ガス壊疽

(クロストリジウム筋壊死)

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2021年 5月
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ガス壊疽(えそ)は、嫌気性細菌であるウェルシュ菌(Clostridium perfringens)をはじめとするクロストリジウム属の細菌によって筋肉組織に起こる、生命を脅かす感染症です。

  • ガス壊疽は特定の手術を受けた後やけがをした後に発生することがあります。

  • 気泡を伴う水疱が感染部位の周辺に発生するとともに、発熱や心拍数と呼吸数の増加がみられ、感染部位はしばしば痛みを伴います。

  • この病気は症状から疑われ、通常は画像検査や感染組織の培養検査が行われます。

  • 治療では、抗菌薬の大量投与と、手術による死滅または感染組織の切除を行います。

ガス壊疽は筋肉組織に急速に広がるクロストリジウム感染症で、治療しないとすぐに死に至ります。

米国では、年間数千例のガス壊疽が発生しています。

クロストリジウム属細菌は、酸素がない環境に生息する嫌気性の細菌です。そのため、ひどく損傷した軟部組織や非常に深い傷の中でよく増殖します。そうした組織は血流が乏しく、酸素レベルも低下しているためです。

ガス壊疽を含む軟部組織のクロストリジウム感染症の大半は、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が原因です。軟部組織のクロストリジウム感染症は、たいていはけがをしてから数時間または数日以内に現れますが、感染症が現れるまでに何日もかかることもあります。

その他の軟部組織のクロストリジウム感染症としては、以下のものがあります。

  • 皮膚の浅い部分の感染症(蜂窩織炎[ほうかしきえん]):あまり痛みがない場合もある

  • 筋肉周囲の線維性組織(筋膜炎)または筋肉(筋炎)に至るより深部の感染症:通常は痛みを伴う

まれに、皮膚の感染症が広がって重篤化することがあります。

軟部組織に感染した細菌が老廃物として多量のガスを出すことがあります。このガスによって、組織内に気泡や水疱ができます。また感染によって細い血管がふさがれることもよくあります。その結果、感染組織が壊死し、壊疽を起こします。組織が壊疽していると、クロストリジウム感染症はさらに速く広がります。感染が皮膚のみにとどまる場合より筋肉にも及んでいる場合の方が、壊疽が発生する可能性は高くなります。

ガス壊疽の原因

ガス壊疽は通常、けがや手術の後に発生します。以下のような傷が、リスクの高いけがです。

  • 傷が深く、重症である場合

  • 筋肉が損傷している場合

  • 土埃、腐敗した野菜類、または糞便による汚染がある場合

  • 押しつぶされ組織や壊死した組織がある場合

リスクが高い手術には、次のものがあります。

  • 結腸または胆嚢の手術

まれに、けがや手術がなくてもガス壊疽が発生することがあり、これは通常、大腸がんや憩室炎、あるいは腸への血流を減少させる病気や腸壁からの漏れを引き起こす病気がある人にみられます。壊疽は、腸内に生息する細菌が漏れ出た場合に発生し、その細菌は広い範囲に拡散します。

ガス壊疽の症状

ガス壊疽は、感染部に激しい痛みを生じます。最初、患部は腫れて色が白っぽくなりますが、やがて赤くなり、次に褐色、最終的に黒緑色になります。患部は硬く圧痛を伴います。しばしば大きな水疱ができます。水疱の中の液体に気泡が見えたり、皮膚の下にガスがたまっている感触が感じられたりすることがあり、これは通常は感染症が進行してからみられます。傷から排出された液体は腐敗臭を放ちます。

患者はたちまち発熱し、汗が増え、激しい不安を覚えます。嘔吐することもあります。心拍や呼吸が速くなります。皮膚が黄色になり、黄疸が起こることもあります。これらの影響は細菌が作る毒素によるものです。

意識は最初のうちは保たれますが、病気の後期段階になると、血圧が危険な水準まで低下し(ショック)、昏睡状態になります。その後すぐに腎不全を起こして死に至ります。

治療しないで放置すると、感染者の100%が通常は48時間以内に死亡します。治療を行っても、約4分の1の人が死亡します。

ガス壊疽の診断

  • 傷から採取した体液を観察して培養する検査

  • ときに検査目的の手術(試験切開)や生検による組織サンプルの採取

ガス壊疽は、症状と身体診察の結果から疑われます。

X線検査を行って筋肉組織の気泡を確認したり、CT検査やMRI検査で壊死した筋肉組織の領域を調べたりします。これらの結果も診断の助けとなります。しかし、気泡は他の嫌気性細菌の感染症でも起こることがあります。

傷から採取した液体を顕微鏡で観察してクロストリジウム属細菌の有無を確認し、細菌がいれば検査室で増殖させる検査(培養検査)を行います。培養によりクロストリジウム属細菌の有無を確認できます。ただし、クロストリジウム属細菌が存在してもガス壊疽がみられない場合もあります。

多くの場合、診断を確定するには、検査目的の手術(試験切開)や切除したサンプルの顕微鏡観察(生検)を行い、筋肉の特徴的な変化を確認する必要があります。

ガス壊疽の予防

医師はガス壊疽を予防するために以下のことを行います。

  • 傷を徹底的に洗浄する

  • 傷から異物や壊死した組織を取り除く

  • 感染を予防するために、腹部の手術前、手術中、手術後に抗菌薬の静脈内投与を行う

クロストリジウム属の細菌による感染症を予防できるワクチンは存在しません。

ガス壊疽の治療

  • 抗菌薬

  • 壊死した組織と感染した組織をすべて切除する手術

ガス壊疽の疑いがあれば、直ちに治療を始めなければなりません。

大量の抗菌薬、通常はペニシリンやクリンダマイシンを投与し、壊死した組織と感染した組織はすべて手術で切除します。腕や脚のガス壊疽の場合、およそ5人に1人は腕または脚を切断する必要があります。

高圧酸素療法も役立つ可能性がありますが、その設備は必ずしも容易に利用できるわけではありません。

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