顎関節は、頭蓋骨の側頭骨と下あごの骨(下顎骨)とをつないでいる関節です。顎関節は顔の両側に1つずつ、計2つあり、耳のすぐ前に位置しています。靱帯(じんたい)、腱、筋肉がこの関節を支え、あごを動かしています。
顎関節症は、あごの筋肉や関節、またはそれらをつなげている線維性組織の問題が原因で起こります。
症状には、 頭痛 頭痛の概要 頭痛とは、頭部のいずれかの部分(頭皮、首の上部、顔面、頭部の中を含む)に生じる痛みのことです。頭痛は医療機関の受診理由として最も多いものの1つです。 頭痛は仕事や日常生活に支障をきたすこともあります。頭痛が頻繁に起こる人もいれば、めったに起こらない人もいます。 頭痛は重症化して苦痛になることもありますが、重篤な病気が原因であることは多くあ... さらに読む 、咀嚼筋の圧痛、あごの関節のクリック音(カチッやパチッなどの音)などがあります。
通常は病歴聴取と身体診察で診断されますが、ときには画像検査が必要になります。
治療には通常、自助努力による対策と医師主導の対策、口腔内装置による治療(スプリント療法)、鎮痛薬の使用が含まれます。
顎関節は、体にある関節の中でも最も複雑な関節の1つで、蝶番のように開閉できるだけでなく、前後左右と下方にずらすこともできます。食べものを噛んでいる間(咀嚼中)、顎関節には上下の歯の位置と健康状態に応じて大きな圧力がかかることがあり、口を閉じるときには歯が顎関節のドアストッパーのような役割をします。顎関節には関節円板と呼ばれる高密度の繊維性組織があります。この円板が頭蓋骨と下顎骨の間でクッションのような役割を果たしており、頭蓋骨と下顎骨が互いにこすれ合わないようになっています。
顎関節症は、20歳代前半と40~50歳の女性に多い病気です。まれに生まれつき顎関節に異常がある乳児もいます。顎関節症には、関節、筋肉、またはそれらをつなげている帯状の線維性組織(筋膜)の問題などがあります。
あごの脱臼 顎関節脱臼 あごの関節が脱臼すると、一般的には激痛を伴う 急を要する歯科的問題であり、早急な医師または歯科医師による手当てが必要になります。口を閉じることができなくなり、あごが片方へねじれることがあります。あごの脱臼は、けがが原因で起こることもありますが、典型的には口を大きく開きすぎること(例えば、あくび、大きなサンドイッチにかぶりつく、嘔吐、歯科処... さらに読む は歯科救急であり、口が大きく開いて痛み、口を閉じた(上下の歯を合わせた)状態に戻すのが困難になることを特徴とします。
原因
顎関節症はほとんどの場合、顎関節部にある筋肉の緊張と解剖学的な形の問題が組み合わさることによって起こります。ときには心理的な要素も他の要因に加えて存在することがあります。歯の噛みしめと歯ぎしり(ブラキシズム 歯ぎしり 歯ぎしりとは、歯を噛みしめたり上下の歯を擦り合わせることです。歯ぎしりによって、最終的に歯がすり減ったり損傷したりします。この損傷は、 胃食道逆流症(GERD)や 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の人で悪化することが多くあります。人工のクラウン(金、ポーセレン、またはその両方でできたもの)は、折れたり、穴があいたり、損傷したりすることがありますが... さらに読む )、全身にわたる病気(骨減少症 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨密度の低下によって骨がもろくなり、骨折しやすくなる病態です。 加齢、エストロゲンの不足、ビタミンDやカルシウムの摂取不足、およびある種の病気によって、骨密度や骨の強度を維持する成分の量が減少することがあります。 骨粗しょう症による症状は、骨折が起こるまで現れないことがあります。... さらに読む 、自己免疫疾患、遺伝性の骨の病気など)、感染症、けが、 歯並びと噛み合わせの問題 不正咬合 不正咬合(ふせいこうごう)とは、歯並びと上下の歯の噛み合わせが異常な状態のことです。正常な場合は、上あごの歯が下あごの歯の外側にわずかにかぶさります。こうしてかぶさることで、それぞれの歯の突起(咬頭)が反対側の歯の対応するへこみにはまります。適切な歯並びは、最も効果的な咀嚼(そしゃく)に役立ち、さらに噛む力を均等に配分します。正常な咀嚼で... さらに読む
