抗菌薬は 細菌感染症 細菌感染症 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む の治療で使用される薬です。ウイルス感染症や他のほとんどの感染症には効果がありません。抗菌薬は微生物を殺すか、その増殖を止めることによって、体に 自然に備わっている防御機構 感染に対する防御機構 人体は自然障壁と免疫システム( 免疫系)によって 感染症の原因となる微生物から守られています。( 様々な防御線も参照。) 自然障壁には、皮膚、粘膜、涙、耳あか(耳垢)、粘液、胃酸などがあります。また、尿も正常に流れることによって、尿路に侵入した微生物を洗い流します。 免疫系は 白血球と... さらに読む が微生物を排除するのを助けます。
抗菌薬は特定の細菌感染症に対して使用します。しかし、 細菌を特定する検査 感染症の診断 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む の結果を待たずして抗菌薬が使用されることもあります。
細菌は抗菌薬に対する耐性を獲得する場合があります。
抗菌薬には、胃のむかつき、下痢、そして女性においては腟の真菌感染症などの副作用があります。
特定の抗菌薬に対してアレルギーがみられる場合もあります。
抗菌薬は、化学構造に基づいていくつかのクラスに分類されます。しかし、各クラスの中の抗菌薬も、しばしば身体への影響が異なり、異なる細菌に対して効果的な場合があります。
抗菌薬のクラスとしては以下のものがあります。
カルバペネム系、セファロスポリン系、モノバクタム系、およびペニシリン系は、ベータラクタム系抗菌薬(ベータラクタム環と呼ばれる化学構造を特徴とする抗菌薬のクラス)のサブクラスです。
上記のクラスに該当しない他の抗菌薬には、 クロラムフェニコール クロラムフェニコール 抗菌薬の一種であるクロラムフェニコールは主に、他の抗菌薬に耐性をもつものの、クロラムフェニコールに対する感受性のある少数の細菌による重篤な感染症の治療に使用されます。この薬剤は、骨髄で血球が作られるのを妨げ、血球の数(血球数)を大幅に減少させるため、使用が制限されています。こうした副作用は不可逆的で致死的な場合があるため、この薬剤を使用す... さらに読む 、 クリンダマイシン クリンダマイシン クリンダマイシンは、リンコサミド系と呼ばれるクラスの 抗菌薬に属しています。クリンダマイシンは重篤な細菌感染症(他の抗菌薬に耐性をもつ一部の感染症を含みます)の治療に使用されます。 クリンダマイシンは、細菌が増殖するために必要なタンパク質を作り出すのを妨げることによって作用します。... さらに読む 、 ダプトマイシン ダプトマイシン ダプトマイシンという 抗菌薬は、 グラム陽性細菌によるものなど、多くの重篤な感染症(他の多くの抗菌薬に耐性をもつものも含みます)の治療に使用されます。 ダプトマイシンは、細菌の細胞膜を阻害することによって作用し、迅速に細菌を死滅させます。 ( 抗菌薬の概要も参照のこと。) 妊娠中にダプトマイシンを使用するのは、治療による効果がリスクを上回... さらに読む 、 ホスホマイシン ホスホマイシン ホスホマイシンは独特の化学構造をもつ 抗菌薬です。 大腸菌(E. coli)やエンテロコッカス・フェカーリス Enterococcus faecalisによる膀胱の感染症の治療に主に使用されます。また、他の抗菌薬に耐性をもつ細菌による他の感染症の治療にも使用される場合があります。... さらに読む 、 レファムリン(lefamulin) レファムリン(Lefamulin) レファムリン(lefamulin)は、細菌が成長・増殖するのに必要なタンパク質を作り出すのを妨げることによって作用する 抗菌薬です。 レファムリン(lefamulin)は、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae、インフルエンザ菌 Haemophilus... さらに読む 、 メトロニダゾール メトロニダゾールおよびチニダゾール メトロニダゾールという 抗菌薬は、骨盤、腹部、軟部組織、歯ぐきや歯の感染症、および肺や脳の膿瘍の治療に使用されます。これはまた、 アメーバ症、 ジアルジア症という腸管感染症、 トリコモナス腟炎という腟感染症などの特定の原虫感染症や、 細菌性腟症という細菌感染症にも好んで使用されます。チニダゾールは、主にこれらの原虫感染症や細菌性腟症の治療... さらに読む 、 ムピロシン ムピロシン ムピロシンは、 膿痂疹やその他の 皮膚の細菌感染症を治療したり、 鼻からブドウ球菌を排除したりするのに使用される 抗菌薬です。