鼻の骨(鼻骨)は顔の中でも特に折れやすい骨です。
鼻が折れる(骨折する)と、典型的には出血、痛み、腫れが生じます。
診断は鼻梁(びりょう)の視診と触診により行います。
ときに、折れた骨の破片を元の場所に押し戻さなければならないこともあります。
鼻骨が折れると、鼻の内側を覆う粘膜が破れることがあり、結果、鼻出血が起こります。たいていは、鼻梁が左右のどちらかに曲がってしまいます。ときに、鼻中隔(左右の鼻腔を分けているゴム状の組織)の軟骨が左右どちらかにずれることもあります。鼻中隔の軟骨を覆う膜の下に血液がたまると(鼻中隔血腫)、鼻中隔の軟骨が壊死することがあります。壊死した軟骨は次第に崩れ、鼻梁の中央がへこんだ鞍鼻(あんび)変形が起こります。
鞍鼻(あんび)変形
鞍鼻変形は、鼻の軟骨が壊死して崩壊することで起こります。これにより、鼻梁が中央でへこみます。 ![]() |
鼻を骨折すると、ときに鼻と頭蓋骨をつなぐ骨が損傷することがあります。この骨が損傷すると、髄液(脳と脊髄の周囲を流れている体液)が漏れ出します。この損傷により、細菌が鼻から脳や脊髄の周りの空間に入り込み、重篤な感染症(髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のことです。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫... さらに読む )を起こすこともあります。
症状
鼻に鈍い衝撃を受けた後に鼻出血、痛み、腫れ、圧痛がみられる場合は、骨折している可能性があります。鼻が折れると、鉤(かぎ)のような形になることがあります。ときに、眼の周りにも皮下出血がみられます。鼻の腫れは、骨折後3~5日間続きます。
診断
医師の診察
病院で医師に、鼻中隔血腫、髄液の漏れ、その他直ちに治療を要する顔のけががないかを確認してもらう必要があります。
通常、医師が骨折を診断する際は、鼻梁にそっと触れ、形や骨の配列の異常、骨の異常な動き、折れた骨がぶつかりあう感触、圧痛などを確認します。
X線検査は、骨折を正確に診断できず、必要な治療を決定する際にも役立たないため、普通は行われません。顔の他の骨や頭蓋骨の損傷が疑われる場合には、 CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む が行われます。
治療
痛みと腫れの緩和
鼻中隔血腫の迅速な排液
ときに骨折した骨の整復
痛みと腫れの治療
患部を氷のうなどで(できれば2時間毎に15分間ずつ)冷やすことを約2日間行い、アセトアミノフェンなどの鎮痛薬を服用し、頭を高くして寝ると、痛みと腫れの軽減に役立ちます。
血腫の治療
鼻中隔血腫の排液はできる限り早く行います。軟骨の破壊を予防するため、血液を除去しなければなりません。
骨折の治療
骨折そのものの治療はそれほど急ぐ必要はありません。医師は通常、けがの後3~5日ほど腫れがひくのを待ってから、骨折した骨を正しい位置に押し戻す整復処置を行います。こうして待つことで、折れた骨が完全に正しい位置に戻ったかどうかを眼と指先で判断しやすくなります。鼻骨の骨折では骨の位置がずれていないことも多く、その場合は整復の必要はありません。
成人の場合はまず局所麻酔を行い、患部を麻痺させます。小児の場合は全身麻酔を行い、一時的に意識を消失させます。骨を指で押さえ、鼻に挿入した器具で持ち上げながら、正常な位置に戻します。その後、外側から副子をあてて鼻を固定します。ガーゼを鼻に詰め込むこともあります(鼻腔パッキング)。ガーゼを詰めている間は、感染のリスクを低下させるために抗菌薬を投与します。鼻骨骨折は約6週間で治癒します。