、および常にガムを噛むことでさえ、症状を引き起こすことがあります。具体的な原因には、以下のものがあります。
筋肉の疲労と使い過ぎ、筋筋膜痛症候群につながる
顎関節内障
顎関節炎
顎関節強直症
顎関節の過可動性
筋筋膜痛症候群
あごの周囲の筋肉の痛みと緊張(筋筋膜痛症候群 線維筋痛症 線維筋痛症は、睡眠不足や疲労、意識障害のほか、軟部組織(筋肉、腱、靱帯など)に広がる、うずくような痛みとこわばりを特徴とします。 睡眠不足、ストレス、挫傷、けが、場合によってはある種の性格上の特性によって、線維筋痛症のリスクが高まる可能性があります。 痛みは広範囲にわたり、体の特定の部分を触ると圧痛があります。... さらに読む )は、顎関節部の病気として最もよくみられるものです。痛みと開口制限は、主に筋肉の疲労や使い過ぎによって起こり、これらはときに 上下の歯並びと噛み合わせの問題 不正咬合 不正咬合(ふせいこうごう)とは、歯並びと上下の歯の噛み合わせが異常な状態のことです。正常な場合は、上あごの歯が下あごの歯の外側にわずかにかぶさります。こうしてかぶさることで、それぞれの歯の突起(咬頭)が反対側の歯の対応するへこみにはまります。適切な歯並びは、最も効果的な咀嚼(そしゃく)に役立ち、さらに噛む力を均等に配分します。正常な咀嚼で... さらに読む によって生じますが、多くの場合には、頭や首のけが、精神的ストレス、 睡眠障害 睡眠の概要 睡眠は生存と健康に欠かせませんが、睡眠がなぜ必要で、正確にはどのような効果があるのか、まだ完全には解明されていません。睡眠による効果の1つは、日中の作業効率を回復させることです。 必要な睡眠時間は人によって大きく異なりますが、通常は1日6~10時間です。ほとんどの人は夜に眠ります。しかし、勤務形態に合わせるため昼間に睡眠をとらなければなら... さらに読む によって、また 歯痛 歯痛 歯痛(歯やその周囲の痛み)は一般的な問題で、特に口の衛生状態が悪い人でよくみられます。痛みは、持続的な場合、刺激の後に感じる場合(高温、低温、甘い食べものや飲みもの、噛むこと、歯磨き)、またはその両方の場合があります。 歯痛の最も一般的な原因は以下のものです。 う蝕 歯髄炎 根尖周囲膿瘍 さらに読む によっても生じます。痛みは、あごを大きく開こうとし過ぎたときにも起こります。また筋肉の痛みと緊張は、精神的ストレスや睡眠に関連するストレスがもたらす目覚めている間や就寝中の歯の噛みしめや 歯ぎしり 歯ぎしり 歯ぎしりとは、歯を噛みしめたり上下の歯を擦り合わせることです。歯ぎしりによって、最終的に歯がすり減ったり損傷したりします。この損傷は、 胃食道逆流症(GERD)や 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の人で悪化することが多くあります。人工のクラウン(金、ポーセレン、またはその両方でできたもの)は、折れたり、穴があいたり、損傷したりすることがありますが... さらに読む によっても起こります。歯の噛みしめや歯ぎしりは、目覚めているときよりも就寝中の方がはるかに大きな力がかかります。筋肉の痛みと緊張は女性に多くみられ、一般的には20代前半と閉経期間近かその最中の女性に起こります。
顎関節
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顎関節内障
顎関節内障で最も多いタイプは、顎関節内にある円板が正常な位置よりも前にずれるものです。円板を本来の位置に保持する靱帯が長くなったり、しばしば関節の損傷(靱帯のねんざ)によって伸びたりすると、円板がずれることがあります。
顎関節内障は復位する場合としない場合があります。復位とは関節の一部が元の正常な位置に戻ることを意味します。復位する円板のずれは、復位しないものよりも一般的で、成人の約3分の1に発生します。復位する顎関節内障では、口を閉じているときにだけ円板が正常な位置よりも前にずれます。口が開きあごが前にずれると、しばしばカチッまたはパチッというような音がして、円板がずれて正常な位置に戻ります。口が閉じると、円板は再び前方へずれます。復位しない顎関節内障では、円板がずれて正常な位置に戻ることはなく、口を開くことができる大きさが制限されます。顎関節内障は、顎関節の周囲の炎症(関節包炎)を引き起こすことがあります。顎関節内障は痛みを伴うことも伴わないこともあります。
