消化性潰瘍

執筆者:Nimish Vakil, MD, University of Wisconsin School of Medicine and Public Health
レビュー/改訂 2020年 1月
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消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍がHelicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内視鏡検査とHelicobacter pylori検査による。治療は胃酸分泌の抑制,H. pylori除菌(存在する場合),およびNSAID使用の回避による。

胃酸分泌の概要および胃炎の概要も参照のこと。)

潰瘍の大きさは,数mmから数cmにわたる。潰瘍は穿通の深さでびらんと区別され,びらんは表在性で粘膜筋板には達していない。潰瘍は,乳児期および小児期を含むいずれの年齢層にも発生しうるが,中年成人で最も多くみられる。

消化性潰瘍の病因

H. pyloriおよび非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は,粘膜の正常な防御および修復機構を妨げることにより,胃酸に対する粘膜の感受性を高める。H. pylori感染症は,十二指腸潰瘍患者の50~70%,胃潰瘍患者の30~50%で認められる。消化性潰瘍の再発率は,胃酸分泌抑制薬単独で治療した患者では70%であるのに対して,H. pylori除菌患者では10%に過ぎない。NSAIDは今や消化性潰瘍の原因として50%を上回っている。

喫煙は潰瘍およびその合併症発生の危険因子である。また,喫煙は潰瘍の治癒を妨げ,再発率を上昇させる。リスクは1日当たりの喫煙本数と相関する。飲酒は胃酸分泌の強力な促進因子であるが,中等量の飲酒と潰瘍の発生や潰瘍治癒の遅延を関連づける決定的なデータは存在しない。ガストリンの過剰分泌(ゾリンジャー-エリソン症候群)を来すガストリノーマ患者はごく少数である。

十二指腸潰瘍を呈する小児の50~60%で家族歴が認められる。

消化性潰瘍の症状と徴候

消化性潰瘍の症状は,潰瘍の部位および患者の年齢によって異なり,患者の多く,特に高齢患者は,ほとんど症状がないか無症状である。疼痛は最もよくみられる症状で,しばしば心窩部に限局し,食物または制酸薬の摂取で軽減する。疼痛は,灼熱痛,さしこみ痛,ときに空腹感として報告される。経過は通常,慢性および再発性である。特徴的な症状パターンを示す患者は約半数に過ぎない。

胃潰瘍の症状は,しばしば一貫したパターンをとらない(例,摂食はときに疼痛を軽減する代わりに増悪させる)。これは幽門部潰瘍について特にあてはまり,浮腫および瘢痕に起因する閉塞の症状(例,腹部膨満,悪心,嘔吐)がしばしば関連する。

十二指腸潰瘍では,より一定した疼痛が起こる傾向がある。疼痛は患者が目覚めたときにはないが,午前中に出現し,食事により軽減するものの,食後2~3時間で再発する。中途覚醒に至る夜間の疼痛がよくみられ,これは十二指腸潰瘍を強く示唆する。新生児では,穿孔および出血が十二指腸潰瘍の最初の臨床像となることがある。乳児期後期および幼児期においても,最初に認識される徴候は出血の場合があるが,繰り返される嘔吐または腹痛の所見により示唆されることもある。

消化性潰瘍の診断

  • 内視鏡検査

  • ときに血清ガストリン値

消化性潰瘍の診断は,患者の病歴から示唆され,内視鏡検査で確定される。しばしば確定診断なしで経験的治療が開始される。しかしながら,内視鏡検査を施行すれば,胃および食道病変の生検またはブラシ擦過細胞診が可能であり,単純性潰瘍と潰瘍形成性の胃癌を鑑別することができる。胃癌は類似した臨床像を呈することがあるため,除外する必要があり,45歳以上の患者,体重減少がみられる患者,重度または難治性の症状を報告する患者では,特に必要性が高い。十二指腸での悪性潰瘍の発生率は極めて低いため,十二指腸病変の生検は一般に必要ない。内視鏡検査ではH. pylori感染症の確定診断も可能であるが,潰瘍が検出された場合はH. pyloriを検索すべきである(Helicobacter pylori感染症の診断を参照)。

