特発性環境不耐症

(多種類化学物質過敏症;環境病)

執筆者:Donald W. Black, MD, University of Iowa, Roy J. and Lucille A. Carver College of Medicine
レビュー/改訂 2020年 7月
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特発性環境不耐症は,環境中に一般に存在する化学的に関連性のない複数の物質への少量曝露のほか,ときに電磁場に対する過敏性によって引き起こされる,再発性で非特異的な症状を特徴とする。症状は非常に多彩で,しばしば多器官系に影響を与えるが,身体所見に特筆すべきものはない。診断は除外診断による。治療は心理的支援,および認知されているトリガーの回避であるが,トリガーが限定されていることはまれである。

特発性環境不耐症に広く受け入れられている定義はないが,一般的にこの疾患は,同定可能または同定不可能な化学物質(数は問わない)への曝露(吸入,接触,摂取)やその他の曝露に起因する多彩な症状の出現で,臨床的に検出可能な器質的機能障害および関連する身体徴候を伴わないものと定義される。

病因

トリガー

報告されている特発性環境不耐症のトリガーは以下の通りである。

  • アルコールおよび薬物

  • カフェインおよび食品添加物

  • 絨毯や家具のにおい

  • 燃料の臭気およびエンジンの排気

  • 塗料

  • 香水およびその他の芳香剤

  • 殺虫剤および除草剤

  • モバイル通信機器

機序

免疫学的および非免疫学的理論が提唱されている。提示された原因物質に対する一貫した用量反応性の欠如(すなわち,以前かなり少量で反応が惹起された物質への大量曝露後に症状が再現されない場合がある)が,これらに対する障害となっている。同様に,症状に関連して全身性の炎症,サイトカインの過剰放出,または免疫系の活性化が生じることを一貫して示す客観的エビデンスも得られていない。多くの医師は,病因を心理的なもの,おそらくは身体症状症の一形態であると考えている。この症候群は一種のパニック発作ないし広場恐怖症であると示唆する医師もいる。

特発性環境不耐症は,慢性疲労症候群患者の40%および線維筋痛症患者の16%に生じる。特発性環境不耐症は女性の方が有病率が高い。

測定できる生物学的異常(例,Bリンパ球の減少,IgEの増加)はまれであるが,一部の患者にはこのような異常がみられる。しかし,これらの異常に一貫したパターンはないようであり,その意義は不明であり,疾患の免疫学的根拠を確認するための異常に関する検査は推奨されない。

症状と徴候

症状は多数あり(例,動悸,胸痛,発汗,息切れ,疲労,紅潮,めまい,悪心,息詰まり,震え,しびれ,咳嗽,嗄声,集中困難),通常は複数の器官系に関係する。ほとんどの患者は,自己で同定したか,または以前の検査で医師により同定された被疑物質を列挙したリストを持参する。こうした患者はしばしば,原因物質を避けるために住居や就職先を変え,「化学物質」を含有する食品を避け,公衆の場ではときにマスクを着用し,また公衆環境自体を避けるという労をいとわない。身体診察では,著明な所見がみられないことが特徴的である。

診断

  • 他の原因の除外

診断では,まず同様の症状を示す既知の疾患を除外する:

アトピー性疾患は典型的な病歴,プリックテスト,特異的IgEの血清分析,またはこれら全てに基づき除外される。アレルギー専門医へのコンサルテーションが助けに場合もある。同じ建物で過ごす多くの人々が発症するビル関連疾患を考慮すべきである。

症状および徴候が「結合組織」疾患や全身性の自己免疫性リウマチ疾患(例,関節,皮膚および/または粘膜症状)を強く示唆しない場合,広範な自己抗体(例,抗核抗体[ANA],リウマトイド因子,抽出核抗原[ENA])の検査は避けるべきである。このような場合は,検査前確率が低く,また真陽性より偽陽性の判定が出る可能性の方がはるかに高い;ANAの弱陽性が約20%で認められる。

治療

  • ときに,疑わしいトリガーを避ける

  • 心理学的治療

原因と影響の関係が未確定であるにもかかわらず,治療はときに疑わしい素因を回避することを目標とするが,多くの物質は広範に分布するため困難である。しかしながら,社会的隔離,および費用がかかる破壊的な回避行動は推奨されない。患者を安心させ不必要な検査や手技から患者を守るプライマリケア医との信頼関係が役立つ。

心理学的評価や介入が役立つ場合があるが,特徴として多くの患者がこのアプローチに抵抗する。しかしながらこのアプローチのポイントは,原因が心理的なものであると患者に納得させるのではなく,患者の症状への対処および生活の質の改善を支援することである(1)。有用な方法として,心理学的脱感作(しばしば認知行動療法の一環として)(1)および段階的曝露などがある( see page 治療)。共存する精神障害(例,うつ病,パニック症)に対しては,向精神薬が役立つことがある。

治療に関する参考文献

  1. Hauge CR, Rasmussen A, Piet J, et al: Mindfulness-based cognitive therapy (MBCT) for multiple chemical sensitivity (MCS): Results from a randomized controlled trial with 1 year follow-up.J Psychosom Res 79(6):628-634, 2015. doi: 10.1016/jpsychores.2015.06.010

要点

  • 現在得られているエビデンスによると,特発性環境不耐症は非心理的因子では説明できない。

  • 診断では,同様の症状を示しうる疾患(例,アレルギー疾患)を除外し,ビル関連疾患を考慮する。

  • 客観的な臨床所見で適応とされる場合のみ,免疫学的異常の検査を行う。

  • 段階的曝露などの精神療法,および共存する精神障害の薬物治療を勧める。

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