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臨死患者

執筆者:

Elizabeth L. Cobbs

, MD, George Washington University;


Karen Blackstone

, MD, George Washington University;


Joanne Lynn

, MD, MA, MS, The George Washington University Medical Center

レビュー/改訂 2019年 10月
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臨死患者には,他の患者とは異なるニーズがある可能性がある。このニーズを満たすために,まずどの患者が臨死状態にあるかを同定する必要がある。死に至る前に,患者は3種類の一般的な機能低下の軌跡の1つをたどる傾向がある:

  • 限定的な期間で機能低下が着実に進行(例,進行性のがんに典型的)

  • 着実に進行しないこともある重度の機能障害が,長期かつ不確定な期間継続(例,重度の認知症,機能障害を引き起こす脳卒中,および重度のフレイルにおいて典型的)

  • 基礎疾患の周期的およびときに予測不可能な急性増悪による機能の変則的な低下(例,心不全またはCOPDにおいて典型的)

1番目の軌跡(例,進行性のがん)では,疾患の経過および死亡の時期は,他の軌跡に比べより予測可能である傾向がある。例えば,長期の機能障害(例,重度の認知症)では,肺炎などの感染症のため,突然死に至ることがある。変則的な進行性機能障害(例,心不全)では,死期が迫っているようには見えない人々が,急性増悪期に突然死亡する場合がある。このため,機能低下の軌跡を知ることは助けにはなるものの,いつ死亡するかを正確性をもって予測することは依然として困難なことが多い。したがって臨床医には,以下の基準が過度に包括的である可能性を把握しつつ,以下の両基準を満たす患者は臨死の可能性のある患者とみなすことが勧められる:

  • 重篤であり,悪化が予測される疾患の存在

  • 1年以内に死亡しても,臨床医が意外だと思わない

患者に死亡する可能性があると認識された場合,臨床医は以下のことを行うべきである:

患者はできる限り多くの意思決定に加わるべきである。患者が 医療にかかわる意思決定能力に欠け 臨床的能力 歴史的には「無能力(incapacity)」は主に臨床的所見とみなされ,「無資格(incompetency)」は法的所見とみなされた。その違いは,少なくとも用語としては,もはや厳密に認識されてはいない;これらの用語はしばしば互換的に使用されているが,現在ほとんどの州法では「無資格」よりむしろ「無能力」を使用している。現在では,医療に関する... さらに読む 医療判断代理委任状 医療判断代理委任状(durable power of attorney for health care) 事前指示書は,ある人が能力を喪失した場合に,医療に関する決断に対しその人のコントロールを及ばせる法律文書である。能力の喪失が起きる以前に希望を表明するため,それらは事前指示書と呼ばれる。このような文書では通常,終末期ケアに関する決定が含まれている。このような終末期の決定について患者と共感的かつ効果的にコミュニケーションを取るには特別な技術... さらに読む を有する場合,その書面により任命された人物が医療的決断を行う。患者が 委任代理人 同意および代理人による意思決定 医学的に即座の決定が必要な場合は, 推定同意の原則(doctrineof presumed consent)が適用される。他の状況下では,同意を得なければならない。 未成年者に影響を与えるほとんどの非緊急の医学的決定については,親または後見人の同意なしに治療を進めることはできない。親または後見人による決定は,その決定が未成年者のネグレクト... さらに読む をもたない場合,医療従事者は通常近親者,または場合によっては親しい友人を頼りとし,患者が何を望んでいるかを洞察する。しかしながら,権限の厳密な範囲および,許容されうる代理人の優先順位は司法管轄区域により異なる。代理の意思決定者が認められている区域では,典型的な優先順位は以下の通りである:

  • 患者の配偶者(またはその司法管轄区域において地位が認められている場合は同棲パートナー)

  • 患者の成人した子供

  • 患者の両親

  • 患者の同胞

  • その他の親類または親しい友人(場合による)

もし同じ優先順位をもつ者が2人以上いるなら(例,数人の成人した子供),合意が好ましいが,一部の州では,医療従事者が多数決に頼ることを容認している。

目標の明確化と意思疎通

患者および介護者は疾患の過程を理解している,または死が切迫していることを認識していると思い込むことは,よくみられる誤りであり,具体的に告げる必要がある。可能であれば,推定される生存期間の範囲を告げるべきであり,例えば,「最善の結果を期待しつつ,最悪の事態に備える」ようにアドバイスすることができる。早い時期に患者を教育することで,患者がスピリチュアルおよび心理社会的な懸念に取り組んだり,ケアや資産の優先順位に関して熟考して合理的な決断を下したりするための時間が得られる。死に直面した際,優先順位は人によって異なる可能性がある。例えば,苦痛が生じたり,費用がかかったり,家族の負担となったりしたとしても,延命を重要視する人もいる。機能および自立性の維持,または疼痛などの症状の緩和といった具体的な目標を定める人もいる。許しを請うこと,和解すること,または愛する人のために備えることに最も関心を寄せる人もいる。

