突然激しい腹痛が生じます。
血管造影検査が行われることがあります。
血管造影検査や手術による迅速な治療が必要です。
(消化管救急疾患の概要 消化管救急疾患の概要 消化管の病気の中には生命を脅かすものがあり、緊急の治療を要することがあります。多くの場合、緊急治療では手術が行われます。 腹痛は通常は消化管の緊急事態に伴って発生し、しばしばひどい痛みがあります。腹痛がある場合、医師は原因を突き止めて治療を行うための手術が直ちに必要か、それとも診断のための検査結果が出るまで手術を待ってもよいかを判断する必... さらに読む も参照のこと。)
急性腸間膜虚血症には多くの原因があります。最も多いのは以下のものです。
動脈塞栓
動脈血栓
動脈塞栓は、心臓や大動脈にできた血栓(血液のかたまり)やアテローム性プラーク(動脈に蓄積したコレステロールなどの脂肪性物質)の小片が移動して細い動脈(この場合は腸の動脈)にとどまった状態です。
動脈血栓は、動脈や静脈(腸の動脈や静脈も含む)に自然にできた血栓で、血流を妨げます。
ときには、血流が完全に遮断されるのではなく、心臓の拍出量が少ないため(心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む や ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む で生じる)、またはある種の薬(コカインなど)により血管が狭くなっているために、単に血流が過剰に少なくなることもあります。一般に、50歳以上の人でリスクが最も高くなります。
血流が6時間以上阻害されると、患部の腸が壊死し、腸内細菌が全身に侵入できるようになります。腸の壊死が生じると、ショック、臓器不全、および死に至る可能性が高くなります。
急性腸間膜虚血症の症状
最初、重度の 腹痛 急性腹痛 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む が通常は突然発生しますが、医師が診察で腹部を押したときには軽度の痛みしか起こりません(虫垂炎や憩室炎など、押すと痛みがひどくなる病気の場合とは異なります)。その後、腸が壊死し始めると、医師が腹部を診察することでより重度の痛みが生じます。
急性腸間膜虚血症の診断
医師の診察
CT血管造影検査
急性腸間膜虚血症の典型的な症状がある場合、または腹部に非常に強い圧痛がある場合は、通常すぐに手術が行われます。
急性腸間膜虚血症の診断が明確でない場合は、 CT血管造影検査 CT血管造影 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む (放射線不透過性の造影剤を腕の静脈に注射して血管の画像を撮影する特殊なCT検査)が行われ、腸の腫れや、腸に血液を供給する動脈の閉塞がないかが調べられます。
他の検査として、腹部の X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 CT検査などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。( 画像検査の概要と バックグラウンド放射線も参照のこと。)... さらに読む や MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む が行われることもあります。
急性腸間膜虚血症の予後(経過の見通し)
早期に診断を下して治療が開始できれば、通常は順調に回復します。腸の一部が壊死するまで診断がつかず治療が開始されないと、70~90%の患者が死亡します。小腸のほぼ全体が壊死するか切除されると、その人は生存できなくなります。
急性腸間膜虚血症の治療
手術
血管造影検査
血液の凝固を防ぐ薬
手術中に腸間膜虚血と診断された場合は、ときに血管の閉塞を解除したり迂回路を作ったりすることができますが、患部の腸を切除せざるを得ない場合もあります。
CT血管造影検査で腸間膜虚血と診断された場合は、血管造影を利用して血管の閉塞の軽減が試みられることがあります。血管造影では、細い柔軟性のあるチューブ(カテーテル)を鼠径部の動脈から腸の動脈へと通します。血管造影で閉塞が確認されたら、ある種の薬の注射、特殊な血管造影用カテーテルを用いた血栓の吸引、または動脈内で小さなバルーンを膨らませて血管を拡張した後に細いチューブやメッシュ製の筒状の器具(ステント)を留置して開かせたままにする処置によって開通させることができる場合があります。これらの処置を行っても閉塞部を開通できない場合、手術で閉塞部を開通させたり、腸の患部を切除したりする必要があります。
回復後、多くの患者で血液凝固の予防を助ける薬を服用することが必要になります。