心室に異常がないか、あってもごく小さなものである場合は、症状がないことがあります。
心室中隔の欠損孔が大きい場合、乳児は哺乳や食事中の呼吸困難、発育不良、速い心拍、発汗を呈することがあります。
この診断は、聴診器で聴取される典型的な心雑音に基づいて疑われ、心エコー検査によって確定されます。
異常は手術により修復されます。
(心臓の異常の概要 心臓の異常の概要 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む も参照のこと。)
房室中隔欠損症は、心臓の先天異常の約5%を占めます。
房室中隔欠損症の種類
房室中隔欠損症には以下の種類があります。
完全型:心房と心室の両方にかかる大きな中隔欠損があり、単一の房室弁がある場合
移行型:心房中隔欠損に加えて、小径または中程度の大きさの心室中隔欠損症がある場合
部分型:心房中隔欠損はあるが、心室中隔欠損はなく、共通房室弁が右左の2つの房室弁に分かれている場合
完全型の房室中隔欠損症がある乳児の大半は ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。 ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。 出生前の段階では、ダウン症候群は超音波検査や母親の血液検査の結果から疑われ、 絨毛採取や 羊水穿刺という検査で確定されます。... さらに読む です。房室中隔欠損症はまた、出生時から脾臓がないか小さな脾臓が複数ある状態など、他の臓器に異常がある乳児でもよくみられます。
房室中隔欠損症の症状
完全型房室中隔欠損症は、しばしば大きな 左右短絡 血流の短絡 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む (すでに肺で酸素を取り込んだ血液の一部が孔を通って肺に戻る現象)を引き起こします。このような乳児は生後4~6週までに心不全(図「 心不全:拡張機能障害と収縮機能障害 心不全:拍出と充満の異常 」を参照)を発症する可能性があり、その結果、速い呼吸、哺乳や食事中の息切れ、体重増加不良、発汗などの症状が生じます。やがて、肺と心臓の間の血管で高血圧が生じ(肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症とは、心臓から肺につながる動脈(肺動脈)の血圧が異常に高くなる病気です。 多くの病気が肺高血圧症を引き起こす可能性があります。 通常は、体力低下のほか軽い運動であっても息切れが現れ、場合によっては軽い運動でもふらつきや疲労感がみられることもあります。 胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査により、診断の手がかりが得られるものの、... さらに読む )、心不全につながる可能性があります(アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む )。
移行型房室中隔欠損症では、心室中隔の欠損孔が小さい場合、症状がないことがあります。欠損孔が比較的大きな小児は心不全の徴候を示すことがあります。
部分型房室中隔欠損症は、通常、弁からの漏れ(逆流)が重度でない限り、小児期に症状を引き起こすことはありません。しかし、青年期または成人期早期になると症状(例えば、運動耐容能低下、疲労、動悸)が現れることがあります。中等度または重度の弁逆流のある乳児は、多くの場合、心不全の徴候を示します。
房室中隔欠損症の診断
心エコー検査
診断は、乳児の診察所見から示唆されます。この診断を下す上で心電図検査が重要な手がかりとなることがあります。心臓の大きさと肺への血流を調べるために 胸部X線検査 胸部X線検査 心疾患が疑われる場合は、必ず正面と側面から 胸部X線画像を撮影します。通常、患者が直立した状態で撮影しますが、立っていられない患者にはベッドに横になった状態で胸部X線検査を行うことがあります。そして、装置からX線を体に照射し、X線フィルムに画像を記録します。検査は痛みを伴いません。 X線画像では心臓の形と大きさ、肺や胸部を流れる太い血管の輪郭が分かります。心臓の形や大きさの異常、血管内へのカルシウムの沈着といった異常は容易に確認できます... さらに読む が行われることがあります。
診断を確定し、欠損孔の大きさと弁から漏れる血液の量を詳しく知るために 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む (心臓の超音波検査)が行われます。治療計画を立てる前に欠損症の重症度や肺高血圧症の程度について詳細な情報が必要な場合には、 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む が行われることもあります。
房室中隔欠損症の治療
手術による修復
完全型房室中隔欠損症の乳児では、そのほとんどに心不全と発育不良がみられるため、通常は生後2~4カ月で手術を行って異常を修復します。乳児が順調に発育し、症状がない場合でも、通常は合併症の発生を予防するために生後6カ月になる前に外科的修復が行われます。
異常が部分的なもので症状がない場合は、小児が成長してから、通常は1~3歳の間に手術が行われます。
手術が行われる前に乳児が心不全をきたした場合、医師は利尿薬、ジゴキシン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの薬剤を投与して、手術前に症状を管理します。
通常は、手術による修復から6カ月間、歯科受診や特定の手術(呼吸器の手術など)の前に抗菌薬を服用する必要があります。手術後も欠損孔が残っている場合は、これらの処置・手術前の抗菌薬使用を無期限に続ける必要があります。それらの抗菌薬は、 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む と呼ばれる重篤な心臓の感染症を予防するために使用されます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国心臓協会:一般的な心臓の異常(American Heart Association: Common Heart Defects):親と養育者に向けて一般的な心臓の先天異常の概要を提供している
米国心臓協会:感染性心内膜炎(American Heart Association: Infective Endocarditis):親と養育者に向けて感染性心内膜炎の概要(抗菌薬使用の要約を含む)を提示している