE5阻害薬の併用は危険となる可能性があり,避けるべきである。硝酸薬を時折使用するのみ(例,まれに起きる狭心症発作に対する使用)の患者では,PDE5阻害薬を使用した場合のリスク,選択,および適切な使用時期について心臓専門医と話し合うべきである。

PDE5阻害薬の有害作用としては,紅潮,視覚異常,難聴,消化不良,頭痛などがある。シルデナフィルとバルデナフィルは色覚異常(青視症)を引き起こす可能性がある。タダラフィルの使用に筋肉痛との関連が報告されている。まれに,非動脈炎性虚血性視神経症(NAION)とPDE5阻害薬の使用が関連づけられた症例が報告されているが,これらの因果関係は確立されていない。いずれのPDE5阻害薬についても,α遮断薬(例,プラゾシン,テラゾシン,ドキサゾシン,タムスロシン)を使用中の患者では血圧低下のリスクがあることから,慎重に投与し,低用量から開始すべきである。α遮断薬を服用した患者は,PDE5阻害薬を使用するまで少なくとも4時間は待つべきである。まれに,PDE5阻害薬は持続勃起症を引き起こす。

アルプロスタジル(プロスタグランジンE1)は,尿道内挿入または海綿体注射により自己投与され,平均で30~60分間持続する勃起を惹起することができる。アルプロスタジルの海綿体注射では,必要に応じて効力を高めるため,パパベリンおよびフェントラミンを配合してもよい。過量投与により,1%以下の患者で持続勃起症が,約10%で性器痛または骨盤痛が引き起こされる可能性がある。長時間勃起のリスクの最小化を含めて,至適かつ安全な使用を可能にするためには,医師による診察室での指導とモニタリングが有用である。満足できる勃起を得るという点で,尿道内療法の有効性(最大60%)は海綿体注射(最大90%)よりも低い。経口PDE5阻害薬による単剤療法に反応しない一部の患者では,PDE5阻害薬の服用とアルプロスタジルの尿道内投与の併用療法が有用となりうる。

勃起障害に対する補助器具

勃起を達成できるが維持できない男性では,勃起の維持を補助するために絞扼リングを使用することができる;これは勃起した陰茎の基部に弾性リングを装着するもので,早期の勃起消失を回避することができる。勃起を達成できない男性では,まず陰圧式勃起補助具により陰茎に血液を吸引してから,陰茎の基部に弾性リングを装着して勃起を維持する方法が可能である。この治療法の欠点として,陰茎の挫傷,陰茎先端部の冷感,自然さの欠如などがある。これらの器具は,必要であれば薬物療法と併用することも可能である。

勃起障害に対する手術

薬剤および陰圧式勃起補助具が無効に終わった場合は,陰茎プロステーシスの外科的移植を考慮することができる。プロステーシスには,半剛体のシリコン製ロッドや,食塩水が充填されたマルチコンポーネントの膨張型器具などがある。どちらのモデルにも,全身麻酔,感染,およびプロステーシスの侵食または誤作動のリスクがある。経験豊富な外科医が施行した場合,感染または誤作動の長期発生率は5%を大きく下回っており,患者およびパートナーの満足度は95%を超えている。プロステーシスの外科的移植の利点は明確であり,勃起が速やかかつ自発的に生じ,患者が装置を収縮させるまで勃起が持続し,カップルが望む頻度で性行為を行うことができる。そのため,他の全ての治療選択肢と比較しても,カップルの満足度は陰茎プロステーシスが最も高くなっている。低強度体外衝撃波療法(Li-ESWT)は,米国で承認されていないが,現在臨床で検討されている。

要点

  • 血管疾患,神経疾患,精神障害,および内分泌疾患のほか,ときに薬剤の使用によって,満足できる勃起の達成が障害されることがある。

  • ED患者では,全例で内分泌疾患,神経疾患,血管疾患,およびうつ病に関する評価を行う。

  • テストステロン濃度を測定するとともに,臨床所見に基づいて他の検査を考慮する。

  • 基礎疾患を治療し,必要に応じて経口PDE5阻害薬を使用する。

  • これらの治療が無効に終わった場合は,プロスタグランジンE1の海綿体もしくは尿道内注射または陰圧式勃起補助具の使用を考慮する;陰茎プロステーシスの外科的移植は最後の治療選択肢である。

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