典型的には、医師が検眼鏡で眼の診察をして診断を下しますが、診断のための検査が行われることもあります。
通常、視力回復のための治療は効果がありません。
網膜中心動脈は網膜に血液を供給している主要な血管です。塞栓または血栓(動脈内に形成される血液のかたまり)により、この血管が完全に閉塞してしまうことがあります。閉塞は、中心動脈に起こることもあれば、その分枝に起こることもあります。
塞栓とは、血流に浮く固形の物質の集積で、これが血管に詰まると血流を阻害します。塞栓を起こす可能性がある物質としては、頸動脈からの アテローム性プラーク 動脈硬化 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む の断片、脂肪、感染した心臓弁(心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む )からの感染物質、心腔内の良性(がんではない)腫瘍(心房 粘液腫 粘液腫 粘液腫は良性の原発性 心臓腫瘍で、通常は不規則でゼリーのような形状をしています。 息切れや失神、発熱、体重減少がみられる場合があります。 診断は心エコー検査で確定されます。 手術で粘液腫を切除する必要があります。 原発性(心臓から発生した) 心臓腫瘍の半数が粘液腫です。粘液腫の4分の3は左心房(肺から出た酸素を豊富に含む血液が流れ込む心腔)に発生します。粘液腫は女性に多く、典型的には40~60歳の女性に発生します。 さらに読む )などがあります。
血管の炎症である 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は、頭部、頸部、上半身にある大型動脈や中型動脈に慢性の炎症が起きる病気です。典型的に侵されるのは側頭動脈であり、この血管はこめかみを通り、頭皮の一部、あごの筋肉、視神経に血液を供給しています。 原因は不明です。 主に、ズキズキする激しい頭痛、髪をとかしたときの頭皮の痛み、ものをかむときに顔の筋肉の痛みがみられます。 治療しないと、失明することがあります。 症状と身体診察の結果からこの病気が疑われますが、診断を確定するには側... さらに読む も、網膜動脈閉塞の原因となる可能性があります。
また、閉塞の原因が不明な場合もあります。
症状
異常のある方の眼の視野全体に、重度の視力障害が突然起こりますが、痛みは伴いません。ときに、視野の一部のみが損なわれることもあります。
網膜中心動脈が閉塞すると、網膜または虹彩に異常血管が増殖することもあります。ときにはこれらの異常血管が出血したり、痛みを伴うタイプの緑内障(新生血管緑内障と呼ばれます)を引き起こしたりします。新生血管緑内障では、虹彩に形成された異常な血管が虹彩と角膜の間の空間をふさぎ、眼からの液体の排出を遮断して、眼圧の上昇を引き起こします(緑内障 緑内障 緑内障とは、進行性の視神経損傷を特徴とする一群の眼疾患で(眼圧の上昇を伴うことが多いものの、常に伴うわけではありません)、不可逆的な視力障害につながることがあります。 眼の内部の圧力(眼圧)が上昇すると視神経が損傷されることがあります。 通常、視力障害は徐々に生じるため、長い間気づかれないことがあります。... さらに読む )。
診断
医師による眼の診察
フルオレセイン蛍光眼底造影
光干渉断層撮影
ときに、心エコー検査、ドプラ超音波検査、血液検査
検眼鏡で、血管および網膜の変化を見ることができます。網膜中心動脈が閉塞すると、網膜は青白く見えます。
フルオレセイン蛍光眼底造影 眼の血管造影検査 眼の病気を診断したり、その重症度や広がりを特定したりするために、様々な検査が行われます。左眼、右眼それぞれ別に検査します。 血管造影検査は一般に、血管に造影剤を注射し、画像検査で血管を見えやすくするものです。しかし、眼の血管造影検査では造影剤(色素)を使うことで、医師が直接診察するときに血管を見えやすくするものであり、この色素は写真にも写ります。 フルオレセイン蛍光眼底造影検査を行うと、医師は眼底の血管をはっきりと観察できるようになりま... さらに読む は、網膜の損傷の範囲を決定し、治療計画を立てるのに役立ちます。この検査では、蛍光色素を腕の静脈から注射して網膜の写真を撮影します。 光干渉断層撮影 光干渉断層撮影 眼の病気を診断したり、その重症度や広がりを特定したりするために、様々な検査が行われます。左眼、右眼それぞれ別に検査します。 血管造影検査は一般に、血管に造影剤を注射し、画像検査で血管を見えやすくするものです。しかし、眼の血管造影検査では造影剤(色素)を使うことで、医師が直接診察するときに血管を見えやすくするものであり、この色素は写真にも写ります。 フルオレセイン蛍光眼底造影検査を行うと、医師は眼底の血管をはっきりと観察できるようになりま... さらに読む (画像検査の一種)は、網膜の腫れ(よくみられます)を見つけるのに役立つことがあります。
