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肛門直腸膿瘍

執筆者:

Parswa Ansari

, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York

レビュー/改訂 2021年 2月
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肛門直腸膿瘍は直腸周囲の間隙に限局性に膿の蓄積が起こった状態である。膿瘍は通常,肛門陰窩から発生する。症状は疼痛と腫脹である。診断は主に診察により,深部膿瘍に対してはCTまたは骨盤MRIを行う。治療は外科的排膿である。

膿瘍は直腸周囲の様々な間隙に形成され,表在性または深在性である。肛門周囲膿瘍は表在性で皮膚に向かって開口する。坐骨直腸窩膿瘍はより深く,括約筋を越えて肛門挙筋の下方の坐骨直腸窩に波及するもので,反対側に貫通することもあり,「馬蹄形」膿瘍を形成する。肛門挙筋の上方の膿瘍(すなわち,肛門挙筋上膿瘍)は極めて深く,腹膜または腹部臓器に広がることがあり,この膿瘍はしばしば 憩室炎 大腸憩室炎 憩室炎は,憩室に炎症が起きた状態であり,感染を伴うこともあれば伴わないこともあり,腸壁の蜂窩織炎, 腹膜炎, 穿孔,瘻孔,または 膿瘍を引き起こす可能性がある。主な症状は腹痛である。診断はCTによる。治療は腸管安静のほか,ときに抗菌薬,ときに手術による。 大腸憩室は,結腸の粘膜および粘膜下層が結腸の筋層を越えて突出した袋状の構造であり,腸管の全ての層を備えていないことから,偽性憩室とみなされる(... さらに読む 大腸憩室炎 または 骨盤内炎症性疾患 骨盤内炎症性疾患 (PID) 骨盤内炎症性疾患(PID)は,上部女性生殖器(子宮頸部,子宮,卵管,および卵巣)の複数菌感染症である;膿瘍が生じることがある。骨盤内炎症性疾患は性行為により感染することがある。一般的な症状および徴候として,下腹部痛,頸管分泌物,および不正性器出血がある。長期合併症には,不妊,慢性骨盤痛,および異所性妊娠がある。診断には,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジアに関する子宮頸部検体のポリメラーゼ連鎖反応... さらに読む に起因する。 クローン病 クローン病 クローン病は,全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり,通常は遠位回腸と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる。症状としては下痢や腹痛などがある。膿瘍,内瘻孔,外瘻孔,および腸閉塞が発生することがある。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,サイトカイン阻害薬,および抗菌薬のほか,しばしば手術による。... さらに読む クローン病 (特に大腸クローン病)はときに肛門直腸膿瘍を引き起こす。通常は混合感染が起こり,大腸菌(Escherichia coli),Proteus vulgarisBacteroides属,レンサ球菌,およびブドウ球菌が優勢である。

肛門直腸膿瘍の症状と徴候

表在膿瘍は疼痛が激しいことがあり,肛門周囲の腫脹,発赤,および圧痛を特徴とする。発熱はまれである。

より深い膿瘍は疼痛が比較的弱いこともあるが,全身症状(例,発熱,悪寒,倦怠感)を引き起こす。肛門周囲の所見はない場合があるが,直腸指診で直腸壁に圧痛を伴う波動性の腫脹を認めることがある。高位の骨盤直腸窩膿瘍は,直腸症状を伴わずに下腹部痛および発熱を引き起こすことがある。ときに発熱が唯一の症状である。

肛門直腸膿瘍の診断

  • 臨床的評価

  • ときに麻酔下での診察またはまれにCT

膿点を有する皮膚膿瘍があり,直腸指診が正常で,全身性疾患の徴候がない患者には画像検査は必要ない。深部膿瘍またはクローン病が疑われる場合は,CTが有用である。より高位の(肛門挙筋上)膿瘍では,腹腔内の感染源を同定するためにCTが必要である。より深部の膿瘍または複雑な肛門周囲 クローン病 診断 クローン病は,全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり,通常は遠位回腸と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる。症状としては下痢や腹痛などがある。膿瘍,内瘻孔,外瘻孔,および腸閉塞が発生することがある。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,サイトカイン阻害薬,および抗菌薬のほか,しばしば手術による。... さらに読む 診断 を示唆する所見を示す患者には,ドレナージ時に麻酔下で診察を行うべきである。

肛門直腸膿瘍の治療

  • 切開排膿

  • 高リスク患者には抗菌薬

(American Society of Colon and Rectal Surgeonの肛門直腸膿瘍,痔瘻,および直腸腟瘻の管理に関する臨床ガイドラインも参照のこと。)

迅速な切開と十分な排膿が必要であり,膿瘍が口を開く間際まで待つべきではない。多くの膿瘍は診察室での処置で排膿が可能であり,深部膿瘍では,手術室での排膿を要することがある。発熱,易感染状態,または糖尿病がある患者と著明な蜂窩織炎のある患者では,抗菌薬も投与すべきである(例,シプロフロキサシン500mg,静注,12時間毎およびメトロニダゾール500mg,静注,8時間毎,アンピシリン/スルバクタム1.5g,静注,8時間毎)。絶対的な好中球減少症(1000/μL[1 × 109/L]未満)を有する患者は,抗菌薬単独で治療すべきである。抗菌薬は表在膿瘍を有する健康な患者には適応ではない。排膿後に 肛門直腸瘻 肛門直腸瘻 肛門直腸瘻は,一端が肛門管に開口し,もう一端が通常は肛門周囲の皮膚に開口する管状の経路である。症状は分泌物のほか,ときに疼痛である。診断は診察のほか,ときに肛門鏡検査,S状結腸鏡検査,または大腸内視鏡検査による。治療にはしばしば手術が必要である。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。) 痔瘻は,自然にまたは直腸周囲膿瘍の排膿に続発して生じる。ほとんどの痔瘻は肛門直腸陰窩に源を発する。その他の原因としては以下のものがある:... さらに読む が形成されることがある。

肛門直腸膿瘍の要点

  • 肛門直腸膿瘍は表在性または深在性のことがある。

  • 表在膿瘍は,診察室または救急外来にて臨床的に診断され,ドレナージされることがある。

  • 深部膿瘍には,CTによる画像検査がしばしば必要であり,典型的には手術室でのドレナージも必要になる。

  • 易感染性患者および糖尿病患者,ならびに広範な蜂窩織炎のある患者には抗菌薬を投与すべきである。

肛門直腸膿瘍についてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

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