ムピロシンは、細菌が成長・増殖するのに必要なタンパク質を作り出すのを妨げることによって作用します。 これは軟膏だけが利用できます。 鼻からブドウ球菌を排除するためにムピロシンという抗菌薬を鼻孔内に塗ることを推奨する... さらに読む 、 ニトロフラントイン ニトロフラントイン ニトロフラントインは、合併症を伴わない 膀胱感染症の予防または治療のためだけに使用される 抗菌薬です。ニトロフラントインがどのように作用するかは完全には解明されていませんが、いくつかの細菌の作用を阻害します。 ニトロフラントインは経口で服用します。 医師は腎臓の機能が低下している人にはニトロフラントインを投与しません。ニトロフラントインは... さらに読む 、 チゲサイクリン チゲサイクリン チゲサイクリンは、グリシルサイクリン系と呼ばれるクラスに属する唯一の 抗菌薬で、 テトラサイクリン系と関連しています。 チゲサイクリンは、細菌が増殖するために必要なタンパク質を作り出すのを妨げることによって作用します。 この薬剤は、テトラサイクリン系薬剤に耐性をもつ細菌を含め、多くの耐性菌に対して効果があります。しかし、チゲサイクリンを使... さらに読む などがあります。
抗菌薬の選び方
抗菌薬はそれぞれ、特定の細菌にしか効果をもちません。したがって、感染症の治療に使用する抗菌薬を選択する場合、医師はまず、原因菌が何であるかを推測します。例えば、いくつかの感染症は特定の種類の細菌により起こります。ときに、1つの抗菌薬が感染症を引き起こしている可能性が高い細菌のすべてに対して有効と予想される場合があり、それ以上の検査が必要ないことがあります。
複数の種類の細菌によって引き起こされたと思われる感染症、あるいは抗菌薬に対する感受性が不明な細菌による感染症の場合は、患者から血液、尿、組織などのサンプルを採取し、検査室で 原因菌の特定 感染症の診断 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む を行う必要があります(感染症の診断 感染症の診断 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む )。その後、その原因菌の各種の抗菌薬に対する感受性を調べます。この検査は結果が出るまでに1~2日かかるため、最初に抗菌薬を選択する段階で参考にすることはできません。このような場合、医師は一般的に、最も可能性の高い原因菌に有効な抗菌薬で治療を開始します。検査結果が出たら、必要であれば抗菌薬を変更します。
また、検査室で効果を示した抗菌薬であっても、感染者に投与したときに必ず効果を発揮するとは限りません。治療の有効性は以下の要因に左右されます。
これらの要因は人によって異なり、使用中の他の薬剤や現在かかっている病気、年齢が影響を与えます。
抗菌薬を選択する際には、医師は以下の点も考慮します。
感染症の性質と重篤さ
患者の免疫系の状態(感染症に対する薬物治療をどの程度後押しできるか)
薬剤毎の副作用の可能性
薬に対するアレルギーや他の重篤な反応の可能性
薬の価格
また医師は、患者が抗菌薬を処方された期間にわたってずっと服用し、抗菌薬を1コース最後まで服用しきることがどれくらい難しいかも考慮します。薬を服用する頻度が多かったり、特定の時間(食前、食事中、食後など)にのみ服用したりする場合、治療を完了するのが難しくなります。
以下の場合には、複数の抗菌薬の併用が必要になることもあります。
重度の感染症で、特に感染してから日が浅く、抗菌薬に対する細菌の感受性が不明な場合
1つの抗菌薬のみでは、その薬剤に対する耐性を即座に獲得してしまう細菌が原因である場合
複数の細菌による感染症で、それぞれの細菌が異なる抗菌薬に対して感受性を示す場合
抗菌薬に対する耐性
細菌はすべての生物と同じく、環境変化にさらされるたびに少しずつ変わっていきます。一方、世間では抗菌薬が広く使用され、誤った使い方も多いため、細菌は常に抗菌薬にさらされています。たいていの細菌は抗菌薬で死滅しますが、薬剤の効果に抵抗する性質(耐性 抗菌薬に対する耐性 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む )をもつ細菌が出てきます。例えば、50年前は、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus(皮膚感染症の主な原因)にはペニシリンが非常に有効でした。しかし、次第に黄色ブドウ球菌の一部の菌(菌株)がペニシリンを分解する酵素を作り出すようになり、ペニシリンの効果は失われていきました。そこで今度は、その酵素で分解されないタイプのペニシリン系薬剤が開発されましたが、黄色ブドウ球菌はこれに数年で適応し、改良型のペニシリン系薬剤に対する耐性を獲得しました。他の細菌も、抗菌薬に対する耐性をもつようになっています。
