くも膜下出血(SAH)

執筆者:Ji Y. Chong, MD, Weill Cornell Medical College
レビュー/改訂 2020年 7月
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やさしくわかる病気事典

くも膜下出血は、脳を覆っている組織(髄膜)の内側層(軟膜)と中間層(くも膜)との間にあるすき間(くも膜下腔)への出血です。

  • 最も多い原因は、動脈のこぶ(動脈瘤)の破裂です。

  • 通常、動脈が破裂すると、突然の激しい頭痛が起こり、その後にしばしば短時間意識を失います。

  • 診断を確定するためにCT検査またはMRI検査のほか、ときに腰椎穿刺と血管造影検査が行われます。

  • 頭痛を軽減し血圧をコントロールするために薬剤が投与され、出血を止めるために手術が行われます。

脳卒中の概要出血性脳卒中の概要も参照のこと。)

くも膜下出血は生命を脅かす病気であり、短時間のうちに、重篤で永続的な障害に至る可能性があります。くも膜下出血は、脳卒中の中で唯一、男性より女性に多くみられます。

破裂はれつ破綻はたん出血性しゅっけつせい脳卒中のうそっちゅう原因げんいん

のう血管けっかんよわかったり、異常いじょうがあったり、血管けっかん異常いじょう圧力あつりょくがかかったりすると、出血性しゅっけつせい脳卒中のうそっちゅうこることがあります。出血性しゅっけつせい脳卒中のうそっちゅうは、脳内出血のうないしゅっけつのようにのうなか出血しゅっけつこる場合ばあいと、くも膜下出血まくかしゅっけつのようにのうをおおっている組織そしき内側うちがわそう中間ちゅうかんそうとのあいだ(くも膜下腔まくかくう)で出血しゅっけつこる場合ばあいがあります。

くも膜下出血の原因

くも膜下出血は通常、頭部外傷によって起こります。しかし、頭部外傷によるくも膜下出血は異なる症状を引き起こすため、異なる診断と治療が行われ、脳卒中とはみなされません。

くも膜下出血が脳卒中とみなされるのは、出血が自然に起こった場合、すなわち、事故や転倒などの外部からの力による出血ではない場合に限られます。自然出血は通常、以下に起因します。

  • 脳動脈の動脈瘤が突然破裂する

動脈瘤とは、動脈の壁が弱くなったところにできる隆起(こぶ)で、通常は、動脈が枝分かれするところにできます。動脈瘤は、出生時から存在する場合(先天性)もありますが、長年にわたる高血圧によって動脈の壁が弱くなって生じることもあります。ほとんどのくも膜下出血は、先天性の動脈瘤が原因で起こります。脳の動脈瘤は家系内で遺伝する場合もあります。脳動脈瘤の約6~20%は、遺伝により受け継いだ動脈壁の異常に起因します。

動脈瘤の破裂による出血は、どの年齢でも発生する可能性がありますが、40~65歳の人に最もよくみられます。

あまり一般的ではありませんが、脳の内部や周囲に動脈と静脈の接続異常(動静脈奇形)があり、これが破裂してくも膜下出血が起こることがあります。動静脈奇形は生まれたときから存在することもありますが、通常は、症状が現れて初めてその存在が明らかになります。くも膜下出血は、出血性疾患に起因している可能性もあります。

まれに、感染した心臓の弁で血栓が形成され、それが脳に血液を供給している動脈に運ばれて(塞栓)、その動脈に炎症が起こることがあります。するとその動脈壁が弱くなり、破裂することがあります。

くも膜下出血の症状

動脈瘤は通常、破裂するまで症状を引き起こしません。ただし、以下のいずれかに該当する場合、症状を引き起こすことがあります。

  • 動脈瘤が神経(しばしば、眼の動きをコントロールする神経)を圧迫している(複視をもたらす)

  • 動脈瘤から少量の血液が漏れて、頭痛(通常は過去の頭痛とは異なるもの)を引き起こしている

以下は大きな破裂に先立ってみられる警戒すべき徴候です。

  • 複視

  • それまでの頭痛とは異なる、突然の激しい頭痛

以上のくも膜下出血の警戒すべき徴候は、破裂の数分から数週間前に起こる可能性があります。異常な頭痛が起こった場合は、すぐに医師に相談すべきです。

大きな動脈瘤が破裂すると、以下の症状が現れます。

  • 頭痛(極めて突如で激しい場合があり、ときに雷鳴頭痛と呼ばれることがある)

  • 顔面や眼の痛み

  • 複視

  • かすみ目

  • 項部硬直(通常、すぐにはみられない)

