この自己免疫疾患では、小麦、ライ麦または大麦を原料とする食品に含まれるグルテンという物質が免疫系を刺激して皮膚を攻撃させます。
体の様々な部位に、かゆみを伴う赤い水疱とじんま疹のような腫れが生じます。
疱疹状皮膚炎の診断は、皮膚のサンプルを顕微鏡で調べることによって下されます。
通常は、ジアフェニルスルホンまたはスルファピリジンの投与とグルテン除去食による治療で効果が得られます。
(水疱ができる病気の概要 水疱ができる病気の概要 水ぶくれ(水疱、小さい場合は小水疱)とは、死んだ皮膚でできた非常に薄い膜の下に液体がたまってできる膨らみです。この液体は、損傷を受けた組織からにじみ出てきた水分とタンパク質が混ざったものです。水疱は多くの場合、熱傷や刺激など特定の損傷に対する反応として生じ、通常は皮膚の最も外側の層だけに発生します。このような水疱は速やかに治癒し、通常は瘢... さらに読む も参照のこと。)
体の 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む は、細菌やウイルスなどの有害な外来の侵入物から体を守る特殊な細胞を作り出します。このような細胞の一部は、抗体と呼ばれるタンパク質を作り出すことで侵入物に反応します。 抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む は侵入物を標的にして結合し、免疫系の他の細胞を引き寄せて、侵入物を破壊します。 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む では、体の免疫系が誤って自分の体の組織、この場合は皮膚を攻撃してしまいます。作られた抗体が自分の組織を侵入物として誤って認識することで、その組織が破壊されやすくなります。
疱疹状皮膚炎は若い成人に発生することが多い病気ですが、小児や高齢者にも発生することがあります。黒人やアジア系の人ではまれです。
その病名とは裏腹に、疱疹状皮膚炎はヘルペスウイルスとは無関係です。疱疹状という用語は、水疱が密集して生じる様子(一部のヘルペスウイルスが引き起こす発疹に似た状態)を表すものです。
疱疹状皮膚炎では、小麦、ライ麦または大麦を原料とする食品に含まれるグルテン(タンパク質の一種)によって免疫系が何らかの形で活性化され、活性化した免疫が皮膚の一部を攻撃することで、発疹やかゆみが生じます。疱疹状皮膚炎を発症した人は、グルテンに対する過敏性が原因で生じる腸の病気であるセリアック病 も併発していることが多いですが、 セリアック病 セリアック病 セリアック病は、小麦や大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症であり、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、 吸収不良が生じます。 タンパク質のグルテンの摂取後に、腸の粘膜に炎症が生じます。 症状としては、成人では下痢、低栄養、体重減少などがあります。 小児でみられる症状としては、腹部膨満、非常に強い悪臭がする大量の便、成長不良などがあります。 診断は、典型的な症状と小腸の粘膜から採取した組織サンプルの検査結果に基づ... さらに読む による症状が認められない場合もあります。さらに他の自己免疫疾患、具体的には 甲状腺炎 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎は、甲状腺に慢性的な自己免疫性の炎症が生じる病気です。 橋本甲状腺炎は、体内の抗体が自身の甲状腺の細胞を攻撃すること(自己免疫反応)で発生します。 最初、甲状腺は正常に機能していることもあれば、活動が不十分なこともあり(甲状腺機能低下症)、まれですが活動が過剰になっていること(甲状腺機能亢進症)もあります。 ほとんどの人が最終的に甲状腺機能低下症になります。 甲状腺機能低下症では通常、疲労を感じ、寒さに耐えられなくなります。 さらに読む 、 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む 、 サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスとは、体の多くの器官に炎症細胞の異常な集積(肉芽腫[にくげしゅ])がみられる病気です。 サルコイドーシスは、一般に20~40歳で発生し、欧州系の人やアフリカ系アメリカ人に最も多くみられます。 多くの器官が侵される可能性がありますが、肺に最もよくみられます。 