顎関節炎
顎関節の関節炎は、変形性関節症、関節リウマチ、感染性関節炎、けが(特に関節内の出血を引き起こすもの)によって起こることがあります。そのようなけがは、あごを直接ぶつけたか、下あごの側面をぶつけた小児に非常に多くみられます。
変形性関節症 変形性関節症 変形性関節症は軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患で、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とします。 関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢に伴い、非常によくみられるようになります。 痛みや腫れ、骨の過剰な増殖がよくみられ、起床時や動かずにいた後に生じて30分以内に治まるこわばり(特に関節を動かしていると治まりやすい)も一... さらに読む は、関節の軟骨が変性する関節炎の一種で、50歳以上の人で最も多くみられます。顎関節の変形性関節症では、線維性の関節円板と関節内にある骨との間の関節が再構築(リモデリング)され、変形(変性変化)します。変形性関節症は、関節の円板の位置がずれていたり、円板に穴があいていたりする場合に起こります。
関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。... さらに読む は、体が自分の細胞を攻撃して炎症を起こす自己免疫疾患で、顎関節炎の患者のうち約17%で顎関節に関節リウマチが発生しています。通常、顎関節は関節リウマチが最も起こりにくい部位です。
感染性関節炎 感染性関節炎 感染性関節炎は、関節液や関節組織の感染症で、通常は細菌感染が原因ですが、ウイルスや真菌の感染によって起こることもあります。 細菌、ウイルス、真菌は、血流を介して、または近くの感染部位から関節に入り、感染症を引き起こすことがあります。 通常は、数時間ないし数日以内に痛みや腫れ、発熱が生じます。... さらに読む は、感染が頭や首の隣接領域から顎関節に広がったり、体のほかの部分から血流に乗って顎関節に運ばれたりして発生します。
外傷性関節炎は、けが(難しい抜歯の際にあごを大きく開いたときなど)によって生じるまれな関節炎です。
顎関節強直症
顎関節強直症とは、顎関節内部の骨の線維化(瘢痕化)や癒着、または周囲の靱帯の石灰化(体の組織内にカルシウムが沈着すること)によって、あごの関節が動かなくなった状態のことです。顎関節強直症は、ほとんどの場合けがまたは感染が原因で発生しますが、出生時からみられたり、関節リウマチの結果として起こったりすることもあります。
顎関節の過可動性
顎関節を連結している靱帯が二重関節のように過度に長くなると、顎関節の過可動性(あごがゆるい状態)が生じます。過可動性が生じると、関節の形状、靱帯のゆるみ(弛緩)、筋肉の緊張によって、通常は顎関節が脱臼します。口を無理に大きく開けようとしたり、あごをぶつけたりしたことが原因で発生することがあります。
症状
顎関節症の症状には、頭痛、咀嚼筋の圧痛、顎関節のカチッまたはパチッというような音、開口障害などがあります。痛みは、関節の内部ではなく、関節の近くで起こっていように感じられることもあります。頭痛が繰り返し起こり通常の薬物療法が効かない場合は、顎関節症が原因である場合があります。その他の症状としては、首と肩の痛みとこわばり、めまい、耳の痛み、耳詰まり、睡眠障害などがあります。
顎関節症があると、しばしば口を大きく開くことができません。例えば、顎関節症がない人のほとんどは、上下の前歯の間に人差し指・中指・薬指の指先を縦に3本そろえて無理なく口に入れることができます。顎関節症(過可動性がある場合は例外)がある人は、通常もっと小さくしか開きません。
