コメンタリー:スタチン服用中に重度の筋症状を認めたことのある患者でスタチンが筋肉痛を引き起こさなかったことが研究により判明
コラム21年5月25日 Vishnu Priya Pulipati, MD, The University of Chicago Medicine; Michael H. Davidson, MD, FACC, FNLA, The University of Chicago Medicine

BMJ誌は最近,多施設共同ランダム化プラセボ対照n-of-1試験(n=200)の結果を報告した。この試験では,過去にスタチン系薬剤の服用中に重度の筋症状を報告した患者を対象として,アトルバスタチン20mg,1日1回が筋症状に及ぼす全般的な影響がプラセボと比較されたが,有意な差は認められかった[1]。本研究では,筋症状のためにスタチンを中止して間もない患者と筋症状のために中止を検討していた被験者が,6つの二重盲検治療期間(各2カ月)にアトルバスタチン20mg,1日1回またはプラセボを投与する一連の順序にランダムに割り付けられた。約70%の被験者は,二次的な心血管リスクを低下させるためにスタチンを必要とする心血管疾患を有していた。主要解析では,被験者が視覚的アナログ尺度(0~10)で評価した筋症状が,スタチン投与期間とプラセボ投与期間で比較された。主要解析の対象とされた151例では,スタチン投与期間とプラセボ投与期間の間で筋症状のスコアに差が認められなかった(差の平均[スタチン − プラセボ]−0.11;95%信頼区間−0.36~0.14;p=0.40)。耐容不能の筋症状による服薬中止の頻度は,スタチン投与期間中で9%,プラセボ投与期間中で7%であった。試験を完了した被験者の2/3がスタチンによる長期治療の再開を報告した。

BMJで発表された本研究により,重度ではない漠然とした筋症状はプラセボとスタチンどちらの服用中にもよくみられることが示されたが,このようにスタチン療法を中止する必要があるという俗説を否定するエビデンスが現在増えてきており,本研究はこれをさらに裏付ける重要な知見となった。世界的に有病率が高く,重篤な心血管疾患の危険因子である脂質異常症に対する至適治療は,公衆衛生上の重要な優先事項の一つであり,数十年にわたり蓄積されてきた質の高いエビデンスにより,スタチンはすべての年齢層で動脈硬化性心血管疾患の発症を有意に減少させることが一貫して示されている。スタチンの忍容性は一般に良好で,安全性プロファイルも良好である。ミオパチー(治療患者10,000人当たり年1例)や横紋筋融解症(治療患者10,000人当たり年0.2例)など,スタチンに関連した筋に対する重度の有害作用はまれである[2]。しかしながら,今回のBMJの研究で示唆されたように,スタチンと軽度の筋症状との因果関係は不明である。盲検化されていない観察研究や議論のあるメディア報道に由来する知見により,一般集団におけるスタチンの使用に関して根拠のない懸念が提起されている。そのために,スタチンの使用開始に抵抗が生まれており,著明なベネフィットがあるにもかかわらず処方された治療が遵守されず,結果として患者が不必要な心血管リスクの増大に曝されている。したがって,この知見の不足に対処するための研究手段として,スタチンに関連する筋症状を評価する,適切な対照を置いた大規模ランダム化試験に注目が集まっている。

本研究は適切に実施されたようであり,結果は妥当である可能性が高い。その知見は,同様の研究エンドポイントを評価した他の研究と一致している。ランダム化n-of-1試験であるSAMSON試験(n=60)では,プラセボを投与された被験者とアトルバスタチン20mgを1日1回投与された被験者の間で症状に有意差は認められなかった(p=0.39)[3]。統合した結果から,90%の症状がノセボ効果に起因していたことが示された。GAUSS-3試験では,26.5%の被験者がプラセボ服用中のみに筋症状を報告し(スタチン服用中には報告しなかった),症状が必ずしもスタチンの使用と関連しているわけではないことが示唆された[4]。

これらの知見は,スタチンを服用している患者が報告する筋症状を医師が軽視してよいことを意味するものではない。報告された症状の病因の候補を特定するための包括的な評価を行う必要がある。真にスタチンに関連した有害作用を同定するには,スタチン中止後にみられた症状のパターン,発症のタイミング,および改善のタイミングが役立つ可能性がある。一方で,本研究のような臨床試験で得られた知見は,低用量スタチンの投与再開に関する議論について確かな前提を与えるものであり,軽度の非特異的な筋症状がみられた患者を医師が安心させる上で役立つ可能性がある。

参考文献

1. Herrett E, Williamson E, Brack K, et al: Statin treatment and muscle symptoms: series of randomized, placebo-controlled n-of-1 trials. BMJ. 2021;372:n135. Published 2021 Feb 24. doi:10.1136/bmj.n135

2. Collins R, Reith C, Emberson J, et al: Interpretation of the evidence for the efficacy and safety of statin therapy [published correction appears in Lancet. 2017 Feb 11;389(10069):602]. Lancet. 2016;388(10059):2532-2561. doi:10.1016/S0140-6736(16)31357-5

3. Wood FA, Howard JP, Finegold JA, et al: N-of-1 Trial of a statin, placebo, or no treatment to assess side effects. N Engl J Med 2020;383(22):2182-2184. doi:10.1056/NEJMc2031173

4. Nissen SE, Stroes E, Dent-Acosta RE, et al: Efficacy and tolerability of evolocumab vs ezetimibe in patients with muscle-related statin intolerance: The GAUSS-3 randomized clinical trial. JAMA 2016;315(15):1580-1590. doi:10.1001/jama.2016.3608