多発性潰瘍を認める場合,潰瘍が非典型的な部位(例,球後部)に発生したか治療抵抗性である場合,および著明な下痢または体重減少がみられる場合は,ガストリン産生悪性腫瘍とガストリノーマを考慮すべきである。このような患者では,血清ガストリン値を測定すべきである。

消化性潰瘍の合併症

出血

消化性潰瘍で最も頻度の高い合併症は,軽度から重度の消化管出血である。症状としては,吐血(鮮血またはコーヒー残渣様の嘔吐),血便またはタール便(黒色便),失血による筋力低下,起立性低血圧,失神,口渇,発汗などがある。

穿通(被覆穿孔)

消化性潰瘍は胃壁を穿通することがある。その際,癒着によって腹腔内への漏出が阻止されると,遊離穿孔は回避され,被覆穿孔が生じる。それでもなお,潰瘍が十二指腸内へ穿通して,隣接する閉鎖域(小網)や他の臓器(例,膵臓,肝臓)に達することがある。疼痛は激しく持続性で,腹部以外の部位(十二指腸潰瘍が後壁を貫通して膵臓に達した場合は通常背部)に放散し,体位によって変化することがある。確定診断には通常はCTまたはMRIが必要である。内科的治療で治癒しない場合は,外科手術が必要になる。

遊離穿孔

癒着に抑制されることなく腹腔内に穿孔する潰瘍は,通常,十二指腸前壁または(頻度は低いが)胃に生じる。患者は急性腹症で受診する。激しい持続性の心窩部痛が突然発生し,急速に腹部全体に広がり,しばしば右下腹部で著明となり,ときに片側または両側の肩に放散する。深呼吸でさえ疼痛を悪化させるため,患者は通常,横になって動かない。腹部の触診では痛みを伴い,反跳痛が著明で,腹筋が硬く(板状硬),腸音は減弱または消失している。続いてショックが起こることがあり,先触れとして脈拍数増加,血圧低下,尿量減少が発生する。高齢患者,重篤な状態の患者,およびコルチコステロイドまたは免疫抑制薬を服用している患者では,症状があまり著明とならないことがある。

診断は,X線またはCTで横隔膜下または腹腔内に遊離ガスが認められた場合に確定される。胸部および腹部の立位像が望ましい。最も感度が高いのは胸部X線側面像である。重症患者は背筋を伸ばして座れないことがあり,その場合は側臥位で腹部X線撮影を行うべきである。遊離ガスが検出されないことでは,本疾患を除外することはできない。

直ちに外科手術を行う必要がある。遅延が長引くほど予後不良となる。腸内菌叢に効果的な抗菌薬(例,セフォテタン,またはアミカシン + クリンダマイシン)を静脈内投与すべきである。通常は,持続的な経鼻胃管吸引のために経鼻胃管を挿入する。外科手術が施行できないまれな例では,予後は不良である。

幽門閉塞

閉塞は,瘢痕,痙攣,潰瘍による炎症に起因することがある。症状として反復性の大量嘔吐があり,1日の終わりに起きることが多く,遅い場合には最後の食事から6時間後に起こることも多い。遷延する食後の腹部膨満または満腹感を伴う食欲不振も幽門閉塞を示唆する。長期の嘔吐は,体重減少,脱水,アルカローシスを引き起こすことがある。

患者の病歴が閉塞を示唆する場合,身体診察,胃吸引,またはX線検査によって胃内容物停留の所見が得られることがある。食後6時間を超えて振水音が聞こえる場合または一晩絶食後に200mL以上の水分または食物残渣が吸引される場合は,胃貯留が示唆される。胃吸引で著明な貯留が認められた場合は,胃を空にして内視鏡検査またはX線検査を施行し,閉塞の部位,原因,程度を同定すべきである。

