裂創

執筆者:Adam J. Singer, MD, Stony Brook University, Renaissance School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 6月
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裂創は軟部組織に生じた裂け目のことである。

裂創の治療

  • 迅速な治癒を可能にする

  • 感染リスクを最小にする

  • 美容面で最適な結果を得る

生理

受傷直後から,凝固および白血球の動員により裂創の治癒が始まり,好中球およびマクロファージがデブリス(debris)(壊死組織を含む)および細菌を除去する。また,マクロファージは線維芽細胞の複製および血管新生を促す。線維芽細胞によりコラーゲンが蓄積するが,これは典型的には48時間以内に始まり,約7日で最大に達する。コラーゲンの蓄積は基本的には1カ月で完了するが,コラーゲン線維は架橋形成しながら,より時間をかけて増強していく。創傷の抗張力は,受傷後3週間では最終的な強度の約20%にとどまり,4カ月までに60%,1年で最大となるが,受傷前の状態と同等の抗張力をもつことはない。

受傷後間もなく,上皮細胞が創縁から傷を横切って移動する。外科的に修復される傷(一次治癒)の場合,そうした上皮細胞は水や細菌に対して,12~24時間のうちに効果的な保護膜を形成し,5日以内に正常な表皮に類似したものとなる。修復を行わなかった傷(すなわち,二次治癒)の場合,上皮形成は欠損の大きさに比例して遷延する。

皮膚は元来備わっている弾性のために,および下層にある筋肉のために,静的な力を受けている(代表的な皮膚割線の図を参照)。瘢痕組織は,隣接する損傷のない皮膚ほどの強度がないため,こうした力により瘢痕が拡張される傾向があり,見た目上創傷が十分に閉鎖された後にも,ときに美容面で受容できない結果に終わる。瘢痕の拡張は,特に創縁に対して直角方向の力が加わる場合に起こりやすい。この傾向(および結果として起こる創傷のストレス)は,新鮮創において容易に観察でき,創縁が大きく開口している場合は直角方向の力,創縁が比較的よく接着している場合は平行方向の力が示唆される。

代表的な皮膚割線

各線に沿った方向に力が働く。これらの線と直角に交わる切創は最大の張力を受け,そのため,開大する可能性が最も高い。

瘢痕は,約8週間は赤く目立つ傾向がある。コラーゲンのリモデリングが起こると,瘢痕は薄くなって紅斑が消失する。しかしながら,一部の患者では瘢痕が肥大し,隆起して整容上問題となる場合もある。ケロイドは,もとの創傷の範囲を越えて拡張する過増殖性の瘢痕であり,有色人種の患者でより可能性が高い。

創傷治癒を妨げる最も一般的な因子は,組織の虚血,感染,またはその両方である(創傷治癒を妨げる因子の表を参照);組織の虚血は感染の素因になる。

下肢は通常,感染のリスクおよび循環障害による治癒不良のリスクが最も大きい。頭皮および顔面はリスクが最も小さい。一部の薬物および疾患も創傷治癒を妨げる可能性がある。

咬傷は通常極度に汚染されている。

表&コラム

評価

裂創の評価の一連のステップには以下のものがある:

  • 重篤な合併損傷の発見および治療

  • 止血

  • 基礎にある構造への損傷の検索

臨床医は皮膚の裂創がいかに劇的に見えるとしても,それに集中する前に,重篤な損傷を発見して治療する必要がある。

活動性の出血を伴う創傷には,評価前に止血が必要である。止血するには,直接圧迫し,可能な場合には挙上を行うのが最善である;出血を起こしている血管を器具で締めつけると,隣接する神経に障害を与える可能性があるため,一般的にはこれは避ける。アドレナリンを含有する表面麻酔薬も出血の軽減に役立つ可能性がある。創より中枢側に一時的に駆血帯を注意深く使用すると,手および指の創傷が見やすくなることがある。

