統合,補完,代替医療の概要

執筆者:Denise Millstine, MD, Mayo Clinic
レビュー/改訂 2018年 9月
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統合健康・医療(IMH)および補完・代替医療(CAM)には,従来の主流の西洋医学に歴史的に含まれていなかった癒しのアプローチや治療法が含まれる。

CAMは,主流の西洋医学の原則に基づかない医療としばしば考えられている。しかしながら,この解釈は厳密には正確ではない。

CAMと主流の医療との重要な相違点の1つは,最良の実践を支持する根拠の強度である。主流の医療は,可能な場合,その実践の基礎を最も決定的な科学的根拠にのみ置く。対照的に,CAMはその実践の基礎を,根拠情報に基づく実践(evidence-informed practices)―効力および安全性に関する最も高く厳密な基準を満たしているとは限らないときでも,利用可能な最良の根拠に基づく実践に置いている。しかしながら,一部の栄養補助食品の使用を含む,一部のCAM療法は,従来の科学的な基準により妥当性が確認されている。

補完医療,代替医療および統合医療の定義

補完医療,代替医療および統合医療という用語は互換的に用いられることが多いが,それぞれ意味が異なる。

  • 補完医療とは,通常医療とともに用いられる非主流の医療を指す。

  • 代替医療とは,通常医療の代わりに用いられる非主流の医療を指す。

  • 統合医療とは,健康,治療者と患者の関係,および患者の全体像に焦点をあてる考え方に基づいて,全ての適切な治療アプローチ(通常医療と非主流の医療)を用いる医療である。

IMHの目的は,適切な場合にCAMを主流の医療と組み合わせることである。現在では,一部のCAM療法は病院で提供されており,費用が保険会社から払い戻されることもある。Academic Consortium for Integrative Medicine and Healthに参加している北米の74の医科大学など,一部の伝統的な医科大学では統合医療および療法に関する教育を行っている。

CAMの定義の幅に応じて,最大で成人の38%および小児の12%がいずれかの時点でCAMを用いたことがある。National Health Interview Survey(2012年)によると,一般的に用いられているCAM療法には以下のものがある:

  • 深呼吸訓練(11%)

  • ヨガ,太極拳および気功(10%)

  • マニピュレーション療法(8%)

  • 瞑想(8%)

  • ヨガ(6.1%)

その他のCAM療法(ホメオパシー[2.2%],ナチュロパシー[0.4%],およびエネルギー療法[0.5%])が用いられることは依然として少ない。ある2012年の調査では,米国の17.7%の成人が1つ以上の栄養補助食品を用いていることが報告された。

患者は必ずしも医師にこれらの療法の使用について自発的に報告するわけではない。そのため,医師は率直かつ中立的な態度でこれらの療法の使用(植物薬および栄養補助食品を含む)について具体的に尋ねることが非常に重要である。患者のCAMの使用について知ることで,以下のことが可能である:

  • 信頼関係を強化し信頼を築く

  • CAMのエビデンスおよびその妥当性とリスクについて話し合う機会をもつ

  • ときに薬物とCAM療法や栄養補助食品との間で生じうる有害な相互作用を同定して回避するのを助ける

  • 患者の経過をモニタリングする

  • 患者がどの資格や免許をもつCAM施術者を利用すべきか決めるのを助ける

  • 患者のCAM経験から学ぶ

表&コラム

効力

代替療法の効力および安全性の研究を行うため,1992年,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)に代替医療事務局(Office of Alternative Medicine)が開設された。1998年にこの事務局は米国国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine:NCCAM)となり,2015年に米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)となった。その他のNIH事務局(例,米国国立がん研究所[National Cancer Institute])もいくつかのCAM研究に資金を提供している。NCCIHは,この分野の研究結果の一覧表を公開している。

CAM療法を支持するものには以下の3種類がある:

  • 対照をおいた臨床試験で示された臨床転帰における効力(臨床での使用の最も強固なエビデンスとみなされる)