事前ケア計画は書面化し,他の医療提供者(例,救急診療部)が容易にアクセスできるようにすべきであり,患者の望むケアを達成する最善の機会が提供できるようにする。州により認可された「生命維持治療に関する医師指示書(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment: POLST 目標の明確化と意思疎通 )」および同様のプログラムは広く利用されており,どの医療ケアを提供し,どの医療ケアを差し控えるかを救急医療従事者に示すことができるよう,家庭および医療記録で容易にアクセスできるようにしておくべきである。具体的な治療に関する決定が役立つ可能性がある。例えば,心肺蘇生および病院への移送は,死が切迫している場合には通常好ましくない;これに対して,特定の積極的治療(例,輸血,化学療法)は,数日以内の死が予測される場合でも症状を緩和するために好ましい場合がある。

緩和ケアおよびホスピス

緩和ケア

緩和ケアは,煩わしい身体症状ならびに心理社会的および精神的苦痛の緩和を助けることで,生活の質を向上させることを目的とする。緩和ケアは,治癒を目指す治療の多くと両立が可能であり,同時に行うことができる。例えば,ケアの緩和的側面では,肝移植のリストに載っている肝不全患者に対する治療の中でも,疼痛またはせん妄の治療が重視される。ただし,患者のケアが根治的治療から支持療法へ,または,治療から苦痛緩和へと移行していると表現するのは,複雑な決定過程を過度に簡略化するものである。最も重篤な患者に対しては,患者のニーズに合わせて,様々な疾患および身体障害の影響を是正し,予防し,軽減させるための治療を組み合わせることが必要である。

臨床医は,患者が重篤で,特に死に至らしめるに足るほど重病であると同定された場合は,直ちに緩和ケアを開始すべきである。緩和ケアは,個々の医療従事者,集学的チーム,およびホスピスプログラムによって提供可能である。個々の緩和ケア専門医は,疼痛や患者を煩わせる他の症状の認識および治療に重点を置く。集学的緩和ケアチームは,患者の身体的,心理社会的,精神的なストレスを軽減するために,患者の主治医および専門医とともに働く多岐にわたる専門家(例,医師,看護師,ソーシャルワーカー,聖職者)で構成される。

パール&ピットフォール

  • たとえ積極的な治療や治癒を目指した治療を続けている患者であっても,臨死状態になりうる全ての患者に緩和ケアを考慮すること。

ホスピス

ホスピスは,数カ月のうちに死亡する可能性が極めて高い人のためのケアおよび支持プログラムである。ホスピスケアでは,治療ではなく,快適かつ有意義であることに重点が置かれる。サービスには,身体的なケア,カウンセリング,薬剤,耐久医療機器および医療用品の提供などがある。米国などの一部の国では,ホスピスは主に在宅でのサービスを提供し,イングランドなどの他の国では,ホスピスサービスは主に入院施設内で提供される。

典型的なホスピスケアでは,しばしば訪問介護者およびボランティアによる追加の支援を受けながら,家族が主な介護者として務める。ホスピスのスタッフは,毎日1日24時間の対応が可能である。ホスピスのスタッフは特別な訓練を受けている。ホスピスチームは通常,患者の主治医,ホスピス医師,または医長;看護師;訪問介護者;ソーシャルワーカー;聖職者または他のカウンセラー;熟練したボランティア;ならびに必要に応じて,言語療法士,理学療法士,および作業療法士によって構成される。

治療可能な病態が発生する可能性があるため,医師はホスピスの利用に消極的なことがある。しかしながら,多くの治療可能な病態はホスピスケアの範疇にあるため,この消極性は妥当ではない。米国では,メディケアによってホスピスの診断に関連する全ての医療がカバーされ,患者はホスピスの診断に関連しない医療保障にも依然として資格がある。また,患者はいつでもホスピスを離れ,後に再度戻ることができる。