創傷の評価には十分な照明も必要である。拡大(例,拡大鏡による)が役立つことがある(特に近見視力が不十分な検者の場合)。完全な創傷評価には,ゾンデを使った探索または用手的な操作,およびそのための局所麻酔が必要であるが,局所麻酔薬の投与前に知覚検査を行うべきである。

合併損傷

創傷について,異物の存在や体腔の穿通(例,腹膜,胸郭)がないかだけでなく,神経,腱,血管,関節,骨など,創傷の下部にある構造への損傷も評価する。創傷管理においてこれらの合併症の存在を見逃すことが最も重大なミスの1つである。

創傷部から遠位の感覚障害または運動障害は神経損傷を示唆し,重要な神経の走行に近い部位での裂創であればその疑いが強まる。診察では,触覚および運動機能を検査すべきである。手および指の損傷には2点識別法が有用である;医師は折り曲げたペーパークリップの両端を同時に皮膚に接触させて,2点の感覚が得られる最短の距離(通常2~3mm)を測定する。正常の値は患者により,また手の部位により異なる;健側の手の同じ部位が最良の対照となる。

腱の走行上に裂創がある場合は,腱損傷が疑われる。腱の完全断裂では,拮抗筋に対抗する力が働かなくなるため,通常,安静時の変形(例,アキレス腱裂傷による下垂足,指の屈筋腱裂傷による安静時の正常な指の屈曲の消失)が生じる。安静時の変形は腱の部分断裂では起こらず,その場合は疼痛があるもしくは筋力検査で相対的に低下という結果が出る程度であったり,創傷を探索して初めて発見されたりする。損傷部位は全可動域を通じて調べるべきである;ときに損傷した腱が後退することがあり,損傷部位が安静位にあると視診または創傷検索時に視認できない場合がある。ポイントオブケア超音波検査も腱損傷の同定に役立つことがある。

蒼白,脈拍の減弱,または場合によっては裂創部より遠位の毛細血管再充満時間の延長(全て健側との比較)などの虚血の徴候により,血管損傷が示唆される。裂創が主要動脈の領域を横切り,深いまたは複雑な場合や,穿通性外傷の結果生じたものである場合,虚血が認められなくてもときに血管損傷が疑われる。血管損傷のその他の徴候として,急速に拡大するかもしくは拍動性の腫瘤,または血管雑音がある。

骨損傷の可能性があり,特に鈍的外傷後や,骨の隆起上に損傷が生じた場合はその可能性が高い。受傷機転や損傷部位から問題となる場合には,骨折を除外するために単純X線検査を施行する。

受傷機転によっては,ときに異物が創傷部に存在する。ガラスが関与する創傷には異物がある可能性が高いが,鋭い金属による裂創ではめったに異物は存在せず,その他の物質が関与する創傷では,異物が存在するリスクは中程度である。それほど感度はよくないものの,異物の感触があるとの患者の訴えはかなり特異的であり,軽んじるべきではない。リスクの高い創傷における局所痛または圧痛も異物を示唆し,特に能動または受動運動で疼痛が増悪する場合にその可能性が高い。小さい異物では,創傷が表在性でその深さが全て見えない限り,創傷の診察および検索は感度が低い。

パール&ピットフォール

  • それほど感度はよくないものの,異物の感触があるとの患者の訴えはかなり特異度は高く,軽んじてはならない。

関節の近くの創傷が深いか,または穿通性外傷がある場合,関節への穿通を疑うべきである。判断に迷う場合は,無菌条件下で関節に生理食塩水を注入してもよい。注入された液体が隣接した創傷内で観察されれば,関節への穿通があると判断でき,そのような創傷は専門医が手術室で迅速に洗浄すべきである。

