脾損傷

執筆者:Philbert Yuan Van, MD, US Army Reserve
レビュー/改訂 2019年 12月
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脾損傷は通常,鈍的腹部外傷の結果として生じる。患者はしばしば腹痛(ときに肩に放散する)および腹部圧痛を有する。診断はCTまたは超音波検査により行う。治療は経過観察およびときに外科的修復による;まれに,脾臓摘出が必要である。

腹部外傷の概要も参照のこと。)

病因

大きな衝撃(例,自動車事故)によって脾臓が損傷することがあり,また穿通性外傷(例,ナイフによる創傷,銃創)でも同様である。エプスタイン-バーウイルスによる劇症型の疾患(伝染性単核球症または移植後のエプスタイン-バーウイルスを介した偽リンパ腫)の結果として腫脹した脾臓は,軽微な外傷により破裂する傾向,または自然に破裂する傾向さえある。脾損傷は,被膜下血腫および小さな被膜の裂傷から深部の実質の裂傷,挫滅,および茎からの剥離まで様々である。

分類

脾損傷は重症度に応じて5つのgradeに分類される(脾損傷のgradeの表を参照)。

表&コラム

病態生理

主な直ちにみられる結果は腹腔内への出血である。出血量は,損傷の性質および程度によって少量から大量まで様々である。多くの小さな裂傷は,特に小児では,自然に止血する。より大きな損傷では大量に出血し,しばしば出血性ショックを引き起こす。脾血腫がときに破裂し,これは通常は最初の数日でみられるが,受傷後数時間から数カ月後でさえ破裂が起こる可能性がある。

症状と徴候

出血性ショック,腹痛,および腹部膨隆など,大量出血の臨床像は通常は臨床的に明白である。少量の出血は,ときに左肩に放散する左上腹部痛を引き起こす。原因不明の左上腹部痛がある患者では,特に循環血液量減少またはショックの所見がある場合,最近の外傷歴を聴取すべきである。肋骨骨折のある患者では,脾損傷を強く疑ってかかること。

パール&ピットフォール

  • 原因不明の左上腹部痛がある患者では最近の外傷歴(コンタクトスポーツなど)を聴取する(特に循環血液量減少またはショックがある場合)。

診断

  • 画像検査(CTまたは超音波検査)

診断は,状態が安定している患者ではCT,不安定な患者ではベッドサイド(ポイントオブケア)の超音波検査または試験開腹により確定する。

治療

  • 経過観察

  • 血管塞栓術(angioembolization)

  • ときに外科的修復または脾臓摘出

かつては,全ての脾損傷の治療は脾臓摘出であった。しかしながら,細菌感染に対する永久的な感受性が生じ重篤な脾臓摘出後敗血症のリスクが増加するのを防ぐため,脾臓摘出は可能であれば避けるべきであり,特に小児,高齢者,および造血器悪性腫瘍の患者では避けるべきである。最も多くみられる病原体は肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)であるが,莢膜を有するその他の細菌としてNeisseria属やHaemophilus属などの細菌が関与していることもある。

現在,大部分の低いgradeおよび多くの高いgradeの脾損傷は,高齢患者(すなわち,55歳以上の患者)でも手術以外で管理可能である。開腹手術の他の適応(例,中空臓器の穿孔)がなく血行動態が安定している患者は,バイタルサインならびに連続的な腹部診察およびヘマトクリット(Hct)値のモニタリングによる経過観察が可能である。輸血の必要性は手術以外の管理に矛盾しない(特に他の合併損傷[例,長管骨骨折]がある場合)。しかしながら,あらかじめ輸血を行う基準(一般的には孤立性の脾損傷に対して2単位)を定めておくべきであり,それを超えれば罹患および死亡を防止するために手術を行うべきである。ある大規模な外傷センターにおいては,非手術療法の管理が失敗した患者のうち,75%は受傷後2日以内に,88%は5日以内に,93%は7日以内に失敗している(1)

手術以外の管理が行われた脾損傷では肝損傷と同様に,活動制限,最適な集中治療室(ICU)滞在期間もしくは入院期間,食事再開のタイミング,または画像検査を繰り返す必要性に関する文献間のコンセンサスはない。

大量の進行中の出血(すなわち,大量の継続輸血の必要性および/またはヘマトクリット[Hct]の減少)がある患者では開腹手術が必要である。ときに,血行動態が安定している患者では,出血している血管の選択的塞栓術を併用する血管造影を行う。

手術が必要な場合,出血はときに縫合,局所止血剤(例,酸化セルロース,トロンビンの混合物,フィブリン糊),または脾部分切除によってコントロールできるが,ときに依然として脾臓摘出が必要になることがある。脾臓摘出を受けた患者には,肺炎球菌ワクチンの接種を行うべきである;多くの医師はNeisseria属およびHaemophilus属に対するワクチン接種も行う。

治療に関する参考文献

  1. Stassen NA, Bhullar I, Cheng JD: Nonoperative management of blunt hepatic injury: An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline.J Trauma Acute Care Surg 73:S288-S293, 2012.

要点

  • 脾損傷は一般的であり,脾臓が腫大している場合には軽微な損傷で起こる可能性がある。

  • 主な合併症は,直ちにみられる出血および遅発性の血腫破裂である。

  • 状態が安定している患者ではCT,不安定な患者では試験開腹により診断を確定する。

  • 細菌感染に対する患者の感受性を永久的に増大させること(脾臓摘出によって生じる)を避けるため,脾損傷は可能ならば手術以外で管理する。

  • 大量の継続輸血が必要である,および/またはヘマトクリットの減少がある患者では,開腹手術,または塞栓術を併用する血管造影を行う。

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