鈍的心損傷

(心挫傷)

執筆者:Thomas G. Weiser, MD, MPH, Stanford University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 5月
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鈍的心損傷は,心筋挫傷,心腔の破裂,または心臓弁の破裂を引き起こす鈍的胸部外傷である。ときに前胸壁への打撃により,構造的病変を伴わずに心停止が生じる(心臓震盪)。

胸部外傷の概要も参照のこと。)

損傷により臨床像は様々である。

心筋挫傷は軽微で無症状の場合もあるが,頻脈がみられることもある。一部の患者では伝導異常および/または不整脈が発生する。

心室破裂は通常急速に死に至るが,病変が小さく,特に右側にある場合は生存して心タンポナーデを呈する場合がある。心房破裂によるタンポナーデがより緩徐に発症することがある。

弁破裂が起こり,心雑音およびときに心不全の臨床像(例,呼吸困難,肺の断続性ラ音,ときに低血圧)を生じることがあるが,これらは急速に現れる場合がある。

中隔破裂は最初は症状を引き起こさないことがあるが,後に患者が心不全を呈する場合がある。

心臓震盪は,既存または外傷性の構造的心疾患のない患者において,前胸壁への衝撃後に起こる突然の心停止である。一般的には,この打撃は比較的低い運動エネルギーをもつ高速で飛んでくる硬い物体(例,野球ボール,ホッケーパック)による。病態生理は不明であるが,心周期との関連における打撃のタイミングが重要である可能性がある。初期リズムは通常,心室細動である。

診断

  • 心電図

  • 心エコー検査

  • 心筋逸脱酵素

胸部外傷が明らかであって,動悸,不整脈,新たな心雑音,または原因不明の頻脈もしくは低血圧のいずれかを認める患者では,心損傷を疑うべきである。

重大な鈍的胸部外傷患者のほとんどで12誘導心電図を行うべきである。心筋挫傷があると,心電図は心筋虚血または心筋梗塞に類似するST部分の変化を示す。最も頻度の高い伝導異常には,心房細動,脚ブロック(通常は右脚),原因不明の洞頻拍,および単発または多源性の心室性期外収縮などがある。ときに初期蘇生中に心エコー検査を施行し,壁運動異常,心嚢液,または心腔もしくは弁の破壊が認められることがある。臨床所見または心電図所見から鈍的心損傷が疑われる患者では,正式な心エコー検査を行って機能および解剖学的異常を評価すべきである。

心筋マーカー(例,トロポニン,クレアチンキナーゼ心筋型アイソザイム[CPK-MB])は,鈍的心損傷のスクリーニングに最も有用であり,その除外に役立つ。心筋マーカーおよび心電図が正常で不整脈がない場合,問題なく鈍的心損傷を除外できる。

治療

  • 支持療法

伝導異常を引き起こしている心筋挫傷の患者は,24時間は突然不整脈が起こるリスクがあるため,心臓モニタリングが必要である。治療は支持療法が中心であり(例,症状を伴う不整脈や心不全の治療),治療が必要になることはまれである。心筋破裂または弁破壊のまれな症例に対しては外科的修復が適応となる。

心臓震盪の患者では不整脈に対して治療を行う(例,心肺蘇生[CPR]および除細動による蘇生の後,院内で経過観察)。

要点

  • 胸部外傷が明らかであって,動悸,不整脈,新たな心雑音,または原因不明の頻脈もしくは低血圧のいずれかを認める患者では,鈍的心損傷を疑うべきである。

  • 心電図および心筋マーカーが外傷のスクリーニングに有用であり,心エコー検査が機能および解剖学的異常の評価に役立つ。

  • 伝導異常または不整脈の患者では心臓モニタリングが必要である。

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