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神経系への加齢の影響

執筆者:

Kenneth Maiese

, MD, Rutgers University

レビュー/改訂 2021年 3月
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脳の機能は神秘的で驚くべきものですが、それらは膨大な数の神経細胞とそれらの間でなされるコミュニケーションによって実現されています。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も担っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的... さらに読む 脳

脳の機能は通常、小児から成人へ、さらに老人へと年齢を重ねるにつれて変化します。小児期には思考力と判断力が着実に向上するため、小児はより複雑な技術を次々と習得していくことができます。

成人期の大部分では、脳の機能は比較的安定しています。

一定の年齢を超えると、個人差はあるものの、脳の機能は低下していきます。人によっては、脳の一部の領域が、機能の喪失を見ることなく、最大年1%のペースで小さくなっていきます。このように、加齢による脳の構造の変化は、必ずしも脳機能の喪失につながるわけではありません。一方で、加齢に伴う脳機能の低下は、脳内化学物質(神経伝達物質)の変化、神経細胞自体の変化、時間の経過とともに脳内に蓄積する有害物質、遺伝した変化など、数多くの要因の結果である可能性があります。影響が現れる時期は個々の脳機能によって異なります。

  • 短期記憶や新しいことを学習する能力は、比較的早く影響を受ける傾向があります

  • 語彙や言葉づかいなどの言語能力は遅れて低下し始めます

  • 知的能力、すなわち(その速さは別として)情報を処理する能力は、神経系や血管に基礎疾患がなければ、通常は維持されます

脳による神経信号の処理が遅くなっていくため、反応速度や作業能率は低下することがあります。

しかし、脳機能に対する加齢の影響を高齢者によくみられる様々な病気の影響と切り分けるのは難しい場合があります。そのような病気としては、 うつ病 うつ病 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの生産が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む 甲状腺機能低下症 (甲状腺の活動が不十分になった状態)のほか、 アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む などの脳の変性疾患があります。

  • 余剰性:脳には、正常な機能を維持するのに必要な数以上の細胞が存在します。こうした余剰が、加齢や病気に伴って起こる神経細胞の喪失を補うのに役立っています。

  • 新しい結合の形成:脳は、残っている神経細胞同士の間に新しい結合を作ることによって、加齢による神経細胞の減少を積極的に補っています。

  • 新しい神経細胞の生産:脳の一部の領域では、新しい神経細胞が作られることがあり、この現象は特に脳損傷や脳卒中の後に顕著にみられます。新しい神経細胞が作られる領域の例として、海馬(記憶の形成や呼び出しに関わる部分)や大脳基底核(協調運動をつかさどり、滑らかな運動を可能にする部分)などがあります。

人は、脳機能が低下するペースをいくらか変えることができます。例えば、運動することにより、記憶に関わる脳の領域での神経細胞の減少が緩やかになると考えられています。また、残っている神経細胞の機能を保つのにも運動が役立ちます。一方、毎日2ドリンク(ドリンクは飲酒量の単位)以上のアルコール飲料を飲むと、脳の機能低下を速める可能性があります。

年齢を重ねると、脳への血流量が平均で20%減少します。脳への動脈に動脈硬化(脳血管疾患)がある人では、血流量がさらに減少します。脳血管疾患は、長期にわたって喫煙していた人や、 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなっている状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む 高血圧 コレステロール高値 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む 脂質異常症 、または高血糖(糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む )を生活習慣の改善や薬剤の使用でコントロールできない人で起こりやすくなります。そのような人では、脳細胞が早い時期に失われ、精神機能にも障害が生じる可能性があります。その結果、血管の損傷が起きて比較的若年で 血管性認知症 血管性認知症 血管性認知症とは、脳組織への血液供給が減少または途絶し、脳組織が破壊されることにより精神機能が失われる病気です。原因は通常脳卒中であり、少数の大きな脳卒中による場合もあれば、多数の小さな脳卒中による場合もあります。 脳に血液を供給する血管が損傷される病気(通常は脳卒中)は、認知症を引き起こす可能性があります。 症状は連続的に徐々に進行するのではなく、段階的に進行する傾向があります。... さらに読む になるリスクが高くなります。

知っていますか?

  • 運動することで、加齢による脳機能の低下が緩やかになると考えられています。

  • コントロール不良の高血圧、糖尿病、コレステロール高値があると、加齢による脳機能の低下が速まります。

脊髄 脊髄 脊髄は傷つきやすい長い管状の構造物で、脳幹の下端から脊椎の最下部付近まで続いています。脊髄は神経軸索の束で構成されていて、それらは 脳と他の部位との間でやりとりされるメッセージの伝達経路になっています。脊髄の中には、歩行や水泳などの協調運動や排尿を制御する神経細胞の回路が備わっています。脊髄はまた、膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)などの反射の中枢でもあります( 反射弓:脳を介さない経路を参照)。... さらに読む

加齢に伴って椎骨と椎骨の間にある椎間板が硬くもろくなり、椎骨の一部が過剰に成長することもあります。すると、椎間板のクッション機能が損なわれ、脊髄や脊髄から出る神経の枝(脊髄神経根)に大きな圧力が加わります。この圧力が高まると、神経線維が脊髄から出る部分に損傷が起きることがあります。この損傷により、感覚が鈍くなり、ときに筋力や平衡感覚が低下することもあります。

末梢神経 末梢神経系の概要 末梢神経系とは、中枢神経系以外の神経系、すなわち脳と脊髄以外の神経のことを指します。 末梢神経系には以下のものが含まれます。 脳と頭部、顔面、眼、鼻、筋肉、耳をつなぐ神経( 脳神経) 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経(31対の脊髄神経を含む) 体中に分布している1000億個以上の神経細胞 さらに読む

加齢に伴って、末梢神経での信号の伝達速度が低下したり、神経伝達物質の放出が障害されたりすると、感覚が鈍くなり、反射が遅くなるほか、多くの場合、体の動きがぎこちなくなります。神経が信号を伝える速さが低下するのは、神経を取り囲む髄鞘に変性が起きるためです。髄鞘は神経を絶縁している組織の層で、信号の伝導速度を高める働きがあります(図「 神経細胞の典型的な構造 神経細胞の典型的な構造 神経細胞の典型的な構造 」を参照)。

神経の変性は、加齢に伴って血流が減少したり、近くの骨が過剰に成長して神経に圧力が加わったりすることによっても起こります。加齢に伴う機能の変化は、ほかの原因(例えば糖尿病)で神経に損傷が起きたときに、より顕著になります。

年齢を重ねると、損傷に対する末梢神経系の反応も低下します。若い人の場合は、末梢神経の軸索が損傷を受けても、脊髄の中やその近くにある細胞体に損傷がない限り、神経は自己修復されます。高齢者では、この自己修復過程が遅く不完全になるため、病気やけがの影響を受けやすくなります。

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