筋筋膜痛症候群
目覚めた直後や日中にストレスの多い時間を過ごした後などに、筋肉の痛みがある場合は、顔の側面に痛みとこわばりを感じることがあります。就寝中の 歯の噛みしめや歯ぎしり 歯ぎしり 歯ぎしりとは、歯を噛みしめたり上下の歯を擦り合わせることです。歯ぎしりによって、最終的に歯がすり減ったり損傷したりします。この損傷は、 胃食道逆流症(GERD)や 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の人で悪化することが多くあります。人工のクラウン(金、ポーセレン、またはその両方でできたもの)は、折れたり、穴があいたり、損傷したりすることがありますが... さらに読む 、 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に長い呼吸停止が繰り返し起こって眠りが妨げられる重篤な病気で、しばしば一時的に血液中の酸素レベルが低下して二酸化炭素濃度が上昇することもあります。 睡眠時無呼吸症候群の患者は、日中でも強い眠気を催し、睡眠中には大きないびきをかいて、あえぎや息詰まり、呼吸停止などを起こし、荒い鼻息とともに突然目を覚ますことがよく... さらに読む などの睡眠呼吸障害によって、頭痛を伴って目が覚めることがあり、この頭痛は日中徐々に消えていきます。しかし、目覚めている間に歯の噛みしめや歯ぎしりを続けると、目覚めている間にも頭痛などの症状が起きることがあります。あごを開くときに、あごが左右のどちらかへ少しずれたり、完全には開かなかったりすることがあります。一般的には咀嚼筋に痛みがあり、触れると圧痛を感じます。
顎関節内障
関節円板の前方へのずれが復位する(元の位置に戻る)顎関節内障では通常、口を大きく開けたりあごを左右に動かしたときに、関節の位置でカチッまたはパチッというような音(クリック音)がします。ときに、本人以外の人にそうした音が聞こえることがあります。多くの人ではこうした音の症状しか出ません。しかし、なかには痛みを感じる人もいて、特に硬い食べものを噛むと痛みが出ます。ごく一部の人では、こうした音から進行して開口障害が起こります。
関節円板の前方へのずれが復位しない(元の位置に戻らない)顎関節内障では、音はしませんが、口を大きく開けるのが難しくなります。通常は、痛みのほか、顎関節がずれている感覚が生じます。このタイプの顎関節内障は、典型的には、常に関節のクリック音(関節円板の前方へのずれが復位する)がある人に突然始まります。ときに、あごを十分に開くことができないことに起床時に本人が気づくことがあります。6~12カ月後には、痛みが軽減することがあり、口を開ける大きさが制限された状態が解消されることもあります。
顎関節炎
変形性関節症 変形性関節症 変形性関節症は軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患で、痛み、関節のこわばり、機能障害を特徴とします。 関節の軟骨と周囲の組織の損傷による関節炎は、加齢に伴い、非常によくみられるようになります。 痛みや腫れ、骨の過剰な増殖がよくみられ、起床時や動かずにいた後に生じて30分以内に治まるこわばり(特に関節を動かしていると治まりやすい)も一... さらに読む は、主に顎関節の円板がずれていたり円板に穴があいていたりする場合に起こるため、患者は口を開閉する際に顎関節がきしむような感覚を覚え、しばしばきしむような音が聞こえます。こわばり、軽度の痛み、またはそれらが組み合わさって起こることがあります。重症の場合、顎骨の上部が平らにつぶれてしまい、大きく口が開かなくなります。さらにあごが障害のある側へずれることがあり、本人には戻せなくなることがあります。患者は、正常な側の上下の歯の噛み合わせが変化していることに気づくことがあります。
