薬のデザインと開発

執筆者:Shalini S. Lynch, PharmD, University of California San Francisco School of Pharmacy
レビュー/改訂 2022年 5月
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現在使用されているの多くは、動物実験や人間に投与する試験によって、効果が見出されました。一方、現在では多くの薬が、特定の病気を考慮して設計開発されています。病気が引き起こす異常な生化学的変化や細胞の変化を見出し、次に(体の特定の部位に作用することにより)これらの異常を防いだり修復したりする化合物を設計します。ある新しい化合物が有望だと分かると、通常は、その構造を以下の目的で何度も改良します。

その他の要素として、その化合物の腸壁からの吸収性や、身体組織や体液中での安定性なども考慮します。こうした要素には、体が薬に及ぼす作用(薬物動態)と、薬が体に及ぼす作用(薬力学)が関与します。

理想的な薬とは以下のようなものです。

  • 標的部位に対する選択性が高い:体の他の組織にはほとんど、あるいはまったく作用しない薬で、そのために副作用が最小にとどまったり、まったくなかったりします(薬の有害反応の概要を参照)。

  • 力価と効果が非常に高い:治療が難しい病気にも少量の投与で済みます。

  • 内服によって効果を発揮する(消化管からよく吸収される):投与しやすいという利点があります。

  • 体内組織や体液中で適度に安定している:1日1回の投与で十分であれば理想的です(短期的な治療だけが必要な病気には、作用時間の短い薬が望ましいことがあります)。

薬の開発段階で、標準の用量や平均的な用量が決まります。しかし、薬に対する反応は人それぞれです。年齢(加齢と薬を参照)、体重、遺伝子構成、他の病気の有無といった様々な要因が、薬に対する反応に影響します(薬に対する反応の概要を参照)。そのため、医師が特定の患者に対する用量を決めるときは、これらの要因を考慮しなければなりません。

薬の開発段階

(薬の開発段階の概要については、表「研究室から医療現場へ」を参照のこと。)

開発初期

病気の治療に有用そうな薬を発見するか設計をすると、研究室で動物を使った実験を行います(この段階を開発初期といいます)。開発初期では、薬が作用する仕組みや、どの程度効果をもたらすのか、生殖能力や子孫の健康への影響を含む毒性がないかといった情報を集めます。多くの薬は、この段階で、毒性が強すぎたり、効果がないことが明らかになり、開発が断念されます。

薬が開発初期を経て有望と思われた場合は、しかるべき臨床研究審査委員会(IRB)より、臨床研究について記載したプログラムの承認を受ける必要があります。そして、米国食品医薬品局(FDA)に新薬(IND)臨床試験開始申請を提出します。申請がFDAで承認された場合、その薬を人に投与する試験を行うことができます(これを臨床試験といいます)。

臨床試験

臨床試験はいくつかの段階(相)に分けて行われ、試験内容に全面的に同意した志願者のみが参加します。FDAの承認には第1~3相の臨床試験が必要です。

  • 第1相では、その薬を人に投与したときの安全性と毒性を調べます。少数の健康で若い参加者に対して用量を変えながら薬を投与し、毒性が最初に現れる用量を調べます。

  • 第2相では、対象の病気に対するその薬の効果と最適と考えられる用量を調べます。対象の病気がある人たち(多くて100人程度)に用量を変えながら薬を投与し、有益な効果があるかを調べます。動物を使った開発初期の試験で効果が認められたからといって、その薬が人にも効果を示すとは限りません。

  • 第3相では、対象の病気がある人をより多く(数百人から数千人になることも多いです)集めて、その薬を試験します。そこでは、その薬を実際に使用することになるであろう人たちと、できるだけ条件を合わせた人たちを対象に選びます。また、その薬の有効性について詳しく検討するとともに、それまで知られていなかった副作用がないかも調べます。第3相では通常、新しい薬を、すでに実用化されている薬やプラセボ、あるいはその両方と比較します。

人を対象とする試験では、薬の有効性を判断するだけでなく、副作用の種類や発生頻度、そして副作用が起こりやすくなる要因(年齢、性別、他の病気の有無、他の薬の使用など)にも注目します。

承認

薬が十分に効果的で安全であることが試験で証明されると、新薬としてFDAに申請され(新薬承認申請)、申請書には、動物実験と臨床試験の結果や、予定されている製造方法、処方についての情報(添付文書)、製品ラベルなどが添えられます。FDAは提出されたすべての情報を審査し、十分に効果的で安全な製品としてその薬を販売できるかどうかを決定します。FDAに承認された薬は、治療に使えるようになります。米国の場合、こうしたプロセス全体に約10年間かかります。研究室で4000種類の化合物の実験を行った場合、人に対して投与する試験に進めるのは平均するとわずか5種類程度で、それら5種類のうち承認されて患者に処方できるようになるのは、わずか1種類程度です。

各国には独自の承認プロセスがあり、米国のプロセスとは異なる場合があります。ある国での使用が承認されているからといって、別の国での使用が可能であるとは限りません。

第4相(市販後)

新薬が承認された後、第4相の試験が行われることがあります。製薬会社はその使用状況を調査し、それまでに見つからなかった新たな副作用があれば、すぐにFDAに報告しなければなりません。医師と薬剤師は薬の継続的なモニタリングに関与するよう勧められます。薬を市販する前の段階で大規模な試験を行ったとしても、比較的よくみられる副作用(1000人が使用して1回程度起こるもの)しか検出できないため、このようなモニタリングは重要です。1万人(もしくはそれ以上)が使用して1回起こるような重要な副作用は、多くの人がその薬を使う市販後の段階でしか検出できません。

薬が重度の副作用を引き起こすことが新たに判明した場合、FDAは承認を取り消すことがあります。例えば、ダイエット補助薬のフェンフルラミン(fenfluramine)は、服用した一部の人が重篤な心疾患を起こしたため、販売中止になりました。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 臨床研究への参加に関する情報・研究センター(The Center for Information and Study on Clinical Research Participation[CISCRP]):臨床研究における患者、医学研究者、メディア、政策立案者の役割について教育と情報提供を行う非営利組織

  2. ClinicalTrials.gov:世界中で実施されている民間および公的資金による臨床試験のデータベース

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