裂創の底部が明確に視認できない部位の創傷では必ず,腹腔または胸腔への穿通を考慮すべきである。むやみに創傷を探るべきではない;盲目的なゾンデの使用は信頼性が低く,さらなる損傷を引き起こすことがある。胸部の裂創が疑われる患者には,まず胸部X線が必要であり,観察後4~6時間経過時点で再度撮影する;緩徐に発症する気胸があっても,この時点までに明らかとなるはずである。腹部に裂創がある患者の場合,局所麻酔により検索が容易になる(必要であれば裂創を水平方向に拡張してもよい)。筋膜を穿通する創傷のある患者は,病院で経過観察すべきであり,ときに腹部CTを用いて腹腔内出血を同定する。ベッドサイドの超音波検査も,気胸,血胸,腹腔内出血などの損傷の同定に役立つ場合がある(特にCTまで移動させられない,状態が不安定な患者で)。

裂創の画像検査

ガラスが関与する全ての創傷と,受傷機転や症状から,または創傷の深さが完全に確認できないことから異物が疑われるその他の創傷に対しては,画像検査が推奨される。ガラスや無機物(例,石,金属片)が関与する場合は,単純X線撮影を行う;1mmの小さなガラスの破片が通常は認められる。有機物(例,木片,プラスチック)が単純X線で検出されるのはまれであり(ただし,比較的大きい物体は,正常な組織の偏位により,その輪郭が見えることがある),超音波検査,CT,MRIなど,その他の様々な検査法が用いられている。これらはいずれも100%の感度はないが,感度と実用性のバランスが最も良いのはおそらくCTである。常に強い疑いをもち,全ての創傷を注意深く検索すべきである。

治療

裂創の治療では以下を行う:

  • 洗浄および局所麻酔(順序は変わりうる)

  • 検索

  • デブリドマン

  • 閉鎖

組織は可能な限り愛護的に扱うべきである。

裂創の洗浄

創傷部およびその周囲の皮膚を洗浄する。創傷部の表皮下組織は比較的傷つきやすいため,刺激の強い物質(例,未希釈のポビドンヨード,クロルヘキシジン,過酸化水素)に曝したり,ごしごし洗ったりすべきでない。

裂創辺縁の除毛は,創傷部の衛生面では必要ないが,著明な有毛部(例,頭皮)では,そうした方が作業がしやすくなる。必要な場合は,剃らずに電気バリカンまたはハサミで除毛する;カミソリでは微小外傷が生じ,皮膚の病原体の侵入を許し,感染のリスクが増大する。切った毛が創傷に入っても除去できるように,毛髪を切ってから創傷を洗浄する。眉毛は創縁を正しく合わせるために毛と皮膚との境界が必要となるので,切らない。さらに,眉毛は異常な伸び方をしたり全く生えてこなくなったりする可能性がある。

洗浄は特に痛みを伴うものではないが,著しい汚染創の場合を除いて,通常はまず局所麻酔薬を投与する;汚染がひどい創傷は,局所麻酔薬を投与する前にまず水道の流水と低刺激性の石鹸で洗浄するのが最善である。水道水は清潔であり典型的な創傷病原体は存在せず,このような用い方で感染のリスクが増大するとは考えられない。次に,高速で噴出する液体で創傷を洗浄し,ときに細孔のスポンジでこすり洗いする;ブラシや粗い素材は避ける。洗浄に適した流れは,20mL,35mL,または50mLの注射器に20ゲージの針または静脈カテーテルをつけたものを用いて作り出せる;水跳ねよけを組み込んだ市販の装置が,水が跳ね散るのを抑えるのに役立つ。滅菌された生理食塩水が効果的な洗浄液である;界面活性物質を用いた特殊な洗浄剤は費用がかかる上に,その付加的な便益も疑わしい。細菌による汚染が特に懸念される場合は(例,咬傷,古い創傷,有機物の付着),ポビドンヨードを0.9%生理食塩水に1:10の割合で希釈した液が有益な可能性があり,この濃度では組織に害を与えることもない。必要量は様々である。視認できる汚染が除去されるまで洗浄を続けるが,少なくとも100~300mL用いる(より大きい創傷にはさらに多量)。

縫合の前にクロルヘキシジンとアルコールの混合液を皮膚に塗布すると,皮膚の微生物叢を減少させうるが,創傷内部に入らないようにすべきである。

裂創治療のための局所麻酔薬

一般に,注射用の局所麻酔薬を使用する。特定の場合には表面麻酔薬が有益であり,特に顔面や頭皮の創傷に対して,および創傷の閉鎖に局所皮膚接着剤を用いている場合に有益である。

