麻痺の原因としては腫瘍、外傷のほか、神経損傷などがあります。
典型的な症状としては、声の変化のほか、ときに呼吸困難などがみられます。
診断は喉頭、気管支、食道の診察結果に基づいて下されます。
気道の閉塞を防ぐのに役立つ治療法がいくつかあります。
声帯麻痺は片側の声帯に起こることも両側の声帯に起こることもあります。男性より女性に多くみられます。
片側の声帯麻痺は、脳腫瘍、脳卒中、 脱髄疾患 脱髄疾患の概要 脳の内外のほとんどの神経線維は、脂肪(リポタンパク質)でできた何層もの組織(ミエリンといいます)に包まれています。それらの層は髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる組織を形成しています。髄鞘は電気ケーブルを包んでいる絶縁体のような役割を果たしていて、この働きによって、神経信号(電気インパルス)が神経線維に沿って速くかつ正確に伝えられます。髄鞘が損傷... さらに読む (多発性硬化症など)といった脳の病気や、喉頭へつながる神経の損傷が原因で生じることがあります。神経の損傷の原因としては、良性腫瘍や悪性腫瘍、首のけが、首や胸部が関係する多くの手術(甲状腺の摘出、脊椎の手術、心臓の手術など)、神経のウイルス感染症、 ライム病 ライム病 ライム病は、スピロヘータと呼ばれるらせん状の細菌(図「 主な細菌の形」を参照)の一属である、ボレリア属 Borrelia(米国では主にライム病ボレリア Borrelia burgdorferi)によって引き起こされる、ダニを介してうつる感染症です。 ほとんどの人は、ライム病がみられる山間地域での野外活動中に、ライム病ボレリア Borrelia... さらに読む 、鉛や水銀やヒ素などの神経毒(神経組織を損傷または破壊する物質)、 ジフテリア ジフテリア ジフテリアは、ジフテリア菌 Corynebacterium diphtheriaeという棒状の グラム陽性細菌(図「 主な細菌の形」を参照)による上気道の感染症で、死に至ることもある病気です。一部の種類のジフテリア菌 Corynebacterium diphtheriaeは、強力な毒素を出して心臓、腎臓、神経系に損傷を与えます。 細菌感染によって発症し、現在、先進国ではまれにしかみられません。... さらに読む
による毒素などがあります。原因が分からないこともあります。
両側の声帯麻痺は、声帯が十分に開かず、空気が適切に通過することができないため、生命を脅かすことがあります。この麻痺は、首の前方から行う脊椎の手術、甲状腺の摘出、気管への呼吸用チューブの挿入(気管挿管)、または神経と筋肉に影響を及ぼす病気(重症筋無力症 重症筋無力症 重症筋無力症は、神経と筋肉の間の信号伝達が妨げられる自己免疫疾患で、筋力低下の発作を引き起こします。 重症筋無力症は、免疫系の機能不全により起こります。 通常、まぶたの下垂と複視が起こり、運動後は筋肉の著しい疲労と筋力低下が起こります。 診断を確定するためには、アイスパックや安静によってまぶたの下垂が軽減するかをみる検査、筋電図検査、血液検査が役立ちます。 筋力を速やかに改善できる薬や、病気の進行を遅らせる薬があります。 さらに読む )によって生じることがあります。
声帯麻痺
麻痺は片側に生じる場合と両側(図には示されていません)に生じる場合があります。 ![]() |
症状
声帯麻痺があると、声帯の開閉が妨げられ、発声、呼吸、ものを飲み込む動作が影響を受けます。麻痺があると、食べものや飲みものを気管や肺に誤って飲み込む(誤嚥する)ことがあります。
片側の声帯だけが麻痺している場合は、息が漏れるようなかすれた声になります。麻痺がない側の正常な声帯が十分開くため、通常は気道がふさがることはありません。
両側の声帯が麻痺すると、声が小さくなりますが、それ以外の点では正常に聞こえます。しかし、麻痺した声帯の間の隙間は非常に狭くなって、気道の幅が不十分になるため、軽い運動でも呼吸困難と、呼吸のたびに高い音の雑音(吸気性喘鳴[stridor])が生じます。
診断
喉頭鏡検査
画像検査
