頻尿とは日中,夜間(夜間頻尿),またはその両方で多数回の排尿が必要になる状態であるが,尿量は正常であるか,正常より減少する。頻尿には急激な感覚(尿意切迫)を伴う場合もある。頻尿は尿量が3L/日を超える状態である 多尿 多尿 多尿とは尿量が3L/日を超える場合であり, 頻尿(日中または夜間に頻回の排尿を必要とするが,尿量は正常であるか,正常より減少する)と鑑別する必要がある。どちらの問題にも夜間頻尿が含まれる可能性がある。 水分量の恒常性は,水分摂取(これ自体も複雑な調節の対象である),腎血流,溶質の糸球体濾過および尿細管再吸収,ならびに腎集合管での水再吸収の複雑なバランスによって制御されている。... さらに読む とは区別される。
頻尿の病態生理
頻尿は通常,下部泌尿生殖器の疾患によって引き起こされる。膀胱,尿道,またはその両方の炎症は尿意を引き起こす。しかしながら,この感覚は膀胱からの尿の排出によって緩和されないため,膀胱が空になった後も患者は引き続き排尿を試みるが,ごく少量の尿が排出されるのみである。
頻尿の病因
頻尿の評価
病歴
現病歴の聴取では,頻尿と 多尿 多尿 多尿とは尿量が3L/日を超える場合であり, 頻尿(日中または夜間に頻回の排尿を必要とするが,尿量は正常であるか,正常より減少する)と鑑別する必要がある。どちらの問題にも夜間頻尿が含まれる可能性がある。 水分量の恒常性は,水分摂取(これ自体も複雑な調節の対象である),腎血流,溶質の糸球体濾過および尿細管再吸収,ならびに腎集合管での水再吸収の複雑なバランスによって制御されている。... さらに読む を鑑別するために水分の摂取量と排泄量を最初に尋ねるべきである。頻尿が認められる場合は,発症がどの程度急性であったかと,刺激症状の有無(例,刺激感,尿意切迫, 排尿困難 排尿困難 排尿困難とは,排尿に疼痛または不快感を伴うことであり,典型的には鋭い灼熱感が生じる。一部の疾患では膀胱または会陰部に強い疼痛が生じる。排尿困難は女性では極めて頻度の高い症状であるが,男性にもみられ,年齢を問わず生じる。 排尿困難は膀胱三角部または尿道の刺激によって生じる。尿道の炎症または... さらに読む ),閉塞症状(例,排尿遅延,尿勢低下,残尿感,夜間頻尿),および最近の性的接触について患者に質問する。
システムレビュー(review of systems)では,原因を示唆する症状を対象に含めるべきであり,具体的には発熱,側腹部痛または鼠径部痛,血尿(感染症),無月経,乳房の腫脹,つわり(妊娠),関節炎および結膜炎(反応性関節炎 反応性関節炎 反応性関節炎は,しばしば感染(通常は泌尿生殖器または消化管感染)により誘発されるとみられる急性の 脊椎関節症である。一般的な臨床像としては,下肢を侵す傾向がある様々な重症度の非対称性の関節炎(手指,足趾,またはその両方のソーセージ状変形を伴う),全身症状,付着部炎,腱炎,角質増殖または痂皮化を伴う小胞性病変(膿漏性角化症[keratoderma blennorrhagicum])といった粘膜皮膚の潰瘍などがある。診断は臨床的に行う。治療... さらに読む )などが挙げられる。
既往歴の聴取では,前立腺疾患と骨盤に対する放射線療法または手術の既往など,既知の原因について尋ねるべきである。使用薬剤および食習慣を検討し,排尿量を増加させる物質(例,利尿薬,アルコール,カフェイン飲料)の使用がないか確認する。
身体診察
診察では泌尿生殖器系に焦点を置く。
尿道分泌物や 性感染症 性感染症の概要 性感染症(sexually transmitted diseas:STD)(sexually transmitted infection[STI]と呼ばれることもある)は,いくつかの微生物によって引き起こされ,それぞれの病原体は大きさ,生活環,引き起こす疾患および症状,ならびに治療法に対する感受性が大きく異なる。... さらに読む と一致する病変がないかに注意する。男性の直腸診では,前立腺の大きさおよび硬さと直腸の緊張に注意すべきであり,女性の内診では, 膀胱瘤 腟前壁脱および腟後壁脱 腟前壁脱および腟後壁脱では,臓器が腟管へ突出する。腟前壁脱は一般的に,膀胱瘤または尿道瘤(膀胱または尿道が突出する場合)と呼ばれる。腟後壁脱は一般的に,小腸瘤(小腸と腹膜が突出する場合)および直腸瘤(直腸が突出する場合)と呼ばれる。症状は骨盤内または腟の充満感や圧迫感などである。診断は臨床的に行う。治療法としては,経過観察による保存的管理,ペッサリー,骨盤底筋体操,およびときに手術などがある。... さらに読む の有無に注意すべきである。尿漏れの徴候について尿道を観察する際には,患者に咳をするよう指示すべきである。
