糖尿病の薬物治療

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2022年 10月
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やさしくわかる病気事典

糖尿病の人の多くは、血糖値を下げ、症状を緩和し、糖尿病の合併症を予防するために薬を必要とします。

糖尿病には、以下の2つの種類があります。

  • 1型糖尿病:体の免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を攻撃し、90%を超える細胞が破壊されて回復不能になる

  • 2型糖尿病:体がインスリンの効果に抵抗性を示す

1型糖尿病の一般的な治療では、食事や運動を含む、生活習慣の変更を必要とします。1型糖尿病の人では、インスリン注射のほか、血糖値の頻繁なモニタリングが必要になります。

2型糖尿病の一般的な治療においても、減量や食事、運動を含む、生活習慣の変更を必要とします。2型糖尿病の人では、食事と運動のみで血糖値をコントロールできる人がわずかにいますが、ほとんどの人が血糖値を下げる薬(ときにインスリンを含む)を必要とします。2型糖尿病で薬を服用している場合は、1日数回の血糖値のモニタリングがしばしば必要になります。

インスリンや一部の経口薬は、血糖値を過度に低下させて低血糖を招くおそれがあるため、薬による糖尿病の治療は慎重に行わなければなりません。

インスリン補充療法

1型糖尿病の人は、ほぼ必ずインスリン療法が必要で、これを行わないと状態が非常に悪くなります。2型糖尿病でも多くの人がインスリンを必要とします。通常、インスリンは皮下に注射します。一部の人のためにつくられた吸入式のインスリンもありますが、一般的には使用されていません。インスリンは胃で破壊されるため、今のところインスリンの経口投与はできません。経口で投与するものなど、インスリンの新しい剤形が現在研究中です。

インスリンは通常、腕、太ももまたは腹部の皮下脂肪層に注射します。用いられる小型注射器は非常に針が細く、注射をしてもほとんど痛みを感じません。

インスリンペンはインスリン入りのカートリッジを備えており、インスリンを携帯して使用する多くの人にとって便利な器具で、特に1日数回、自宅以外で注射が必要な人に有用です。

インスリンポンプを使う方法もあります。この装置は、皮膚に刺したままにした小さいカニューレ(合成樹脂製の管)からインスリンを連続的に送り込みます。インスリンを注入する速度は、時間によって調節できるほか、運動中かどうかなどのその他のパラメータによっても調整が可能です。食事の際や血糖値の上昇を是正するために、必要に応じてインスリンを追加で注入できます。このポンプによる注入は、体内でインスリンがつくられる場合とよく似ています。ポンプによる治療は1日に3回を超える注射が必要な一部の人で考慮されます。ポンプを使うと良好に血糖をコントロールできる人もいますが、ポンプの装着が煩わしいという人や、針を刺した部位がただれる人もいます。

ハイブリッド型クローズドループインスリン注入システムも利用可能です。このシステム(ときに人工膵臓とよばれます)では、持続血糖測定からの入力に基づきアルゴリズムを用いてインスリンのベースライン用量を計算し、インスリンポンプからインスリンを自動的に注入します。ただし、この装置を使用しても、血糖値のモニタリングと食事の前のインスリン投与が必要なくなるわけではありません。

インスリンの種類

インスリンには4種類の基本型があり、作用が現れる速さと持続時間によって区別されます:

  • 超速効型インスリンには、リスプロ、アスパルト、グルリシンなどがあります。これらのインスリンは作用が現れるのが最も速く、投与後1時間で最大の活性を示し、3~5時間持続します。超速効型インスリンは、食事開始時に注射します。

  • 速効型インスリン(レギュラーインスリンなど)は、超速効型インスリンよりも作用が現れるのがやや遅く、作用時間が長くなります。レギュラーインスリンは投与後2~4時間で最大の活性を示し、6~8時間持続します。食事開始の30分前に注射します。

  • イソフェンインスリン(ときにneutral protamine Hagedorn[NPH]、インスリンU-500として知られる)などの中間型インスリンは、どの中間型インスリンを用いるかにもよりますが、0.5~2時間で効き始め、4~12時間後に最大の活性を示し、13~26時間持続します。この種類のインスリンは朝に注射して1日の前半分を供給するか、夕方使用して夜間のインスリンを供給します。

  • 持効型インスリンインスリングラルギン、インスリンデテミル、U-300インスリングラルギン、インスリンデグルデクなど)は、最初の数時間はほとんど作用がありませんが、20~40時間(使用する種類によって異なります)効果が持続します。

超速効型インスリンと速効型インスリンはともに、1日に数回のインスリン注射が必要であり、食事の際には追加の注射を必要とする人でよく用いられます。

インスリンを組み合わせた製剤(すでに混合されているもの)もいくつか利用できます。さらに、高用量のインスリン投与が必要な場合には、濃縮型のインスリンも利用可能です。

