尿細管性アシドーシスでは、腎臓の尿細管の機能障害により、血液の酸性度が異常に高くなります。
特定の薬の使用や腎臓を侵す別の病気があると、血液中から酸を除去している尿細管が損傷を受けます。
この状態が長期間続くと、しばしば筋力低下と反射の低下がみられるようになります。
血液検査では、酸性度の上昇と酸塩基平衡(酸とアルカリのバランス)の乱れが認められます。
酸を中和させるために重曹(重炭酸ナトリウム)を水に溶かしたものを毎日飲む人もいます。
(尿細管疾患に関する序も参照のこと。)
身体が正常に機能するためには、酸とアルカリ(重炭酸塩など)のバランスが取れていなければなりません。食物の分解によって体内で生成された酸は、血液中に入って体内を循環します。腎臓はこの酸を血液から取り除いて尿中に排泄しますが、この機能を主に担っているのが尿細管です。尿細管性アシドーシスでは、尿細管の機能障害により、次の仕組みのいずれかを通じて血液中の酸が上昇する傾向にあります(代謝性アシドーシス)。
体内で作られる酸の排泄量が少なすぎるため、血中の酸の濃度が上昇する。
尿細管でろ過された重炭酸塩のうち再吸収される量が少なすぎるため、重炭酸塩が過剰に尿中へ排出される。
尿細管性アシドーシスでは、電解質のバランスも崩れます。尿細管性アシドーシスでは、以下のような異常が発生します。
小児の尿細管性アシドーシスは、永続的な遺伝性の病気である場合があります。一方、糖尿病や鎌状赤血球症、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス[SLE]など)など別の病気をもっている人で間欠的に発生する場合もあります。さらに尿細管性アシドーシスは、尿路の閉塞や特定の薬(アセタゾラミド、アムホテリシンB、アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、体内のカリウムを保持する利尿薬[いわゆるカリウム保持性利尿薬]など)を原因とする一時的な異常として発生する場合もあります。
尿細管性アシドーシスが長引くと、尿細管が損傷を受け、慢性腎臓病に進展する可能性があります。
尿細管性アシドーシスには1~4型までの4種類があり、これらはアシドーシスを引き起こす腎機能の異常に基づいて分類されています。4種類とも多くない病気ですが、4型が最も多く、3型は極めてまれです。
尿細管性アシドーシスの症状
多くの患者では症状がみられません。症状が現れるとしても、ほとんどが長期間経過した場合に限られます。最終的にどのような症状が現れるかは、尿細管性アシドーシスの種類によります。
1型および2型
4型
4型では、典型的にはカリウム濃度の上昇がみられますが、症状を引き起こすほど高くなることは普通ありません。ただし濃度が非常に高くなると、不整脈や筋肉の麻痺が起こります。
尿細管性アシドーシスの診断
血液検査
尿検査
筋力の低下や反射の低下といった特徴的な症状がみられ、かつ検査結果で血液の酸性度が高く、重炭酸塩とカリウムの濃度が低い場合には、1型または2型の尿細管性アシドーシスの可能性が検討されます。
血液のカリウム濃度と酸性度が高く、重炭酸塩の濃度が低い場合には、通常は4型の尿細管性アシドーシスが疑われます。尿サンプルの検査とその他の検査が尿細管性アシドーシスの種類を特定する助けになります。
尿細管性アシドーシスの治療
炭酸水素ナトリウム溶液を毎日飲む
治療法は尿細管性アシドーシスの種類によって異なります。
1型および2型
1型と2型では、体内で食物から生成される酸を中和するため、炭酸水素ナトリウム(重曹)を水に溶かして毎日飲みます。この治療は症状の軽減のほか、腎不全や骨の病気の発生や悪化の予防にもつながります。このほかにも治療用に特別に調製された溶液を使用することも可能で、カリウムの補充が必要になる場合もあります。
4型
4型では、アシドーシスが軽度であるために、炭酸水素ナトリウムは必要ない場合もあります。血液中のカリウム濃度が高い場合は、カリウムの摂取量を制限し、脱水を予防し、カリウムの排出を促す利尿薬を使用し、使用中の薬を別の薬に切り替えるか用量を調節することで、カリウム濃度を抑えることができます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):実施中の研究に関する情報、英語およびスペイン語の消費者向け健康情報、ブログ、ならびに地域の健康促進プログラムやアウトリーチプログラム。