切迫する死のための事前計画

症状緩和のための計画を立てることに加え,患者や家族のサポートを受けることは,死の最も困難な部分に対処するのに役立つ可能性がある。自宅での死亡が予測される場合,ホスピスチームは一般的に,疼痛や呼吸困難などの症状を迅速に抑制するための薬剤(コンフォートセット)を使用方法と共に提供する。家族は,錯乱,傾眠,不規則な呼吸または呼吸音の増大,四肢冷感,および皮膚が紫色になるなど,臨終の過程に起こる可能性が高い変化について説明を受けるべきである。計画は,臨終における不必要かつ苦悩を伴う病院での受診を回避するためにも役立つ。家族は,誰に電話すべきか(例,医師,ホスピスの看護師,聖職者),また電話すべきではないか(例,救急車)を事前に考えて準備しておくべきである。

生涯の最期の瞬間を目撃することは,家族,友人および介護者に大きく永続的な影響を及ぼしうる。患者は穏やかで,静かで,身体的に快適な環境に身を置くようにする。臨床医は家族に,患者の手を握るなど,患者との身体的接触を維持することを勧めるべきである。ホスピス提供者は,患者および家族が望む精神的,文化的,民族的,または個人的な通過儀礼について尋ね,便宜を図るべきである。家族はしばしば埋葬や火葬およびその支払いに関する助言をも必要とする;ソーシャルワーカーが情報およびアドバイスを提供することができる。療養環境(例,自宅,病院,介護施設,入院ホスピスまたは在宅ホスピス)にかかわらず,宗教的習慣が遺体の取扱い方に影響する場合があり,事前に患者,家族,またはその両者と話し合うべきである。臓器提供および剖検についての決断は,通常生前になされるのが最善であるが,これはその方が死亡直後よりも通常はストレスが少ないからである。

経済的問題および身体障害

米国のある研究では,3分の1の家族が,臨死の身内のケアをする際にほとんどの貯金を使い果たすことが示されている。家族には,家族のメンバーの重篤な疾患に対するケアにかかる費用について調べておくことを勧めるべきである。保険の対象範囲および規制に関する情報を入手するには,かなり念入りな調査を要する可能性がある。臨床診療チームに相談することに加え,Eldercare Locator(老人福祉部)で利用可能なサービスをを確認することから始めるのは良い方法である。

致死的疾患はしばしば,進行性の身体障害を伴う。患者は自宅またはアパートの掃除,調理,金銭上の問題処理,歩行,もしくは自身の世話が徐々にできなくなる可能性がある。ほとんどの臨死患者が,終末期の数週間において援助を必要とする。臨床診療チームは,身体障害を予測し適切な準備(例,車椅子の使用が可能で家族の介護者に近接した住宅を選ぶ)をするべきである。作業療法または理学療法およびホスピスケアなどのサービスは,身体障害が進行したときでさえも患者が自宅にとどまれる助けとなりうる。臨床診療チームは選択肢の経済的な影響を知り,患者および家族とその問題について話し合うべきである。一部の法律家は高齢者医療の分野を専門とし,患者および家族のこれらの問題への対処を助けることができる。

法的および倫理的懸念

医療従事者は, リビングウィル リビングウィル 事前指示書は,ある人が能力を喪失した場合に,医療に関する決断に対しその人のコントロールを及ばせる法律文書である。能力の喪失が起きる以前に希望を表明するため,それらは事前指示書と呼ばれる。このような文書では通常,終末期ケアに関する決定が含まれている。このような終末期の決定について患者と共感的かつ効果的にコミュニケーションを取るには特別な技術... さらに読む 永続的委任状 医療判断代理委任状(durable power of attorney for health care) 事前指示書は,ある人が能力を喪失した場合に,医療に関する決断に対しその人のコントロールを及ばせる法律文書である。能力の喪失が起きる以前に希望を表明するため,それらは事前指示書と呼ばれる。このような文書では通常,終末期ケアに関する決定が含まれている。このような終末期の決定について患者と共感的かつ効果的にコミュニケーションを取るには特別な技術... さらに読む ,医師による自殺幇助,ならびに蘇生術および入院を見合わせるための手続きを定める州法および施設の方針を知っておくべきである。この知識は,患者にもはや意思決定をする能力がないときでも,確実に患者の意思に沿ってケアの方針を決定する助けとなる。

多くの医療従事者は,疼痛または他の重篤な症状の緩和を目的とした薬物治療(例,疼痛または呼吸困難のためのオピオイド)は死亡を早めるのではないかと憂慮するが,そのような影響は実際はかなりまれである。熟練した医療ケアおよび薬剤の用量調節により,医療従事者は,オピオイドによる呼吸抑制などの最も懸念すべき薬物有害作用を回避する。進行した疾患の一般的な症状に対する一般的な治療によって死亡が早まることはない。難治性疼痛または呼吸困難に対して,死を早めうる高用量のオピオイドが必要になる場合でも,その結果としてもたらされた死は,オピオイドが症状緩和目的で適切に用量を調節して投与されたものであることから,不当とみなされることはない。医師が症状を精力的に管理し延命治療を控える場合,これらの問題を率直に,配慮をもって話し合い,意思決定を注意深く文書化する必要がある。