こうした状況の中で、このような細菌に対抗するための薬剤の研究が続けられています。しかし、以下のことによって、一般人でも耐性菌発生の阻止に貢献することができます。
必要な場合にのみ抗菌薬を使用する(すなわち、細菌によって引き起こされる感染症にのみ抗菌薬を使用し、かぜやインフルエンザなどのウイルス性の感染症には使用しない)
かぜやインフルエンザなどのウイルス感染症に対して医師に抗菌薬の処方を依頼しない
抗菌薬の使用
重度の細菌感染症の場合は、 初めに抗菌薬を注射し 経口投与 薬を体内に送り込むにあたってはいくつかの経路があります。主な経路は以下の通りです。 口から服用(経口) 静脈(静脈内)、筋肉(筋肉内)、脊髄周囲の空間(髄腔内)、または皮膚の下(皮下)に注射 舌の下(舌下)または歯肉と頬の間に置く 直腸(経直腸)または腟(経腟)に挿入 さらに読む (普通は静脈内、ときに筋肉に注射)、感染症がコントロール可能になったところで 内服薬に切り替えます 経口投与 薬を体内に送り込むにあたってはいくつかの経路があります。主な経路は以下の通りです。 口から服用(経口) 静脈(静脈内)、筋肉(筋肉内)、脊髄周囲の空間(髄腔内)、または皮膚の下(皮下)に注射 舌の下(舌下)または歯肉と頬の間に置く 直腸(経直腸)または腟(経腟)に挿入 さらに読む
。
それほど重症でない場合は、最初から内服薬を使用することもよくあります。
抗菌薬は、感染した細菌が体から完全に排除されるまで使用する必要があり、そうなるまでには症状が消えてから何日もかかる場合があります。抗菌薬は5日よりも短い期間で処方されることはほとんどありません。(ただし特定の単純性 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む は例外です。)服用を途中でやめると、感染症のぶり返しにつながります。
処方された抗菌薬の服用方法や副作用については、医師、看護師、薬剤師に説明を求めるとよいでしょう。空腹時に服用するものもあれば、食後に服用するものもあります。 メトロニダゾール メトロニダゾールおよびチニダゾール メトロニダゾールという 抗菌薬は、骨盤、腹部、軟部組織、歯ぐきや歯の感染症、および肺や脳の膿瘍の治療に使用されます。これはまた、 アメーバ症、 ジアルジア症という腸管感染症、 トリコモナス腟炎という腟感染症などの特定の原虫感染症や、 細菌性腟症という細菌感染症にも好んで使用されます。チニダゾールは、主にこれらの原虫感染症や細菌性腟症の治療... さらに読む というよく使用される抗菌薬は、アルコールと一緒に服用すると、不快な反応を引き起こします。ある種の抗菌薬は、別の薬剤の服用中に使用すると、その薬剤と相互作用を起こすことで、どちらかの薬効が下がったり、副作用が強くなったりします。また、服用すると 皮膚が太陽光に過敏になる 化学物質による光線過敏症 光線過敏症は日光アレルギーとも呼ばれ、日光によって引き起こされる免疫系の反応です。 日光が免疫系の反応の引き金になる場合があります。 日光にさらされた部分の皮膚にかゆみを伴う発疹や、発赤、炎症が生じます。 診断は通常、医師による評価に基づいて下されます。 このような反応は、典型的には治療なしで消失します。 さらに読む ような抗菌薬もあります。
感染症を予防するための抗菌薬の使用
抗菌薬は、感染を予防する目的で使用されることもあります(予防投与)。例えば、以下の場合に抗菌薬の予防投与を行うことがあります。
髄膜炎の患者と接触した人(髄膜炎の発症を予防するため)
心臓弁に障害がある人や人工弁を装着している人が歯科治療や外科治療を受ける前(このような処置によって細菌が体内に取り込まれる可能性があり、心臓弁への細菌感染を予防するため)
感染症が発生するリスクが高い手術(整形外科手術や腸の手術など)を受ける人
細菌の 抗菌薬耐性 抗菌薬に対する耐性 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む の発生と副作用の出現を防ぐため、通常、抗菌薬の予防投与は短期間に限定して行います。
