ガストリノーマ

(ゾリンジャー-エリソン症候群、Z-E症候群)

執筆者:Minhhuyen Nguyen, MD, Fox Chase Cancer Center, Temple University
レビュー/改訂 2021年 3月
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ガストリノーマは、通常は膵臓または十二指腸(小腸の最初の部分)に発生してガストリンというホルモンを過剰に分泌する腫瘍で、ガストリンが胃を刺激して胃酸や消化酵素の分泌を促進することで、消化性潰瘍が生じます。

  • この種の腫瘍は、ガストリンを作っている膵臓の細胞から発生します。

  • 症状は消化性潰瘍のものと似ていて、具体的には痛みや出血などがみられます。

  • 診断では血液検査や画像検査などを行います。

  • 腫瘍が完全に摘出された場合の生存率は高くなっています。

  • 治療としては、胃酸を減らす薬などのほか、ときに手術と化学療法を行うこともあります。

ガストリノーマは膵内分泌腫瘍の一種です。ガストリノーマの患者の大半では、膵臓や十二指腸の内部やその周囲に数個の腫瘍が群がって発生しています。その腫瘍のおよそ半分ががんです。ときには多発性内分泌腫瘍症という遺伝性疾患の一部としてガストリノーマが起こります。多発性内分泌腫瘍では様々な内分泌腺の細胞(膵臓のインスリン分泌細胞など)から腫瘍が発生します。

ガストリノーマの症状

ガストリノーマから分泌された過剰なガストリンによって、胃酸の分泌が過剰になります。この胃酸の過剰分泌によって、ゾリンジャー-エリソン症候群が生じることがあります。ゾリンジャー-エリソン症候群では、胃、十二指腸、また腸のほかの部位に活動性の消化性潰瘍の症状(痛みや出血など)がみられます。ただし、ゾリンジャー-エリソン症候群の25%の症例では、診断がついた時点で潰瘍がみられません。腸の破裂、出血、閉塞が生じることがあり、生命が脅かされることもあります。ガストリノーマの患者の半数以上では、通常の消化性潰瘍と同程度の症状しか現れません。25~40%の患者では、胃酸の過剰分泌に起因する下痢が最初の症状です。

ガストリノーマの診断

  • 血液検査

  • 画像検査

消化性潰瘍が頻繁にみられたり、通常の潰瘍治療で効果が得られない消化性潰瘍が複数ある場合に、ガストリノーマが疑われます。血液検査によりガストリンの値が異常に高いことが確かめられれば最も確かな診断となります。

血液検査でガストリノーマの診断がつけば、腫瘍の位置を正確に特定するために、腹部のCT検査、シンチグラフィー(核医学検査の一種)、超音波内視鏡検査PET検査、動脈造影検査(動脈に造影剤を注射して行うX線検査)などの画像検査を行います。しかしこのような腫瘍は、通常は小さいために発見が難しいことがあります。

ガストリノーマの予後(経過の見通し)

腫瘍が手術で完全に切除できれば、5~10年生存できる可能性は90%以上になります。腫瘍の切除が不完全に終わった場合は、5年生存率が43%、10年生存率が25%になります。

ガストリノーマの治療

  • 胃酸の量を減らす治療法

  • ときに手術による切除

  • ときに化学療法

高用量のプロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌抑制薬―[ see table 胃酸の薬物治療])は、胃酸の濃度を低下させ、一時的に症状を緩和するのに効果的になる場合があります。これらの薬で十分な効果が得られない場合は、オクトレオチドの注射が役に立つことがあります。腫瘍が1つのみで、多発性内分泌腫瘍症ではない場合、通常は手術を行って、ガストリノーマを切除します。この場合、手術による切除で約20%の人が治癒します。

以上のような治療法で効果がみられなければ、胃を完全に切除する手術(胃全摘術)が必要な場合もあります。この手術で腫瘍は切除されませんが、胃がなくなれば胃酸も作られなくなるため、ガストリンによって潰瘍ができることはなくなります。胃を切除した場合は、鉄分とカルシウムのサプリメントを毎日服用し、月1回ビタミンB12を注射することが必要になります。これは、栄養素を吸収する予備処理を行う胃液がなくなるため、これらの栄養素の吸収が阻害されるからです。

悪性腫瘍(がん)が他の場所に転移している場合は、腫瘍細胞の数や血液中のガストリン濃度を減少させるのに化学療法が役立つことがあります。しかし化学療法でがんが治癒することはなく、最終的には致死的となります。

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