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敗血症と敗血症性ショック

執筆者:

Joseph D Forrester

, MD, MSc, Stanford University

レビュー/改訂 2021年 9月
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やさしくわかる病気事典

敗血症は、 菌血症 菌血症 菌血症とは、血流の中に細菌が存在する状態のことです。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、もしくは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因で起きることがあります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器の中で細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります... さらに読む やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加えて、体の重要な臓器に機能不全が起きている状態です。敗血症性ショックは、敗血症のために生命を脅かすほどの血圧の低下(ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む )と臓器不全が起きている病態です。

  • 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内での感染が多くみられます。

  • 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件に当てはまると、リスクが高くなります。

  • まず、体温の上昇(または体温の低下)がみられ、ときに悪寒戦慄や脱力もみられます。

  • 敗血症が悪化すると、心拍と呼吸が速くなり、錯乱をきたし、血圧が低下します。

  • 医師は症状に基づいて敗血症を疑い、血液や尿などのサンプル中の細菌を確認することによって診断を確定します。

  • 抗菌薬を速やかに投与するとともに、酸素吸入と輸液を行い、ときには血圧を上昇させる薬も使用します。

通常、感染に対する体の反応は感染が起きている部位に限定され、例えば、尿路感染症の症状は、たいていは膀胱に限定されてみられます。しかし敗血症では、感染に対する反応が全身で起こります(全身性反応と呼ばれます)。

この反応では、異常な体温上昇(発熱 成人の発熱 発熱は、体の自動体温調節機能(脳の 視床下部にあります)が正常より高い温度に再設定されることで起こる体温の上昇であり、主に感染に対する反応によるものです。視床下部の体温設定値(セットポイント)の再設定によって引き起こされたものではない体温の上昇は、 高体温症と呼ばれます。 37℃前後が平熱とされますが、体温は1日を通じて変動します。早朝で最も低く、夕方に最も高くなって37.7℃前後まで上がることもあります。同様に発熱の場合も、一定の温度... さらに読む )または体温低下(低体温症 低体温症 低体温症(危険なほど体温が低下した状態)は、寒冷な環境にさらされることによって発生したり悪化したりするため、 寒冷障害と呼ばれることが多くあります。 非常に寒い環境に身を置いたり、特定の病気があったり、動くことができない状況にある場合、低体温症による害が生じるリスクが高くなります。 最初はふるえが起こりますが、その後、錯乱状態となり、意識を失います。 体温が下がりきってしまう前に、体を温めて濡れた衣類を乾かすことができれば、回復します。... さらに読む )に加えて、以下のような症状がみられます。

このような症状を全身に引き起こす感染症も多くありますが、敗血症では臓器の機能が低下し始めるとともに、体の一部で血流不足が起こります。

敗血症性ショックは、敗血症のために危険な水準まで血圧が低下している状態(ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む )です。その結果、肺、腎臓、心臓、脳などの内臓に、多くの場合十分な血液が供給されなくなり、結果、内臓が機能不全に陥ります。敗血症性ショックは、集中的な治療と輸液を行っても血圧が低いままであれば診断されます。敗血症性ショックは生命を脅かす状態です。

敗血症および敗血症性ショックの原因

  • サイトカインによって血管が拡張し、血圧が低下します。

  • サイトカインによって臓器内部の毛細血管の血液が凝固します。

ほとんどの場合、敗血症は特定の細菌(通常は病院内で感染する細菌)に感染することで起こります。まれに、カンジダ(Candida)などの真菌が敗血症を引き起こすこともあります。敗血症につながる感染は主に、肺、腹部、または尿路から始まります。ほとんどの場合、これらの感染が敗血症につながることはありません。しかし細菌が血流に入ると(菌血症 菌血症 菌血症とは、血流の中に細菌が存在する状態のことです。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、もしくは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因で起きることがあります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器の中で細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります... さらに読む と呼ばれる状態)、敗血症になる可能性があります。感染初期に膿瘍がみられる場合は、菌血症と敗血症のリスクが高まります。 毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群とは、発熱、発疹、危険なレベルの低血圧、複数の臓器不全など、進行が速い重度の症状の一群を指します。これは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やA群レンサ球菌といった グラム陽性球菌(図「 細菌の形状」を参照)が作る毒素によって引き起こされます。 高吸水性のタンポンの使用や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus... さらに読む などの場合には、血流に入っていない細菌が放出した毒素によって敗血症になることがあります。