一般的な注射薬は,リドカイン0.5%,1%,2%,およびブピバカイン0.25%,0.5%であり,いずれもアミド型局所麻酔薬である;エステル型局所麻酔薬には,プロカイン,テトラカイン,ベンゾカインなどがある。リドカインが最もよく使用される。ブピバカインの作用が現れるのはやや遅く(他がほぼ即時であるのに対して,数分を要する),作用時間が有意に長い(他が30~60分であるのに対して,2~4時間)。血管収縮薬であるアドレナリンを濃度1:100,000で追加することで,両者とも作用持続時間を延長できる。血管収縮により創傷の血管分布(およびそれにより防御力)が損なわれる可能性があるため,血管が豊富な部位(例,顔面,頭皮)の創傷ではほとんどの場合アドレナリンが使用される。従来の教えでは,組織の虚血を防ぐために遠位部(例,鼻,耳,指,陰茎)でのアドレナリンの使用は避けるとされてきたが,遠位部での使用による合併症はまれであり,そのような使用は現在では安全と考えられている。アドレナリンは特に,激しい出血がみられる創傷の止血に役立つ可能性がある。

リドカインの最高用量は3~5mg/kg(1%溶液 = 1 g/100 mL = 10mg/mL)であり,ブピバカインの最高用量は2.5mg/kgである。アドレナリンを追加する場合,許容量はリドカインでは7mg/kgに,ブピバカインでは3.5mg/kgに増える。

局所麻酔薬に対する有害反応として,アレルギー反応(蕁麻疹およびときにアナフィラキシー),およびアドレナリンによる交感神経刺激作用(例,動悸,頻脈)などがある。真のアレルギー反応はまれであり,特にアミド型の麻酔薬では少ない;患者自身の報告による事象の多くは,不安や迷走神経反射によるものである。さらにアレルギー反応はしばしば,麻酔薬の複数回使用バイアルに使用される防腐剤であるメチルパラベンに起因する。原因物質が同定できるなら,別のクラスの薬物(例,アミド型の代わりにエステル型)が使用できる。あるいは,防腐剤を含有しない(単回使用バイアルの)リドカイン0.1mLを皮膚内に試験投与し,30分のうちに反応が出なければ,その麻酔薬が使用できる。

注射による疼痛を最小限にするために推奨される方法としては以下のものがある:

  • 細い針(27ゲージの針が最適であり,25ゲージは許容できる;30ゲージは細すぎる可能性がある)を使用する

  • ゆっくりと注射する

  • 皮内ではなく皮下面に注射する

  • リドカイン溶液9~10mL当たり1mLの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3[濃度4.2~7.4%])でリドカインを緩衝する(注:緩衝すると複数回使用のリドカインのバイアルの有効期間が短縮し,またブピバカインでは緩衝はあまり効果的ではない。)

  • 麻酔液を体温にまで温める

  • 表面麻酔薬を用いて創傷の前処置を行う

  • 創縁を氷で短時間冷やす

創傷への注射では,ときに局所神経ブロックが望ましい。神経ブロックによって,麻酔薬注射による創縁の歪みが小さくなる;この歪みの減少は,創縁を特に正確に合わせる必要がある場合(例,赤唇縁を通る裂創に対する眼窩下神経ブロック)や注射部位が小さいため創傷への注射が困難な場合(例,指の裂創に対する指神経ブロック)に重要である。また,毒性を示す用量の麻酔薬を使用せずに広い面積を麻酔できる。神経ブロックが若干不利な点として,麻酔の効果発現が緩徐であり,ときに最初の注射で100%の有効性が得られない。