医師は声帯麻痺の原因を探索します。慢性的な重金属(ヒ素、鉛、水銀)への曝露、フェニトインとビンクリスチンの薬剤使用歴、 結合組織疾患 小児における結合組織疾患の概要 結合組織は頑丈で、その多くは線維性であり、互いに結合して体の構造を支えるとともに、弾力性をもたらしています。 筋肉、 骨、軟骨、 靱帯、 腱は、ほとんどが結合組織からできています。ほかには皮膚や内臓などにも結合組織があります。結合組織の特徴や含まれる細胞の種類は、体のどこに位置する組織かによって異なります。結合組織は、重さや張力に耐えられ... さらに読む (マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は、眼、骨、心臓、血管、肺、中枢神経系などに異常が生じるまれな遺伝性結合組織疾患です。 この症候群は、フィブリリンというタンパク質をコードしている遺伝子の突然変異によって発生します。 典型的な症状は、軽い場合から重い場合までありますが、腕や指が長いこと、関節が柔軟であること、心臓や肺の障害などがあります。 診断は症状と家族歴に基づいて下されます。 この症候群のほとんどの患者が70代まで生存します。 さらに読む など)の病歴、 ライム病 ライム病 ライム病は、スピロヘータと呼ばれるらせん状の細菌(図「 主な細菌の形」を参照)の一属である、ボレリア属 Borrelia(米国では主にライム病ボレリア Borrelia burgdorferi)によって引き起こされる、ダニを介してうつる感染症です。 ほとんどの人は、ライム病がみられる山間地域での野外活動中に、ライム病ボレリア Borrelia... さらに読む
、 サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスとは、体の多くの器官に炎症細胞の異常な集積(肉芽腫[にくげしゅ])がみられる病気です。 サルコイドーシスは、一般に20~40歳で発生し、スカンジナビア系の人やアフリカ系アメリカ人に最も多くみられます。 多くの器官が侵される可能性がありますが、肺に最もよくみられます。... さらに読む
、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 アルコール依存症 アルコール アルコール(エタノール)は抑制薬です。急激にまたは定期的に大量飲酒すると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 遺伝特性や個人的な性質がアルコール関連障害の発症に関与しています。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれ、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられます。 長期間大量のアルコールを飲むと、アルコールに依存するようになり、肝臓、脳、心臓を損傷します。... さらに読む など、医師はすべての可能性のある原因について質問します。
患者の病歴についての質問に加え、喉頭鏡検査の結果に基づいて診断が下されます。喉頭鏡検査とは、内視鏡(観察用の柔軟な細い管状の機器)で喉頭を診察することです。
追加で行う検査として、以下のものがあります。
頭、首、胸部のMRIまたはCT検査
甲状腺シンチグラフィー
食道のX線検査(食道造影検査)
治療
手術
麻痺が片側のみの場合は、手術を行い、麻痺した声帯を移動させてできるだけ普通の声を出すのに適した位置へもっていく方法があります。この手術では、麻痺した声帯付近に調節可能なスペーサーを挿入したり、麻痺した声帯に物質を注入したりすることで、両方の声帯を近づけ、声を改善し、誤嚥を予防します。
両側の声帯が麻痺している場合は、気道を十分に開いた状態で維持することは困難です。このため気管切開(首の前方を切って気管に通じる開口部を作る手術)が必要になることがあります。気管切開による開口部は、恒常的に用いる場合と、上気道感染を起こした場合のみ用いる場合があります。
このほか、左右の声帯を永久的に離して気道を広げる披裂(ひれつ)軟骨切除術という方法もあります。しかし、この処置を行うと声の質が悪くなることがあります。
片側または両側の声帯の一部をレーザーで除去する方法は、披裂軟骨切除術よりも好まれ、気道を広げるのに役立ちます。レーザーによる除去が正しく行われれば、声の質が十分に保たれ、気管切開を行わなくても済みます。