活動性幽門部潰瘍に起因する浮腫または痙攣の治療は,経鼻胃管吸引を用いた胃減圧および胃酸分泌抑制(例,H2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬の静注)による。長引く嘔吐または経鼻胃管による持続吸引に起因する脱水および電解質平衡異常がないか,積極的に検討して補正すべきである。消化管運動機能改善薬の適応はない。一般に,閉塞は治療から2~5日以内に消失する。長期の閉塞は消化性潰瘍瘢痕に起因する可能性があり,内視鏡的幽門バルーン拡張術が奏効することがある。選択された症例では,閉塞の軽減に外科手術を要する。

再発

潰瘍の再発に影響を及ぼす因子として,H. pylori除菌の失敗,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用継続,喫煙などがある。頻度は低いが,ガストリノーマが原因の場合もある。胃潰瘍および十二指腸潰瘍の3年再発率は,H. pylori除菌が成功した場合は10%未満であるが,失敗した場合は50%を超える。したがって,再発患者についてはH. pyloriの検査を行い,陽性であれば再除菌を行うべきである。

H2受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬,またはミソプロストールを用いた長期治療により再発のリスクは低下するが,この目的でこれらの薬剤をルーチンに使用することは推奨されていない。一方,吻合部潰瘍患者または穿孔もしくは出血の既往を有する患者と同様,消化性潰瘍発症後にNSAIDを必要とする患者も長期治療の候補である。

胃癌

H. pylori関連潰瘍患者は,後年に胃癌発生するリスクが3~6倍高い。他の病因による潰瘍ではがんリスク増加は認められない。

消化性潰瘍の治療

  • H. pyloriの除菌(存在する場合)

  • 胃酸分泌抑制薬

胃および十二指腸潰瘍の治療としては,感染がある場合はH. pyloriの除菌を行うとともに(American College of GastroenterologyのHelicobacter pylori感染症の治療に関するガイドラインも参照),胃液酸度を低下させる必要がある。十二指腸潰瘍では,夜間の胃酸分泌を抑制することが特に重要である。

酸度を低下させる方法として,いくつかの薬剤が挙げられ,それらはいずれも効果的であるが,費用,治療期間,投与の利便性の点で異なる。さらに,粘膜保護薬(例,スクラルファート)および胃酸分泌を減少させる外科的手技を用いてもよい。薬物療法については,本マニュアルの別の箇所で考察されている( see page 胃酸過多に対する薬物治療)。

補助的治療

禁煙させるべきであり,飲酒は禁酒とするか,アルコール濃度の低い飲料の少量の摂取に制限すべきである。食事の変更による潰瘍の治癒促進や再発予防を示すエビデンスはない。したがって,苦痛を引き起こす食物だけを除去するよう推奨することが多い。

手術

現在の薬物療法により,手術を必要とする患者の数は激減している。適応としては,穿孔,閉塞,コントロール不良または再発性出血,および,まれではあるが,薬物療法に反応しない症状がある。

手術は胃酸分泌を減少させることを目的とした手技で構成され,しばしば胃からの排出を確実にするための手技を併施する。十二指腸潰瘍に対して推奨される手術は,高度選択的迷走神経切断術または壁細胞迷走神経切断術である(胃体部の神経のみを切断し,前庭部の神経支配を温存するため,胃排出手技は不要である)。この手技は死亡率が非常に低く,切除術および従来の迷走神経切断術に関連する合併症を回避できる。胃酸分泌を減少させる他の外科的手技として,幽門洞切除術,胃半切除術,胃部分切除術,胃亜全摘術(すなわち,幽門側胃の30~90%切除)がある。これらは通常,全迷走神経切断術と併用して行われる。切除術の施行患者または閉塞患者は,胃十二指腸吻合術(ビルロートI法)または胃空腸吻合術(ビルロートII法)による胃排出を要する。

