症状が現れないこともありますが、疲労感、発熱、寝汗、意図しない体重減少などの全身症状がみられることもあります。
リンパ節が腫れたり、脾臓の腫大による腹部膨満感を覚えたりすることもあります。
診断には血液検査が必要です。
治療には、化学療法薬やモノクローナル抗体などがあり、ときには放射線療法も使用されます。
(白血病の概要 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む も参照のこと。)
慢性リンパ性白血病(CLL)は、全体の4分の3以上の患者が60歳以上で、小児では極めてまれです。北米や欧州では、最も多くみられる 白血病 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む がCLLです。日本や東南アジアではまれにしかみられず、このことから、この病気の発生に遺伝が関係していることが示唆されます。
慢性リンパ性白血病では、成熟しているように見えるリンパ球ががん化して、最初に血液中や骨髄中、リンパ節内で増殖します。がん化したリンパ球は、続いて肝臓と脾臓に広がり、これらの臓器が腫れて大きくなってきます。
骨髄では、がん化したリンパ球によって正常な造血細胞が締め出され、結果として以下のいずれかの数が減少します。
赤血球 赤血球 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む :全身の組織に酸素を運んでいる血球
白血球 白血球 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む :体を感染から守っている血球
血小板 血小板 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む :血液凝固のプロセスを助けている細胞のような微細な粒子
がん化したリンパ球は、正常なリンパ球のようには機能せず、感染に対する防御に利用されるタンパク質である抗体を作ります。残った少数の正常なリンパ球だけで常に十分な抗体を作れるとは限らず、そのため感染が起きる可能性が高くなります。また、免疫系にも異常が生じることがあり、正常時は微生物や異物に対する防御を担っている免疫系がときに正常組織に反応して攻撃してしまうことがあります。こうした対象を誤った免疫反応により、赤血球、好中球、または血小板が破壊される可能性があります。
CLLはときに、 リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、主要な白血球であるBリンパ球およびTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です... さらに読む と呼ばれる進行の速いがんに変化することがあります。この変化が起きた状態はリヒター症候群と呼ばれ、2~10%の症例で発生します。
CLLの症状
初期のCLLでは一般に症状がみられず、白血球数の増加から診断されます。後から現れる症状としては以下のものがあります。
リンパ節の腫れ
疲労
食欲不振
体重減少
寝汗
運動時の息切れ
脾臓の腫れに起因する腹部膨満感
CLLが進行するにつれて、顔色が青白くなったり、あざができやすくなったりすることがあります。感染防御のために骨髄で作られる正常な白血球の数が減少するため、この病気の経過の後期には細菌、ウイルス、および真菌感染症が発生することがあります。
CLLの診断
血液検査
CLLは、別の理由で血算を行ったときにリンパ球が多いことから偶然発見されることがあります。異常なリンパ球の特徴を明らかにするために、採血を行ってその中に含まれている細胞を調べるための特殊な血液検査(フローサイトメトリーや細胞表面マーカー検査と呼ばれます)を行うことがあります。血液検査でも、赤血球、血小板、抗体が減少していることが明らかになります。
CLLの予後(経過の見通し)
通常、CLLはゆっくり進行します。医師は、生存期間を予測するために、病気がどの程度まで進行しているかを判定します(病期分類)。病期診断は、以下のいくつかの要因に基づいて行います。
血液中のリンパ球数
骨髄中のリンパ球数
脾臓の大きさ
肝臓の大きさ
血液中の赤血球数
血液中の血小板数
CLLの早期患者の多くは診断後10~20年以上生存し、初期の段階で通常は治療を必要としません。赤血球数の減少(貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む )や血小板数の減少(血小板減少症 血小板減少症の概要 血小板減少症とは、血液中の血小板の数が少なくなった状態で、出血のリスクが高まります。 血小板減少症は、骨髄で作られる血小板が少なすぎる場合や血小板が破壊されすぎたり、腫大した脾臓に蓄積されすぎたりした場合に発生します。 皮下出血やあざがみられます。 血液検査を行って、診断を確定するとともに、その原因を特定します。 ときには治療(血小板輸血、プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]、血小板の生産を増やす薬、または脾臓摘出)が必要になることが... さらに読む )がみられる人には、直ちに治療を行う必要があり、予後はあまりよくありません。慢性リンパ性白血病による死亡は、骨髄で正常な細胞が十分に作られなくなり、酸素の運搬、感染に対する防御、出血の抑止といった機能が果たされなくなることが原因です。
