細菌の概要

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2022年 8月
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やさしくわかる病気事典

細菌は、顕微鏡で見ることができる大きさの単細胞生物です。地球の最も初期の段階から存在している生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境で生存しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌は、人間や動物の皮膚、気道、口、消化管、尿路、生殖器の表面や内部で、何の害を起こすことなく生きています。そのような細菌の集まりを常在菌叢(きんそう)やマイクロバイオームと呼びます。常在菌叢中の細菌は、体内の細胞の数と少なくとも同じだけの数が存在します。多くの常在菌叢は、食べものの消化を助けたり、もっと危険な細菌が増殖するのを防いだりしながら、実際に人の役に立っています。

病気を起こす細菌はほんの一部にすぎず、それらは病原菌と呼ばれます。特定の状況では、常在菌が病原菌として振る舞い、病気を引き起こすことがあります。細菌は有毒な物質(毒素)を作ったり、組織を侵食したりすることによって、病気を引き起こします。一部の細菌は心臓や肺、神経系、腎臓、消化管に炎症を引き起こす可能性があります。がんのリスクを高める細菌もいます(ヘリコバクター・ピロリなど)。

特定の細菌は生物兵器として使用される可能性があります。具体的には、炭疽(たんそ)、ボツリヌス症ペスト野兎病などの原因菌があります。

細菌の分類

細菌はいくつかの方法で分類できます。

  • 学名:他の生物と同様に、細菌も属(類似する特性に基づく分類法)によって分けられ、さらに種によって分類されます。学名は属の名前と種の名前で構成されます(例えば、ボツリヌス菌の学名はクロストリジウム・ボツリヌス[Clostridium botulinum]です)。種の中でも種類が異なるものを菌株と呼びます。菌株同士は遺伝子構成や化学成分の点で異なります。ときに、特定の薬やワクチンが特定の菌株にしか効かない場合もあります。

  • 染色:細菌は特定の薬品(染色液)で処理したときの色の違いによって分類できます。一般的に用いられる染色の方法としてグラム染色があります。青色に染まる細菌は、グラム陽性細菌といいます。赤色に染まる細菌は、グラム陰性細菌といいます。グラム陽性細菌とグラム陰性細菌は、その細胞壁の違いから異なる色で染色されます。それらの菌の種類によって、引き起こされる感染症の種類が異なり、効果的な抗菌薬の種類も異なります。グラム染色のほかにも、多くの染色法があります。

  • 形状:細菌は基本的な形状によっても分類でき、具体的な形状としては球形(球菌)、棒状(桿菌[かんきん])、らせん状(スピロヘータ)の3つがあります。

  • 酸素要求性:細菌はさらに、その生育に酸素が必要かどうかによっても分類されます。酸素を必要とする細菌は、好気性細菌と呼ばれます。酸素を必要とせず、酸素の存在が生存や生育の障害になるものは、嫌気性細菌と呼ばれます。通性嫌気性細菌と呼ばれる一部の細菌は、酸素があってもなくても生育することができます。

  • 遺伝子構成:特殊な検査によって、細菌の遺伝子構成(遺伝子型)の違いを調べることができます。

細菌の形状

体内の細菌

体内には正常時から数百種類の細菌が存在しますが、その総数は数兆に及びます。

それらの細菌の大半は以下の場所に生息しています。

  • 皮膚や歯の表面

  • 歯と歯ぐきの間

  • 鼻や鼻腔、のど、腸、腟の内側を覆う粘膜

それぞれの環境を反映するように、存在する細菌の種類は部位毎に異なります。

ほとんどの細菌は嫌気性菌で、生育に酸素を必要としません。

通常、嫌気性細菌は病気を引き起こしません。腸の中で食べものの消化を助けるなど、有益な働きをする菌も数多くいます。

しかし、粘膜に損傷がある状況では、嫌気性細菌が病気を引き起こすことがあります。その場合、普段は細菌が存在しないため防御機構が備わっていない組織に細菌が侵入します。その細菌は近くの組織(副鼻腔、中耳、肺、脳、腹部、骨盤、皮膚など)に感染したり、血流に入って全身に広がったりします。

細菌感染症

細菌感染症は、細菌を分類するための様々な方法に基づいて分類されます。例えば、グラム陰性細菌による感染症とグラム陽性細菌による感染症に分類できます。この2種類の感染症は治療に必要な抗菌薬の種類が異なるため、この区別は重要です。

グラム陰性細菌による感染症としては以下のものがあります。

グラム陽性細菌による感染症としては以下のものがあります。

細菌の形状によって分類される感染症もあります。例えば、スピロヘータ(らせん状の細菌)によって引き起こされる感染症は、スピロヘータ感染症に分類されます。

スピロヘータ感染症としては以下のものがあります。

また、原因になる細菌が酸素がないと生きられないか、酸素がなくても生きられるかによって感染症を分類する場合もあります。生育に酸素を必要とする細菌は、好気性細菌と呼ばれます。生育に酸素を必要としない細菌は、嫌気性細菌と呼ばれます。