表面麻酔の使用は,注射の必要がなく全く痛くない;これは小児や恐怖心を抱く成人で特に望ましい要素である。最も一般的な溶液はLETであり,その組成はリドカイン2~4%,アドレナリン1:1000または1:2000,テトラカイン0.5~2%である。歯科用綿球(すなわち綿の球)を創傷の長さだけ数mLの溶液に浸したものを創傷内部に30分間入れておくと,通常は十分な麻酔が得られる。表面麻酔薬を塗布しても麻酔が不完全な場合,部分的に麻酔された創縁から補助的な局所麻酔薬を注射してもよく,それに伴う疼痛は通常,最小限である。

裂創の検索

創傷の全範囲にわたり,異物や腱の損傷の可能性がないかを検索する。先の丸い鉗子の先端で愛護的に触診し,他と異なる物体の感触や,ガラスや金属異物の特徴的なカチッという音を探すことによっても,しばしば異物を識別できる。ときに,汚染した刺創(例,中手指節関節近くのヒト咬傷)は,十分に検索および洗浄できるように拡張する必要がある。主要動脈付近の深い創傷は,外科医が手術室で検索すべきである。

裂創のデブリドマン

裂創のデブリドマンではメス,ハサミ,またはその両方を用いて,死滅した組織,失活した組織(例,底部が狭くて血液が供給されない組織),およびときに創傷に強固に付着した汚染物質(例,油,ペンキ)を除去する。浸軟した,またはギザギザの創縁は切除するが,通常は1~2mmで十分である。それ以外の場合も,デブリドマンは不規則に曲がった創傷をまっすぐにするために用いるものではない。鋭角に傾斜した創縁はときに,垂直になるように切りそろえる。

裂創の閉鎖

創傷を閉鎖するかどうかの判断は,創傷の場所,年齢,原因,および汚染の程度,ならびに患者の危険因子に依存する。

大抵の創傷は即時に閉鎖できる(一次閉鎖)。一次閉鎖は,通常受傷後6~8時間以内(顔面および頭皮の創傷では12~24時間以内)の感染していない比較的汚染のない創傷に適切である。

それ以外の創傷の多くは,数日後に閉鎖する(遅延一次縫合[delayed primary closure])。遅延一次縫合(delayed primary closure)は,一次閉鎖には遅すぎる創傷(特に感染の徴候が現れ始めている場合),および受傷後の経過時間にかかわらず重大な汚染がある創傷(特に有機物の付着がある場合)に対して適切である。遅延一次縫合(delayed primary closure)を行う閾値は,治癒不良の危険因子をもつ患者の場合には低下する。

初回来院時に,麻酔,検索,およびデブリドマンを,少なくとも他の創傷と同様に徹底的に行うが,創傷は生理食塩水に浸した湿ったガーゼでゆるく覆う。ドレッシングは少なくとも毎日交換し,3~5日後に閉鎖のための評価を行う。感染の徴候がない場合,裂創は標準的な方法で閉鎖する。そのような創傷を最初にゆるく閉鎖することは,一般的に12~24時間以内に創縁がくっついて閉じてしまうため,効果がなく不適切な場合がある。

閉鎖すべきでない創傷もある。そうした創傷には以下のものがある:

  • 手または足の小さい咬傷

  • 刺創

  • 高速で飛来する物体による創傷

裂創修復の素材と手法

従来,裂創の修復には縫合が用いられてきたが,現在は,特定の裂創(主に張力がわずかしかかからない直線的な裂創)に対して金属ステープル,粘着テープ,液体の局所皮膚接着剤が使用されている。使用する素材にかかわらず,創傷の予備的ケアは同じであり,よくあるエラーの1つは,局所麻酔が不要な非侵襲的な閉創を予定しているからという理由で検索をおろそかにし,デブリドマンを行わないことである。

ステープルは,迅速かつ簡単に使用でき,皮膚内の異物を最小限に留めるため,縫合に比べて感染を引き起こす可能性が低い。しかし,ステープルが適するのは主として,直線的で滑らかな切創で,垂直の創縁を有し,皮膚の緊張が弱い部位のものである。創縁が適切に並んでいないこと(ときに創縁が重なる)が最も多いミスである。

