腹部が膨れ、便に血液が混じり、新生児は緑色や黄色、さび色をした液体を吐き、非常に具合が悪くなりぐったりします。
壊死性腸炎の確定診断は、腹部X線検査によって行います。
この病気になった新生児の約70~80%は回復します。
治療では、哺乳を止め、胃まで通した吸引チューブで胃の内容物を除去して圧力を下げ、静脈から抗菌薬と水分を投与します。
重症例では、腸管の損傷した部分を切除する手術が必要になります。
壊死性腸炎は90%以上が 早産児 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児のことです。生まれた時期によっては、早産児の臓器は発達が不十分で、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、高血圧などがある場合、早産のリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が起こりやすくなり... さらに読む に発生しています。壊死性腸炎は、集中的に発生したり、新生児集中治療室(NICU)で集団発生したりすることがあります。ときにこれらの集団発生が特定の細菌(大腸菌 大腸菌(Escherichia coli)感染症 大腸菌(Escherichia coli[E. coli])は グラム陰性細菌の一種で、健康な人の腸に存在しますが、特定の菌株は消化管、尿路、または他の部位で感染症を引き起こすことがあります。 大腸菌(E. coli)による感染症で最も頻度が高いのは尿路感染症ですが、汚染された食品(加熱調理が不十分な牛ひき肉など)を食べたり、感染した動物に触れたり、汚染された水を飲み込んだりすることで腸管感染症... さらに読む など)と関連していることもありますが、多くの場合は原因は不明です。
壊死性腸炎の原因は完全には分かっていませんが、血液中の酸素レベルの低下や腸への血流量の低下に伴い、腸が成熟していないことが部分的に関係しています。健康状態が悪い早産児では、腸への血流が少なくなることで、腸の粘膜に損傷が起きます。すると、腸の中に常在している細菌が損傷した腸壁に侵入できるようになり、腸壁から血流に入って、感染症(敗血症 新生児の敗血症 敗血症は、血流を通じて広がった感染に対する全身の重篤な反応です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液、尿、または髄液中の 細菌、 ウイルス、または 真菌の存在に基づいて下されます。 治療では抗菌薬が投与されるほか、支持療法として、輸液、赤血球や血漿の輸血、呼吸補助(人工呼吸器を使用する場合がありま... さらに読む )を引き起こし、ときに死につながります。損傷が進行して腸壁の全層を侵し、 腸壁に穴があいてしまうと(穿孔) 消化管穿孔 中空の消化器はいずれも穿孔(せんこう)が生じる可能性があり、穿孔が生じると消化管の内容物が漏出し、すぐに手術を行わなければ 敗血症(生命を脅かす血流感染症)や死亡に至ることがあります。 症状としては胸部や腹部に突然重度の痛みが生じ、腹部に触れると圧痛がみられます。 診断はX線検査とCT検査によって下されます。 直ちに手術が必要です。 ( 消化管救急疾患の概要も参照のこと。) さらに読む 、腸の内容物が腹腔に漏れ出して炎症を引き起こし、多くの場合、腹腔と腹膜の感染症(腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む )も引き起こします。
危険因子
危険因子としては、 未熟児 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児のことです。生まれた時期によっては、早産児の臓器は発達が不十分で、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、高血圧などがある場合、早産のリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が起こりやすくなり... さらに読む のほかに以下のものがあります。
消化器系に生息する細菌の乱れ:抗菌薬や胃酸分泌抑制薬を用いた治療により、腸を貫通し害を及ぼす可能性のある細菌の増殖が促進されることがあります。
周産期仮死 周産期仮死 分娩損傷とは、分娩の過程で通常は産道を通る際に物理的な圧力が生じる結果として新生児が受ける損傷のことです。 多くの新生児が出生の際に軽いけがをします。 まれに、神経が損傷したり骨が折れたりします。 ほとんどのけがは、治療をしなくても治ります。 極めて大きな胎児は難産になる場合があり、生まれてくる子どもに損傷のリスクを伴います。胎児が5000グラム(母親が糖尿病の場合は4500グラム)を超えると推定される場合には、... さらに読む :この疾患では、分娩前、分娩中、または分娩直後における新生児の組織への血流の減少、または新生児の血液中の酸素の減少が起こります。
生まれつきの心疾患 心臓の異常の概要 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む (先天性心疾患):心臓の先天異常が血液の流れ方や血液中の酸素レベルに影響を及ぼすことがあります。
