(例えば、けがや妊娠合併症に続く)重度の出血時に全血の 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む が行われることがありますが、通常は必要な血液成分だけが投与されます。血液中には以下のような異なる成分が含まれています。
血漿には 抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む (免疫グロブリン)と凝固因子が含まれており、これらはときに血漿から分離されます。
すべての種類の血液製剤が供血1回分の血液から製造されるわけではありません。例えば、免疫グロブリンと凝固因子は、多くの献血者の血液をプールした血漿からつくられることがあります。白血球と血小板は アフェレーシス アフェレーシス アフェレーシスという方法では、血液をいったん体から取り出して、その中から物質を除去し、再び体内に戻します。 アフェレーシスは以下の目的で使用できます。 供血者から健康な血液成分を採取し、病気の人に 輸血する。 病気の患者の血液から有害物質や過剰な血球を除去する(治療としてのアフェレーシス) 分離できる血液の成分として、以下のものがあります。 さらに読む により得られます。状況によっては、赤血球、血小板、血漿、 クリオプレシピテート クリオプレシピテート(クリオ製剤) (例えば、けがや妊娠合併症に続く)重度の出血時に全血の 輸血が行われることがありますが、通常は必要な血液成分だけが投与されます。血液中には以下のような異なる成分が含まれています。 赤血球 血小板 血漿(けっしょう) 白血球 さらに読む を単独で輸血することもあります。成分を選んで輸血することによって、その病気に合った治療ができ、副作用のリスクが低下します。また、1単位の血液に含まれる異なる成分を複数の人の治療に効率的に使用できます。
一部の血液製剤は、感染症を引き起こす微生物の感染リスクを低下させる化学物質で処理できます。病原体低減化技術(pathogen reduction technology)と呼ばれるこの手順では、ほぼすべての微生物の感染リスクを低下させる化学物質で、特定の血液製剤を処理します。
赤血球
濃厚赤血球は、輸血で最もよく使用される血液成分であり、これを用いて血液が酸素を運搬する能力を回復できます。濃厚赤血球の輸血は、出血している場合や重度の 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む がある場合に行われます。赤血球は、血液の液体成分(血漿)やその他の細胞成分から分離されこの段階で容積が少なくなるように赤血球の濃度が高められるため、「濃厚」という用語が用いられます。
ときには、血漿に対して重度の反応を示す人に輸血できるよう、赤血球が特別に処理(洗浄)されることもあります。洗浄赤血球では、血漿、ほとんどの白血球、血小板がほぼすべて除去されます。
特殊なフイルターを定型的に使用して白血球を除去することで、発熱、悪寒、 サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス感染症はよくみられるヘルペスウイルス感染症で、症状が出ないものから、発熱と疲労感が出るもの(伝染性単核球症に似たもの)、また、眼や脳、その他の内臓を侵す重い症状が生じるものまで、症状は多岐にわたります。 この ウイルスは、体の分泌物と接触(性的接触とそれ以外の接触の両方)することで感染します。 ほとんどの人では何の症状もみられませんが、気分が悪くなって熱が出る場合もあり、免疫機能が低下している人が感染すると、失明など... さらに読む 、ヒト白血球抗原(HLA)に対する抗体産生など、多くの副作用が低減されます。HLAという抗原は、細胞の表面に存在するマーカーで、個々の生命体に固有のものであるため、自己を異物と区別することができます。
赤血球は冷蔵で42日間保存できます。特殊な事情がある場合(例えば、まれな型の血液を保存するためなど)は、最大10年間まで赤血球を冷凍保存することができます。
血小板
血小板は、細胞のような微細な粒子で、血液が固まるのを助けます。血小板輸血は、血小板数が非常に少なく(血小板減少症 血小板減少症の概要 血小板減少症とは、血液中の血小板の数が少なくなった状態で、出血のリスクが高まります。 血小板減少症は、骨髄で作られる血小板が少なすぎる場合や血小板が破壊されすぎたり、腫大した脾臓に蓄積されすぎたりした場合に発生します。 皮下出血やあざがみられます。 血液検査を行って、診断を確定するとともに、その原因を特定します。 ときには治療(血小板輸血、プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]、血小板の生産を増やす薬、または脾臓摘出)が必要になることが... さらに読む )、自然に重度の出血を起こす場合に行われます。血小板は室温で保管するため5日間しか保存できません。
過去には、有益となるのに十分な血小板を1人に提供するのに数名の供血者が必要でした。現在のアフェレーシスでは、他の血液成分と血小板を良好に分離する採取技術により、1人の供血者で1人の受血者に十分な血小板が提供できるようになっています。
血漿
血漿は血液の液体成分で、 血液凝固因子 血液凝固因子 止血とは、傷ついた血管からの出血を止めようとする体の働きです。止血の過程では、血液の凝固が起こります。 凝固の働きが弱すぎると、軽いけがでも、大量の出血が起きるようになります。 凝固の働きが強すぎると、出血が起きていない血管がふさがれてしまうことがあります。 そのため、人の体には、血液の凝固を抑制し、必要なくなった血のかたまりを溶かすため... さらに読む など、様々なタンパク質を含んでいます。血液凝固因子は、血小板と協働して血液が固まるのを助けるタンパク質です。凝固因子がないと、傷の出血が止まりません。