関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。... さらに読む は、痛み、腫れ、動きの制限を引き起こします。関節リウマチでは、通常は左右両方の顎関節がほぼ同程度に侵されますが、これは他のタイプの顎関節症ではまれな現象です。関節リウマチが重症の場合、特に小児で、顎骨の上部が変性して短くなり、顔面が変形します。この損傷のために、突然、上下の歯の大部分または全部の 歯並びが乱れる 不正咬合 不正咬合(ふせいこうごう)とは、歯並びと上下の歯の噛み合わせが異常な状態のことです。正常な場合は、上あごの歯が下あごの歯の外側にわずかにかぶさります。こうしてかぶさることで、それぞれの歯の突起(咬頭)が反対側の歯の対応するへこみにはまります。適切な歯並びは、最も効果的な咀嚼(そしゃく)に役立ち、さらに噛む力を均等に配分します。正常な咀嚼で... さらに読む
ことがあります。まれではありますが、損傷がひどいと、最終的に顎骨が頭蓋骨に癒着することがあります(顎関節強直症)。
感染性関節炎 感染性関節炎 感染性関節炎は、関節液や関節組織の感染症で、通常は細菌感染が原因ですが、ウイルスや真菌の感染によって起こることもあります。 細菌、ウイルス、真菌は、血流を介して、または近くの感染部位から関節に入り、感染症を引き起こすことがあります。 通常は、数時間ないし数日以内に痛みや腫れ、発熱が生じます。... さらに読む では、顎関節上の部分とその周囲に炎症が起き、あごの動きが制限され、動かすと痛みがあります。
外傷性関節炎は、痛み、圧痛、動きの制限を引き起こします。
顎関節強直症
一般的には、顎関節周囲の靱帯と骨が癒着する顎関節外強直症では痛みは起こりませんが、口が約2.5センチメートル未満しか開かなくなります。一方、関節内部の骨が癒着する関節内強直症では、痛みが起きてあごの動きがさらにひどく制限されます。
顎関節の過可動性
過可動性がある場合、あごが関節窩から完全に外れて前方へ移動する脱臼が起こることがあり、それによって痛みが起きて口が閉まらなくなります。 脱臼 顎関節脱臼 あごの関節が脱臼すると、一般的には激痛を伴う 急を要する歯科的問題であり、早急な医師または歯科医師による手当てが必要になります。口を閉じることができなくなり、あごが片方へねじれることがあります。あごの脱臼は、けがが原因で起こることもありますが、典型的には口を大きく開きすぎること(例えば、あくび、大きなサンドイッチにかぶりつく、嘔吐、歯科処... さらに読む は突然に、繰り返し起こることがあります。
診断
歯科医師または医師による評価
ときに画像検査
感染性関節炎の場合、体液の吸引
ときに睡眠ポリグラフ検査(睡眠検査)
ほとんどの場合、顎関節症は病歴、歯科治療歴、および身体診察の結果のみに基づいて診断が下されます。診察の一部として、あごを開いたり閉じたりしてもらいながら、患者の顔の横をやさしく押したり、患者の耳に小指を入れて前方に押したりして、あごのひっかかりやカチッまたはパチッというような音や感触がないか確認します。医師はさらに、咀嚼筋をそっと押して痛みや圧痛がないかどうかを調べ、患者がものを噛むときにあごがスライドするかどうかについても注目します。患者は不快感のない範囲でできるだけ口を大きく開けるように指示されます。平均的な身長の人では口を約4センチメートル以上開くことができます。
顎関節内障が疑われる場合は、さらに検査が行われることがあります。MRI(磁気共鳴画像 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含... さらに読む )検査が標準検査で、この検査で顎関節内障が起こっているかどうかや、処置や治療で効果が得られない理由が評価されます。
口を開けると、きしむような音(捻髪音[ねんぱつおん])が聞こえる場合、医師は変形性関節症を疑います。 X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 コンピュータ断層撮影(CT)などの他の手法と組み合わせて使用することもあり... さらに読む とCT(コンピュータ断層撮影 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピ... さらに読む )検査で診断を確定できます。