医師は,たとえ苦痛の緩和を目的としたものであっても,殺人の手段であると従来から考えられている介入(例,致死注射)は通常行うべきではない。自殺幇助(例,臨死患者に直接致死薬ならびにその使用に関する指示を与えることによる)は,カリフォルニア州,コロラド州,コロンビア特別区,ハワイ州,メイン州,モンタナ州,ニュージャージー州,オレゴン州,バーモント州,およびワシントン州では特定の条件下で承認されているが,米国のその他の全ての地域では,告発理由となりうる。医師による自殺幇助は,オランダやスイスなど,他の一部の国でも認められている。医師による自殺幇助が合法的な地域では,医療従事者ならびに患者は,患者の居住地,年齢,意思決定能力,末期疾患,予後,および幇助を要請する時期など,その地域の法的要件に従わなければならない。米国内のその他の全ての州および他の多くの国では,法律または慣習法で医師による自殺幇助が禁止されているか,もしくは不明瞭である。これらの地域においては,特に患者の利益が入念に擁護されない場合,決定がなされるときに患者の能力が欠如しているか患者が機能的に重度に損なわれている場合,または決定およびその論拠が書面化されていない場合に,殺人罪で告発されることが考えられる。

患者の死後の介護者に対する支援

医師,看護師またはその他の有資格者は,家族の苦悩や不安を軽減させるため,時宜を得た方法で患者の死亡を宣告すべきである。葬儀業者が葬儀の手配を行うためには完成した死亡診断書を必要とするため,医師はできる限り速やかに死亡診断書を完成させる必要がある。死が予測されている場合でも,医師が検視官または警察に死亡の報告をする必要がある場合もある;現地法の知識が重要である。

家族に死亡(特に予期しない死亡)を報告することは,慎重な配慮と冷静さを要する。家族に対し死亡を報告するとき,医師は明確な言葉を用いるべきである(例,「死亡した」という言葉を使用する)。婉曲表現(例,「逝った」)は,容易に誤解を招くため使用すべきではない。臨終を家族が看取れなかった場合,臨床医は,蘇生の努力および患者に痛みや苦しみがなかったこと(事実である場合)など,何が起きたかを報告すべきである。(蘇生が行われる場合,家族または介護者はそれに立ち会うことを希望する場合がある;この立ち合いによって蘇生結果が悪化したり家族の悲嘆が増したりするというエビデンスは示されていない。)近親者が1人きりで死亡の報告を受けるようなことがないよう,慎重を期する努力が求められる。死亡について伝えられた場合,特に予期せぬ死亡の場合は,家族は圧倒されてしまい,与えられた情報を処理できなかったり質問したいことを考えられなかったりする可能性がある。

医師,看護師およびその他の医療従事者は,家族の心理的なニーズに応え,適切なカウンセリング,家族がともに深く悲しむのに適切な環境,遺体に付き添うための十分な時間を提供すべきである。家族が遺体と対面する前に,汚れを取り除き,チューブを取り外し,できる限り臭気を消すべきである。可能ならば,家族が亡くなったばかりの遺体のある部屋へ入るとき,ほとんどの人はその状況に慣れていないため,臨床医が付き添うことで支えとなる場合がある。ときに,しばらくの間は家族だけにさせ,その後戻ってから施した治療に関する説明を行い,家族に質問をする機会を与えることが最善である。友人,隣人および聖職者が,支援の助けとなることもある。

臨床医は,死亡に際しての行動における文化的な相違について,よく配慮しなければならない。臓器および組織提供については,生前に患者が決定することも,患者の生前もしくは死亡直後に家族および臨床診療チームが話し合うこともできる;このような話合いは通常法律によって義務づけられている。立ち合いの医師は,患者が自宅や介護施設で死を迎える場合であっても,臓器提供および剖検の手配の方法について知っておくべきである。剖検については,死亡の場所にかかわらず容易かつすぐに行えるようにしておくべきであり,また,剖検に関する決断は,生前でも死亡直後でも可能である。不明な点を明らかにするために剖検を希望する家族はかなり少数派であり,臨床医は質の評価と改善における剖検の役割を理解しておく必要がある。

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