  • 意識の消失

破裂による突然の激しい頭痛は、数秒以内にピークに達します。経験してきた中で最もひどい頭痛と説明する患者が多い頭痛に続いて、しばしば短い意識消失が起こります。一部の人は病院に到着する前に亡くなります。昏睡状態で意識が戻らない人や、最終的に亡くなる人もいます。目を覚ます人もいますが、患者は錯乱と眠気を覚えます。落ち着かなくなることもあります。数時間以内または数分以内に、再び眠気と錯乱が起こる場合があります。反応がなくなり、覚醒が困難になる場合もあります。

24時間以内に、脳の周囲の血液と髄液によって髄膜(脳を覆う組織層)が刺激されることで、項部硬直と持続的な頭痛が起こり、しばしば嘔吐、めまい、腰痛もみられます。

心拍数と呼吸数が頻繁に変動し、けいれん発作を伴うこともあります。

重度の身体障害が発生し、数分から数時間以内に永続的になることがあります。最初の5~10日間は、発熱、頭痛の持続、錯乱がよくみられます。

くも膜下出血は、以下のような別の重篤な問題(合併症)につながる可能性があります。

  • 水頭症:くも膜下出血による血液は、24時間以内にかたまりになります。かたまりになった血液は、髄液(脳の周囲を流れている体液)の正常な排出を妨げることがあります。その結果、脳内に水分が蓄積し、頭蓋内圧が上昇します。水頭症は、頭痛、眠気、錯乱、吐き気、嘔吐などの症状を引き起こすことがあり、昏睡と死亡のリスクを高めます。

  • 血管れん縮:血管れん縮とは、血管の収縮(れん縮)です。約25%の患者に発生し、通常はくも膜下出血の3~10日後にみられます。血管れん縮が起こると、脳への血流が制限されます。そうすると、虚血性脳卒中の場合と同様、脳組織が十分な酸素を受け取れず、壊死することがあります。血管れん縮は、体の片側の筋力低下または感覚消失、言語能力の低下、めまい、協調運動障害など、虚血性脳卒中と似た症状を引き起こします。

  • 2回目の破裂:ときに動脈瘤の2回目の破裂が起こることがあり、その場合は通常、1週間以内に発生して破滅的な結果をもたらします。

くも膜下出血の診断

  • CTまたはMRI検査

  • 血管造影検査

突然の激しい頭痛が、数秒で痛みのピークに達したり、意識消失、錯乱その他の脳卒中を疑わせる症状を伴ったりする場合、直ちに医療機関を受診するべきです。くも膜下出血の検査ができるだけ速やかに行われます。その後、できるだけ速やかに治療が開始されます。

出血の有無を確認するため、できるだけ速やかにCT検査が行われます。MRI検査でも出血を検出できることがありますが、この検査はすぐに利用できない場合があります。

CT検査で結論が出ない場合や、CT検査の結果は正常であったものの医師がまだくも膜下出血を疑っている場合は、腰椎穿刺が行われます。腰椎穿刺では、髄液(脳と脊髄の周囲を流れている液体)に含まれるごく微量の血液も検出できます。ただし、腰椎穿刺のリスクが高まるような頭蓋内圧の上昇が疑われる場合には、腰椎穿刺は行われません。

動脈瘤を診断するためにMRアンギオグラフィー検査またはCT血管造影検査が行われることもありますが、動脈瘤を最も正確に検出できるのは脳血管造影検査です。診断を確定し、出血の原因になっている動脈瘤や動静脈奇形の場所を特定するために、できるだけ早く脳血管造影検査が行われます。脳血管造影検査では、カテーテル(細く柔軟なチューブ)を動脈(通常は鼠径部の動脈)に挿入し、大動脈を経由して首の動脈まで到達させます。そして、動脈の輪郭が描出されるようにするために、造影剤(X線画像に写る物質)を注入します。脳血管造影検査は、MRアンギオグラフィー検査またはCT血管造影検査より体への負担が大きい検査ですが、より多くの情報が得られます。ただし、CT血管造影検査の方が体への負担が小さいことから、頭蓋内の動脈瘤を診断するのに今では脳血管造影検査はあまり行われなくなっています。

くも膜下出血の予後(経過の見通し)

動脈瘤の破裂によりくも膜下出血が起きた人の約35%は、病院に到着する前に死亡します。動脈瘤が再び出血し始めるため、さらに15%が数週間以内に死亡します。動脈瘤を治療する処置(カテーテルを使って器具を留置するか、手術で頭蓋骨を開ける)により、動脈瘤からの再出血のリスクを低下させることができます。治療しない場合、6カ月間生存した人でも再破裂が起きるリスクが毎年3%あります。