術後症状の発生率および種類は,手術の種類によって異なる。胃切除後には,最大30%の患者で有意な症状が認められ,具体的には体重減少,消化不良,貧血,ダンピング症候群,反応性低血糖,胆汁性嘔吐,機械的障害,潰瘍再発などがある。

体重減少は胃亜全摘術後に多くみられ,患者は早期満腹感のため(残胃が小さいため)またはダンピング症候群および他の食後症候群を予防するために食物摂取を制限することがある。残胃が小さいため,中等量の食事でも食後に膨満または不快感が生じることがあるので,患者にはより少量の食事をより頻回に取るよう勧めるべきである。

膵胆管バイパス,特にビルロートII法吻合術を施行した場合に起因する消化不良および脂肪便が,体重減少に寄与することがある。

貧血がよくみられ(通常は鉄欠乏症が原因であるが,ときに内因子の喪失または輸入脚での細菌の異常増殖に起因するビタミンB12欠乏症が原因の場合もある),骨軟化症が生じることもある。ビタミンB12筋肉内投与は胃全摘術施行患者の全例に推奨されるが,欠乏が疑われる場合は胃亜全摘術施行患者にも投与することができる。

ダンピング症候群は,胃の手術(特に切除)後に起こりうる。食直後,特に高浸透圧性食物の摂取後に,脱力,めまい,発汗,悪心,嘔吐,動悸が起こる。この現象は早期ダンピングと呼ばれ,その原因は不明であるが,自律神経反射,血管内容量の縮小,小腸からの血管作動性ペプチド放出が関与する可能性が高い。少量の食事を頻回に取り,炭水化物の摂取を減らす食習慣の改善が通常は助けとなる。

反応性低血糖または後期ダンピング(同症候群の別の形態)は,残胃からの急速な炭水化物排出によって起こる。早期の高い血糖値ピークによりインスリン過剰分泌が起こり,食事から数時間後に症候性低血糖を来す。高タンパク質・低炭水化物食および十分なカロリー摂取(少量を頻回に摂取)が推奨される。

機械的障害(胃不全麻痺や胃石形成など)は,胃収縮運動のphase III収縮の低下に続発することがあり,このphase III収縮は幽門洞切除術および迷走神経切断術後に変化する。 下痢は,迷走神経切断術後に特に多くみられ,切除術を併施しない場合(幽門形成術)でも起こる。

比較的古い研究によると,潰瘍の再発がみられる患者の割合は,高度選択的迷走神経切断術後で5~12%,切除術後で2~5%である。再発した潰瘍は内視鏡検査で診断され,一般にプロトンポンプ阻害薬またはH2受容体拮抗薬に反応する。再発を繰り返す潰瘍については,迷走神経切断の完全性を胃液検査で調べ,H. pyloriが存在する場合は除菌すべきであり,また血清ガストリン測定によりガストリノーマを除外すべきである。

消化性潰瘍の要点

  • 消化性潰瘍は胃または十二指腸を侵し,乳児期および小児期を含むいずれの年齢層にも発生しうる。

  • ほとんどの潰瘍はH. pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用が原因で生じるが,どちらの因子も粘膜の正常な防御および修復機構を妨げ,胃酸に対する粘膜の感受性を高める。

  • 灼熱痛が一般的にみられ,食物は胃潰瘍の症状を悪化させることがあるが,十二指腸潰瘍では症状を軽減することがある。

  • 急性合併症としては消化管出血や消化管穿孔などがあり,慢性の合併症としては幽門閉塞や再発のほか,原因がH. pylori感染の場合には胃癌などがある。

  • 内視鏡検査により診断し,H. pylori感染症の検査を行う。

  • 胃酸分泌抑制薬を投与し,H. pyloriの除菌治療を施行する。

消化性潰瘍についてのより詳細な情報 

  1. American College of GastroenterologyのHelicobacter pylori感染症の治療に関するガイドライン

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