ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症

(ピロリ菌感染)

執筆者:Nimish Vakil, MD, University of Wisconsin School of Medicine and Public Health
レビュー/改訂 2021年 6月
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やさしくわかる病気事典

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)(ピロリ菌[H. pylori])感染症は、胃の炎症(胃炎)、消化性潰瘍(かいよう)、ある種の胃がんを引き起こす細菌感染症です。

  • この感染症は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)(ピロリ菌[H. pylori])という種類の細菌によって引き起こされます。

  • ピロリ菌(H. pylori)感染症の症状が現れる場合、消化不良、上腹部の痛みや不快感などがみられます。

  • 診断は多くの場合、呼気試験と内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)で胃を調べる検査(上部消化管内視鏡検査)の結果に基づいて下されます。

  • 治療には抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬が使用されます。

胃炎と消化性潰瘍に関する序も参照のこと。)

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の感染は、胃炎や消化性潰瘍の原因として世界で最もよくみられるものです。この感染は非常に多くみられ、年齢とともに増加します。米国では60歳までに約50%の人が感染します。ただし、最近の研究では若年者におけるピロリ菌(H. pylori)感染者が減少しつつあることが示されています。この感染は、黒人、ヒスパニック系やアジア系の人に多くみられます。

ピロリ菌(H. pylori)は胃の粘膜に感染し、便、唾液、歯垢(しこう)の中で見つけることができます。ピロリ菌(H. pylori)は人から人へと広がる可能性があり、特にこの細菌に感染している人が排便後にしっかり手を洗わないと感染しやすくなります。キスなどの濃厚な接触によって細菌が広がることもあるため、家族内や介護施設などの管理施設に生活している人の間で集団感染する傾向があります。

知っていますか?

  • ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と呼ばれる特定の細菌の感染は、胃炎や消化性潰瘍の原因として世界で最もよくみられるものです。

胃の内面には、胃から分泌される強酸性の胃液にさらされないように保護する粘液層があり、ピロリ菌(H. pylori)はこの保護粘液の中で増殖します。その上、ピロリ菌(H. pylori)はアンモニアを作り出し、アンモニアはピロリ菌を胃液から保護するのに役立つとともに、ピロリ菌が粘液層を破壊して貫通させるのを可能にします。

ピロリ菌( H. pylori )感染症の合併症

ピロリ菌(H. pylori)に感染しているほぼすべての人に胃の炎症(胃炎)がみられ、胃炎は胃全体に広がっていることもあれば、胃の下部(胃前庭部)だけの場合もあります。ピロリ菌感染症は、ときにびらん性胃炎の原因になり、おそらく胃潰瘍も引き起こす可能性があります。

ピロリ菌(H. pylori)は、胃酸の分泌を増やし、胃酸に対する正常な胃の防御機能を損ない、毒素を生産することで、胃潰瘍が形成される一因になります。

ピロリ菌(H. pylori)の感染が長期に及ぶと、胃がんのリスクが高まります。

症状

ピロリ菌(H. pylori)感染症による胃炎のうち、症状や合併症(胃や十二指腸の消化性潰瘍など)が生じるのは20%にすぎません。

ピロリ菌(H. pylori)感染症による症状がみられる場合は、消化不良、上腹部の痛みや不快感など、胃炎の典型的な症状が起こります。

ピロリ菌(H. pylori)感染症による胃潰瘍がある場合は、上腹部の痛みなど、他の原因による胃潰瘍と同様の症状が起きます。

診断

  • 呼気試験または便検査

  • ときに上部消化管内視鏡検査

ピロリ菌(H. pylori)は、呼気(吐いた息)または便のサンプルを用いた検査で検出できます。

ときに医師は内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を用いて上部消化管内視鏡検査を行い、胃の内面からサンプルを採取します(生検)。採取したサンプルを用いて、いくつかの方法でピロリ菌(H. pylori)の有無を調べることができます。

予後(経過の見通し)

ピロリ菌(H. pylori)感染症による消化性潰瘍が3年以内に再発する可能性は、抗菌薬による治療を受けていない人で約50%以上です。この割合は、抗菌薬による治療を受けた場合、10%未満まで低下します。また、ピロリ菌(H. pylori)感染症を治療することにより、他の治療で効果がなかった胃潰瘍が治癒することがあります。

治療

  • 抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬

  • 治療後にピロリ菌(H. pylori)の除菌を確認するための検査

ピロリ菌(H. pylori)感染症に対して最もよく行われている治療法では、胃酸分泌を減少させるプロトンポンプ阻害薬、2種類の抗菌薬、そして感染を治癒させるためにときに次サリチル酸ビスマスも投与されます。いくつかのプロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、またはエソメプラゾール)のうち1つが投与されます。これらの薬により下痢、便秘、頭痛が生じることがあります。アモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾール、テトラサイクリンなど、いくつかの抗菌薬を使用することができます。これらの抗菌薬はいずれも味覚を変化させて吐き気を引き起こす可能性があり、アモキシシリン、クラリスロマイシン、テトラサイクリンは下痢を引き起こす可能性があります。次サリチル酸ビスマスは、便秘や舌や便の黒ずみを引き起こす可能性があります。

通常は治療が成功したことを確認するために、治療が終了してから約4週間後に呼気試験や便検査または内視鏡検査を繰り返し行います。

ピロリ菌(H. pylori)が除菌されていなければ、治療を繰り返します。

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