胸水の原因*

原因

備考

漏出液

心不全

81%で両側性胸水;12%で右側性;7%で左側性

左室不全があると,間質液が増加し,臓側胸膜を超えて胸膜腔に流入する

腹水を伴う肝硬変(肝性胸水)

70%で右側性胸水;15%で左側性;15%で両側性

横隔膜の欠損部位を介する腹水の胸膜腔への移動

臨床的に明らかな腹水を伴う患者の5%に胸水がみられる

低アルブミン血症

まれ

> 90%で両側性胸水

血管内膠質浸透圧が低下し,胸水が生じる

他の部位の浮腫または全身浮腫を伴う

ネフローゼ症候群

通常両側性胸水;一般的に肺下胸水

血管内膠質浸透圧の低下および体液量増加による胸膜腔内への漏出

水腎症

後腹膜から胸膜腔内に尿が侵入することにより,尿胸を生じる

収縮性心膜炎

右心系および左心系の静脈静水圧の上昇

肝性胸水に類似した機序による強い全身浮腫および腹水を伴う患者もいる

無気肺

胸腔内の陰圧が強まる

腹膜透析

肝性胸水に類似した機序

透析液に類似した性状の胸水

trapped lung

線維性の膜に囲まれ胸腔内の陰圧が強まる

胸水は滲出性またはボーダーラインの性状でありうる

全身性毛細血管漏出症候群

まれ

全身浮腫および心嚢液を伴う

粘液水腫(甲状腺機能低下症

約5%に胸水がみられる

心嚢液も存在する場合は通常,静水圧の上昇による漏出液;胸水単独の場合は漏出液または滲出液

滲出液

肺炎(肺炎随伴性胸水)

単純性の場合もあれば,被包化かつ/または粘液膿性(膿胸)である場合もある

鑑別には胸腔穿刺が必要

悪性腫瘍

最も頻度が高いのは肺癌,乳癌,またはリンパ腫であるが,胸膜に転移するあらゆる腫瘍で生じる可能性がある

典型的には,鈍く,うずくような胸痛を引き起こす

肺塞栓症

約30%に胸水がみられる:

ほぼ常に滲出性;血性は < 50%

胸水の量に対し不釣り合いな呼吸困難があれば,肺塞栓症が疑われる

ウイルス感染症

胸水は通常少量で,実質浸潤を伴うことも伴わないこともある

肺症状より全身症状が優位

冠動脈バイパス術

胸水は73%で左側性または左側の量が多い;20%で両側性および左右同等量;7%で右側性あるいは右側の量が多い

患者の10%で術後30日間,片側胸郭の > 25%が胸水で満たされる

術後出血に関連する血性胸水は消失する可能性が高い

非血性胸水が再発する可能性が高い;病因は不明であるが,おそらく免疫学的機序による

結核

胸水がある場合,通常片側性(実質浸潤と同側)

結核タンパク質への過敏反応による胸水

胸水での結核菌培養の陽性率は < 20%

サルコイドーシス

1~2%で胸水

広汎な肺実質サルコイドおよびしばしば胸郭外サルコイド

胸水を伴わない多くの患者で胸膜の肉芽腫

胸水はリンパ球優位

尿毒症

約3%に胸水

> 50%で胸水に続発する症状:最も頻度が高いのは発熱(50%),胸痛(30%),咳嗽(35%),および呼吸困難(20%)

除外診断

横隔膜下膿瘍

交感性肺下胸水を引き起こす

胸水は好中球優位

pHおよびグルコースは正常

HIV感染症

可能性のある病因が多数存在:Pneumocystis jirovecii肺炎などの肺炎(肺炎随伴性胸水),その他の日和見感染症,結核,および肺カポジ肉腫

関節リウマチ

胸水が,リウマチ結節および変形性関節炎を伴う高齢男性に典型的にみられる

肺炎随伴性胸水と鑑別しなければならない(いずれも糖低値,pH低値,乳酸脱水素酵素高値を特徴とする)

全身性エリテマトーデス(SLE)

胸水がSLEの最初の症候である可能性がある

薬剤性SLEによくみられる

胸水ではなく血液の血清学的検査により診断確定

薬物

多くの薬物,最も著明なのは,ブロモクリプチン,ダントロレン,ニトロフラントイン,インターロイキン2(腎細胞癌および黒色腫の治療に対し),およびメチセルジド(methysergide)

卵巣過剰刺激症候群

ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)およびときにクロミフェンによる排卵誘発の合併症として生じる症候群

hCG注射後7~14日後に発生する胸水

胸水は52%で右側性;27%で両側性

膵炎

急性:約50%に胸水がみられる;77%で両側性,16%で左側性,8%で右側性

炎症性滲出液の横隔膜を介した移行および横隔膜の炎症による胸水

慢性:膵仮性嚢胞から瘻孔を介し,横隔膜を超え胸膜腔内に移行した胸水

腹部症状より胸部症状が優位

患者はがんと同様の悪液質を呈する

上大静脈症候群

胸水は通常,悪性腫瘍または中心静脈カテーテル内の血栓により胸腔内の静脈およびリンパ流が閉塞して生じる

滲出性または乳び胸の場合がある

食道破裂

患者は極めて重態

医学的緊急事態

縦隔および胸腔の感染に起因する罹患および死亡

良性石綿胸水

胸水は初回曝露から30年以上経過して発生

しばしば無症状

出現と消退を繰り返す傾向がある

中皮腫を除外しなければならない

良性卵巣腫瘍(Meigs症候群)

肝性胸水に類似した機序による

卵巣腫瘤,腹水,および胸水のある患者は,ときに手術の適応となる

診断には,腹水および胸水の術後消失が必要である

黄色爪症候群

胸水,リンパ浮腫,および黄色爪の三徴,ときに数十年の間隔を空けて現れる

胸水は比較的タンパク質濃度が高いが乳酸脱水素酵素濃度が低い

胸水は再発する傾向がある

胸膜性胸痛はない

*原因をおおよそ頻度の高い順に示している。