(潜水障害の概要 潜水障害の概要 米国では年間1000例以上の潜水関連障害が発生しており,致死率は10%を超える。同様の障害が,トンネルやケーソン(建設工事に用いる防水を保つための構造物)内の作業者に起こることがあり,そのような環境では作業場から水を遮断するために圧縮空気が用いられている。 多くの障害が高圧に関連するが,高圧は水深の深い場所またはケーソン内で,その地点より... さらに読む も参照のこと。)
潜水障害における再圧治療の目標には,以下の全てが含まれる:
酸素の溶解および運搬の促進
窒素のウォッシュアウト促進
一酸化炭素濃度の低下
ガス気泡の縮小
組織虚血の軽減
一酸化炭素中毒 一酸化炭素中毒 各種の生理的ガス(例,酸素,窒素,二酸化炭素)および非生理的ガス(例,一酸化炭素)により,潜水中に症状が引き起こされることがある。 ( 潜水障害の概要も参照のこと。) 酸素中毒は一般的には,酸素分圧が1.4気圧を超えると生じ,この圧は水深約57m(187フィート)で空気を吸い込んだ際の圧と同等である。症状としては,錯感覚,痙攣発作,回転性めまい,悪心,嘔吐,視野狭窄などがある。約10%の患者が全身痙攣または失神を起こし,一般的にはこれに... さらに読む に対して働く機序としては,一酸化炭素ヘモグロビンの半減期短縮,虚血の軽減のほか,おそらくミトコンドリア機能の改善などがある。
再加圧は忍容性が比較的高いことから,回復を促進させる見込みが少しでもあるならば,開始すべきであり,浮上の数日後に開始しても,再加圧が助けになる場合がある。しかしながら,発症から48時間以上経過してから開始した場合,成功率は低くなる。
再圧チャンバーには,ストレッチャーに乗せた患者複数名分のスペースと付き添い医療スタッフ用スペースを設けた多人数用と,患者1人分のスペースのみを設けた1人用とがある。1人用のチャンバーの方が安価であるが,再加圧中に患者に近づくことができないため,介入を必要とする可能性がある重症(critically ill)患者への使用はリスクがある。
多くのダイバー,医療スタッフ,ならびに人気ダイビングエリアで働くレスキュー隊員および警官は,最寄りの再圧チャンバーの場所,そこへ最も迅速に到達する手段,および最も適切な電話相談先に関する情報を知っておくべきである。
このような情報はDivers Alert Network(919-684-9111; www.diversalertnetwork.org)でも,24時間入手できる。Undersea and Hyperbaric Medical Society(http://membership.uhms.org/)もまた,再圧治療に関する一般情報源として非常に価値が高い。医師から医師へのコンサルテーション(Physician-to-physician consultation)はDuke Dive Medicineを介して入手できる(919-684-8111)。
再圧プロトコル
治療に用いる圧および持続時間は通常,再圧施設における高圧療法の専門家が決定する。治療は1日1回または2回,45~300分間,症状が軽減するまで行う;酸素中毒のリスクを軽減するため,5~10分のエア・ブレイクを設ける。チャンバー内圧は通常2.5~3.0気圧(atm)に維持するが,ガス塞栓症による生命を脅かす神経症状のある患者では,脳の気泡を急速に圧縮するため,6気圧まで幅をもたせて開始することがある。
再圧治療は通常100%酸素または圧縮空気により施行されるが,ダイバーが特異な混合ガスを用いていた場合,または潜水の深度もしくは持続時間が並外れていた場合は,特殊混合ガス(例,ヘリウム/酸素,または大気と異なる比率の窒素/酸素)が適応となることがある。具体的な治療のプロトコル表はUS Navy Diving Manualに記載されている。
神経脱落症状が残存する患者は,間欠的高圧療法を繰り返し受けるべきであり,最大の改善を得るのに数日を要することがある。
再圧治療の合併症
再圧治療により, 耳および副鼻腔の圧外傷 耳および副鼻腔の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。耳(耳痛,難聴,および/または前庭症状が生じる)または副鼻腔(痛みおよび鼻閉が生じる)に起こりうる。診断にはときに聴力検査および前庭機能検査が必要となる。治療としては,必要に応じて,鼻閉改善薬,鎮痛薬,およびときにコルチコステロイド経口投与または内耳,中耳,あるいは副鼻腔の重篤な損傷に対する外科的修復などがある。... さらに読む など, 圧外傷 圧外傷の概要 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である;肺,耳,副鼻腔,消化管,歯の詰め物中の空隙,および潜水用フェイスマスク内の空間など,空気を含む部位に起こる。臨床像は損傷部位に依存する。診断は臨床的に行うが,ときに画像検査を必要とする。治療は一般に支持療法であるが,酸素投与と 気胸では胸腔ドレーンの留置を行うことがある。 ( 潜水障害の概要も参照のこと。)... さらに読む によるものと類似の障害が引き起こされることがある。近視が,20~30回の高圧療法後に発生することがあり,これは通常可逆的である。まれに, 肺の圧外傷 肺の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。肺の圧外傷のリスクを高める因子として,特定の行動(例,急速な浮上,息止め,圧縮空気を用いた呼吸)および肺疾患(例,慢性閉塞性肺疾患)などがある。気胸および縦隔気腫がよくみられる臨床像である。患者には,神経学的診察および胸部画像検査が必要である。気胸は治療する。予防としては,リスクのある行動を減らすようにするほか,高リスクダイバーに対するカウンセリングがある... さらに読む ,肺の酸素中毒,低血糖,または痙攣発作が結果として生じる。鎮静薬とオピオイドは症状を隠したり,呼吸機能不全を引き起こしたりすることがあるため,これらの薬剤の使用は避けるか,最小有効量でのみ使用すべきである。
再圧治療の禁忌
気胸のある患者は,再圧治療の前に 胸腔ドレーン 外科的胸腔ドレナージ 外科的胸腔ドレナージとは胸腔に外科用ドレーンを挿入し,空気または液体を排出する手技である。 再発性,持続性,外傷性,大きい,緊張性,または両側性の 気胸 陽圧換気下の患者における気胸 症状を伴うまたは繰り返す大量の 胸水 膿胸または肺炎随伴性胸水 さらに読む の留置を要する。
相対的禁忌としては以下のものがある:
閉塞性肺疾患
上気道感染症または副鼻腔感染症
重度の心不全
最近の耳の手術または損傷
閉所恐怖症
最近の胸の手術
要点
適応がある場合,再圧治療をできる限り迅速に手配する。
治療が遅れると成功率は低下するが,浮上からの経過時間に基づいて再圧治療を除外してはならない。
状態が不安定な患者が再圧治療を要する場合,可能であれば多人数用チャンバーを用いる。
気胸のある患者は,再圧治療の前に胸腔ドレーンの留置を要する。
より詳細な情報
Divers Alert Network: 24-hour emergency hotline, 919-684-9111
Duke Dive Medicine: Physician-to-physician consultation, 919-684-8111