血漿は、新鮮な血液から分離された直後に、通常は凍結されます(新鮮凍結血漿)。採取から24時間以内に凍結した血漿は、1年間保存できます。血漿の輸血は出血性疾患を対象として、欠けている凝固因子が不明な場合や、特定の凝固因子が入手できないときに行われます。また、肝不全などの病気で凝固因子が不足して出血を起こしている場合にも使用されます。
クリオプレシピテート(クリオ製剤)
新鮮凍結血漿を解凍すると、液体の血漿の底に一部の凝固因子(主にフィブリノーゲン、第VIII因子、第XIII因子、フォン・ヴィレブランド因子)が個体のかたまりを形成します。このように形成されるかたまりを「プレシピテート」といいます。「クリオ」は冷たいという意味で、したがってクリオプレシピテートという名前がついています。クリオプレシピテートは、重要な凝固因子であるフィブリノーゲンがあまりにも少ないために重度の出血がみられる場合(例えば、 播種性[はしゅせい]血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群は、小さな血栓が全身の血管のあちこちにできて、細い血管を詰まらせる病気です。血液凝固が増加することで出血の抑制に必要な血小板と凝固因子を使い果たしてしまい、過度の出血を引き起こします。 感染、手術、出産時の合併症など、考えられる原因はいくつかあります。 必要以上の血液凝固(凝固亢進状態)は過度の出血を引き起こします。 血液中の凝固因子の量を測定します。... さらに読む や 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離とは、胎盤が子宮壁から早期に剥がれてしまうことで、通常は妊娠20週以降に起こります。 腹痛や圧痛、性器出血が起こることがあり、ショック状態を起こすこともあります。 胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえあります。 医師は症状に基づいて常位胎盤早期剥離を診断し、ときに超音波検査を行って診断を確定します。 胎児や母体が危険な状態である場合、または妊娠が満期である場合には、できるだけ早く分... さらに読む の場合)に、最も多く投与されます。
個々の凝固因子は、プールされた血漿から純化したり、遺伝子組換え技術を用いて製造したりすることもできます。濃縮された個々の凝固因子は 血友病 血友病 血友病は、第VIII因子と第IX因子という2つの血液凝固因子のうち、いずれかが欠乏しているために起こる遺伝性の出血性疾患です。 異なった遺伝子異常がいくつかあると、この病気を発症することがあります。 不意に出血したり、わずかな傷で出血したりする可能性があります。 診断には血液検査が必要です。 輸血を行って、欠けている凝固因子を補充します。 さらに読む や フォン・ヴィレブランド病 フォン・ヴィレブランド病 フォン・ヴィレブランド病は、血小板の機能に影響を与えるフォン・ヴィレブランド因子という血中タンパク質の遺伝的な不足や異常による病気で、これにより過剰な出血が引き起こされます。 ( 血小板の病気の概要と 血小板減少症の概要も参照のこと。) フォン・ヴィレブランド因子は、血漿、血小板、血管の壁に存在しています。血小板は、骨髄でつくられて血液中を循環している細胞で、 血液凝固を助けます。フォン・ヴィレブランド因子が欠如していたり、不足していた... さらに読む などの遺伝性出血性疾患がある人に投与したり、血液凝固を阻害する薬(ワルファリンなどの抗凝固薬)の作用を取り消すために投与することができます。
抗体
抗体(免疫グロブリン)は身体防御の役割がある血液成分で、感染症にさらされている人や抗体価が低い人に対して、一時的に免疫力を高めるために投与されることがあります。抗体は、複数の供血者からの成分献血で得られた血漿から採取します。
抗体が利用できる感染症には、水痘(水ぼうそう)、肝炎、狂犬病、破傷風などがあります。
白血球
白血球数が著しく減少している人や白血球の働きが異常な人では、生命を脅かす感染症を治すために、白血球が輸血されます。しかし、優れた抗菌薬が開発され、自身の白血球をより多く生産するよう刺激するサイトカイン増殖因子が使用されるようになったため、その必要性が大きく減少したことから、白血球輸血はまれにしか行われません。白血球は アフェレーシス アフェレーシス アフェレーシスという方法では、血液をいったん体から取り出して、その中から物質を除去し、再び体内に戻します。 アフェレーシスは以下の目的で使用できます。 供血者から健康な血液成分を採取し、病気の人に 輸血する。 病気の患者の血液から有害物質や過剰な血球を除去する(治療としてのアフェレーシス) 分離できる血液の成分として、以下のものがあります。 さらに読む により採取し、24時間保存できます。
代用血液
組織に酸素を運び分配するために、特定の化学物質または特殊処理を施したヘモグロビン(赤血球が酸素を運ぶために利用するタンパク質)溶液を用いた代用血液を作り出す試みが行われています。これらの溶液は室温で(多くの場合数年間で、血液バンクで保存できる血液よりもはるかに長く)保存でき、受血者の血液型検査や交差適合試験の必要がありません。このような特徴から、事故現場や戦場へ輸送する血液として関心がもたれています。しかし、これまでに開発された代用血液で生命が救われた例はないことが研究により示されています。そのほかに可能性のある代用血液について、さらに研究が行われています。