肝肉芽腫

執筆者:Danielle Tholey, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 4月
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肝肉芽腫には数多くの原因があり,通常は無症状である。しかしながら,その基礎疾患によって肝外症状,肝臓の炎症,線維化,門脈圧亢進症が単独または複合的に引き起こされることがある。診断は肝生検に基づくが,生検が必要となるのは治療可能な基礎疾患(例,感染症)が疑われるか,他の肝疾患を除外する必要がある場合に限られる。治療法は基礎疾患によって異なる。

肝肉芽腫は,臨床的意義がない場合もあるが,臨床的に重要な疾患を反映している場合の方が多い。この病態を指してしばしば肉芽腫性肝炎という用語が用いられるが,この疾患は真の肝炎ではなく,肉芽腫の存在は肝細胞性の炎症を意味するわけではない。

肝肉芽腫の病因

肝肉芽腫には多くの原因があり(肝肉芽腫の原因の表を参照),原発性の肝疾患よりも薬剤や全身性疾患(しばしば感染症)に起因する場合の方が多い。特異的な治療を要するため,感染症は同定する必要がある。結核と住血吸虫症が世界的に最も頻度の高い感染性の原因であり,真菌およびウイルスが原因となることは少ない。サルコイドーシスは感染症以外で最も一般的な原因であり,約2/3の患者で肝臓が侵され,ときにサルコイドーシスの臨床像の大半が肝臓に関連するものである場合もある。

表&コラム

原発性肝疾患で肉芽腫がみられることははるかに少なく,原発性胆汁性胆管炎(PBC,かつての原発性胆汁性肝硬変)が唯一の重要な原因である。その他の肝疾患では,ときに小さな肉芽腫が生じるが,臨床的な意義はない。

特発性肉芽腫性肝炎は,肝肉芽腫が発生するまれな症候群であり,繰り返す発熱,筋肉痛,疲労,その他の全身症状がみられ,しばしば何年にもわたり間欠的に発生する。サルコイドーシスの変異型と考える専門家もいる。

肝肉芽腫の病態生理

肉芽腫は慢性炎症細胞が類上皮細胞および多核巨細胞とともに局所的に集積したものである。乾酪壊死または異物組織(例,住血吸虫卵)がみられることがある。大半の肉芽腫は実質に発生するが,原発性胆汁性胆管炎では門脈域に肉芽腫が発生することもある。

肉芽腫の形成については十分に解明されていない。難溶性の外因性または内因性の刺激物に対する反応として肉芽腫が発生すると考えられる。免疫学的機序が関与している。

肝肉芽腫が肝細胞の機能に影響を及ぼすことはまれである。しかしながら,肉芽腫が肝臓を巻き込んだより広範な炎症反応(例,薬物反応伝染性単核球症)の一部である場合には,肝細胞機能障害がみられる。ときに,炎症により進行性の肝線維化および門脈圧亢進症が発生し,典型的には住血吸虫症,ときに広範な肉芽腫様浸潤(sarcoidal infiltration)を伴うことがある。

肝肉芽腫の症状と徴候

肉芽腫自体は一般的に無症候性であり,広範な浸潤が生じても通常は軽微な肝腫大を起こすにとどまり,黄疸はほとんどまたは全くみられない。症状がみられる場合,それらは基礎疾患(例,感染症における全身症状,住血吸虫症における肝脾腫)を反映している。

肝肉芽腫の診断

  • 肝機能検査

  • 画像検査

  • 生検

以下がみられる患者では,肝肉芽腫を疑う:

  • 肉芽腫をよく引き起こす病態

  • 画像検査で発見された原因不明の肝腫瘤

  • 症状を伴わない肝酵素値(特にアルカリホスファターゼ値)の上昇について評価するための画像検査で検出された異常

肉芽腫が疑われる場合は,肝機能検査を施行するのが通常であるが,その結果は非特異的で,診断に役立つことはまれである。アルカリホスファターゼ値(およびγ‐グルタミルトランスフェラーゼ値)がしばしば軽度の上昇を示すが,ときに著明に上昇することもある。その他の検査は正常のこともあれば,別の肝障害(例,薬物反応による肝臓の広範な炎症)を反映した異常を認めることもある。通常,超音波検査,CT,MRIなどの画像検査では診断に至らないが,石灰化(肉芽腫が長期間存在する場合)または陰影欠損像を(特に融合性の病変を伴って)認めることがある。サルコイドーシスでは,肉芽腫は横断像で低吸収像を呈するため,肝転移と誤診される可能性がある。

診断は肝生検に基づく。ただし,生検は通常,治療可能な原因(例,感染症)の診断か非肉芽腫性疾患(例,慢性ウイルス性肝炎)の除外のみが適応となる。ときに生検によって特異的原因の証拠(例,住血吸虫卵,結核の乾酪壊死,真菌)を検出できる。しかしながら,他の検査(例,培養,皮膚テスト,臨床検査,画像検査,その他の組織標本)が必要となることが多い。

感染を示唆する全身症状やその他の症状(例,不明熱)がみられる患者では,感染に対する生検の診断感度を高めるために特異的な方法を用いる;例えば,新鮮生検標本の一部を培養に提出するか,抗酸菌,真菌,その他微生物の特殊染色を行う。原因はしばしば確定できない。

肝肉芽腫の予後

薬剤または感染により生じる肝肉芽腫は,治療後には完全に退縮する。サルコイド肉芽腫は自然に消失することもあれば,何年も消失しないこともあるが,臨床的に重要な肝疾患を引き起こすことは通常ない。進行性の線維化と門脈圧亢進症(sarcoidal cirrhosis)がまれに発生する。

住血吸虫症では,門脈に進行性の瘢痕形成(パイプ軸線維症[pipestem fibrosis])を認めるのが典型的であり,肝機能は通常保たれるが,著明な脾腫および静脈瘤出血を起こすことがある。

肝肉芽腫の治療

  • 原因の治療

治療は基礎疾患に対して行う。原因が不明の場合は,通常は治療を差し控え,定期的な肝機能検査によるフォローアップを開始する。ただし,結核症状(例,遷延性の発熱)と健康状態の悪化がみられた場合は,経験的な抗結核療法が妥当となることがある。

コルチコステロイドは,肝臓の生化学的異常とサルコイドーシスの全身症状(体重減少および肝外病変など)を消失させることがあるが,肝線維化は予防しない。そのため典型的には,コルチコステロイドの使用は,全身症状がみられるサルコイドーシス患者で,結核やその他の感染症を確実に除外できる場合に限り推奨される。

肝肉芽腫の要点

  • 肝肉芽腫は多くの薬剤や全身性疾患によって引き起こされ,原発性肝疾患が原因となることは比較的少ない。

  • 結核と住血吸虫症は世界的に最も頻度の高い感染性の原因であり,サルコイドーシスは感染症以外で最も頻度の高い原因である。

  • 症状および合併症は,肉芽腫自体よりも,主として基礎疾患によるものである。

  • 治療は原因に対して行う。

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