微生物とは、細菌やウイルスなど、ごく小さな生物のことです。微生物はどこにでも存在しています。その数は驚くほど多いものの、人間の体内に侵入して増殖し、病気を引き起こすのは、数千種類ある微生物のうちの比較的少数に限られています。
微生物の多くは皮膚の表面や口、上気道、腸、性器(特に腟[ちつ])内に、病気を起こすこともなく定着しています(常在菌叢 常在菌叢 健康な人は、皮膚、鼻、口、のど、大腸、腟など、体の非無菌状態の部位に生息している(コロニーを作っている)微生物の大半とうまく共存しています。常に体内の決まった部位に集団で存在している微生物を「常在菌叢(じょうざいきんそう)」と呼びます。常在菌叢にいる細菌の数は、人の体を構成するすべての細胞の数の10倍に上ります。人体には数時間から数週間し... さらに読む を参照)。このように微生物が害を及ぼすことなく人間と共存するか、あるいは人体に侵入して病気を起こすかは、微生物自体の性質や各個人の免疫機能の状態によって違ってきます(感染に対する防御機構 感染に対する防御機構 人体は自然障壁と免疫システム( 免疫系)によって 感染症の原因となる微生物から守られています。( 様々な防御線も参照。) 自然障壁には、皮膚、粘膜、涙、耳あか(耳垢)、粘液、胃酸などがあります。また、尿も正常に流れることによって、尿路に侵入した微生物を洗い流します。 免疫系は 白血球と... さらに読む および 感染に対する防御機構 感染に対する防御機構 人体は自然障壁と免疫システム( 免疫系)によって 感染症の原因となる微生物から守られています。( 様々な防御線も参照。) 自然障壁には、皮膚、粘膜、涙、耳あか(耳垢)、粘液、胃酸などがあります。また、尿も正常に流れることによって、尿路に侵入した微生物を洗い流します。 免疫系は 白血球と... さらに読む )。
特定の微生物は 生物兵器 生物兵器 生物戦とは、病原微生物を兵器として使用することです。そのような使用は国際法に反しており、20世紀に生物剤の大規模な製造および備蓄が行われたにもかかわらず、近代史において正式な戦争中に使用された例はほとんどありません。 ( 集団殺傷兵器による災害の概要も参照のこと) 生物兵器はテロリストにとっては理想的な兵器であるという見方もされています。... さらに読む として用いられる可能性があります。この例として、 炭疽 炭疽 炭疽(たんそ)は、炭疽菌 Bacillus anthracisという棒状の グラム陽性細菌(図「 主な細菌の形」を参照)による感染症で、死に至る場合があります。炭疽は皮膚や肺のほか、まれに消化管に感染します。 人間が感染する通常の原因は皮膚接触ですが、炭疽菌の芽胞を吸い込んだり、汚染された肉を食べたりしても感染します。... さらに読む 、 ブルセラ症 ブルセラ症 ブルセラ症は、 グラム陰性細菌であるブルセラ属 Brucella細菌のいくつかの菌種によって引き起こされる感染症で、発熱と全身症状を特徴とします。 ブルセラ症は主に、感染した動物に接触するか、汚染された無殺菌の牛乳や乳製品を摂取したり、汚染された肉を加熱調理が不十分な状態で食べたりすることで感染します。... さらに読む 、出血熱(エボラウイルス感染症 エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症 マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、出血と臓器不全を引き起こします。これらの感染症の患者は、多くの場合、死亡します。 マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、感染した動物またはその死骸を扱ったり、症状が出ている感染者またはその遺体の皮膚や体液に触れたりすることで広がります。... さらに読む および マールブルグウイルス感染症 エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症 マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、出血と臓器不全を引き起こします。これらの感染症の患者は、多くの場合、死亡します。 マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、感染した動物またはその死骸を扱ったり、症状が出ている感染者またはその遺体の皮膚や体液に触れたりすることで広がります。... さらに読む )、 ペスト ペストとその他のエルシニア(Yersinia)感染症 ペストは、ペスト菌 Yersinia pestisという グラム陰性細菌によって引き起こされる重症感染症で、しばしばリンパ節や肺が侵されます。 この細菌は主にネズミノミを介して感染が拡大します。 ペストでは病原菌の種類により、発熱、悪寒、リンパ節の腫れ、頭痛、心拍数の増加、せき、呼吸困難、嘔吐、下痢などの症状が起こります。... さらに読む
、 天然痘 天然痘 天然痘は、天然痘ウイルスが引き起こす、感染性、致死性ともに非常に高い病気です。この病気は現在では根絶されています。 1977年以来、天然痘は発生していません。 感染者が呼吸やせきで排出した空気を吸い込むことで感染します。 発熱、頭痛、背部痛、発疹、またときには重度の腹痛が生じ、非常に体調が悪くなります。... さらに読む
、 野兎病 野兎病 野兎病は、野兎病菌 Francisella tularensisという グラム陰性細菌による感染症で、感染している野生動物(通常はウサギ)を直接触ったり、感染したダニ、メクラアブ、ノミに咬まれたりすることでかかります。 動物の死体に触ったり、ダニに咬まれたり、この菌を含む飛沫を飲み込んだり、汚染されたものを飲食したりした場... さらに読む
を引き起こす微生物や、ボツリヌス毒素を産生する微生物などがあります。これらの疾患はいずれも対象者を死に至らしめる可能性があり、炭疽、ボツリヌス症、野兎病以外は人から人へと感染します。ただし、ブルセラ菌の人から人への直接感染は極めてまれです。
感染の影響
体の一部のみが感染の影響を受けることもあれば(局所感染)、全身が影響を受けることもあります(全身感染)。局所感染の例として、膿瘍や膀胱感染があります。重度の全身感染は、 敗血症や敗血症性ショック 敗血症と敗血症性ショック 敗血症は、 菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加え、体の重要な器官(臓器)の機能不全が起こる病態です。敗血症性ショックは、敗血症によって生命を脅かす低血圧( ショック)および臓器不全が引き起こされている病態です。 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内で感染する細菌で多くみられます。... さらに読む など、生命を脅かす事態を引き起こす可能性があります。
感染の症状として、 発熱 成人の発熱 発熱とは、体温が上昇した状態で、口腔体温計で38℃または直腸体温計で38.2℃より高ければ、体温が高いとみなされます。「熱がある」という表現は、あいまいに使われることが多く、実際に体温を測っていなくても、熱っぽい、寒気がする、汗をよくかくなどの状態を指して用いられる場合もあります。... さらに読む 、心拍数の増加、呼吸数の増加、不安、錯乱などがあります。
感染症を効果的に治療すれば、ほとんどの影響は消失します。