顎関節上の部分やその周囲に炎症が起きていたり、顎関節の動きに制限があり動かすと痛みがある場合は、感染性関節炎が疑われます。体のほかの部分に感染が起きていれば、それも診断の手がかりになります。感染性関節炎の診断を確定するために、穿刺針を顎関節に差しこんで中の液を吸引し、細菌の有無を確認するための分析が行われます。
原因が過可動性の場合、一般的には指3本分の幅より広く口を開くことができます。あごが慢性的に脱臼していることがあります。原因が顎関節強直症の場合、あごの可動域が著しく減少している傾向があります。
処置/治療
口腔内装置による治療と鎮痛薬
自助努力による対策
ときに理学療法
ときに手術
ときにその他の薬(筋弛緩薬、睡眠補助薬、ボツリヌス毒素など)
処置や治療は、原因に応じて大きく異なります。口腔内装置(スプリントやマウスピース)による治療と、 非ステロイド系抗炎症薬 非ステロイド系抗炎症薬 基礎疾患を治療することで、痛みを解消したり最小限に抑えたりできるケースがあります。例えば、骨折をギプスで固定することや、感染を起こした関節に抗菌薬を投与することは、鎮痛に役立ちます。しかし、痛みの基礎疾患が治療可能な場合でも、痛みに速やかに対処するために痛み止め(鎮痛薬)が必要になる場合もあります。... さらに読む (NSAID)などの鎮痛薬の2つが一般的な方法です。
筋筋膜痛症候群
あごの筋肉の痛みと緊張に対しては、通常は口腔内装置が主な処置です。歯の噛みしめや歯ぎしりがあると気づいている人には、その癖を直すために口腔内装置による治療が役立ちます。歯科医師が、合成樹脂製の薄い口腔内装置を上顎の歯か下顎の歯にぴったり合うように作製し、噛み合わせが均等になるように調整します。口腔内装置は通常睡眠中に装着し(ナイトガード)、多くの場合、それによって歯ぎしりや歯の噛みしめが減り、あごの筋肉を休めて回復させます。目覚めている間の痛みに対しても、口腔内装置を装着することであごの筋肉がゆるんだ状態が保たれ、噛み合わせが安定し、不快感を減らすことができます。口腔内装置はさらに、歯ぎしりや歯の噛みしめによる過剰な負荷によって歯が損傷することも防げます。目覚めている間に使用する口腔内装置は、症状が治まるまで装着します(通常は8週間以内)。症状の重症度に応じて、それ以上長く使用する必要が生じることがあります。
自助努力による対策
痛みを和らげ、正常な機能を回復させるためには、自助努力による対策を講じるべきです。
軟らかい食事に切り替えたり、食べものを細かく切ったり、ゆっくりと噛んだり、口を大きく開けないようにしたりすると、筋肉の緊張や顎関節への負荷が軽減します。
目覚めている間に上下の歯を離しておくことが、歯の噛みしめや歯ぎしりの癖を直すのに役立ち、また、筋肉の緊張や顎関節への負荷を軽減できます。
悪い姿勢を正すのを忘れないようにするための方法を体系化しておくと、あごや首、肩の筋肉が回復するのに役立ちます。
適切な睡眠行動 睡眠衛生 睡眠関連の問題で最も多い訴えは、不眠症と日中の過度の眠気です。 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。... さらに読む に従い、静かで快適な環境で同じ時間に就寝することなどにより、痛みが軽減し、体が回復します。
疲労した筋肉に湿気と温熱を加えることも役立ちます。
理学療法
理学療法も処方されることがあります。理学療法では、超音波治療、筋電図によるバイオフィードバック法(筋肉を弛緩させる訓練)、スプレー・アンド・ストレッチ運動(冷却剤のスプレーや氷で痛みがある部分の皮膚をしびれさせてから、あごをストレッチして開かせる)が行われることがあります。経皮的電気神経刺激(TENS—コラム 「 あごの筋肉に対する理学療法 あごの筋肉に対する理学療法 」を参照)も役に立つことがあります。ときに筋電図バイオフィードバック法(コラム 「 あごの筋肉に対する理学療法 あごの筋肉に対する理学療法
」を参照)と併せて行うストレス管理と、カウンセリングが、一部の患者の助けになります。
薬物療法