吸入式インスリンは、インスリン注射ができない人やそれを望まない人が特定の状況下で利用できます。吸入式インスリンは、吸入器(喘息[ぜんそく]用吸入器に似たもの)で使用でき、肺にインスリンを吸い込むことで吸収されます。吸入式インスリンは速効型インスリンと似た作用があり、1日に数回吸入する必要があります。持効型インスリンの注射が必要になることもあります。吸入式インスリンを使用している間、医師は6~12カ月毎に肺機能を検査します。

インスリン製剤は、室温で最長1カ月間は安定しているため、持ち運びができ、職場や旅行にも携帯できます。ただし、インスリンは極端な温度では保存すべきではなく、1カ月以上保存する場合は冷蔵庫に入れるべきです。

インスリンの種類と用量の選択

インスリンの選択は複雑です。どのインスリンが最良で、どのぐらいの用量が必要かを決定する際には、医師は以下の点を考慮します。

  • 生産されたインスリンにどれぐらい体が反応するか

  • 食事後にどれぐらい血糖値が上昇するか

  • インスリンの代わりに他の血糖降下薬を用いることができるかどうか

  • 血糖値のモニタリングとインスリン量の調節が容易にできるか

  • インスリン注射がどれくらいの頻度でできるか

  • 日々の活動の幅はどれぐらいか

  • 低血糖(血糖値が低いこと)の症状がでる可能性がどれぐらい高いか

ときに医師は、朝1回目の注射に超速効型と中間型の2つのインスリンを組み合わせて注射することを勧めます。夕食時か就寝時に、2回目の注射として片方または両方のインスリンを注射します。

一部の人では、毎日同じ量のインスリンを注射します。その他の人(特に1型糖尿病の場合)では、食事、運動、血糖値のパターンに応じて、特に食事時間近辺でのインスリン投与量を調節します。さらに、体重に増減がある場合や精神的ストレスまたは病気(特に感染症)がある場合も、インスリンの必要量が変わることがあります。

調節可能なインスリン投与法の1つとして、持効型インスリンを朝晩注射し、さらに食事に合わせて超速効型インスリンを数回注射するというものがあります。必要量の変化に応じてインスリンの量を調節します。1日の様々な時間に血糖値を測定しておくと、調節方法を決定する際の参考になります。この投与法を用いる患者には、治療の詳細に対して細かな注意を払えるように糖尿病に関する豊富な知識が求められます。

低血糖

インスリンを用いる治療で最もよくみられる合併症は低血糖です。低血糖は、血糖値を厳密に管理しようとする人でより多くみられます。

軽度から中等度の低血糖でみられる症状としては、頭痛、発汗、動悸、ふらつき、かすみ目、興奮、混乱などがあります。より重度の低血糖では、てんかん発作や意識の喪失が起こります。高齢者では、低血糖によって、脳卒中に似た症状が生じることがあります。

頻繁に低血糖が生じると、低血糖による症状を感じなくなるため、低血糖が起きていることに気づかない可能性があります(無自覚性低血糖)。

医師は、低血糖の症状を認識する方法やそれを治療する方法を患者に指導します。通常は、キャンディーやジュースなどの何か甘いものを摂取することで、素早く血糖値を上昇させることができます。低血糖が起こったときに服用できるようにブドウ糖の錠剤を携帯することもできます。低血糖が起こったときに、本人が非常に混乱して低血糖が起きていることに気づかない可能性があるため、家族や信頼できる人に低血糖の徴候を把握しておいてもらうことが重要です。

インスリン抗体

注入されたインスリンは正確には体がつくるインスリンとは異なるため、非常にまれではありますが、注入されたインスリンに対して、体が抗体を産生する場合があります。これらの抗体はインスリンの作用を妨げるため、非常に多量のインスリンが必要になります。

インスリンに対するアレルギー反応

インスリン注射は皮膚や皮下組織に影響を与えます。アレルギー反応はまれですが、痛みや熱感が生じ、それに続いて発赤、かゆみ、注射部位の周囲が数時間腫れることがあります。非常にまれではありますが、インスリンの注射後にアナフィラキシー反応が起こることがあります。

インスリンに対する皮膚反応

インスリン注射によって脂肪が蓄積してこぶのように膨らんだり、脂肪が破壊され皮膚にくぼみができたりします。このような皮膚反応はアレルギー反応ではありませんが、注入されたインスリンの吸収が悪くなる可能性があります。したがって、注射する部位を、ある日は太ももに、次の日は腹部、次は腕というように変えてこうした問題が起きないようにすることが重要です。

