甲状腺の概要

執筆者:Glenn D. Braunstein, MD, Cedars-Sinai Medical Center
レビュー/改訂 2022年 9月
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やさしくわかる病気事典

甲状腺は幅約5センチメートルの小さな腺で、首ののどぼとけの下方の皮膚のすぐ下にあります。甲状腺は2つの部分(葉)に分かれ、中央で結合し(峡部と呼ばれます)、蝶ネクタイのような形をしています。正常な甲状腺は外見では分からず、かろうじて触れることができる程度ですが、甲状腺が腫れて大きくなると、医師が触診すれば容易に分かるようになり、のどぼとけの下方や側方に目立つ膨らみ(甲状腺腫)が現れます。

甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは以下の2つの方法で代謝速度に影響を及ぼします。

  • 体のほぼすべての組織を刺激してタンパク質を生産させる

  • 細胞が使用する酸素の量を増やす

甲状腺ホルモンは、心拍数、カロリーの燃焼速度、皮膚の修復、成長、熱産生、妊よう性、消化など多くの生命活動に影響します。

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加齢に関連する注意点:高齢者における甲状腺の変化

加齢そのものは甲状腺と甲状腺ホルモンに対して軽微な影響しか及ぼしません。歳をとると、甲状腺は縮んで首の中での位置が降下します。トリヨードサイロニン(T3)と呼ばれる甲状腺ホルモンの量はわずかに減少しますが、生命維持機能の活動速度はほとんど変化しません。しかし、甲状腺疾患は加齢に伴って増加する傾向がみられます。

甲状腺の機能に影響を及ぼす病気、特に甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症は、他の病気や高齢者にみられる特徴とよく似た症状を引き起こすため、高齢者では別の病気に間違われがちです。

甲状腺機能が亢進または低下すると、高齢者は大幅な体調の悪化を感じ、日常生活を送る能力が大きく衰える場合があります。このような理由から、効果的に治療を行うためには、隠れている本症を見逃さないようにする必要があります。

一部の専門家は、70歳以上の人に対して毎年または数年毎に甲状腺刺激ホルモンの血中濃度を測定することを推奨していますが、この問題を検討したいくつかの医学団体は、臨床検査値の軽微な異常のある人への過剰な治療を避けるために、真に無症状の成人にはスクリーニングを行わないよう推奨しています。

甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモンには以下の2つがあります。

  • T4:サイロキシン(テトラヨードサイロニンとも呼ばれる)

  • T3:トリヨードサイロニン

T4は甲状腺でつくられる主なホルモンで、体の代謝速度を上げる効果は、あったとしてもほんのわずかです。その代わり、T4はさらに活性の高いT3に変換されます。T4からT3への変換は肝臓やその他の組織で行われます。T4からT3への変換は、そのときどきの体の要求や病気の有無といった多くの要因によって制御されています。

血流中のほとんどのT4とT3は、サイロキシン結合グロブリンと呼ばれるタンパク質に結合して運ばれます。ごく少数のT4とT3のみが、血液中で遊離して体内を巡っています。この遊離しているホルモンは活性が高い状態です。遊離ホルモンが体内で使用されると、結合型のホルモンの一部は結合しているタンパク質から解放されます。

甲状腺ホルモンをつくるために、甲状腺は食べものや水に含まれるヨウ素を必要とします。甲状腺はヨウ素を取り入れて甲状腺ホルモンに加工します。甲状腺ホルモンが使われると、ホルモンに含まれるヨウ素が放出されて甲状腺に戻り、甲状腺ホルモンをつくるために再利用されます。不思議なことに、甲状腺は血液中のヨウ素濃度が高くなると、甲状腺ホルモンの分泌をやや減らします。

甲状腺はまた、骨がカルシウムを取り込む働きを助けて骨の強化に役立つカルシトニンというホルモンをつくります。

甲状腺ホルモンの調節

体には甲状腺ホルモンの量を調節する複雑なメカニズムがあります。まず、脳の下垂体のすぐ上にある視床下部が甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンを分泌して、下垂体に甲状腺刺激ホルモン(TSH)をつくらせます。名前が示すように、TSHは甲状腺ホルモンをつくるように甲状腺を刺激します。下垂体は血流内の甲状腺ホルモンの量が多いか少ないかによって、TSHの分泌を加速するか減速するかを調節します。