  • 確立された生理学的作用機序のエビデンス(例,セイヨウカノコソウによる脳内のγ-アミノ酪酸[GABA]活性の修飾),ただし妥当性が確認された生理学的作用機序であれば必ずしも臨床転帰における効力があるというわけではない

  • 何十年から何世紀という期間にわたる使用(より低質のエビデンスとみなされる)

CAMに関する相当量の情報は,査読を経た文献,エビデンスに基づくレビュー,専門家委員会の合意文書や権威ある教科書から入手可能である;これらの多くは英語以外の言語(例,ドイツ語,中国語)で公表されている。多くのCAM療法について研究が行われ,効果的であること,および/または通常医療と同等であることが明らかになっているが,中には効果がないことが判明し,研究の結果が矛盾し一貫しないものもある。一部のCAM療法にはこれまで決定的な臨床試験が実施されていない。そのような研究を制限する因子としては以下のものがある:

  • ホリスティック(全体的)療法(例,健康的な食事パターン)は多数の変数を包含し,その多くまたは全てをコントロールできない。対照的に,エビデンスに基づく医療では,1つまたは少数の変数,理想的にコントロールされた介入(例,薬剤または手順)に重点を置く。

  • IMH療法は費用が安く十分な償還が得られない傾向があるため,研究に資金を提供する金銭的インセンティブが限定される。

  • CAM製品および療法の規制では,疾患特異的な効力の証明は要求されていない。

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)はDietary Supplement Health and Education Act(DSHEA)of 1994のもとに栄養補助食品の販売やCAM器具の使用を許可しているが,効力に関する主張については大幅に制限している。一般的に,栄養補助食品の製造業者は,安全性または効力に関するエビデンスをFDAに提出する必要なしに身体の構造や機能に対する便益(例,心血管系の健康を改善する)を主張することはできるが,疾患治療に関する便益(例,高血圧を治療する)を主張することはできない。

サプリメントは希釈されたり汚染されたりしている場合もある。例えば,2013年の研究ではボタニカルサプリメント(CAMサプリメントに限定されない)の32%には表示された主な有効成分が含まれず,20%には汚染物質(望まれるまたは表記されている成分以外の生理学的活性を有する化合物)が含まれ,さらに21%には表記されていない賦形剤が含まれていることが明らかにされた(1)。しかし,質の高い製品が,FDAのGood Manufacturing Practicesを遵守する特定の製造業者を通して入手可能である。

研究

CAM療法の研究デザインには,通常医療の研究者が直面する困難より多くの困難が伴う:

  • 療法が標準化されていないことがある。例えば,鍼治療には様々な体系があるほか,同じ植物から作られた抽出物でも成分や生物学的活性は大きく異なる。

  • 診断が標準化されていないことがある。多くのCAM療法(例,伝統的なハーブ療法,ホメオパシー,鍼治療)の使用は,通常医療で診断される疾患や障害ではなく,患者固有の特性や経験に基づく。

  • CAM療法では患者の全体が重視されるため,エビデンスに基づく医療におけるランダム化比較試験からは併存症があるという理由で除外されるかもしれない患者が含まれる可能性がある。

  • 二重盲検化や単盲検化は,しばしば困難または不可能である。例えば,瞑想を行っているかどうかに関して患者を盲検化することはできない。エネルギー療法を用いているかどうかに関して,レイキ施術者を盲検化することはできない。

  • アウトカムは,客観的で一様な測定値(平均動脈圧,Hb A1c値,死亡率のように)に基づくものではなく,しばしば個人に特有であるかまたは全身健康状態に重点を置くため,標準化が困難である。

  • 補完療法では,プラセボや対照の介入を設定することも困難な場合がある。例えば,マッサージにおける効果的な要素は,触れること,マッサージを施す特定の部位,使用する特定のマッサージ法,または施術時間でありうる。

通常の研究の観点からすると,プラセボ対照を用いることは重要である。プラセボ効果は複雑であり,ケアの概念における自然治癒力を考慮する場合には特にそうである。しかしCAM体系では,プラセボ効果は神経生物学的なもので,心身への影響を伴い,しばしば症状と疾患の経験に大きな影響を与えるものとして認識され解釈される(2)。