経口血糖降下薬

2型糖尿病では、経口血糖降下薬で血糖値を十分に下げることができます。ただし、1型糖尿病では効果がありません。経口血糖降下薬にはいくつかの種類がありますが、主なものは以下の4種類です。

  • インスリン分泌促進薬は、膵臓(すいぞう)を刺激してより多くのインスリン生産を促します

  • インスリン抵抗性改善薬は、インスリンの分泌には影響を与えず、体のインスリンへの反応を促進します

  • 腸でのブドウ糖の吸収を遅らせる薬もあります

  • ブドウ糖の尿中への排泄を増やす薬もあります

インスリン分泌促進薬には、スルホニル尿素薬(グリベンクラミド、グリピジド、グリメピリドなど)やメグリチニド系薬剤(レパグリニド、ナテグリニドなど)があります。

インスリン抵抗性改善薬には、ビグアナイド系薬剤(例えば、メトホルミンなど)やチアゾリジン系薬剤(例えば、ピオグリタゾンなど)があります。

腸でのブドウ糖の吸収を遅らせる薬には、アルファグルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボースやミグリトールなど)があります。

ブドウ糖の尿中への排泄を増やす薬にはナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(例えば、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなど)があります。

ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害薬(例えば、シタグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、アログリプチン)は、インスリン生産量を増やすよう膵臓を刺激するとともに、腸でのブドウ糖の吸収を遅らせます。このような薬はグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)を増加させることで作用します。

食事と運動で血糖値を十分に下げられない2型糖尿病患者には、しばしば経口血糖降下薬が処方されます。薬は毎朝1回だけ飲めばよいだけのこともありますが、1日2~3回服用が必要な人もいます。1種類の薬では不十分な場合は、2種類以上の経口薬か、または経口薬1種類とインスリンあるいは注射剤のグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)やデュアルインクレチン作動薬との併用療法が用いられることがあります。

注射用の血糖降下薬

インスリンは、最もよく使用されている注射用の血糖降下薬です。使用法についてはすでに説明済みです。

注射用の血糖降下薬にはほかに以下の2種類があります。

  • グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬

  • アミリンアナログ

注射用の血糖降下薬は、他の血糖降下薬とともに投与されます。

グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)には、主に膵臓からのインスリン分泌を増加させる作用があります。これらの薬には、胃からの食べものが出ていくのを遅らせる(血糖の増加を遅らせる)働きや、食欲を減退させ体重減少を促す働きがあります。GLP-1受容体作動薬は注射により投与します。最もよくみられる副作用は吐き気と嘔吐です。科学的根拠は不明ですが、膵炎(膵臓の有痛性の炎症)のリスクが上昇する可能性もあります。この薬は甲状腺髄様がんの病歴や家族歴がある人には投与すべきではありません。これは、動物での研究でいくつかの種類の甲状腺腫瘍のリスクが上昇することが示されたためですが、これまでのところ、大規模臨床試験のデータからはヒトにおけるこれらの腫瘍の増加は認められていません。

チルゼパチドはGLP-1薬と同様、GLP-1受容体に作用する薬剤であると同時に、インスリン分泌および体重減少にも影響を及ぼすグルコースインスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体と呼ばれる別の受容体にも作用する薬剤です。この薬は2型糖尿病や肥満の治療にも使用されます。

アミリンアナログは、アミリンという食後の血糖値の調節に関与する膵臓のホルモンに似た作用をもつ一群の薬剤です。プラムリンタイド(pramlintide)は現在利用できる唯一のアミリンアナログで、グルカゴンというホルモンの分泌を抑制します。グルカゴンは血糖値を上昇させるため、プラムリンタイド(pramlintide)は血糖値を下げるのに役立ちます。また、胃からの食べものが出ていくのを遅らせるため、満腹感の維持に役立ちます。注射により投与することができ、1型または2型糖尿病の人で食事の際のインスリンと併用されます。

糖尿病で投与される他の薬

糖尿病では心臓発作脳卒中などの合併症のリスクがあるため、このような合併症を予防または治療するための薬を服用することが重要です。服用できない理由がない限りは(例えば、その薬に対するアレルギーがある)、以下の薬が投与されます。

  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬:糖尿病で高血圧または慢性腎臓病がある人に対して

  • アスピリン:糖尿病で心血管疾患の危険因子がある人に対して

  • スタチン:心血管疾患のリスクを低下させる目的で40歳~75歳の糖尿病の人に対して

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国糖尿病協会(American Diabetes Association):糖尿病とともに生きる上で役立つ資料など、糖尿病に関する包括的な情報

  2. JDRF(かつての国際若年性糖尿病研究財団[Juvenile Diabetes Research Foundation]):1型糖尿病に関する一般的な情報

  3. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases):最新の研究や地域社会への支援プログラムなど、糖尿病に関する一般的な情報

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