局所皮膚接着剤は通常オクチルシアノアクリレート,ブチルシアノアクリレート,またはその両方を含有する。接着剤は1分以内に固まり,強力で毒性がなく耐水性があり,微生物バリアを形成し,いくぶん抗菌特性を有する。しかし,接着剤が創傷内部へ入らないようにすべきである。感染の可能性は非常に低く,一般に美容面で良好な結果が得られる。

接着剤は,単純で規則的な裂創に対して最適である;張力のかかる創傷に対しては,真皮縫合,固定,またはその両方により張力が軽減しない限り使用すべきでない。デブリドマン,真皮縫合,または局所麻酔下での検索が要求される創傷の場合は,疼痛の軽減および時間の短縮という利点が最小限になる。しかし,縫合糸またはステープル除去のためのフォローアップを必要としない。長い裂創では,接着剤を塗布する間,皮膚の縁をもう1人の人間または皮膚テープによって合わせておいてもよい。通常はメーカーの推奨に従い,接着剤を1層のみ塗布する。接着剤は約1週間で自然にはがれる。余分にまたは不注意に塗布された接着剤は,ワセリンベースの軟膏を用いて,または眼や開放創から離れた部位では,アセトンを用いて除去できる。

粘着テープは,おそらく最も迅速な修復方法であり,感染率も非常に低い。張力のかからない創傷に有用である。疎な組織(例,手背)への使用は,創縁が内反する傾向があるため難しい。有毛部には粘着テープを使用できない。粘着テープは,ギプスを装着する(したがって適切な抜糸ができなくなる)四肢の裂創に特に利点を発揮する。粘着テープは,縫合糸またはステープルの除去後に創傷を補強するためにも使用できる。使用前に皮膚を乾かす必要がある。多くの医師は接着力を高めるために安息香チンキを塗布する。不適切な塗布により水疱が形成される場合がある。粘着テープは,患者が剥がすこともあるが,最終的には自然に剥がれる。

縫合は,以下に対して最適である:

  • 不規則,出血が多い,または複雑な裂創

  • 皮膚がたるんだ部位

  • 張力のかかる部位

  • 真皮縫合が必要な創傷

縫合は,細菌の侵入部位となる可能性があり,皮下には多量の異物が存在するため,感染率が最も高い。縫合糸の素材には,モノフィラメント糸と編み糸があり,また吸収性のものと非吸収性のものがある。特性および用法は各種異なり(縫合糸の素材の表を参照),一般に,吸収性の素材は真皮縫合に,非吸収性の素材は経皮縫合に使用される。早く吸収される吸収性縫合糸を用いた場合の結果は,非吸収性縫合糸を用いた場合と同等である。小児やアドヒアランス不良の患者など,抜糸が望ましくない場合は,早く吸収される吸収性縫合糸を考慮すべきである。編み糸は,一般に組織反応性が高いためモノフィラメント糸より感染のリスクがやや高いが,柔軟で扱いやすく結節保持力が強い。トリクロサンなどの消毒剤を含有する吸収性縫合糸を使用でき,感染を減らすのに役立つ可能性がある。

表&コラム

裂創修復の縫合法

一般的な目標は以下の通りである:

  • 皮膚の辺縁を密接に近づける

  • 創縁を反転させる

  • 死腔を除去する

  • 創傷および個々の縫合での張力を最小にする

  • 異物の量を最小にする

創傷の張力および皮下に埋没する材料の量(例,真皮縫合)を最小限にすることの相対的な重要性は,創傷の部位により様々である。例えば,顔面の創傷では美容面での結果が非常に重要であり,血管供給が極めて優れているため感染リスクは低い。したがって,傷口が大きい創傷に対しては,創傷の張力が小さく美容面での結果が改善される真皮縫合が望ましい;この方法を使用しても感染リスクは小さい。血管供給が乏しいか美容面での結果の重要性が低い部位では,真皮縫合はあまり望ましくない。

