酸素療法

執筆者:Andrea R. Levine, MD, University of Maryland School of Medicine;
Jason Stankiewicz, MD, University of Maryland Medical Center
レビュー/改訂 2022年 4月
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    酸素療法は、血液中の酸素レベルが低下しすぎたときに肺に酸素を補給する治療です。

    酸素は私たちが呼吸している空気中の約21%を占める気体です。空気中の酸素が肺に取り込まれ、それが血流へと運ばれます(酸素と二酸化炭素の交換を参照)。酸素は、例えば自動車のエンジンのように、燃料を燃やしてエネルギーを放出するために必要とされます。同様に、すべての生体組織は体にエネルギーを供給するために酸素を必要とします。十分な酸素がないと、細胞の機能が低下し、やがて死に至ります。

    多くの病気、特に肺疾患では、血液中の酸素レベルが低下します。このような場合、酸素投与が有益になる場合があります。多くの患者に医師が過剰な酸素投与を行っていたこともありました。しかし、患者の酸素レベルが実際に低い場合を除いて、酸素投与は助けにならないという証拠が示されています。酸素を過剰に吸い込むと、しばらく経ってから肺が実際に損傷を受ける可能性があります。

    酸素が必要な患者にのみ酸素投与を行うようにするため、医師は血液中の酸素レベルを血液検査や指先のセンサー(パルスオキシメーター)を用いて確認します。いったん酸素レベルが明らかになれば、パルスオキシメーターが酸素の流量設定(1分間にどれだけの酸素を投与するか)を調節するために用いられることがあります。

    酸素投与のタイミング

    慢性肺疾患では、急性増悪期(悪化時)に酸素療法を短期間必要とするだけの場合があります。(呼吸リハビリテーションも参照のこと。)一方で、血液中の酸素レベルが常に低いために(重度のCOPD患者の一部など)、酸素療法が常に必要な場合もあります。

    酸素レベルが非常に低い人では、長期の酸素療法を行うことで生存期間が長くなります。1日のうち酸素を使う時間が長いほど、治療成績はよくなります。酸素吸入を12時間行った場合、酸素吸入を行わない場合より生存期間が長くなります。酸素吸入を継続的に(1日に24時間)行った場合は、さらに生存期間が長くなります。しかし、慢性肺疾患のために酸素レベルが中程度またはわずかに低い人では、長期間の酸素吸入によって死亡のリスクが低下することはありません。死亡率に及ぼす影響にかかわらず、酸素吸入を長期間続けることで、息切れが少なくなり、肺疾患による心臓への負担が減る可能性があります。睡眠の質と運動能力がいずれも改善に向かいます。

    慢性肺疾患患者には、体を動かしたときだけ酸素レベルが低下する人がいます。その場合は、運動中にだけ酸素吸入を行うこともできます。また、睡眠中にだけ酸素レベルが低下する人もいます。その場合は、夜間だけ酸素吸入を行います。

    酸素供給システム

    長期にわたって自宅で酸素を吸入する場合は、次のような3種類の装置を利用できます。

    • 酸素濃縮器

    • 液化酸素装置

    • 高圧酸素装置

    酸素濃縮器は、空気中の窒素から酸素を分離して、肺疾患の人が純粋な酸素を吸入できるようにする電動の装置です。この装置は室内の空気から酸素を抽出するため、酸素供給の必要がありません。装置の多くはバッテリーでも作動しますが、電源やバッテリーの故障に備えて、吸入用の酸素を確保しておくべきです。

    液化酸素装置では、酸素は非常に低温の液体として貯蔵されています。酸素は、気体としてよりも液体としての方がはるかに多くの量を貯蔵できるため、一定の大きさの容器に、はるかに多くの液体酸素を入れることができます。液体酸素は放出されると気体に戻り、人が吸い込むことができます。

    高圧酸素装置では、加圧された酸素が金属タンクに貯蔵され、患者が吸い込むことで酸素が放出されます。

    自宅で液化酸素装置と高圧酸素装置を使用する場合、酸素の保存に大きなタンクを用います。タンクは定期的に在宅ケアの業者に補充してもらいます。家の外では、高圧酸素もしくは液体酸素が入った小型の携帯用タンクまたは携帯用酸素濃縮器を使用できます。いずれの装置にも長所と短所があります。

    使用しないときは、必ず酸素供給源をしっかり閉じておく必要があります。酸素は燃えやすく、爆発を起こすことがあるため、マッチ、ヒーター、ヘアードライヤーなど、発火する危険性があるものからタンクを離しておくことも大切です。酸素吸入を行っているときは、家の中での喫煙は厳禁です。

    酸素投与

    酸素の典型的な投与法は、先が2つに分かれた鼻用のチューブ(鼻カニューレ)を用いる方法で、持続的に供給するタイプと必要なときのみ供給できるタイプとがあります。酸素効率を高めるとともに、高用量の酸素補充が必要な患者がより動きやすくなるよう工夫されたいくつかの装置(リザーバー式カニューレ、経気管カテーテルなど)が利用できます。

    リザーバー式カニューレを用いると、呼気時に酸素が小さな容器の中に蓄えられ、吸気時にそこから酸素が供給されます。

    呼吸同調式デマンドバルブ装置は、使用者が装置を作動させたとき(息を吸ったときまたは装置を押したとき)だけ酸素を供給します。この装置では持続的な酸素の供給はできません。小さなリザーバー付きのものもあります。

    経気管カテーテルは、皮膚から直接気管に挿入する細いチューブです。チューブを介して酸素が直接気管内に供給されます。通常は、呼吸療法士または医師が、適切な酸素の使用法について指導します。

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