白血病患者や、がんに対する化学療法を受けている患者、エイズ患者など、 免疫機能が低下 体の防御機能が低下した人における感染症 様々な病気や薬などの治療によって、体に 本来備わっている防御機構が破たんしてしまうことがあります。防御機構が破たんすると感染につながり、普段なら特に害を及ぼさずに体の表面や内部で共存している微生物( 常在菌叢)までもが病気を引き起こしてしまうことがあります。防御機構の破たんは以下のような原因で生じることがあります。... さらに読む している人にも(重篤な感染症を起こす可能性が特に高いことから)抗菌薬が投与されることがあります。このような場合には、おそらく長期投与が必要になるでしょう。
妊娠中や授乳期間中の抗菌薬の使用
一般的に、妊娠中に抗菌薬が使用されるのは、治療による効果がリスクを上回る場合のみです。比較的安全な抗菌薬もあります。妊娠中に使用できる最も安全な抗菌薬としては、 ペニシリン系 ペニシリン系 ペニシリン系は、ベータラクタム系 抗菌薬(ベータラクタム環と呼ばれる化学構造をもつ抗菌薬)のサブクラスです。 カルバペネム系、 セファロスポリン系、および モノバクタム系もベータラクタム系の抗菌薬です。 ペニシリン系薬剤は、 グラム陽性細菌による感染症( レンサ球菌感染症など)と一部の... さらに読む 、 セファロスポリン系 セファロスポリン系 セファロスポリン系は、ベータラクタム系 抗菌薬(ベータラクタム環と呼ばれる化学構造をもつ抗菌薬)のサブクラスです。ベータラクタム系抗菌薬には、ほかにも カルバペネム系、 モノバクタム系、 ペニシリン系などがあります。 セファロスポリン系薬剤は主に5つの種類(世代)に分けられます。それぞれの世代で効果がある細菌の種類が異なります。... さらに読む 、エリスロマイシンなどがあります。 テトラサイクリン系 テトラサイクリン系 テトラサイクリン系は、様々な細菌感染症の治療で使用される 抗菌薬のグループです。 テトラサイクリン系薬剤としては以下のものがあります。 ドキシサイクリン エラバサイクリン(eravacycline) ミノサイクリン さらに読む 薬剤は、妊娠中には使用されません。(妊娠中の薬の使用 妊娠中の薬の使用 妊婦の50%以上が、妊娠中に処方薬や市販薬(処方なしで購入できる薬剤)を服用したり、社会的薬物(タバコやアルコール)または違法薬物を使用しており、妊娠中の薬の使用は増えてきています。一般に、薬の多くは胎児に害を及ぼす可能性があるため、妊娠中は、必要な場合を除いて、薬剤を使用すべきではありません。病気や症状の治療に使用された薬剤が原因で発生... さらに読む も参照のこと。)
ほとんどの抗菌薬は、乳児に影響を及ぼしうるほどの量が母乳に移行するため、授乳期間中の女性では使用できない場合があります。ときに、授乳を中止するか、薬剤を使用しないことにするか、決定しなければなりません。
妊娠中または授乳期間中に感染症が発生した場合、治療による効果とリスクについて主治医に相談すべきです。(授乳期間中の薬の使用 授乳期間中の薬の使用 授乳期間中に母親が薬剤を使用しなければならなくなると、授乳をやめるべきかどうか迷います。答えは以下の条件によって変わってきます。 母乳に移行する薬剤の量 薬剤が乳児に吸収されるかどうか 薬剤は乳児にどのような影響を与えるか 乳児の哺乳量はどのくらいか(乳児の月齢と母乳以外の食事や水分の摂取量により異なる) さらに読む も参照のこと。)
在宅での抗菌薬治療
通常、抗菌薬は内服薬が使用され、苦痛になるほど治療が長引くことは普通ありません。しかし、骨の感染症(骨髄炎 骨髄炎 骨髄炎は、通常は細菌、抗酸菌、または真菌によって起こる、骨の感染症です。 細菌、抗酸菌、真菌が血液を介して、あるいは近くの感染組織や開いて汚染された傷から広がり(こちらの場合が多い)、骨に感染することがあります。 患者には骨の一部の痛み、発熱、体重減少がみられます。 血液検査と画像検査を行い、骨のサンプルを採取して検査します。... さらに読む )や心臓の感染症(心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む )など、一部の感染症には4~6週間にわたる抗菌薬の静脈内投与が必要になる場合があります。入院して治療すべき疾患が他になく、全身状態が比較的よい場合は、在宅で静脈内投与による治療を受けることができます。
抗菌薬を長期間投与する必要がある場合には、腕や手の細い静脈に短い静脈カテーテル(多くの病院で広く使用されているもの)を挿入する投与方法は望ましくないことがあります。そのようなカテーテルは最長で3日間しか使用できないからです。代わりに、特殊なタイプの静脈カテーテルを使用します。以下のいずれかの方法で挿入します。
太い中心静脈(通常は首や胸にある)に直接挿入する(中心静脈カテーテルと呼ばれます)
腕にある細い静脈に挿入し、太い中心静脈まで進める(末梢挿入型中心静脈カテーテル[PICC]と呼ばれます)
