鎮痛薬腎症

執筆者:Frank O'Brien, MD, Washington University in St. Louis
レビュー/改訂 2020年 6月
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鎮痛薬腎症は,生涯を通じて特定の鎮痛薬を大量(例,2kg以上)に使用することによって生じる慢性尿細管間質性腎炎である。腎障害のほか,通常はネフローゼレベルに達しないタンパク尿と無菌の尿沈渣または無菌性膿尿がみられる。腎機能不全が発生すると,高血圧,貧血,および尿濃縮能障害が生じる。後期に乳頭壊死が生じる。診断は鎮痛薬の使用歴と単純CTの結果に基づく。治療は原因となっている鎮痛薬の中止である。

尿細管間質性疾患の概要も参照のこと。)

慢性間質性腎炎の一種である鎮痛薬腎症は,当初はフェナセチンを含めた鎮痛薬の過剰な併用(典型的にはアスピリン,アセトアミノフェン,コデイン,またはカフェインとの併用)と関連付けて報告された。しかしながら,フェナセチンの販売が中止されたにもかかわらず,鎮痛薬腎症は依然として発生している。原因薬剤を同定する研究では結論が出ていないが,アセトアミノフェン,アスピリン,その他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)がこれまで関係づけられている。機序は不明である。シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬が鎮痛薬腎症を引き起こすかどうかは不明であるが,この種の薬剤はおそらく,微小変化群または膜性腎症に起因する急性尿細管間質性腎炎やネフローゼ症候群を引き起こす。

鎮痛薬腎症は女性に多く発生し(発生率のピークは50~55歳),米国では末期腎臓病症例の3~5%を占めている(オーストラリアおよび南アフリカでは13~20%)。

症状と徴候

腎障害のほか,通常はネフローゼレベルに達しないタンパク尿と無菌の尿沈渣または無菌性膿尿がみられる。腎機能不全が発生すると,高血圧,貧血,および尿濃縮能障害がよくみられるようになる。

側腹部痛および血尿ならびに腎乳頭の排泄(上部尿路閉塞を惹起)は,本疾患の後期に発生する乳頭壊死の徴候である。

筋骨格痛,頭痛,倦怠感,消化不良の慢性愁訴は,鎮痛薬腎症ではなく,鎮痛薬の長期使用が関連している可能性がある。

診断

  • 鎮痛薬の長期使用歴

  • CT

鎮痛薬腎症の診断は,鎮痛薬の長期使用歴と単純CTに基づく。鎮痛薬腎症のCT所見としては以下のものがある:

  • 腎臓の縮小

  • いびつな輪郭,腎の正常な凸面の輪郭に3カ所以上のへこみとして定義

  • 乳頭の石灰化

これらの所見を組み合わせた場合の早期診断の感度および特異度は,それぞれ85%と93%であるが,これらの特異度および感度の値は,フェナセチンを含有する鎮痛剤が広く使用されていた時代の研究に基づくものである。

治療

  • 鎮痛薬の使用中止

腎機能は,腎障害が進行している場合を除き,鎮痛薬の中止により安定化するが,腎障害が進行する場合には慢性腎臓病に至る可能性がある。鎮痛薬腎症の患者は,尿路移行上皮癌のリスクが高い。

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