この感染症は河川で繁殖する雌のブユが人間を刺すことで広がります。
激しいかゆみだけが発生することもありますが、ときに発疹、リンパ節の腫れ、視覚障害、失明なども起こります。
この感染症の診断は通常、皮膚の中にいる線虫の幼虫を特定することで下されます。
この感染症が流行している地域に住む人は、イベルメクチンを年1~2回使用することで感染をコントロールできます。
オンコセルカ症の症状が現れた場合、イベルメクチンを単回投与し、症状がなくなるまで6~12カ月毎に反復投与します。
(寄生虫感染症の概要 寄生虫感染症の概要 寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、宿主を利用して(例えば、栄養素を奪うことによって)生きている生物のことです。この定義は実際には細菌、真菌、ウイルスなど多くの微生物に当てはまりますが、「寄生虫」という用語は以下のものを指して用いられます。 単一の細胞のみで構成される原虫(... さらに読む と フィラリア感染症の概要 フィラリア感染症の概要 フィラリア感染症は、一部の線虫によって引き起こされる病気で、線虫の種類によって異なる部位に影響を及ぼします。 フィラリアには多くの種類がありますが、人間に寄生するのはごく少数です。人間に寄生する種は、次のような部位に生息しています。 皮膚の下の組織(皮下組織)または眼の中: ロア糸状虫症を引き起こすロア糸状虫 Loa loa、または河川盲目症( オンコセルカ症)を引き起こす回旋糸状虫... さらに読む も参照のこと。)
世界中では、約2100万人がオンコセルカ症にかかっています。約1460万人が皮膚疾患を、115万人が視覚障害または失明を患っています。オンコセルカ症は感染性の失明原因の世界第2位となっています。
オンコセルカ症は熱帯地域やアフリカ南部(サハラ以南)で最もよくみられます。ときにイエメンや、中南米の一部(南メキシコ、グアテマラ、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ブラジルのアマゾン川流域)でも発生します。感染の可能性が最も高いのは、急流や河川の付近の住人やそこで働く人たちです。居住者だけでなく、宣教師、ボランティアのスタッフ、フィールドワークを行う研究者など、これらの地域に長期滞在する人にもリスクがあります。
オンコセルカ症の感染経路
オンコセルカ症は急流の川で繁殖する雌のブユによって広がります(このために河川盲目症と呼ばれています)。
感染サイクルはブユが感染者を刺すことで始まり、これによりブユはミクロフィラリアと呼ばれる未成熟な線虫に感染します。ミクロフィラリアはブユの体内で幼虫になります。このブユが別の人を刺すと、幼虫が皮膚から侵入します。幼虫は皮膚の中に入り、こぶ(小結節)を作り、ここで12~18カ月かけて成虫となります。雌の成虫はこの小結節の中で長ければ15年生存します。生殖後、雌の成虫は産卵し、その虫卵がミクロフィラリアとなって放出されます。成虫は1日に1000匹のミクロフィラリアを産むことがあります。何千というミクロフィラリアが皮膚や眼の組織内を移動して、病気を引き起こします。
通常、何回もブヨに刺されない限り、この感染症では症状は起こりません。そのため、感染の発生地域に一時的に入っただけでこの感染症を発症することはめったにありません。
この感染は河川の近くで起こるために、多くの人はそのような地域を避けます。河川付近での居住や労働が制限されると、穀物生産に影響します。つまり、オンコセルカ症は一部の地域における食糧不足の要因となっています。
症状
オンコセルカ症の症状はミクロフィラリアが死ぬときに発生し、その際に強いかゆみが起こりますが、たいていこれが唯一の症状となります。また、赤みを伴う発疹が出ることもあります。時間が経つと皮膚が厚くデコボコになり、しわができます。斑状に弾力性と色素が失われることがあります。重症の場合は、皮膚に長いひだができて、それが下腹部や太ももの上部に垂れ下がることがあります(「hanging groin」と呼ばれます)。陰部にあるものなど、リンパ節が炎症を起こして腫れることがあります。成虫を中に含むこぶ(小結節)が形成され、皮膚の下に触知できることがあります。通常、このようなこぶは症状を引き起こしません。