嫌気性細菌による感染症としては以下のものがあります。

細菌感染症の治療には、多くの種類の抗菌薬が使用できますが、細菌の抗菌薬に対する耐性が大いに懸念されています。

細菌の防御

細菌は様々な方法で自身を防御します。

バイオフィルム

一部の細菌は、自らが他の細菌、細胞、物体に付着するのを助ける物質を分泌します。この物質は、その細菌と一緒になって、バイオフィルムと呼ばれる粘着性の層を形成します。例えば、特定の細菌は歯の表面にバイオフィルムを形成します(歯垢といいます)。このバイオフィルムが口の中の食べかすにまとわりつくと、それを細菌が処理したり利用したりする過程で、う蝕(虫歯)が引き起こされます。バイオフィルムには、人工関節の感染症を引き起こす細菌でみられるように、抗菌薬で殺せないようにすることで細菌を抗菌薬から保護する働きもあります。

莢膜

一部の細菌は、莢膜(きょうまく)と呼ばれる膜をまとって身を守ります。莢膜は、感染に抵抗して細菌を捕食する白血球の働きを阻害します。このような細菌は莢膜を有すると表現されます。

外膜

グラム陰性細菌は莢膜の下に外膜をもち、それにより特定の抗菌薬から身を守ることができます。この外膜は、破壊されると内毒素(エンドトキシン)と呼ばれる有害物質を放出します。グラム陰性細菌の感染では、内毒素が症状が重症化する一因になります。

芽胞

不活性状態(休眠型)である芽胞(がほう)を形成する細菌もあります。芽胞になることで、細菌は厳しい環境(過度に乾燥した環境や栄養がない環境)でも生き延びられるようになります。望ましい環境になると、芽胞が発芽して、通常の活発な形態の細菌になります。

鞭毛

鞭毛(べんもう)は、細胞の表面から生えて、移動を可能にしている細長い繊維です。鞭毛のない細菌は自力で移動できません。

抗菌薬に対する耐性

一部の細菌は、特定の抗菌薬に対してもともと耐性があります。

耐性のある別の細菌から遺伝子を取り込んだり、自身の遺伝子を変異させたりすることで、薬への耐性を獲得する細菌もあります。例えば、1940年代中盤にペニシリンの使用が開始された直後に、ペニシリンを無効にできる遺伝子を少数の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が獲得しました。この特別な遺伝子を有する菌株は、感染症の治療にペニシリンが広く使用されていたころ、高い生存率を示しました。このような新しい遺伝子をもたない黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)がペニシリンの作用により死滅していったことで、残ったペニシリン耐性菌が増え続け、次第にそれらの菌が優勢になっていきました。

そこで化学者たちは、ペニシリンの分子に改変を加えることで、ペニシリン耐性菌を死滅させることができる「メチシリン」というペニシリン類似薬を作り出しました。メチシリンが導入されて間もなく、メチシリンや類似の薬に対する耐性遺伝子を獲得した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が現れました。それらの菌株はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)と呼ばれています。

薬剤耐性をもたらす遺伝子は、次世代の細菌に受け継がれ、ときには種の異なる細菌に伝わることもあります。

抗菌薬の使用が頻繁になるほど、耐性菌が生み出される可能性が高まります。そのため専門家は、抗菌薬は必要なときにだけ使用するようにし、使用する場合も最低限の期間に限定するよう推奨しています。特に、抗菌薬は細菌によって引き起こされる感染症にのみ使用すべきで、かぜやインフルエンザのようなウイルス性の感染症には使用すべきではありません。せきとかぜの症状がみられる場合など、細菌の感染がないと思われる患者に抗菌薬を使用しても、その人の状態はよくならず、それどころか細菌の耐性獲得を促してしまいます。抗菌薬が(誤った使用も含めて)非常に広く使用されてきたために、多くの細菌が特定の抗菌薬に対する耐性をもつようになっています。

耐性菌は人から人に広がる可能性があります。外国旅行が一般的になった現在では、耐性菌が短期間のうちに、世界の多くの地域に拡大する可能性があります。特に、病院内でのこうした細菌の伝播が懸念されています。病院では耐性菌が多くみられますが、その理由としては、抗菌薬を頻繁に使用する必要があることと、適切な衛生手順が厳密に守られていないと病院スタッフや外来患者がそれらの細菌を広める可能性があることがあげられます。さらに、入院中の患者には免疫機能が低下している人が多く、より感染が起きやすい状態にあります。

耐性菌が動物から人に広がる可能性もあります。農場などでは、成長を阻害したり病気の原因になったりする感染を予防するために健康な家畜に対して日常的に抗菌薬が与えられていることが多いため、動物の間で耐性菌がよくみられます。多くの国では、以下のリスクを減らすために、動物に対する抗菌薬の使用が禁止されています。

  • 動物由来の食品に含まれる耐性菌を摂取するリスク

  • 動物との接触を介して耐性菌に感染するリスク

  • 動物由来の食品に含まれる抗菌薬にさらされるリスク

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