(肛門直腸疾患の評価 肛門直腸疾患の評価 肛門管は肛門縁から肛門直腸移行部(櫛状線,粘膜皮膚接合部,歯状線)までを指し,肛門直腸移行部には8~12の肛門陰窩と5~8の乳頭がある。肛門管は,肛門周囲の皮膚の延長である肛門上皮に裏打ちされている。肛門管および隣接した皮膚は体性感覚神経に支配され,痛覚刺激に対して感受性が高い。肛門管からの静脈還流は大静脈系を経由するが,肛門直腸移行部は... さらに読む も参照のこと。)
便失禁は,脊髄の損傷または疾患,先天異常,事故による直腸や肛門の損傷, 直腸脱 直腸脱および完全直腸脱 直腸脱は,直腸が肛門を通って脱出した状態であり,痛みは伴わない。完全直腸脱(procidentia)は,直腸壁の全層が完全に脱出した状態である。診断は視診による。成人では通常,手術が必要になる。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。) 乳児では,それ以外は正常な状態で,直腸粘膜のみの一過性かつ軽度の脱出がしばしばみられる。成人では粘膜の脱出が持続し,進行性に悪化する場合もある。... さらに読む ,糖尿病,重度の認知症,宿便,広範囲の炎症性疾患,腫瘍,産科的損傷,および肛門括約筋の切開または拡張を伴う手術から生じうる。
身体診察では,括約筋機能および肛門周囲の大まかな感覚を評価するとともに,直腸腫瘤と直腸脱を除外すべきである。
肛門括約筋超音波内視鏡検査,骨盤と会陰のMRI,骨盤底筋電図検査,および直腸肛門内圧検査も有用である。
便失禁の治療
便制御のプログラム
会陰部運動,ときにバイオフィードバックを併用
ときに外科的手技
(See also the American Society of Colon and Rectal Surgeonsの便失禁の治療に関する臨床ガイドラインも参照のこと。)
便失禁の治療には,予測可能な排便パターンを確立するための排便管理プログラムが含まれる。このプログラムには,十分な水分および食物の摂取が組み込まれている。便座に座ること,または他の通例の排泄刺激物(例,コーヒー)の使用は排便を促す。また,坐薬(例,グリセリン,ビサコジル)またはリン酸浣腸剤を使用してもよい。規則正しい排便パターンが形成されない場合は,低残渣食および経口ロペラミドによって,排便頻度を減少させる場合がある。
単純な会陰部運動は,患者が括約筋,会陰筋,殿部筋を繰り返し収縮させるもので,これによりこれらの筋群が強化され,特に軽症例で便禁制に役立つ可能性がある。やる気のある患者で,指示を理解して従うことができ,肛門括約筋に直腸拡張の合図を認識する能力がある場合,外科手術を勧める前に バイオフィードバック バイオフィードバック 心身医療の一種であるバイオフィードバックでは,電子機器を用いて患者に生物学的な機能(例,心拍数,血圧,筋肉活動,皮膚温,皮膚抵抗,脳表面の電気的活動)に関する情報を提供し,患者にそれらの機能のコントロール法を頭の訓練を通して教育する。 ( 統合,補完,代替医療の概要も参照のこと。) 療法士の助けを借りて,または訓練により,患者はバイオフィードバックの情報を用いて生物学的な機能を修正したり,リラックスしたりすることができ,結果的に疼痛,ス... さらに読む (患者が括約筋を最大限に使い,生理的刺激をよりよく認識するための訓練)を考慮すべきである。そのような患者の約70%がバイオフィードバックに反応する。
超音波内視鏡検査で評価された括約筋の欠損は直接縫合できる。残存括約筋が修復には不十分な場合,特に50歳未満の患者においては,大腿薄筋を移植することが可能である。しかしながら,これらの手技の良好な結果は典型的には長続きしない。一部の施設では大腿薄筋にペースメーカーをつける一方,人工括約筋を用いる施設もあるが,それらの手技や他の実験的手技については,米国では数少ない施設でのみ研究プロトコルとして実施可能である。仙骨神経刺激療法は,便失禁の治療として有望であることが示されている。他の全ての方法が失敗した場合は,人工肛門造設術を考慮してもよい。
便失禁についてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Society of Colon and Rectal Surgeons: Clinical practice guideline for the treatment of fecal incontinence