敗血症および敗血症性ショックの合併症

血圧の低下と複数の小さな血栓が、以下のような一連の有害な合併症につながることがあります。

これらの作用はすべて、以下のように内臓の機能不全が悪化していく悪循環を生じさせます。

  • 腎臓から尿がほとんどまたはまったく排出されなくなり、血液中に代謝性老廃物(尿素窒素など)が蓄積します。

  • 血管の壁から体液が組織内に漏れやすくなり、浮腫が起こります。

  • 肺の血管から体液がしみ出し、それが蓄積して呼吸が困難になり、肺機能が悪化します。

敗血症および敗血症性ショックの危険因子

重篤な感染症に対する抵抗力が低下する条件に該当する人では、敗血症のリスクが高まります。そのような条件としては、以下のものがあります。

血流に細菌が入りやすい状況にある人でも、リスクが高くなります。具体的には、医療器具を体内に挿入している人(静脈や尿路にカテーテルを入れている人や、ドレナージや呼吸のためのチューブを使用している人など)が該当します。医療器具を挿入する際に、細菌が体内に入り込むことがあります。また、細菌がこうした器具の表面に集まって、感染や敗血症を起こしやすくすることもあります。器具が留置される時間が長くなるほど、リスクは高まります。

ほかにも以下のような場合に敗血症のリスクが高まります。

敗血症および敗血症性ショックの症状

ほとんどの場合、発熱がみられますが、体温の低下がみられる場合もあります。悪寒戦慄や脱力がみられることもあります。このほかにも、最初に起きた感染の種類と部位に応じた症状もみられます(例えば、肺炎の人では、せき、胸の不快感、呼吸困難など)。呼吸、心拍、またはその両方が速くなることがあります。

敗血症が悪化すると、錯乱をきたし、覚醒レベルが低下します。皮膚は熱をもち、赤みを帯びます。脈拍が速くなり、動悸が起こり、呼吸が速くなります。尿の回数と量が少なくなり、血圧が低下します。その後、多くの場合、体温が正常値より低くなり、呼吸が非常に困難になります。血流減少のため、皮膚が冷たく青白くなり、斑点ができたり青く変色したりします。血流減少によって生命維持にかかわる臓器(腸など)を含む組織が壊死し、その結果 壊疽 ガス壊疽 ガス壊疽(えそ)は、嫌気性細菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)をはじめとするクロストリジウム属の細菌によって筋肉組織に起こる、生命を脅かす感染症です。 ガス壊疽は特定の手術を受けた後やけがをした後に発生することがあります。 気泡を伴う水疱が感染部位の周辺に発生するとともに、発熱や心拍数と呼吸数の増加がみられ、感染部位はしばしば痛みを伴います。... さらに読む (えそ)が起こります。

敗血症性ショックが起これば、治療しても血圧が低下します。死亡する場合もあります。

敗血症および敗血症性ショックの診断

  • 血液サンプルの培養

  • 感染巣を特定する検査(通常は、胸部X線検査とその他の画像検査、体液または組織サンプルの培養)

感染症にかかっていて、突然高熱が出る、体温が低下する、心拍や呼吸が速くなる、血圧が低下するなどの症状がみられる場合は通常、敗血症が疑われます。

血液のサンプルを採取し、検査室で細菌を増殖させる検査(培養検査 微生物の培養検査 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や心... さらに読む )を試みます(1~3日)。しかし、最初の感染時に抗菌薬が使用されていると、細菌が存在しても培養で増殖しない場合があります。カテーテルを使用している場合には、体内から取り出して先端部を切り取り、それを培養に用いることもあります。血液に触れていたカテーテルに細菌が確認された場合には、血流にも細菌が存在していると考えられます。

