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壊死性腸炎(NEC)

執筆者:

William J. Cochran

, MD, Geisinger Clinic

レビュー/改訂 2021年 8月
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やさしくわかる病気事典

壊死性腸炎は、腸内部の表面が損傷を受ける病気です。この病気は、早産児で生まれたか重篤な病気がある新生児でみられる場合がほとんどです。

  • 腹部が膨れ、便に血液が混じり、新生児は緑色や黄色、さび色をした液体を吐き、非常に具合が悪くなりぐったりします。

  • 壊死性腸炎の確定診断は、腹部X線検査によって行います。

  • この病気になった新生児の約70~80%は回復します。

  • 治療では、哺乳を止め、胃まで通した吸引チューブで胃の内容物を除去して圧力を下げ、静脈から抗菌薬と水分を投与します。

  • 重症例では、腸管の損傷した部分を切除する手術が必要になります。

壊死性腸炎は90%以上が 早産児 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児のことです。生まれた時期によっては、早産児の臓器は発達が不十分で、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、高血圧などがある場合、早産のリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が起こりやすくなり... さらに読む に発生しています。壊死性腸炎は、集中的に発生したり、新生児集中治療室(NICU)で集団発生したりすることがあります。ときにこれらの集団発生が特定の細菌(大腸菌 大腸菌(Escherichia coli)感染症 大腸菌(Escherichia coliE. coli])は グラム陰性細菌の一種で、健康な人の腸に存在しますが、特定の菌株は消化管、尿路、または他の部位で感染症を引き起こすことがあります。 大腸菌(E. coli)による感染症で最も頻度が高いのは尿路感染症ですが、汚染された食品(加熱調理が不十分な牛ひき肉など)を食べたり、感染した動物に触れたり、汚染された水を飲み込んだりすることで腸管感染症... さらに読む など)と関連していることもありますが、多くの場合は原因は不明です。

壊死性腸炎の原因は完全には分かっていませんが、血液中の酸素レベルの低下や腸への血流量の低下に伴い、腸が成熟していないことが部分的に関係しています。健康状態が悪い早産児では、腸への血流が少なくなることで、腸の粘膜に損傷が起きます。すると、腸の中に常在している細菌が損傷した腸壁に侵入できるようになり、腸壁から血流に入って、感染症(敗血症 新生児の敗血症 敗血症は、血流を通じて広がった感染に対する全身の重篤な反応です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液、尿、または髄液中の 細菌、 ウイルス、または 真菌の存在に基づいて下されます。 治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合がありま... さらに読む )を引き起こし、ときに死につながります。損傷が進行して腸壁の全層を侵し、 腸壁に穴があいてしまうと(穿孔) 消化管穿孔 中空の消化器はいずれも穿孔(せんこう)が生じる可能性があり、穿孔が生じると消化管の内容物が漏出し、すぐに手術を行わなければ 敗血症(生命を脅かす血流感染症)や死亡に至ることがあります。 症状としては胸部や腹部に突然重度の痛みが生じ、腹部に触れると圧痛がみられます。 診断はX線検査とCT検査によって下されます。 直ちに手術が必要です。 ( 消化管救急疾患の概要も参照のこと。) さらに読む 、腸の内容物が腹腔に漏れ出して炎症を引き起こし、多くの場合、腹腔と腹膜の感染症(腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む )も引き起こします。

危険因子

壊死性腸炎の症状

壊死性腸炎の乳児では、腹部が膨らんだり、哺乳困難がみられたりすることがあります。血が混じった液体、または緑色や黄緑色の液体を吐いたり、便に血が混じったりしているのが肉眼で分かることもあります。これらの症状が出た新生児はすぐに非常に具合が悪くなり、眠りがちな状態に陥り、体温が低下し、呼吸の一時的な停止を繰り返します(無呼吸発作)。

壊死性腸炎の診断

  • 腹部X線検査

  • 超音波検査

  • 血液検査

細菌感染やその他の異常(例えば白血球数の上昇)がないか調べるために採血を行います。

壊死性腸炎の予後(経過の見通し)

最新の内科的治療と外科的治療により、壊死性腸炎の乳児の予後は改善されています。約70~80%の患児が生存します。

腸狭窄(腸管が狭くなること)は、最も多くみられる長期の合併症です。狭窄は壊死性腸炎を発症して生存する乳児の10~36%に発生します。狭窄が起きる場合、典型的には壊死性腸炎の発症から2~3カ月後に狭窄による症状が現れます。ときに狭窄には手術による是正が必要になります。

壊死性腸炎の予防

プロバイオティクス(体によい細菌)が予防に役立つという科学的根拠がいくらか示されていますが、この治療法はまだ実験段階です。

早産のリスクがある妊婦には、壊死性腸炎を予防するためにコルチコステロイドが投与されることがあります。

壊死性腸炎の治療

  • 栄養、水分、および抗菌薬の静脈内投与

  • ときに手術

壊死性腸炎の新生児では、授乳を中止します。吸引チューブを新生児の胃に入れて内容物を除去すると圧力が下がり、嘔吐を予防するのに役立ちます。静脈から栄養と水分を補給して、体内の水分量と栄養状態を維持し、腸が治癒できる状態にします。感染症を治療するために抗菌薬を静脈から投与します。

壊死性腸炎を起こした新生児の75%以上では、手術は必要になりません。しかし、腸穿孔が起きている場合や、腸の一部がひどく侵されている場合には、手術が必要になります。手術では、十分な血液が供給されていない腸の部分を取り除きます。正常な腸の端を皮膚表面につなぎ、腸からの排泄を可能にするための一時的な開口部を作ります(人工肛門造設術)。あとで、新生児が健康になったらその腸の端をつないで腸を腹腔に戻します。

極めて小さな乳児(600グラム未満)や重篤な状態にある乳児で、大手術に耐えられない可能性があれば、腹腔ドレーン(排液管)という管を腹腔内に留置することがあります。この腹腔ドレーンを通じて感染物を腹部から体外に吸い出すことができ、症状が軽減します。この処置によりこのような乳児の容体が安定し、後に手術をより安全な状態で行うことができます。手術をしなくてもこの治療法だけで回復する例もあります。

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