薬物の生物学的利用能

執筆者:Jennifer Le, PharmD, MAS, BCPS-ID, FIDSA, FCCP, FCSHP, Skaggs School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of California San Diego
レビュー/改訂 2020年 10月
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    生物学的利用能とは,活性成分(薬物または代謝物)が体循環に入り,作用部位に到達する程度および割合のことである。

    薬物の生物学的利用能は,設計と製造にある程度依存する剤形の性質により大部分が決まる。ある特定の薬物の製剤間における生物学的利用能の差異は,臨床的な意義を有することがあり,したがって,それらの製剤が同等であるか否かを把握することは非常に重要である。

    化学的同等性とは,それらの製剤が同じ活性化合物を同量含み,現時点の公定基準を満たすことを表すが,それらの製剤中の不活性成分は異なることがある。生物学的同等性とは,それらの製剤を同一患者に同様の投与レジメンで投与したとき,血漿および組織中の薬物濃度が等しくなることを表す。治療学的同等性とは,それらの製剤を同一患者に同様の投与レジメンで投与したとき,同じ治療効果および有害作用をもたらすことを表す。

    生物学的に同等な製剤は治療学的にも同等であると予想される。治療学的非同等性(例,有害作用がより多く,効力がより少ない)は通常,長期投与を行っている間に,ある製剤で病状が安定している患者に同等でない代替薬を投与する場合に露見する。

    ときに,生物学的利用能が異なるにもかかわらず,治療学的に同等となることがある。例えば,ペニシリンの治療係数(最小毒性濃度の50%有効濃度[EC50]に対する比)はかなり幅広く,効力や安全性は,ペニシリン製剤における生物学的利用能の差により血漿中薬物濃度がある程度違っても通常その影響を受けない。逆に,治療係数が比較的狭い薬物の場合,生物学的利用能の違いが著しい治療学的非同等性をもたらすことがある。

    薬物動態の概要も参照のこと。)

    生物学的利用能を低下させる要因

    経口投与された薬物は腸壁から門脈循環を経て肝臓に到達するが,いずれも初回通過効果(体循環に到達する前に生じる薬物代謝)が生じる一般的な部位である。したがって,多くの薬物は十分な血漿中薬物濃度が得られる前に代謝を受けることがある。低い生物学的利用能は,水に溶けにくく吸収が遅い薬物の経口製剤で最もよくみられる。

    消化管における吸収時間が不十分であることが,低い生物学的利用能の一般的な原因である。薬物が容易に溶解しない場合,または上皮細胞膜を透過できない場合(例,高度にイオン化および分極している),吸収部位における時間が不十分なことがある。このような場合には,生物学的利用能は低下するとともに,大きく変動する傾向がある。

    年齢,性別,身体活動,遺伝的表現型,ストレス,疾患(例,無酸症,吸収不良症候群),または消化管手術(例,肥満外科手術)の既往も,薬物の生物学的利用能に影響することがある。

    吸収を減少させる化学反応が生物学的利用能を低下させることがある。具体的には,複合体の形成(例,テトラサイクリンと多価金属イオン),胃酸または消化酵素による加水分解(例,ペニシリンならびにパルミチン酸クロラムフェニコールの加水分解),腸壁における抱合(例,イソプロテレノールの硫酸抱合),他の薬物への吸着(例,ジゴキシンのコレスチラミンへの吸着),内腔の細菌叢による代謝などがある。

    生物学的利用能の評価

    生物学的利用能は通常,血漿中濃度時間曲線下面積(AUC―仮想薬物を単回経口投与した後の代表的な血漿中薬物濃度―時間関係の図を参照)を測定することによって評価する。最も信頼できる薬物の生物学的利用能の基準はAUCである。AUCは体循環に至る未変化の薬物の総量と正比例する。複数の製剤はそれらの血漿中薬物濃度曲線が実質的に重なるならば,吸収の程度および速度の点で生物学的に同等とみなしてよい。

    仮想薬物を単回経口投与した後の代表的な血漿中薬物濃度―時間関係

    血漿中薬物濃度は吸収の程度に応じて増加し,薬物消失速度が吸収速度と等しいとき,最高(ピーク)血漿中濃度に達する。薬物の消失は薬物が血流に入った直後から始まるため,ピーク血漿中薬物濃度に基づく生物学的利用能の決定は誤りを招く可能性がある。ピーク時間(最大血漿中濃度が生じた時)が吸収速度の一般指標として最も広く用いられている;吸収が遅いほどピーク時間は遅延する。

    主に尿中に未変化体で排泄される薬物の場合,生物学的利用能は単回投与後に排泄される全薬物量を測定することにより推定できる。吸収された薬物の完全な尿中回収には,理想的には7~10消失半減期にわたり尿を採取する。反復投与後の生物学的利用能は,定常状態における24時間尿から回収された未変化体を測定することによって推定することがある。

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