薬物療法も役立つことがあります。例えば、シクロベンザプリン(cyclobenzaprine)などの筋弛緩薬が筋肉の緊張と痛みを鎮めるために処方されることがあります。ベンゾジアゼピン系の薬(抗不安薬ですが筋肉も弛緩させます)を症状緩和のために就寝時に一時的に使用する場合もあります。ただし、そのような薬に顎関節症を治癒させる効果はなく、高齢者への使用は一般に推奨されず、短期間に限って処方されます(通常は1カ月以内)。アセトアミノフェンやその他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などの鎮痛薬でも、痛みを和らげるのに役立つことがあります。オピオイド鎮痛薬は、治療がある程度の期間必要となることがあり、依存性が生じることがあるため、処方されません。睡眠補助薬(鎮静薬)は、痛みのためによく眠れない場合に短期間使用されることがあります。 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に長い呼吸停止が繰り返し起こって眠りが妨げられる重篤な病気で、しばしば一時的に血液中の酸素レベルが低下して二酸化炭素濃度が上昇することもあります。 睡眠時無呼吸症候群の患者は、日中でも強い眠気を催し、睡眠中には大きないびきをかいて、あえぎや息詰まり、呼吸停止などを起こし、荒い鼻息とともに突然目を覚ますことがよく... さらに読む などの睡眠障害の可能性がある人の場合、ベンゾジアゼピン系の薬や鎮静薬(市販の睡眠補助薬を含む)、筋弛緩薬は睡眠障害を悪化させることがあるため、これらの薬を使用する前には主治医に相談する必要があります。筋肉へのボツリヌス毒素の注射や、筋肉のトリガーゾーンへの麻酔薬注射が筋肉のけいれんと痛みを軽減するために用いられています。
慢性的な痛みがある場合は、抗うつ薬が有用です。
どの処置や治療法でも、ほとんどの人の症状が約3カ月以内にかなり改善します。症状がひどくなければ、多くの人は処置や治療を受けなくても回復します。
顎関節内障
顎関節内障の人では、顎関節のずれが元に戻る、戻らないにかかわらず、あごに痛みがあるか、あごがよく動かない場合にだけ処置が必要です。痛みに対してはNSAIDがしばしば投与されます。症状が現れてからすぐに診察を受ければ、歯科医師または医師が外れた関節円板を手で正常な位置に戻せることがあります。発症後3~6カ月以内であれば、下あごを前方の位置で保ち、関節円板の位置を固定し、顎関節を支えている靱帯が締まり痛みがなくなるようにするための前方整位型の口腔内装置が使用されることがあります。関節円板がそのままずれないことを期待しながら、2~4カ月間かけてあごが正常な位置に戻るように口腔内装置を調節します。しかし、円板がずれている時間が長ければ長いほど、正常な位置に戻る可能性が低くなります。
顎関節内障がある人は、顎関節のずれが元に戻る、戻らないにかかわらず、例えばあくびをしたり、分厚いサンドイッチをほおばるなど、口を大きく開けないようにする必要があります。これは顎関節が正常な場合と比べて、そのような動きに弱いためです。この障害がある人は、食べものを小さく切ったり、簡単に噛めるものを食べるように指導されます。
ときに、ずれた関節円板が顎関節の前でつかえてしまい、あごが十分に開かなくなることがあります。その場合は、関節円板をつかえた場所から手でさらに動かし、顎関節が十分に動けるようにする必要があります。あごの動きを徐々に改善するために、あごのストレッチを行う受動運動装置が使用されています。この装置を用いたストレッチは、1日に数回行われます。この装置のうち、ねじ式のタイプは前歯の間に入れて使用し、ちょうど車のジャッキのようにねじを回して、関節円板を徐々にゆっくり前方に押し出すことで、口を大きく開けていきます。こうした装置が使用できない場合は、医師は前歯の間に何枚か重ねた舌圧子(へら)を挟み、さらにそれらの間に舌圧子を追加して、少しずつ口の開きを大きくしていくことがあります。