縫合は,1針ずつ縫合結紮する場合(結節縫合)と,連続して縫合する場合(連続縫合)がある。皮下に完全に埋没させる場合(皮内縫合または真皮縫合)と,皮膚を出入りし外側で結紮する場合(経皮縫合)がある。

単純な真皮縫合

縫合は結び目が深く埋没するように創傷底部から開始し,また底部で終了する。

創傷が大きく開口している場合,最初は真皮縫合が用いられる傾向がある(単純な真皮縫合の図を参照);結果として生じる細い表皮の間隙は,経皮縫合で閉鎖する。顔面の創傷に対しては,開口が5~10mmを超える場合は真皮縫合が有益であり(鼻および眼瞼には用いない),体の他の部位ではより大きい創部にも用いてよい。サイズが4-0または5-0(数値が小さいほど太く抗張力の強い糸を意味する)の吸収性の素材(例,ポリグラクチン,ポリグレカプロン25)を使用する結節縫合が最も一般的である。結節を創傷の底部に置いて,触知できるふくらみがないようにし,縫合がきつ過ぎてはならない。連続皮内縫合がときに用いられ,特に美容的修復に用いられる。

単純な経皮縫合

縫合は創縁から等距離の位置で開始し終了する。A点およびB点の深さは同じである。創傷が深い場合,縫合糸は創縁からさらに離す。創傷の最も深い部分でバイトの幅を表面よりも大きくすることによって,皮膚の縁を反転させるべきである。

表皮縫合は,典型例では非吸収性モノフィラメント糸(例,ナイロン,ポリプロピレン)による単純結節縫合で行う(単純な経皮縫合の図を参照)。縫合糸のサイズは創傷の位置に依存する。

  • 大関節および頭皮上の部位では,3-0または4-0の縫合糸を使用する。

  • 顔面の創傷には,5-0または6-0の縫合糸を使用する。

  • 手の創傷には,5-0の縫合糸を使用する。

  • それ以外のほとんどの部位には,4-0または5-0の縫合糸を使用する。

縫合糸のサイズは,どの程度の静的および動的張力が予想されるかによってわずかに変わりうる(例,頻繁に動くまたは張力の高い顔面の裂創には,5-0の縫合糸を使用する場合がある)。

縫合の深さはその幅と等しくし,間隔は刺入部から創縁までの距離と等しくする(縫合の間隔の図を参照)。美容面での結果が特に懸念される部位や組織が薄い部位の修復には,小さいバイト(縫合糸を典型的には創縁から1~3mmに挿入する)を使用する。その他の修復では,組織の厚さに応じてより広いバイトにする。創傷の最も深い部分でバイトの幅を表面よりも大きくすることによって,創縁を反転できる。手を完全に回内させ,90°の角度で針を皮膚に刺入し,角度をつけて皮膚の縁からわずかに離れるようにすると,より容易に反転できる。

縫合の間隔

縫合の間隔は,典型的には刺入部から創縁までの距離と等しくする。縫合糸の刺入と刺出の位置は創縁から等しい距離にすべきである。

垂直マットレス縫合(垂直マットレス縫合の図を参照)は,皮膚の緊張が顕著でなければ,ときに層状縫合の代わりに用いられ,また疎な組織において創縁の適切な反転を確実にするためにも役立つ。連続縫合(連続縫合の図を参照)は,結節縫合よりも迅速であり,創縁がよくそろっている場合に使用できる。

垂直マットレス縫合

最初の針の通し方は大きい単純縫合の場合と同じであるが,結紮する代わりにもう一度,今度はより小さいバイトで,創傷を横切り縫合開始側へ戻す。縫合糸の両端を引いて創縁をきちんと合わせる(密着させる)。A点とB点の深さは同じにする必要があり,C点とD点も同様である;これにより垂直方向が正しくそろう。

連続縫合

この縫合は,一方の創端における単純縫合で開始する。針のない方の端を切断して縫合を続け,皮下のバイトを創傷と垂直にし,約65°の角度で交差させる。縫合は均等の間隔とすべきであり,最後以外は1針ごとに引き締め,最後は輪にして残し,針の端につなげる。