貧血 新生児の貧血 貧血とは、血液中の赤血球の数が非常に少なくなる病気です。 貧血は、赤血球の破壊が早く進みすぎた場合、大量の血液が失われた場合、骨髄で十分な赤血球を作られない場合に生じます。 赤血球の破壊が急速に進むと、貧血が起こってビリルビン(赤血球が壊れたときにできる黄色い色素)の血中濃度が上昇することがあり、新生児の皮膚と白眼の部分が黄色くなることが... さらに読む (赤血球数の減少):貧血で、新生児の血液が酸素を十分に供給することが困難になるおそれがあります。
人工乳による授乳:母乳には、人工乳にはない消化管の壁を保護する物質が含まれています。
壊死性腸炎の症状
壊死性腸炎の乳児では、腹部が膨らんだり、哺乳困難がみられたりすることがあります。血が混じった液体、または緑色や黄緑色の液体を吐いたり、便に血が混じったりしているのが肉眼で分かることもあります。これらの症状が出た新生児はすぐに非常に具合が悪くなり、眠りがちな状態に陥り、体温が低下し、呼吸の一時的な停止を繰り返します(無呼吸発作)。
壊死性腸炎の診断
腹部X線検査
超音波検査
血液検査
壊死性腸炎の診断は、 腹部X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 CT検査などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。( 画像検査の概要と バックグラウンド放射線も参照のこと。)... さらに読む において腸壁の中にガスがみられる(腸壁気腫症)、腸壁に穿孔が起きている場合には腹腔内にガスがみられるといった所見が認められることで確定されます。腹部の超音波検査を行い、腸壁の厚さ、腸壁気腫症、血流を観察することもあります。
細菌感染やその他の異常(例えば白血球数の上昇)がないか調べるために採血を行います。
壊死性腸炎の予後(経過の見通し)
最新の内科的治療と外科的治療により、壊死性腸炎の乳児の予後は改善されています。約70~80%の患児が生存します。
腸狭窄(腸管が狭くなること)は、最も多くみられる長期の合併症です。狭窄は壊死性腸炎を発症して生存する乳児の10~36%に発生します。狭窄が起きる場合、典型的には壊死性腸炎の発症から2~3カ月後に狭窄による症状が現れます。ときに狭窄には手術による是正が必要になります。
壊死性腸炎の予防
早産児には人工乳より 母乳 母乳哺育 新生児にとって母乳は理想的な栄養源です。乳児には母乳と人工乳のどちらを与えてもよいですが、世界保健機関(WHO)と米国小児科学会(AAP)は、およそ6カ月間は授乳のみとし、それから固形食を開始する方針を推奨しています。ほかにも、授乳を続けながら生後4カ月から6カ月の間に 固形食を開始する方針を推奨している組織もあります。現在では、生後4カ月から6カ月の間に固形食を開始することが一部の食物アレルギーの発症予防につながる可能性を示唆した科学... さらに読む を与える方が、壊死性腸炎をある程度予防できるとみられています。また、病院スタッフは高度に濃縮された人工乳を乳児に与えないようにし、乳児の血流中の酸素レベルが低下しないようにする対策を講じます。可能であれば抗菌薬や胃酸分泌抑制薬も避けるべきです。
プロバイオティクス(体によい細菌)が予防に役立つという科学的根拠がいくらか示されていますが、この治療法はまだ実験段階です。
早産のリスクがある妊婦には、壊死性腸炎を予防するためにコルチコステロイドが投与されることがあります。
壊死性腸炎の治療
栄養、水分、および抗菌薬の静脈内投与
ときに手術
壊死性腸炎の新生児は入院させ、 新生児集中治療室(NICU) 新生児集中治療室(NICU) 新生児の問題は、以下の時期に生じることがあります。 胎児として成長している出生前 陣痛および分娩時 出生後 新生児の約9%は、 早産児であること、胎児期から新生児期への移行時に起きる問題、低血糖、呼吸困難、感染症などの異常ゆえに、出生後に特別なケアを必要とします。専門的なケアは、しばしば... さらに読む で治療します。
壊死性腸炎の新生児では、授乳を中止します。吸引チューブを新生児の胃に入れて内容物を除去すると圧力が下がり、嘔吐を予防するのに役立ちます。静脈から栄養と水分を補給して、体内の水分量と栄養状態を維持し、腸が治癒できる状態にします。感染症を治療するために抗菌薬を静脈から投与します。
壊死性腸炎を起こした新生児の75%以上では、手術は必要になりません。しかし、腸穿孔が起きている場合や、腸の一部がひどく侵されている場合には、手術が必要になります。手術では、十分な血液が供給されていない腸の部分を取り除きます。正常な腸の端を皮膚表面につなぎ、腸からの排泄を可能にするための一時的な開口部を作ります(人工肛門造設術)。あとで、新生児が健康になったらその腸の端をつないで腸を腹腔に戻します。
極めて小さな乳児(600グラム未満)や重篤な状態にある乳児で、大手術に耐えられない可能性があれば、腹腔ドレーン(排液管)という管を腹腔内に留置することがあります。この腹腔ドレーンを通じて感染物を腹部から体外に吸い出すことができ、症状が軽減します。この処置によりこのような乳児の容体が安定し、後に手術をより安全な状態で行うことができます。手術をしなくてもこの治療法だけで回復する例もあります。