肋骨脊柱角を触診して圧痛がないか確認すべきであり,また腹部診察では,何らかの腫瘤または恥骨上部の圧痛の有無に注意すべきである。
神経学的診察では,下肢の筋力低下と感覚消失について検査すべきである。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
下肢の筋力低下または脊髄損傷の徴候(例,分節レベルでの感覚消失,肛門括約筋の緊張消失,肛門括約筋反射の消失)
発熱および背部痛
所見の解釈
排尿困難 排尿困難 排尿困難とは,排尿に疼痛または不快感を伴うことであり,典型的には鋭い灼熱感が生じる。一部の疾患では膀胱または会陰部に強い疼痛が生じる。排尿困難は女性では極めて頻度の高い症状であるが,男性にもみられ,年齢を問わず生じる。 排尿困難は膀胱三角部または尿道の刺激によって生じる。尿道の炎症または... さらに読む は頻尿の原因が 尿路感染症 尿路感染症 (UTI) に関する序論 尿路感染症(UTI)は,腎臓( 腎盂腎炎)が侵される上部尿路感染症と,膀胱( 膀胱炎),尿道( 尿道炎),および前立腺( 前立腺炎)が侵される下部尿路感染症に分類される。しかしながら,実際には(特に小児では)感染部位の鑑別が困難または不可能な場合もある。さらに,感染はしばしば1つの領域から別の領域へと拡大する。尿道炎と前立腺炎も尿路が侵さ... さらに読む (UTI)または 結石 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む であることを示唆する。骨盤内手術の既往は 尿失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは,意図せずに尿が流出することであるが,患者がそれを問題視することを必須の条件とする専門家もいる。尿失禁は,大幅に過少認識および過少報告されている。多くの患者は医師にこの問題を報告せず,多くの医師は尿失禁を具体的には尋ねない。尿失禁は,どの年齢でも起こりうるが,高齢者と女性に多く,女性高齢者の約30%および男性高齢者の15%で発生している。 尿失禁は,困惑,非難,隔離,抑うつなどにつながり,生活の質を著しく低下させる。尿失禁は介... さらに読む を示唆する。尿勢低下,夜間頻尿,またはその両方の存在は 前立腺肥大症 前立腺肥大症 (BPH) 前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)は,前立腺尿道周囲部が良性腺腫として増大した状態である。症状は下部尿路閉塞の症状である(尿勢低下,排尿遅延,頻尿,尿意切迫,夜間頻尿,残尿,終末時滴下,溢流性または切迫性尿失禁,完全尿閉)。診断は主に直腸指診と症状に基づき,膀胱鏡検査,経直腸的超音波検査,尿流... さらに読む を示唆する。他の点では健康な若年患者における頻尿は,アルコールまたはカフェイン飲料の過剰摂取が原因のことがある。肉眼的血尿は,若年患者ではUTIと結石を示唆し,高齢患者では泌尿生殖器癌を示唆する。
検査
全ての患者に尿検査と培養が必要であるが,いずれも容易に行え,感染および 血尿 無症候性血尿 血尿とは尿中に赤血球が認められる状態のことであり,具体的には,尿沈渣で強拡大の1視野当たり赤血球が3個以上認められる場合とされる。尿は赤色,血性,またはコーラ色(膀胱内に貯留した血液が酸化した肉眼的血尿)を呈する場合もあれば,肉眼的には無色に見える場合(顕微鏡的血尿)もある。無症候性血尿(isolated hematuria)とは,尿中に赤血球が認められるが,それ以外の尿異常(例,... さらに読む を検出することができる。