いずれの場合も,表皮縫合は可能であれば元からある皮膚のランドマーク(例,ヒダ,しわ,唇の辺縁)を利用して,創縁を水平方向に正確に合わせる必要がある。段差状の変形を避けるために,垂直方向にそろえることも同程度に重要である。皮膚にへこみや鎖状ソーセージに似た様相がみられる場合は,閉鎖後に過剰な緊張があることが裏付けられる。そのような修復はやり直すべきであり,必要に応じて,真皮縫合を追加するか,経皮縫合を増やすか,またはその両方を行う。創縁が傾斜している場合は,最適な合わせ方となるように縫合法の調整が必要になる。例えば,縁を切除する場合や,縫合のバイトの大きさを創傷の一方と他方で異なるものにする場合がある。

アフターケア

必要であれば,破傷風の予防接種を行う( see table ルーチンの創傷管理における破傷風予防)。

局所抗菌薬軟膏を毎日塗布する;感染リスクを減少させることができ,最適な治癒が得られる創傷の湿潤環境を保つのに役立つ。しかし,組織接着剤または粘着テープの上には軟膏を使用しない。

以下の場合を除き,抗菌薬の予防的な全身投与は適応とならない:

  • 四肢の咬傷

  • ヒト咬傷

  • 腱,骨,または関節を含む創傷

  • おそらく口腔内裂創

  • 一部の著しい汚染創

必要と考えられる場合,抗菌薬をできるだけ早期に投与する;初回は静脈(parenteral)投与でもよい。

患部を過剰に動かすと治癒が阻害される可能性があるため,創傷を固定する。関節に近い創傷は副子固定すべきである。指や手の固定には,厚いドレッシングを使用する。縫合後最初の48時間は,創傷を(可能であれば心臓の高さより上に)挙上すべきである。上肢の創傷をある程度挙上した状態で保つために,三角巾が役立つ可能性がある。下肢遠位部に裂創(小さなものは除く)がある患者は,おそらく数日間足を使わないようにすべきである(例,松葉杖の使用による);歩行を制限するとおそらく,より良好な治癒が得られる。

創傷ケアには細心の注意を払う。創傷を乾燥した清潔な状態に保つ;通常は,細菌を透過しない非固着性のドレッシングを適用する。閉創器具の除去まで,抗菌薬軟膏を毎日塗布する。信頼のおける患者には,小さくてきれいな裂創の場合,その後のチェックを任せてもよいが,より高リスクの創傷や,信頼のおけない患者の場合は,医師による早期の診察が望ましい。良好に治癒している創傷については,12時間後に,水,2倍に希釈した過酸化水素水,または石鹸と水で残存する分泌物を愛護的に洗浄できる。シャワーで短時間濡らしても安全であるが,長時間の濡れた状態は避けるべきである。

創傷感染が裂創の2~5%に発生する;最も初期の症状は閉鎖から12時間以降の徐々に強まる痛みであることが多く,初期の徴候は創縁から約0.5cm以上離れた発赤,腫脹,圧痛,および熱感である。その後の徴候として,発熱,排膿,上行性のリンパ管炎などがある。皮膚の細菌叢に効果的な抗菌薬の全身投与を開始する;典型的には第1世代セファロスポリン系(例,セファレキシン500mg,1日4回経口投与),または口腔内感染に対してペニシリン500mg,1日4回経口投与が使用される。損傷後5~7日経過後に始まった感染は,異物の残留を示唆する。

閉鎖に使用した材料(組織接着剤を除く)は,部位に応じた期間を経た後,除去する。顔面の裂創では,平行線状の痕や針刺入部の目に見える瘢痕が残るのを予防するために3~5日で抜糸する;一部の医師は,傷を強化するために粘着テープをさらに数日間用いる。体幹および上肢の縫合糸およびステープルは,7~10日で除去する。手や指の縫合糸およびステープル,肘関節,膝関節,および膝関節より下の全ての部位の伸筋面の縫合糸およびステープルは10~12日間残しておくべきである。

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