甲状腺の診断検査

医師はまず診察を行い、首の部分を触診して甲状腺が腫れていたり、しこり(結節)がないか確認します。

この診察結果に応じて、他の検査が必要になることもあります。

甲状腺機能検査

甲状腺がどの程度機能しているかを調べるため、通常は血液検査により、次のホルモンの濃度を測定します。

  • TSH

  • T4

  • T3

一般的に、血液中の甲状腺刺激ホルモン値は甲状腺機能の最も優れた指標です。このホルモンの役割は甲状腺を刺激することであるため、甲状腺の活動が低下すると、より強い刺激が必要になるため血液中のTSH値は上昇し、甲状腺の活動が過剰になると、刺激を弱める必要があるためTSH値は低下します。しかし、まれに下垂体が正常に機能していない場合、TSH値は甲状腺機能を正確に反映しません。

甲状腺ホルモンT4とT3の血中濃度を測定する場合、各ホルモンの結合型と遊離型の総量(総T4と総T3)を測定します。循環血中のT4とT3の大部分は、サイロキシン結合グロブリンと呼ばれるタンパク質に結合して運ばれます。サイロキシン結合グロブリンの濃度が異常ならば、甲状腺ホルモンの総量が誤って解釈される可能性があるため、場合によっては血液中で遊離しているホルモンの量のみ測定します。サイロキシン結合グロブリンの値は、腎疾患のある人や肝臓でつくられるタンパク質の量が低下している病気の人、またはタンパク質同化ステロイド薬を使用している人で低くなります。妊娠している女性、経口避妊薬あるいは他のエストロゲンを服用している女性、初期の肝炎の患者では、この値が高くなります。

甲状腺の超音波検査

甲状腺の触診で1つ以上のしこり(結節)が認められると、超音波検査が行われます。超音波検査では、音波を使って甲状腺の大きさを測定し、結節の内部が細胞で詰まっているのか(充実性)、液体で満たされているの(嚢胞[のうほう]性)か、カルシウムの有無などの結節の特徴、ならびに甲状腺の血管分布などを判定します。

別の検査(放射性ヨード摂取率検査と呼ばれる核医学検査の一種)では、少量の放射性物質(ヨウ素やテクネチウムなど)が血液中に注射されます。注射された放射性物質は甲状腺に集まるため、別の種類の画像検査を行うための装置(ガンマカメラと呼ばれ放射線を検出できます)で甲状腺の画像を撮影し、何らかの異常がないかどうかを確認します。

甲状腺は、その働きの程度に応じて放射性ヨウ素を取り込むため、甲状腺の画像検査は、甲状腺の特定の部位の機能が正常か、亢進しているか、あるいは低下しているかを他の部位と比較して確定するのにも役立ちます。

その他の甲状腺検査

自己免疫疾患が疑われる場合は、血液検査で甲状腺を攻撃する抗体がないかを調べます。

甲状腺のがんが疑われる場合は、検査(生検)のため細い針で甲状腺組織のサンプルが採取されます。通常、生検すべき部位は超音波を用いて特定します。

甲状腺髄様がんが疑われる場合、このがんは常にカルシトニンを分泌するため、血液中のカルシトニン値が調べられます。

甲状腺疾患のスクリーニング

一部の専門家は、70歳以上の高齢者に対して毎年または数年毎に甲状腺刺激ホルモンの血中濃度の測定による甲状腺疾患のスクリーニングを推奨していますが、この問題を検討したいくつかの医学団体は、臨床検査値の軽微な異常のある人への過剰な治療を避けるために、真に無症状の成人にはスクリーニングを行わないよう推奨しています。先天性甲状腺機能低下症は治療せずに放置すると脳や他の器官の発達に重大な障害を引き起こすことがあるため、先天性甲状腺機能低下症を検出するためのスクリーニングはすべての新生児に推奨されます。

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