抗菌薬を静脈内に投与する装置には、患者や家族が自分で操作を覚えられる簡単な種類のものがあります。また、訪問看護師に投与してもらうこともできます。どちらの場合でも、注意深い監督の下で抗菌薬が正しく使用されていることを確認するとともに、合併症や副作用にも注意する必要があります。
在宅での静脈カテーテルを介した抗菌薬による治療では、どうしてもカテーテル挿入部や血液に感染が発生するリスクが高くなります。以下のものがみられる場合は、カテーテルからの感染を疑います。
カテーテルを挿入した部位の痛み、発赤、膿
悪寒と発熱(挿入部に問題がない場合でも)
抗菌薬の副作用
よくみられる抗菌薬の副作用としては以下のものがあります。
胃の不調
さらに抗菌薬の種類によっては、腎臓、肝臓、骨髄などの臓器の機能障害につながる重度の副作用が現れることもあります。これらの臓器に影響が現れていないかを見るため、ときに血液検査が行われます。
大腸炎(大腸の炎症)が、抗菌薬(特にセファロスポリン系、クリンダマイシン、フルオロキノロン系やペニシリン系)を使用する人の一部で発生することがあります。このような大腸炎は クロストリジオイデス・ディフィシル腸炎 クロストリジオイデス(以前のクロストリジウム)・ディフィシル(Clostridioides (formerly Clostridium) difficile)腸炎 クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile[C. difficile])腸炎は、大腸(結腸)の炎症で、下痢を生じます。クロストリジオイデス・ディフィシル C. difficileという細菌が作る毒素によって炎症が引き起こされますが、これは通常、腸内でのこの... さらに読む と呼ばれ、クロストリジオイデス・ディフィシル Clostridioides difficileという細菌が作る毒素によって起こります。その細菌は複数の抗菌薬に対して耐性をもっていますが、抗菌薬によって腸内の常在菌が死滅することで、腸内で無制限に増殖するようになります。クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)大腸炎は、特に高齢者では治療が難しく、生命を脅かすことがあります。
抗菌薬に対するアレルギー反応
抗菌薬が アレルギー反応 薬に対するアレルギー ときに患者は多くの 薬の有害反応をアレルギーと間違えることがあります。例えば、アスピリンを服用した後に胃の不快感を覚えた(よくみられる有害反応)人が、アスピリンに対し「アレルギー」が出ると表現することがよくあります。しかしこれは真のアレルギー反応ではありません。真のアレルギー反応は、薬によって免疫系が作動して生じるものです(... さらに読む を引き起こすこともあります。軽度のアレルギー反応では、かゆみのある発疹や軽い喘鳴(ぜんめい)がみられることがあります。より重度のアレルギー反応(アナフィラキシー アナフィラキシー反応 アナフィラキシー反応は急に発症して広い範囲にわたり、生命を脅かすほど重症化することがあるアレルギー反応です。 アナフィラキシー反応の初期症状には不安感が多く、次いでチクチクした感じと、めまいが起こります。 症状がみるみる悪化して、全身にかゆみやじんま疹、腫れが出たり、喘鳴や呼吸困難が起きたり、失神したりします。これ以外のアレルギー症状が出... さらに読む )は、生命を脅かす可能性があり、のどの腫れ、呼吸困難、血圧低下などを起こします。
ある抗菌薬の副作用を経験した人が、実際にはアレルギーではないにもかかわらず、診察時にその抗菌薬に対するアレルギーがあると申告するケースは少なくありません(薬に対するアレルギー 薬に対するアレルギー ときに患者は多くの 薬の有害反応をアレルギーと間違えることがあります。例えば、アスピリンを服用した後に胃の不快感を覚えた(よくみられる有害反応)人が、アスピリンに対し「アレルギー」が出ると表現することがよくあります。しかしこれは真のアレルギー反応ではありません。真のアレルギー反応は、薬によって免疫系が作動して生じるものです(... さらに読む )。副作用とアレルギーを正しく区別することは大変重要です。なぜなら、ある抗菌薬に対するアレルギーがある人は、その薬剤はもちろん、似ている薬剤も使うことができません。しかし、軽い副作用が出ただけなら、似ている薬剤のみならず、その薬自体も使用を継続できるかもしれないからです。抗菌薬を服用して不快な症状が出た場合は、医療従事者の診察を受け、その症状が重大かどうかを確認してもらいましょう。