肋骨骨折

執筆者:Thomas G. Weiser, MD, MPH, Stanford University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 5月
意見 同じトピックページ はこちら

胸部の鈍的損傷により1本以上の肋骨が骨折する可能性がある。

胸部外傷の概要も参照のこと。)

一般的には,肋骨骨折は胸壁への鈍的損傷の結果生じ,通常は強い力(例,急激な減速,野球のバット,重大な転倒による)が関与するが,ときに高齢者の場合,軽度または中等度の力(例,軽い転倒)だけで骨折に至る。3本以上の隣接する肋骨が別々の2カ所で骨折した場合,骨折部が動揺胸郭となる。

パール&ピットフォール

  • 高齢者における軽微な外傷(例,転倒による)により肋骨骨折が起こることがあり,死に至る可能性がある。

以下に挙げるような,随伴する胸部損傷が起こることがある:

  • 大動脈損傷,鎖骨下損傷,または心損傷(一般的でないが,急激な減速により起こることがあり,特に第1または第2肋骨が骨折した場合に起こる)

  • 脾臓または腹部損傷(第7~第12肋骨のいずれかの骨折による)

  • 肺裂傷または肺挫傷

  • 気胸 see heading on page 気胸(外傷性)および see also heading on page 気胸(緊張性)

  • 血胸

  • 気管気管支損傷(一般的でない)

合併症

肋骨骨折のほとんどの合併症は随伴する損傷により起こる。単独の肋骨骨折は痛みを伴うがほとんど合併症を引き起こさない。しかし,吸気のスプリンティング(splinting)(疼痛による不完全な吸気)が無気肺肺炎を引き起こす可能性がある(特に高齢者または複数骨折の患者の場合)。その結果,高齢患者では肋骨骨折による死亡率が高い(最大20%)。健康な若年患者および1~2本の肋骨骨折の患者ではこのような合併症はほとんど発生しない。

症状と徴候

疼痛が重度であり,体幹の動き(咳嗽や深呼吸を含む)により悪化し,数週間持続する。受傷した肋骨にはかなりの圧痛を認めるほか,ときに触診時に骨折部分が動いた際,受傷した肋骨上で捻髪音を検出できることがある。

診断

  • 通常は胸部X線

一部の肋骨骨折は胸壁の触診で確認できる場合がある。一部の医師は,軽微な外傷の健常者では臨床的評価で十分であると感じている。しかし,重大な鈍的外傷では一般的に胸部X線を施行して随伴する損傷(例,気胸,肺挫傷)を確認する。多くの肋骨骨折は胸部X線上では認められない;特定の肋骨を撮影してもよいが,全ての肋骨骨折をX線で同定することは通常不要である。臨床的に疑われる随伴する損傷を確認するためにその他の検査を行う。

治療

  • 鎮痛

  • 肺洗浄

肋骨骨折の治療には通常,オピオイド鎮痛薬が必要となるが,オピオイドには呼吸を抑制し無気肺を悪化させる可能性もある。一部の医師は同時に非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を処方する。

肺合併症を最小限に抑えるために,患者には深い呼吸または咳嗽を意識して頻繁に(例,覚醒中1時間毎)行わせるべきである。手掌または枕で患部を押さえること(本質的にはスプリンティング[splinting])により,深呼吸または咳嗽時の疼痛を最小限に抑えられる。3カ所以上の骨折があるか,または心肺機能不全が基礎にある患者は入院させる。固定(例,ストラップまたはテープによる)は通常回避すべきである;固定は呼吸を抑制し,無気肺および肺炎の素因となることがある。鎮痛薬の経口投与または静注にもかかわらず咳嗽または深い呼吸ができない場合は,硬膜外投与または肋間神経ブロックを考慮してもよい。

要点

  • 病的状態は肋骨骨折そのものではなく,基礎にある肺,脾臓,または血管の損傷か,スプリンティング(splinting)による肺炎の発生に起因する。

  • X線による全ての肋骨骨折の同定は通常不要である。

  • 疼痛が重度で数週間持続する場合があり,通常オピオイド鎮痛薬が必要となる。

  • ストラップまたはテープによる固定は,呼吸が抑制され,無気肺および肺炎の素因となる可能性があるため,通常回避すべきである。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS