(尿細管間質性疾患の概要 尿細管間質性疾患の概要 尿細管間質性疾患は,尿細管および間質の損傷を共通の特徴とする臨床的に不均一な疾患群である。罹病期間の長い重症例では,腎全体が侵され,糸球体機能障害を来したり,腎不全に至る場合さえある。尿細管間質性疾患の主なカテゴリーは以下の通りである: 急性尿細管壊死 急性または慢性 尿細管間質性腎炎... さらに読む および腎・泌尿生殖器系の先天異常の章の 膀胱尿管逆流症 膀胱尿管逆流症(VUR) 膀胱尿管逆流症とは,尿が膀胱から尿管へ,ときに重症度によっては集合管まで逆流する病態である。逆流は尿路感染症の素因となり,しばしば再発を繰り返す。評価としては,排尿前後の腎臓,尿管,および膀胱の超音波検査とその後にX線透視下で排尿時膀胱尿道造影(VCUG)を施行する方法などがある。治療法は原因および重症度に依存する。 膀胱尿管逆流症(VUR)の原因として最も頻度が高いのは,尿管膀胱移行部の先天的な発育異常である。膀胱壁内尿管のトンネル構... さらに読む も参照のこと。)
逆流性腎症には,糸球体が介在する障害だけでなく,慢性尿細管間質性腎炎の一種も含まれる。従来,腎瘢痕の機序は 慢性腎盂腎炎 慢性腎盂腎炎 慢性腎盂腎炎は,腎臓の持続的な化膿性感染症であり,ほぼ常に重大な解剖学的異常がある患者に発生する。症状はみられない場合もあれば,発熱,倦怠感,側腹部痛などがみられる場合もある。診断は尿検査,培養,および画像検査による。治療は抗菌薬投与と構造的異常の是正による。 ( 尿路感染症[UTI]に関する序論も参照のこと。) 通常の機序は感染尿の腎盂への逆流である。原因としては, 閉塞性尿路疾患やストルバイト... さらに読む にあると考えられてきた。しかしながら,おそらく逆流が単一の最も重大な因子であり,逆流または腎盂腎炎とは無関係の因子(例,先天性因子)が寄与する可能性がある。
膀胱尿管逆流症(VUR)は新生児の約1%と発熱を伴う 尿路感染症 小児における尿路感染症(UTI) 尿路感染症(UTI)は,カテーテル採尿による尿検体中で5 × 104コロニー/mL以上,または年長児では複数回の尿検体で105コロニー/mL以上の病原体を認める場合と定義される。幼児においては,しばしば解剖学的異常に関連するUTIが発生する。UTIは発熱,発育不良,側腹部痛,および敗血症徴候を引き起こすことがあり,これらは特に幼児でよくみられる。治療は抗菌薬による。フォローアップとして尿路画像... さらに読む (UTI)を呈する幼児の30~45%で発生し,腎瘢痕を有する小児ではよくみられ,理由は不明であるが,白人の小児より黒人の小児で少ない。家族的素因がよくみられる。高度逆流(腎盂までの逆流に尿管拡張を伴う)を有する小児は,腎瘢痕およびその後の 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む のリスクが最も高い。
逆流が生じるには,尿管膀胱弁の機能不全または下部尿路の機械的閉塞が必要である。罹患感受性は尿管の膀胱内部分が短い幼児で最も高く,正常な発育により腎内逆流および膀胱尿管逆流は通常5歳までに自然寛解する。5歳以上の小児での新規の瘢痕化はまれであるが,急性腎盂腎炎後に起こる場合がある。
症状と徴候
幼児においてはUTIがときにみられる以外は症状と徴候がほとんど存在しないため,診断は青年期を迎えた患者が以下の何らかの組合せを呈するまで,しばしば見逃される。
多尿
夜間頻尿
高血圧
腎機能不全の症状と徴候
診断
超音波検査による最初のスクリーニング
排尿時膀胱尿道造影または膀胱シンチグラフィー
逆流性腎症は,出生前から疑われる場合と出生後に疑われる場合がある。最初のスクリーニングは超音波検査により行うが,これは非常に感度が高い。
逆流性腎症(出生前または出生後)の診断および病期分類は,最終的には,尿管拡張の程度を確認できる 排尿時膀胱尿道造影 膀胱尿道造影 腎疾患および泌尿器疾患患者の評価には,しばしば画像検査が用いられる。 放射線不透過性造影剤を使用しない腹部X線撮影は,尿管ステントの位置確認や腎結石の位置および成長のモニタリングを目的として施行されることがある。しかしながら, 尿路結石症の初期診断においては,単純X線はCTより感度が低く,詳細な解剖学的情報も得られないことから,第1選択の検査ではない。 水溶性造影剤の投与後に撮像したX線写真では,腎臓および集尿系が鮮明に描出される。現在... さらに読む (VCUG)により行う。膀胱シンチグラフィーも可能であり,VCUGと比較して詳細な解剖学的情報は得られないものの,放射線曝露が少ない。腎瘢痕はテクネチウム99m標識ジメルカプトコハク酸(DMSA)による腎シンチグラフィーで診断する。
出生前診断
診断は,家族歴または無関係の理由で施行された超音波検査で水腎症が示された場合に疑われ,そのような患者の10~40%が出生後に膀胱尿管逆流症(VUR)と診断される。
出生後診断
出生後では,膀胱尿管逆流は以下に該当する患者で疑われる:
3歳以下でのUTI
5歳以下での発熱を伴うUTI
小児期の再発性UTI
男性のUTI
濃厚な家族歴,例えばVURの同胞(異論あり)
再発性UTIを呈する成人(または5歳以上の小児)で,腎超音波検査で瘢痕または尿路の解剖学的異常が認められる
臨床検査値異常には,タンパク尿,ナトリウム喪失,高カリウム血症,代謝性アシドーシス,腎機能不全,またはこれらの組合せなどがある。
このような患者の検査は,膀胱シンチグラフィーまたは排尿時膀胱尿道造影による。これらの検査にはカテーテル留置(およびUTIのリスク)と放射線曝露を伴うため,その施行基準については見解が分かれる可能性がある。一部の専門家は,濃厚な家族歴があるか,出生後の腎超音波検査が顕著または持続的に異常の場合のみVCUGまたは膀胱シンチグラフィーを推奨するが,腎超音波検査がVURを検出する上で十分な感度を有しているかは明らかではない。DMSA腎シンチグラフィーは,上記のようにUTIを有する乳児または小児に対して施行できる。
より年長で逆流が活動性でなくなった小児では,DMSA腎シンチグラフィーで瘢痕化が認められても,VCUGで逆流を認めないことがあるが,膀胱鏡検査では,尿管開口部に過去の逆流を示唆する所見を確認することができる。このため,以前の逆流が疑われるが確定できない場合には,DMSA腎シンチグラフィーと膀胱鏡検査を施行してもよい。
後期のこの段階での腎生検では,慢性尿細管間質性腎炎および巣状糸球体硬化症が認められるが,これらは軽度(1~1.5g/日)からネフローゼレベル(3.5g/日)のタンパク尿を引き起こす可能性がある。
治療
通常は予防的抗菌薬投与
膀胱尿管逆流症(VUR)が中等度または重度の場合は外科的治療
逆流性腎症の治療は,逆流およびUTIの軽減により腎瘢痕が予防されるとする未証明の仮定に基づく。非常に軽度のVURを呈する小児は,治療は必要ないものの,UTIの症状について綿密な経過観察を行うべきである。
中等度の逆流を呈する小児には通常は抗菌薬を投与する。しかしながら,薬物療法は急性腎盂腎炎の新規エピソードの素因であり,綿密な経過観察と比較して予防的抗菌薬投与がより効果的であるかどうかは明らかでない。
重度の逆流がある患者では腎機能不全のリスクがより高く,通常は抗菌薬の予防投与または外科的介入が施行されるが,具体的な手技には膀胱尿管新吻合術や尿管後部への内視鏡下注入による逆流防止術(排尿時の膀胱収縮により膀胱と注入物質の間で尿管が圧迫されるようにする)などがある。新規の腎瘢痕の発生率は手術治療の患者と薬物治療の患者で同程度である。
逆流は幼児患者の約80%で5年以内に自然寛解する。
要点
UTIまたは家族歴を有する5歳未満の小児では,特に男児である場合と発熱または再発性UTIがみられる場合,逆流性腎症を考慮する。
逆流性腎症が疑われる場合は超音波検査を行い,異常がみられた場合は,排尿時膀胱尿道造影または(放射線曝露を最小限に抑えるために)膀胱シンチグラフィーを考慮する。
抗菌薬の予防投与,および逆流が重度の場合は外科的治療を考慮する。
診断のために画像検査をいつ,どのように行うかや,予防的抗菌薬をいつ処方するかなど,具体的な推奨についてコンセンサスはない。
逆流は幼児患者の約80%で5年以内に自然寛解する。