視覚への影響は、軽度の障害(かすみ目)から完全な失明まで様々です。眼は炎症を起こして充血します。明るい光を見ると痛みを感じるようになります。治療しなかった場合、角膜が完全に不透明になり、瘢痕化することがあります(失明の原因)。虹彩、瞳孔、網膜といった眼の他の部分も影響を受けます。視神経も炎症を起こし、損傷します。
失明した人は、仕事ができなくなり、家族を養うことができなくなり、寿命が短くなる可能性があります。
診断
皮膚サンプルの検査
オンコセルカ症を診断するには、通常は皮膚サンプルを採取し、ミクロフィラリアの検査を行います。医師は、 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡 細隙灯顕微鏡検査 眼に何らかの症状が出た場合は、医師の診察を受けるべきです。 しかし、眼の病気の中には、初期段階では症状がほとんどまたはまったくないものもあります。したがって、症状がなくても、眼科医やオプトメトリストによる定期的な検査を1~2年に1回程度(眼の状態によってはもう少し頻繁に)受けるべきです。眼科医とは、眼の病気の評価と(手術を含む)治療を専門... さらに読む を使用して、眼の中にミクロフィラリアがいないかを調べます。
血液検査によって感染の証拠がないかを調べることもありますが、この検査の結果は必ずしも信頼できるわけではなく、どこでも受けられるわけではありません。
小結節を取り出して、成虫の有無を検査することもありますが、この手法が必要になることはまれです。
予防
以下の対策を行うと、ブユに刺される可能性が低くなるため、結果としてオンコセルカ症のリスクを減らすのに役立ちます。
ブユがいる地域を避ける
保護効果の高い衣類を着用する
防虫剤をふんだんに使用する
繰り返し感染の危険にさらされる人には、イベルメクチンを年に1~2回使用すると、ミクロフィラリアを劇的に減少させることができ、病気の発生と進行を抑え、感染のコントロールに役立ちます。オンコセルカ症の流行地域では、こういった地域レベルでの予防アプローチがとられています。
治療
イベルメクチン
ときにドキシサイクリン
オンコセルカ症の治療では、イベルメクチンを経口で1回投与し、症状がなくなるまで6~12カ月毎に反復投与します。イベルメクチンはミクロフィラリアを死滅させ、皮膚と眼のミクロフィラリアの数を減少させます。そして、数カ月にわたって成虫によるミクロフィラリアの生産を抑えます。この薬は成虫を死滅させるわけではありませんが、繰り返し投与することで繁殖能力を低下させます。ロア糸状虫症の人にイベルメクチンを使用すると重篤な脳炎(脳の炎症)が起きる可能性があるため、オンコセルカ症の人がアフリカのロア糸状虫のいる地域に住んでいる場合、医師はイベルメクチンを使用する前に ロア糸状虫症 ロア糸状虫症 ロア糸状虫症は、線虫の一種であるロア糸状虫による皮膚の下の組織または眼を覆う透明な外膜(結膜)の下の感染症です。 主に腕や脚にかゆみのある腫れが現れることがあります。 ときおり、目を覆っている透明な膜の下に線虫が移動することがあります。 医師は、血液サンプル中に幼虫(ミクロフィラリア)を特定するか、成虫が眼を横切って移動するのを見ることで、ロア糸状虫症の診断を下します。... さらに読む がないかどうかを確認します。
場合によっては、ドキシサイクリン(抗菌薬)を6週間投与することでオンコセルカ症の治療が行われることもあります。ドキシサイクリンは、回旋糸状虫の体内に存在し、その生存に欠かせない細菌を死滅させます。その結果、雌の成虫の多くが死滅し、残った成虫もミクロフィラリアをほとんどまたはまったく産まなくなります。副作用は通常は軽度です。
以前は、小結節が手術で取り除かれていましたが、この治療法はイベルメクチンに取って代わられました。