膀胱炎,下部尿路閉塞,および 膀胱瘤 腟前壁脱および腟後壁脱 腟前壁脱および腟後壁脱では,臓器が腟管へ突出する。腟前壁脱は一般的に,膀胱瘤または尿道瘤(膀胱または尿道が突出する場合)と呼ばれる。腟後壁脱は一般的に,小腸瘤(小腸と腹膜が突出する場合)および直腸瘤(直腸が突出する場合)と呼ばれる。症状は骨盤内または腟の充満感や圧迫感などである。診断は臨床的に行う。治療法としては,経過観察による保存的管理,ペッサリー,骨盤底筋体操,およびときに手術などがある。... さらに読む を診断するために,膀胱鏡検査,膀胱内圧測定,および尿道造影を施行することができる。 前立腺肥大症 前立腺肥大症 (BPH) 前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)は,前立腺尿道周囲部が良性腺腫として増大した状態である。症状は下部尿路閉塞の症状である(尿勢低下,排尿遅延,頻尿,尿意切迫,夜間頻尿,残尿,終末時滴下,溢流性または切迫性尿失禁,完全尿閉)。診断は主に直腸指診と症状に基づき,膀胱鏡検査,経直腸的超音波検査,尿流... さらに読む を 前立腺癌 前立腺癌 前立腺癌は通常腺癌である。典型的には,腫瘍の増殖によって血尿や疼痛を伴う閉塞が引き起こされるまで,症状はみられない。診断は直腸指診または前立腺特異抗原測定によって示唆され,経直腸的超音波生検によって確定される。スクリーニングについては議論があり,意思決定の共有が行われるべきである。大部分の前立腺癌患者の予後は,特にがんが限局または局在する場合(通常は症状の発生前),非常に良好であり,前立腺癌で死亡する患者と比較してそれ以外の原因で死亡す... さらに読む と鑑別するため,特に高齢男性では, 前立腺特異抗原 前立腺特異抗原(PSA)値 前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)は,前立腺尿道周囲部が良性腺腫として増大した状態である。症状は下部尿路閉塞の症状である(尿勢低下,排尿遅延,頻尿,尿意切迫,夜間頻尿,残尿,終末時滴下,溢流性または切迫性尿失禁,完全尿閉)。診断は主に直腸指診と症状に基づき,膀胱鏡検査,経直腸的超音波検査,尿流... さらに読む 値の測定,超音波検査,および 前立腺生検 前立腺生検 尿路の生検は,訓練を受けた専門医(腎臓専門医,泌尿器科医,またはIVR専門医)が行う必要がある。 診断を目的とする生検の適応としては,原因不明の 腎炎または ネフローゼ症候群や 急性腎障害などがある。ときに,治療効果の判定を目的として生検が施行されることもある。相対的禁忌には,出血性素因やコントロール不良の 高血圧などがある。ベンゾジアゼピン系薬剤による軽度の術前鎮静が必要になる場合がある。合併症はまれであるが,輸血や放射線学的または外... さらに読む が必要になる場合がある。
頻尿の治療
治療は原因によって異なる。
老年医学的重要事項
高齢男性の頻尿は, 前立腺腫大 前立腺肥大症 (BPH) 前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)は,前立腺尿道周囲部が良性腺腫として増大した状態である。症状は下部尿路閉塞の症状である(尿勢低下,排尿遅延,頻尿,尿意切迫,夜間頻尿,残尿,終末時滴下,溢流性または切迫性尿失禁,完全尿閉)。診断は主に直腸指診と症状に基づき,膀胱鏡検査,経直腸的超音波検査,尿流... さらに読む または 前立腺癌 前立腺癌 前立腺癌は通常腺癌である。典型的には,腫瘍の増殖によって血尿や疼痛を伴う閉塞が引き起こされるまで,症状はみられない。診断は直腸指診または前立腺特異抗原測定によって示唆され,経直腸的超音波生検によって確定される。スクリーニングについては議論があり,意思決定の共有が行われるべきである。大部分の前立腺癌患者の予後は,特にがんが限局または局在する場合(通常は症状の発生前),非常に良好であり,前立腺癌で死亡する患者と比較してそれ以外の原因で死亡す... さらに読む に続発した膀胱頸部閉塞が原因である場合が多い。このような患者には通常,排尿後の残尿量測定が必要である。男女ともに, 尿路感染症 尿路感染症 (UTI) に関する序論 尿路感染症(UTI)は,腎臓( 腎盂腎炎)が侵される上部尿路感染症と,膀胱( 膀胱炎),尿道( 尿道炎),および前立腺( 前立腺炎)が侵される下部尿路感染症に分類される。しかしながら,実際には(特に小児では)感染部位の鑑別が困難または不可能な場合もある。さらに,感染はしばしば1つの領域から別の領域へと拡大する。尿道炎と前立腺炎も尿路が侵さ... さらに読む または利尿薬の使用が原因の場合がある。
頻尿の要点
小児と女性で最も頻度の高い原因はUTIである。
50歳以上の男性では,前立腺疾患が原因であることが多い。
カフェインの過剰摂取は健常者で頻尿の原因となることがある。