原因が動静脈奇形による場合は、これより良好な経過が期待できます。

ときとして、小さな損傷によって出血が起こり、その損傷が自然にふさがったために脳血管造影検査でも見つからないことがあります。そのような場合の経過は非常に良好です。

一部の人は、くも膜下出血の後、ほとんどまたはすべての精神機能と身体機能が回復します。しかし、たとえ適切なタイミングで治療が行われても、多くの人では体の片側の筋力低下、麻痺、感覚消失や、言語の使用と理解が困難になるなどの症状が残ります。

くも膜下出血の治療

  • 頭痛を緩和する薬剤

  • 合併症を治療または予防する対策

  • 動脈瘤の治療

くも膜下出血が発生した可能性がある場合は、直ちに入院となります。可能であれば、脳卒中治療に特化した専門施設に搬送されます。治療には絶対安静が不可欠です。

抗凝固薬(ヘパリンやワルファリンなど)と抗血小板薬(アスピリンなど)は、出血を悪化させるため、投与されません。

重度の頭痛には、オピオイドなどの痛み止め(鎮痛薬)が使用されます(アスピリンやその他の非ステロイド系抗炎症薬は出血を悪化させる可能性があるため使用しません)。排便のときにいきまないように便軟化剤を投与します。いきむと、頭蓋内の血管に圧力がかかり、もろくなった動脈が破裂するリスクが高まるためです。

血管れん縮と続発する虚血性脳卒中を予防するため、通常、カルシウム拮抗薬であるニモジピンが経口投与されます。医師は薬剤を投与したり、点滴の量を調節するなどして、血圧を適度に(つまり、それ以上出血が起こらない程度に低く、かつ、脳の損傷部分の血流が維持される程度に高く)保ちます。

血圧が非常に高ければ、高血圧の治療が行われます。

ときとして、脳から髄液を排出するために合成樹脂製のチューブ(シャント)を留置することもあります。この処置により、圧力が開放され、水頭症を予防できます。

動脈瘤の治療

動脈瘤がある人には手術を行い、もろくなった動脈の壁を隔離するか、ふさぐか、または補強するかして、後に致死的な出血が起こるリスクを低下させます。これらはどれも困難な処置で、どの手術を行っても死亡のリスクが高く、特に昏迷や昏睡状態に陥っている人ではなおさらです。

手術の最適なタイミングについては専門家の間で意見が分かれており、患者の状態に基づいて決めなければなりません。患者が覚醒できる場合、ほとんどの脳神経外科医は、症状が現れてから24時間以内、水頭症や血管れん縮が起こる前に手術を行うことを勧めています。これほど迅速には手術を行えない場合は、手術のリスクを低下させるために手術を10日遅らせることもありますが、そうすると待機期間が長くなるため、出血が再発する可能性が高くなります。

動脈瘤を修復するには、以下の手術のいずれか(血管内手術と呼ばれます)が行われます。

  • 血管内コイル塞栓術

  • 血管内ステント留置

血管内コイル塞栓術はよく選択されます。この手術では、コイル状のワイヤーを動脈瘤の中に挿入します。この際、カテーテルを通常は鼠径部の動脈から挿入し、問題のある脳動脈に到達させます。動脈瘤をX線画像で見えるようにするため、造影剤が注入されます。そして、カテーテルを用いてコイルを動脈瘤の中に留置します。このように、この手術では頭蓋骨を開く必要がありません。留置されたコイルによって、動脈瘤を通過する血液の流れが遅くなり、その結果、動脈瘤の内部で血液がかたまりやすくなります。これによって形成された血栓が動脈瘤をふさぎ、動脈瘤の破裂を防ぎます。脳血管造影検査で動脈瘤と診断された場合は、同時にしばしばこの血管内コイル塞栓術が行われます。コイルは永久的にその場所に残します。

血管内ステント留置術では、カテーテルを使用して、動脈瘤の開口部にワイヤーでできたチューブ(ステント)を留置します。そのステントにより、動脈瘤を迂回する新しい血流の経路が作られ、血液が動脈瘤の中に入らないようになるため、破裂のリスクがなくなります。ステントは永久的にその場所に残します。

これより頻度は少ないものの、動脈瘤を金属クリップで留める場合もあります。この処置では、外科医が頭皮に切開を加え、頭蓋骨の一部を切除して、動脈瘤が見える状態にします。そして、動脈瘤の開口部にクリップをかけます。この処置により、血液が動脈瘤の中に入らないようにして、破裂のリスクをなくします。クリップは永久的にその場所に残します。クリップを外科的に留置するには、数日間の入院が必要です。

15~20年前に使用されていたクリップのほとんどは、磁力の影響を受けるため、MRI検査の最中に動いてしまう可能性があります。このタイプのクリップをしている人は、MRI検査が検討されている場合、医師に知らせる必要があります。新型のクリップは磁力による影響を受けません。

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