実際に,IMH療法は,癒やしの環境および患者との関係の質を高めることで,患者の治癒力を最大限に引き出すことを意図している。研究の場において,CAM療法を構成する効果的な要素を不活性なプラセボや対照と比較して研究することは,依然として方法論的挑戦である。

そのような困難にもかかわらず,CAM療法(例,鍼治療,ホメオパシー)についての質の高い研究が多数デザインされ行われている。鍼治療における対照の手順や装置を評価する研究の多くを評価したシステマティックレビューがある(3)。注意深くデザインされたプラセボを用いることで,一部のCAM療法が全体的な臨床反応に与える影響を分離できる。CAMの使用を支持するエビデンスとしては,プラセボより効力があるという結果や,通常の治療法に対して非劣性であることを示す結果などがある。

安全性

ほとんどのCAM療法の安全性は臨床試験で検討されていないが,これらの治療法の多くは,良好な安全性の記録を有する。多くのCAM療法(例,無毒性の植物薬,瞑想やヨガなどの心身療法,マッサージなどの身体をベースにした実践)は,有害性に関するエビデンスなく何千年にもわたって用いられており,また多くは潜在的な有害性もほとんどないように思われる。しかし,以下のような安全性に関する検討事項がある:

  • 通常医療によって効果的に治療できる,生命を脅かす疾患に対して代替療法を用いること(例,髄膜炎,がん)―特定の療法によって直接的な害を受けるリスクというよりは,これがおそらく代替医療の最大のリスクである

  • 特定の植物薬またはサプリメントの製剤の毒性(例,ピロリジジンアルカロイド,Atractylis gummifera,チャパラル,ニガクサ,クサノオウ,金不換,カヴァ,ペニーロイヤルなどによる肝毒性;Aristolochiaによる腎毒性;マオウによるアドレナリン刺激)

  • 汚染(例,一部の漢方薬やアーユルヴェーダで用いるハーブ薬の重金属による汚染;PC-SPESや一部の漢方薬などの製品の,他の薬物による汚染)

  • とりわけ薬物の治療係数が低い場合には,CAM療法(例,植物薬,微量栄養素,その他の栄養補助食品)と他の薬物との相互作用(例,セントジョーンズワートによるチトクロムP450[CYP3A4]酵素の誘導によって,抗レトロウイルス薬,免疫抑制薬やその他の薬物の活性低下が生じること)

  • 身体への他のいかなる手技療法(理学療法などの主流の技法を含む)と同様に,損傷(例,リスクのある患者に対する脊椎マニピュレーションによる神経または脊髄損傷,出血性疾患を有する患者における皮下出血)

有害な栄養補助食品に関する現在の注意は,FDAのウェブサイト(Safety Alerts and Advisories)で閲覧できる。従来は,FDAは栄養補助食品の製造を厳しく制限していなかった。しかし,FDAの新しい規制では,サプリメントの品質と安全性を改善する製造実践を遵守することが求められるようになった。

身体への手技療法による損傷を防ぐために,患者は,正式な訓練を受け専門家として免許を受けた施術者を探すべきである。資格ある施術者がカイロプラクティックや鍼治療を行う場合,合併症の発生率は非常に低い。

参考文献

  1. 1.Newmaster SG, Grguric M, Shanmughanandhan D, et al: DNA barcoding detects contamination and substitution in North American herbal products.BMC Med 11;11–222, 2013.

  2. 2.Finniss DG, Kaptchuk TJ, Miller F, et al: Placebo effects: biological, clinical and ethical advances.Lancet 375(9715): 686–695, 2010.doi: 10.1016/S0140-6736(09)61706-2.

  3. 3.Zhang CS, Tan HY, Zhang GS, et al: Placebo devices as effective control methods in acupuncture clinical trials: A systematic review.PLoS One 10(11):e0140825, 2015.doi: 10.1371/journal.pone.0140825.

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