典型的な症状はせきや呼吸困難ですが、侵される器官に応じて様々な症状... さらに読む 、 悪性貧血 ビタミンB12欠乏症 ビタミンB12欠乏症は、サプリメントを摂取しない完全な菜食主義者に発生したり、吸収障害の結果として発生することがあります。 貧血が起こり、蒼白、筋力低下、疲労が生じ、重度の場合には息切れやめまいも起こります。 重度のビタミンB12欠乏症によって神経の損傷が起きることがあり、手足のピリピリ感や感覚消失、筋力低下、反射消失、歩行困難、錯乱、認知症が起こります。 ビタミンB12欠乏症の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む 、 糖尿病 糖尿病と糖代謝異常 などの発生率も高くなります。疱疹状皮膚炎の患者では、ときに 腸にリンパ腫 小腸がん 血便がよくみられる症状ですが、がんによって腸がふさがれ、けいれん性の腹痛や嘔吐が生じることがあります。 診断は、ゾンデ法による小腸造影検査、内視鏡検査、バリウムX線検査など様々な腸の観察方法の結果に基づいて下されます。 手術による切除が最善の治療法です。 小腸の悪性腫瘍(がん)は非常にまれで、米国での1年間の発症者数は約11,110人、死亡者数は1700人です。 小腸のがんで最も一般的な種類は腺がんです。腺がんは小腸粘膜の腺細胞に生じる... さらに読む が発生することもあります。
疱疹状皮膚炎の症状
疱疹状皮膚炎の診断
皮膚生検
疱疹状皮膚炎の診断は 皮膚生検 生検 皮膚の病気には、医師が皮膚を観察しただけで特定できるものが数多くあります。全身の皮膚の診察には、頭皮、爪、粘膜の診察も含まれます。ときに、皮膚の一部を詳細に観察するために、手持ち式の拡大鏡やダーモスコープ(拡大レンズと内蔵式のライトを備えた器具)を使用することもあります。 診断につながる特徴としては、皮膚に現れている異常部分の大きさ、形、色、部位に加え、その他の症状や徴候の有無があります。皮膚の異常の広がりを調べるため、しばしば衣服をす... さらに読む の結果に基づいて下されますが、この検査では皮膚のサンプルに特定の種類の抗体が特徴的なパターンで認められます。
疱疹状皮膚炎の治療
グルテン除去食
ジアフェニルスルホンのほか、ときにその他の薬
水疱は治療しない限り治りません。通常は、日々の食事をグルテン除去食(小麦、ライ麦、大麦を含まない食事)にしますが、これは セリアック病の主な治療法 治療 セリアック病は、小麦や大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症であり、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、 吸収不良が生じます。 タンパク質のグルテンの摂取後に、腸の粘膜に炎症が生じます。 症状としては、成人では下痢、低栄養、体重減少などがあります。 小児でみられる症状としては、腹部膨満、非常に強い悪臭がする大量の便、成長不良などがあります。 診断は、典型的な症状と小腸の粘膜から採取した組織サンプルの検査結果に基づ... さらに読む です。
ジアフェニルスルホンという薬を内服すると、ほぼ常に1~3日で症状が改善されますが、ダプソン(dapsone)は貧血を引き起こす可能性があるため、血球数の測定(血算)を定期的に行う必要があります。スルファピリジン(または代わりにサラゾスルファピリジン)の内服も行われ、ジアフェニルスルホンの副作用に耐えられない患者に対して投与されることがあります。しかし、スルファピリジンは貧血や白血球の減少(感染のリスクが高まります)を引き起こすことがあるため、定期的な血球数の測定(血算)も必要になります。
薬の服用と厳密なグルテン除去食を続け、症状がコントロールできるようになれば、薬物治療を中止できる場合もあります。ただし、一部には薬の服用を中止できない人もいます。また、ほとんどの人は、たとえ少量でもグルテンを摂取すると症状が突然再発します。グルテン除去食を5~10年にわたり厳密に守ることで、 腸管リンパ腫 小腸がん 血便がよくみられる症状ですが、がんによって腸がふさがれ、けいれん性の腹痛や嘔吐が生じることがあります。 診断は、ゾンデ法による小腸造影検査、内視鏡検査、バリウムX線検査など様々な腸の観察方法の結果に基づいて下されます。 手術による切除が最善の治療法です。 小腸の悪性腫瘍(がん)は非常にまれで、米国での1年間の発症者数は約11,110人、死亡者数は1700人です。 小腸のがんで最も一般的な種類は腺がんです。腺がんは小腸粘膜の腺細胞に生じる... さらに読む の発生リスクが低下します。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders):参考資料や支援組織へのリンクを含めた疱疹状皮膚炎に関する情報