敗血症を引き起こす別の感染症の徴候がないか調べるには、尿、髄液、傷口の組織、肺から排出されたたんなどの体液や組織のサンプルを採取します。これらのサンプルを培養し、細菌の有無を調べます。

感染巣を調べるため、胸部X線検査とその他の画像検査(超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む 超音波検査 CT検査 CT検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む CT検査 MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む MRI検査 など)を行うこともあります。

臓器の機能不全の徴候や、敗血症のほかの合併症を調べる検査も行われます。具体的には以下のものがあります。

敗血症および敗血症性ショックの予後(経過の見通し)

敗血症性ショックを治療しないと、ほとんどの人が死亡します。治療を行ったとしても、死亡のリスクがかなり高く、平均で敗血症性ショックの患者の約30~40%が死亡します。しかし、死亡のリスクは多くの要因に大きく左右され、具体的には、どれだけ迅速に治療を受けたか、感染している細菌の種類(特に 抗菌薬に対する耐性 抗菌薬に対する耐性 抗菌薬は 細菌感染症の治療で使用される薬です。ウイルス感染症や他のほとんどの感染症には効果がありません。抗菌薬は細菌を殺すか、その増殖を止めることによって、人体に 自然に備わっている防御機構が微生物を排除するのを助けます。 医師は抗菌薬を特定の細菌感染症に対して使用しようとしますが、ときには... さらに読む の有無)、その人の基本的な健康状態などが影響します。

敗血症および敗血症性ショックの治療

  • 抗菌薬

  • 輸液

  • 酸素

  • 感染源の除去

  • ときに血圧を上昇させる薬

医師は直ちに抗菌薬を使用して、敗血症および敗血症性ショックの治療を行います。抗菌薬による治療が遅れると生存の可能性が大幅に低下するため、医師は検査結果が出て診断が確定されるのを待たずに治療を開始します。治療は病院で行われます。

敗血症性ショックの症状がある場合や重症の場合には、すぐに集中治療室での治療を開始します。

抗菌薬

例えば、尿路感染症を引き起こす細菌は、皮膚感染症を引き起こす細菌とは一般的には異なるため、最初に使用する抗菌薬を選択する際には、感染が始まった部位を考慮して、原因として最も可能性の高い細菌を検討します。また医師は、患者が生活する地域やその地域の病院での感染症において最もよくみられる細菌を検討します。多くの場合(特に細菌の感染巣が不明である場合)、細菌が死滅する可能性を高めるために2~3種類の抗菌薬を同時に使用します。その後、検査結果が出てから、感染を引き起こしている細菌に対して最も効果的な抗菌薬に切り替えます。

輸液

敗血症性ショックがみられる場合は、静脈から大量の輸液も行い、血流の量を増加させて、血圧を上昇させます。投与する輸液の量が少なすぎると効果は得られませんが、多すぎると重度の肺うっ血を生じることがあります。

酸素

感染源の除去

膿瘍が存在する場合は、膿を排出します。感染の原因と思われるカテーテルやチューブなどの医療器具は取り外すか交換します。手術を行って、感染または壊死した組織を除去する場合もあります。

その他の治療

静脈から輸液を行っても血圧が上がらない場合は、血圧を上げて脳や心臓などの臓器への血流を増やすために、バソプレシンやノルアドレナリンなどの薬(血管を収縮させる薬)を投与する場合もあります。しかし、これらの薬によって臓器内の血管が狭くなることがあるため、臓器を通る血流量が少なくなる場合もあります。

敗血症性ショックがみられる人は、血糖値(グルコース値)が高くなることがあります。高血糖は免疫系による感染への反応を損なうため、医師はインスリンを静脈内注射して、血糖値を低下させます。

血圧を上げるために十分な輸液を行い、薬を投与しているにもかかわらず、また感染巣に対する治療を行っているにもかかわらず血圧が低いままの患者には、コルチコステロイド(ヒドロコルチゾンなど)を静脈内投与することがあります。

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