顎関節内障を手術以外の方法で治療できない場合は、顎顔面口腔外科医が手術を行う必要があります。しかしながら、 関節鏡視下手術 関節鏡検査 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断することがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、臨床検査、画像検査、またはその他の診断方法が必要になることがあります。 臨床検査は、筋骨格系の病気の診断にしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液を試験管に入れたときに赤血球が沈む速度を測定する検... さらに読む などが導入されて以来、従来型の手術が必要になることはまれです。すべての手術は、口腔内装置による治療、自助努力による対策、歯科医師または医師による管理と組み合わせて行われます。
顎関節炎
変形性関節症が顎関節に起きている場合は、あごをなるべく休ませ、筋肉の緊張を抑えるために口腔内装置やその他の装置を使用し、痛みに対して鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDなど)を服用する必要があります。通常、処置や治療をしてもしなくても6カ月後には痛みが消えます。処置や治療をしない場合でさえほとんどの症状は治まりますが、これはおそらく、関節円板の後ろにある帯状の組織が瘢痕化(はんこんか)して、関節円板と同じように機能するためです。あごは以前ほど開かなくなることがありますが、通常は普通の動作を行うには十分に動きます。口腔内装置は通常、就寝中に使用しますが、目覚めているときに使用することもあります。
関節リウマチが顎関節に生じている場合は、どの関節の 関節リウマチにも使用される薬 関節リウマチの薬 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。... さらに読む で治療が行われます。ひどい痛みに対してはNSAIDが投与されることがあります。顎関節の可動性を維持し関節の癒着を予防することが特に重要です。通常は、理学療法士の指示の下であごの運動を行うのが、目標達成のための最良の方法です。症状を軽減するため、特に筋肉の緊張を和らげるために、就寝中に口腔内装置を装着します。関節癒着のためにあごの動きが完全に妨げられている場合は、手術が必要になることがあり、まれですが、あごの可動性を回復させるために人工関節が必要になることもあります。
感染性関節炎は、抗菌薬、適切な水分補給、痛みのコントロール、動かさないようにすることによって治療が行われます。通常最初に使用される抗菌薬はペニシリンで、検査の結果から細菌の種類と最適な抗菌薬が判明するまで用いられます。関節に膿がたまっている場合は、穿刺針で除去することがあります。感染が抑えられれば、瘢痕化の予防と動きの制限の予防を助けるために開口訓練を行います。
外傷性関節炎は、NSAIDとコルチコステロイド(炎症を軽減し、腫れ、発赤、痛みなどの症状を緩和する薬)、温熱、柔らかい食事、あごを動かさないようにすることによって治療が行われます。
顎関節強直症
ときに、開口訓練が役立つこともありますが、骨の癒着がある人には通常、あごの可動性を回復させるための手術が必要であり、その後、手術による矯正を維持するために、数カ月から数年にわたって訓練を続ける必要があります。
顎関節の過可動性
顎関節の過可動性によって起こる顎関節脱臼の予防と治療は、他の原因による 顎関節脱臼 顎関節脱臼 あごの関節が脱臼すると、一般的には激痛を伴う 急を要する歯科的問題であり、早急な医師または歯科医師による手当てが必要になります。口を閉じることができなくなり、あごが片方へねじれることがあります。あごの脱臼は、けがが原因で起こることもありますが、典型的には口を大きく開きすぎること(例えば、あくび、大きなサンドイッチにかぶりつく、嘔吐、歯科処... さらに読む の場合と同様に行われます。脱臼が起こった場合には、あごを元の位置にはめ直すために人の手を借りなければならないことがあります。しかし、何度も脱臼する人の多くは、意識的に筋肉を緩め、下顎が元の位置にカチッとはまるまで軽く動かしていき、自分で顎関節を元の位置に戻す方法を覚えます。脱臼の再発を予防するために、医師が関節に何からの物質(例えば、血液)を注入して瘢痕化を引き起こし、可動性を低下させることがあります。脱臼の再発を予防するために、顎関節周囲の骨を整形する手術か、靱帯を締める手術が必要になることもあります。