CLLでは 皮膚がん 皮膚がんの概要 皮膚がんは最も多くみられるがんです。屋外で働く人、屋外でスポーツをする人、および日光浴の愛好者で特に多くみられます。皮膚の色の薄い人(色白の人)は、作られるメラニンの量が少ないため、ほとんどのタイプの皮膚がんが特に発生しやすい傾向があります。皮膚の一番外側の層(表皮)で保護機能を果たしているメラニンという色素には、紫外線から皮膚を保護する... さらに読む や 肺がん 皮膚がんの概要 皮膚がんは最も多くみられるがんです。屋外で働く人、屋外でスポーツをする人、および日光浴の愛好者で特に多くみられます。皮膚の色の薄い人(色白の人)は、作られるメラニンの量が少ないため、ほとんどのタイプの皮膚がんが特に発生しやすい傾向があります。皮膚の一番外側の層(表皮)で保護機能を果たしているメラニンという色素には、紫外線から皮膚を保護する... さらに読む など別のがんが発生しやすいですが、これについては、おそらく免疫系の変化が関係していると考えられています。CLLは、リンパ系のがんでさらに進行が速いタイプへ変化することもあります(リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、主要な白血球であるBリンパ球およびTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です... さらに読む )。
CLLの治療
化学療法
免疫療法
CLLは進行が緩やかですので、多くの患者は何年間も治療を必要としません。医師は通常、以下の1つまたは複数の状況が発生するまで治療の開始を待ちます:
リンパ球の数が増加し始め、それによる症状が現れている
リンパ節が大きくなり始めている
赤血球または血小板の数が減少している
CLLの薬物治療
化学療法薬 化学療法とがんに対する他の全身療法 全身療法とは、がんに対して直接行うのではなく、身体全体に影響を及ぼす治療法です。化学療法は全身療法の一種であり、薬物を用いてがん細胞を死滅させるか、または増殖を阻止します。 がんの全身療法には次のようなものがあります。 ホルモン療法 化学療法(抗がん剤) 分子標的療法 さらに読む や 免疫療法薬 がんの免疫療法 免疫療法は、がんに対抗するために体の 免疫系を活性化するために行われます。そのような治療では、腫瘍細胞の特定の遺伝学的特徴を標的にします。腫瘍の遺伝学的特徴は、がんが発生する器官に左右されません。そのため、このような薬は多くの種類のがんに対して効果的な可能性があります。( がん治療の原則も参照のこと。) 免疫系を刺激するために使用される治療にはいくつかの種類があります。また、がん治療のこの領域は精力的に研究されています。米国国立がん研究... さらに読む (モノクローナル抗体など)などの薬物療法は、症状を緩和したり、腫大したリンパ節や脾臓を小さくしたりするのに役立ちますが、白血病を治癒させるわけではありません。治療を行うことで、数年間にわたってCLLを抑えることができ、再発時にもしばしば同じ治療が行われ、効果が得られます。
CLLに使用される薬剤について、標準とされている組合せはありません。B細胞系のCLLに対する最初の薬物治療では、通常はフルダラビンやシクロホスファミドなどの薬剤が使用され、がん細胞のDNAに作用して死滅させます。現在、CLLの治療には化学療法薬とリツキシマブと呼ばれるモノクローナル抗体も使用されています。通常、この併用療法により、CLLをコントロールする(寛解を誘導する)ことができます。やがて、ほとんどのCLLがこれらの薬剤に抵抗性を示すようになります。次に別の薬剤や別のモノクローナル抗体を用いた治療が考慮されます。
イブルチニブは、一部のCLL患者で持続的な寛解をもたらしている薬剤です。最初の治療や、ほかの治療で効果が出る可能性が低いCLL、ほかの治療で効果がみられなかった(難治性)または再発したCLLで使用できます。オビヌツズマブは、CLLと他の疾患を併発した高齢者に使用されることがあります。再発した人には、ときに 造血幹細胞移植 造血幹細胞移植 造血幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 静脈からの採血 骨髄(骨髄移植) さらに読む を行うことができます。
CLLの症状に対する治療
貧血は 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む のほか、ときにエリスロポエチンまたはダルベポエチン(赤血球の生産を促進する薬)の注射で治療します。血小板が少なくなると、出血につながることがあり、血小板数の減少は血小板輸血で治療します。感染症は抗微生物薬で治療します。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫大が不快感を引き起こしていて、化学療法が無効に終わった場合は、腫れを軽減させるために放射線療法が用いられます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
白血病リンパ腫協会:CLLとは(Leukemia & Lymphoma Society: What is CLL):診断、治療選択肢、最新の研究結果を含めた急性リンパ性白血病の様々な側面に関する一般的な情報