いったん網膜動脈閉塞症の診断がつけば、医師は塞栓の原因を探す必要があります。例えば 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む や 頸動脈ドプラ超音波検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む などの検査が行われます。巨細胞性動脈炎を診断するために、血液検査が行われることもあります。
突然片眼に短期間の視力障害が生じ、医師がこれを網膜動脈を閉塞している血液のかたまりによるものと判断した場合は、画像検査のために治療を遅らせるのではなく、直ちに治療を開始します。
予後(経過の見通し)
閉塞が網膜中心動脈の分枝に起こった場合、良好ないし十分な視力を保てます。
閉塞が網膜中心動脈の本幹に起こった場合、視力障害はしばしば高度で、治療をしても治らないことがあります。
血流が途絶えて早ければ90分で網膜の組織に永続的な損傷が残りますが、その場合、視力障害も生涯残るのが普通です。
網膜動脈閉塞症の原因が 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は、頭部、頸部、上半身にある大型動脈や中型動脈に慢性の炎症が起きる病気です。典型的に侵されるのは側頭動脈であり、この血管はこめかみを通り、頭皮の一部、あごの筋肉、視神経に血液を供給しています。 原因は不明です。 主に、ズキズキする激しい頭痛、髪をとかしたときの頭皮の痛み、ものをかむときに顔の筋肉の痛みがみられます。 治療しないと、失明することがあります。 症状と身体診察の結果からこの病気が疑われますが、診断を確定するには側... さらに読む である場合、迅速な診断と治療により、失われた視力をある程度回復し、他眼の損傷を防ぐことができます。
網膜動脈閉塞症があると、脳に血液を供給する他の動脈に閉塞が生じることがあります。これらの閉塞は、特に網膜中心動脈閉塞症の数週間後に 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む のリスクを増大させます。
治療
危険因子のコントロールによる予防
ときに眼圧を下げる処置(点眼薬、眼球マッサージ、穿刺による眼の中の液体の除去など)
ときに異常血管または出血がみられる血管に対するレーザー処置
巨細胞性動脈炎に対し、コルチコステロイド
治療は効果的ではないことが多いため、高血圧、糖尿病、その他の動脈硬化の危険因子をコントロールして閉塞を予防することが望まれます。
網膜中心動脈が閉塞している場合は、しばしば網膜動脈の閉塞を解除するための緊急治療が行われますが、効果が得られることはまれです。血圧を下げる薬(チモロールの点眼薬またはアセタゾラミドの経口薬)を投与すると、眼圧が下がることがあります。
眼球マッサージや前房穿刺で眼圧が下がると、血管に詰まっている血のかたまりや塞栓がそこから離れてより細い枝へと移動することがあり、これにより網膜の損傷領域を小さくできます。
巨細胞性動脈炎が疑われる場合は、できる限り早くコルチコステロイドを経口または静脈内投与します。
新生血管緑内障を治療もしくは予防するため、または眼内への出血によるさらなる視力障害を予防するため、レーザー治療により異常血管を破壊することがあります。しかし、新生血管緑内障の治療は困難です。
中心動脈閉塞症の患者は脳卒中のリスクが高いため、医師はさらなる評価のために直ちに脳卒中の専門施設に紹介します。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
国立眼病研究所(National Eye Institute):成人と小児を対象とした眼の健康に関する学習教材(英語とスペイン語)や、普及キャンペーンへのアクセスが掲載されています。